本作品は2022年作です。

●霊界のお仕事人(アフター・ライフ・ワーカー) シリーズ●

<最終話 霊界戦争>

 その日、勇樹がオフィスに出社するとお局さんが慎重な面持ちである。
どうやら仕事でサポートしている人に同情してしまったらしい。
勇気は「いつもドライなお局さんが珍しいなあ」と感じて声を掛けた。

「お局さん、今どんなお仕事してるんですか?
 よかったら教えてください」
「ああ、感づかれてしまったわね。
 ある女性をサポートしてるの。看護士さんね。
 あるお年寄りの女性の訪問看護をしてたの。そしたら、その老婆が
 亡くなってしまったの。亡くなる前にその老婆は看護士に
 ”私のお金をあなたにあげる。そこのタンスに隠してあるの”
 と教えてくれたのよ。身内の者は誰も介護してくれないので、
 親切にしてくれた看護士に財産を上げることにしたのよ。
 その看護士はつい出来心でそのお金をネコババしちゃったの。
 3千万くらいあったのよ。
 老婆が亡くなっても身内の人は財産があることに気づかなかったの。
 まんまと財産を手にしたんだけど看護士はその後、ずっと罪悪感で
 苦しんでいるの。お金を使うこともできないのよ。
 私はそんな彼女に”悩むのは止めなさい、老婆の霊はあなたに使って欲しいと
 思っているよ。あなたはそれだけのことをしたのだから堂々と自分のものにしなさい”
 と伝え続けたの。でも彼女は罪悪感から、そのお金を全部匿名で寄付してしまったの。
 私だったら堂々と使ったのにね」
「そうだったんですか。その女性は真面目な人なんですね。
 せっかくお金を手にしたのに。しかも誰も傷つけてないし、
 老婆の霊もそれで喜ぶのにねえ」

そんな話をしているとモグロが口を出してきた。

「人間はそんなもんなんだよ。罪の意識、すなわち良心があるからさ。
 昔、3億円事件というのがあっただろ? あの事件の真相を教えてやろうか?
 霊界では何でも真相を知る事ができるからね。
 犯人は綿密に計画をして成功させた天才的な人物だったんだ。
 でも、その割に臆病だったんだ。新聞にはお札のナンバーは一部しか
 記録されていなかったと報道されたが、実は嘘で全てのお札のナンバーが
 記録されているのではないか? という疑心暗鬼があって結局、お金を
 使うことができなかったんだ。おそらく罪悪感がそうさせたんだ。
 何とかお金を安全な資産に交換できないか?と思案したが、闇の世界と
 関わる度胸もなく、そのうちお札が新紙幣に切り替わってしまい、
 もう使うこともできなくなってしまった。
 結局、その犯人はお金を使うこともできないばかりか、捕まるかもしれないと
 怯えて人生を過ごすことになってしまったのさ」
「へえ、あんな大胆な作戦を実行した人だったのに、
 その後のことは全然ダメだったんですね。笑ってしまいますね」
「そうなんだよ。人間というのは悪行では幸せにはなれないんだ。
 たとえ現世で数十年極楽を味わうことができても、こちらに来たら
 それ以上の苦しみが待っているんだ」
「そうですよね。こちらでは現世の行いは隠せない。悪行ばかりした人間は
 こちらでは嫌われるし、助けてもらえない。
 エネルギーも得られなくて貧乏暮らしみたいなものになりますよね。
 こちらに来てそういう人をたくさんみました。
 霊界って本当にいい世界ですね。正直者が報われる。悪党は暴かれる。
 そして戦争もない」
「いや、勇樹、本当のことを言うと戦争はあるんだ」
「え? 霊界にも戦争があるんですか?」
「あるんだよ。こちらの世界にもイデオロギーみたいなのがあるんだ。
 価値観のような対立があるんだ。それが戦争にまで発展することがある」
「現世と同じじゃないですか? がっかりだな」
「ただし、銀河系の条例によって戦争は関心のない者たちには影響は
 及ばないようになっている。そこが現世とは違うんだ」
「それなら、よかった。俺は戦争なんかに興味はないからね」
「そうもいかないんだ。霊界の出来事はやがて現世に反映されるんだ。
 まず、霊界で戦争が起きてその後地上で戦争が起きることが多いんだ。
 もちろん、現世の努力によって阻止される場合もあるけどね。
 霊界は現世のひな型であるという考え方もある意味当たっているんだ。
 この日本は世界中が覇権を手にしようと狙っているんだ。
 度々、霊界で外国の勢力が日本を手に入れようと進攻しているんだ。
 過去に1度日本が支配されたことがある。太平洋戦争だ。
 でもその後日本の勢力は奪還したけどね。
 どうやら、最近も大陸の勢力が日本を狙っているらしい。
 もし、霊界の戦争で負けたら、その後現世で同じことが起きる可能性が高い。
 日本が他国の植民地みたいになってしまうこともありうるんだ。
 あの世には土地という概念が希薄なので主導権が変わってもカラーが
 変わる程度だが、現世は土地が有限なので土地の争いになってしまうんだ」
「そりゃ、嫌ですよ。日本は日本のままでいて欲しい。
 黙ってられないよ。もし、戦争が起きたら俺は参戦する」

そんなことを話してしばらくすると霊界が何だか騒がしくなってきた。
モニタには次々と大陸の大国が日本を狙っているという噂みたいな話が
流れてくるようになったのである。

「富士山に異変が起きている。明らかに日本を乗っ取ろうとする
 勢力が度々侵犯を繰り返している」
「太平洋戦争以来の危機が迫っている」
「同盟国の霊界はどうしたんだ?」
「助けてくれないらしい。もし大陸の勢力と対決したら
 大戦争になってしまう。
 現世でそれが世界大戦になり、核戦争になる。だから動けない」
「日本は見殺しにされるのか?」
「代理戦争の舞台となるだろう」
「まずはその舞台が富士山になるだろう」

などと様々なチームからのメッセージが駆け巡っている状況である。

勇気はこれに不安を覚えるのだった。

「なんだよ、やっぱり日本は大陸の大国に狙われていたのかよ。
 冗談じゃない。人権を軽視したあんな国の一部になったら、
 国民はどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない」
「困ったな。まさか、こんな事態が起きるとはなあ。
 決して富士山を渡してはならない」
「何で富士山なの?」
「それは・・富士山が日本の中心だからさ」

するとシンリが横から口を出してきた。

「富士山は日本のエネルギーを統合しているからなんだ。
 だから霊界も富士山を中心に統合されている。
 一番重要なエネルギーの司令塔なんだ。だから狙われるんだよ」
「モグロさん、シンリさん、黙ってられません。
 同志たちと一緒に闘いましょう」
「いや、まて闘いにいどんで負けた場合、長い期間拘束される
 こともあるんだ。それでもいいか?」
「構いませんよ。それよりも日本を守りたいです」
「逆らわなければ何も不都合はない。
 銀河系の条例によって守られているからな」
「あの世ではそうでも、それが未来に現世で現実化して
 現世では大勢の人が苦しめられるんでしょ?
 現世を救わなければいけないですよ」

モグロが皆に聞いてきた。

「お前達どうする? 参戦するか?」

するとシンリが答えた。

「私は参戦します。
 私には現世に遺族もいないし、知り合いも少ない。
 でも、今は現世のために国の為に仕事をしています。
 その努力が無に帰すようなことは耐えられないです」

またお局さんも答えた。

「あたしも参戦するよ。
 実はねえ。未来の予定表をウォッチしてるんだけど
 何者かが巧妙に操作してるのが見受けられる。この手口、やり方
 私や勇樹の幸福を奪って陥れた手口に似ているのよ。
 私が今まで追い求めてきた宿敵が奴らの中に居ると見たわ」

勇気が驚いて聞き返した。

「お局さん、以前俺が転落死した原因は何者かが意図的にやったとか
 言ったよね。そいつのこと?」
「そうよ。ランダムに人々の幸福を付け替えて、幸福を稼ぐ術を
 行ってる集団がいるのよ。しかも異国である日本人やその他の国の人の幸福を
 奪って自分の国の人達に付け替えているのよ。
 何の罪もない人達の人生がオモチャにされているのよ。
 私が経理やってた時に監査で陥れたのもその集団ね。
 もしかして勇樹が冤罪になったのもその罠だったのかも?」
「なに、許せん。
 他人の幸福を奪い取るドロボーがいるってこと?」
「そうね。でももっと巧妙よ。法に触れないドロボーみたいな感じ。
 抜け目がないのよ。
 他人の幸福を奪い取って自分の物にしたら自分が罪を犯したことになるのよ。
 ペナルティが付いて自分のエネルギーが減らされて、いずれ地獄に落ちるわ。
 でも、他人の幸福を取り去って、もっと困っている人に与えればペナルティと
 ポイントが相殺されるの。それを繰り返すのよ。
 巧妙なのは、幸福を与える時の格差益を自分の物にするテクよ。
 困ってる人に与えればそれだけポイントが加算されるから、その加算分の差益を
 自分のポイントにするのよ。一部だけど、チリも積もれば山となるわけ。
 コンピュータで株や為替の上下を利用して大量に操作して利ザヤを稼ぐ
 金融工学みたいなことをしているのよ」
「そんなことができるの?」
「現世でマネーゲームが流行るようになってきてから、
 霊界でも編み出された手口ね。どうもそれを行ってる中心地が
 あの大国らしいわ。まだ銀河系にはこれを禁止する条例がないのよ。
 わかってきたわ。私を陥れた憎き相手が。
 そいつらに復讐してやりたいわ。勇樹も復讐したいでしょ?」
「もちろんだよ。許せないよ」

それをきいたモグロは決断した。

「そうか、みんなよく決断してくれた。私は国の為なら
 命を捧げるつもりだよ。みんなで参戦しよう」

それからしばらくして霊界で一気に緊張が走る事態となってきた。
国家安全保障チームが霊界のあちこちに「富士山防衛」に参加するようにと
連絡を流してきたのである。

モグロにも連絡がきた。

モグロ「おい、国家安全保障チームが動き出したぞ。どうやら富士山で有事らしい」
勇気「そうか、遂にこの時がきたか。俺は参加します。
   国家安全保障チームの人達ってきまってるよな」
お局「そうね。イケメン揃いだったわね」
勇気「エリートだよな。現世でもエリートコースを歩んだのだろうな」
モグロ「そうとは言えない。彼らは他人と競争して勝った人達というより
    自分に勝つことができた人達なんだ。恵まれない境遇だった人もいるんだ」
勇気「そうか、自分に勝つか。立派なんだな」
モグロ「勇樹、お前も自分に勝った人間だろ。自信を持て」
シンリ「我々は何をすればいいんだ」
モグロ「霊界の戦争では、エネルギー、武器、運勢 これが重要だ。
    エネルギーでは大国の霊界には叶わない。だから武器だ。
    シンリと勇樹はその念力を武器にするんだ。
    お局さんは運勢の操作だ。きっとすぐにご指名が来るだろう」
お局「腕が振るえるわね」

その後、安全保障チームから出動の要請があり、モグロ達は富士山上空に出動した。
富士山上空にはエネルギーの発電所みたいなものがあり、そこから日本中にエネルギーが
供給されているのが見える。日本の要とでもいう場所である。
その中心部を大勢の日本の有志達が防衛体制を取っているのが見える。
多くが軍隊のように武器を携えているのだが、中には戦国時代みたいな武士団や、
旧日本軍みたいな感じの格好の部隊までいる。

勇樹は現場のものものしい状況に驚いたようである。
モグロに驚いたように話しかけた。

「なんだ、こりゃ、凄い数だなあ。
 てか、いろんな時代が混在しているみたいだ」
「勇樹、霊界にはあらゆるカラー、集団があるんだ。
 中には時代劇の舞台みたいな古い時代もあるんだよ」
「へえ、いろんな世界があったのね。
 あの妖怪や怪物みたいな集団はなんです? ホラーの世界みたい」
「地獄界からの有志だ。地獄界でもいろいろ階層があって高い方だと
 公共意識が芽生えていて日本を守りたいという集団も出てきているんだ。
 彼らは地獄で戦ってきただけに強かったりするんだ。
 ここで成果を出せば地獄から普通の霊界に昇格できたりするんだ」
「サッカーのリーグ昇格みたいなもんだね。
 さあ、敵がいつやってくるかな?
 太陽が味方だから、侵略者や悪党が勝つことは無いから楽勝だね」
「霊界では悪が勝つことはない。でも敵は悪ではないんだ。
 世界を統一して良い世界にしようと考えているんだ。
 政党の議席争いみたいなものだね。
 みんな善を実現するために勢力を拡大しようとするんだ」
「そんなものか?
 でも、日本を敵には渡さない。俺の国だから」
「そうだよ。私だって一度は人生を生きた故郷だからね。
 外国の一部にされるなんて嫌だよ」

そうこうしていると、敵の軍勢が遥か彼方からこちらに向かってるのが見えてきた。
総数はこちらの軍勢の何十倍もいる。それが近づいてきてはっきり見えてきた。
先頭には近代的な軍隊が空中を移動してこちらに向かっている。
その背後には様々な姿の霊がいることが見えてきた。
なかには三国志の映画に出てくるような姿の兵隊もいる。

双方、しばらく睨み合っていたが敵のドローン軍団が先陣を切って
こちらに向かってきた。
これを皮切りに大国VS日本の霊界戦争が勃発してしまった。
関ヶ原の合戦のような様相である。

大勢の霊達が合戦に合流したのだが、モグロ達はどうしたらいいのか?わからない。
安全保障チームからは具体的な指示が来てないからである。

「どうしたらいいんだ。我々も突撃するべきか?」

とモグロが迷っていると赤の局がこれに答えた。

「いや、私達は特殊な任務があるのよ。
 敵の司令部、その中の運気を操ってる部隊がいるの。
 この戦いにも来たのね。だから私達が呼ばれたのよ。
 私達はそいつらをピンポイントで狙うのが任務。
 いい、勇樹、こいつらよ。あなたの幸福を奪った奴らは。
 彼らは世界中の人達から幸福を奪って自分達の運気を高めてきたの。
 今、世界中の法務チームがこの汚いやり方を銀河系条例違反に申請しているんだけど
 まだ申請が通ってないの。奴らは条例ができる前にたんまり稼いでおこうと
 世界中の人達をランダムに不幸に転落させ続けているのよ。
 もちろん、この私や勇樹を転落させたのもこいつらよ。
 許せないわ。やつらを叩き潰してくれるわ。
 こいつらよ」

お局がタブレットに彼らの姿を表示させた。インテリ占い師集団のようである。
これを見て勇樹も怒りをあらわにした。

「俺を冤罪地獄に落とした奴らか? 絶対に許さない」

シンリも戦う意欲満々である。

「よし、ここで私の術の全てを発揮する。新兵器を作ったんだ。
 敵の陣地に突撃するロボットだよ」

シンリが意識を集中させたところ、突如巨大なロボットが出現してみんなを驚かせた。

「シンリさん、凄い、こんなものを術で登場させるなんて。
 あれ、このロボット見た事あるような? ガンダムじゃん。
 レトロだな、というか日本的でいい、相手はびびるよ」
「勇樹、これに乗って突撃するんだ。
 お前の念力で敵の攻撃を振り切り、司令部の憎いやつらのところに突っ込むんだ」
「おお、やってやるぞ」

勇気がロボットに乗り込み、「敵の司令部に突っ込む」と念じるとロボットは
敵の軍団に向けて突撃していった。敵の軍団はそれを阻止しようとしたが、
勇気の念力によってみんな動けなくされてしまい、敵の軍団を蹴散らすように
突進していったのである。
あれよと言う間に司令部の巨大な城のような空中の要塞に突っ込んで行った。
そしてそのまま、お局がターゲットにしていた部隊にまで突入した。
突然のことで驚いている占い師集団に向かって勇樹は怒りを込めて

「てめえら、みんな死ね!」と念じたのである。

すると北斗の拳でツボを突かれた悪党たちのように霊体が爆発した。
勇樹の念力で敵の部隊は壊滅してしまったのである。

「やったぜ。積年の恨みを晴らしてやったぜ」

と勝利感を味わった勇樹であったが、その喜びはつかの間で終わってしまった。
一斉に敵の軍団がその場所に集結してきて、勇樹はハチの巣にされてしまった。
お局はモニタでその姿を見て激しくいきり立った。

「おい、勇樹、大丈夫か? 勇樹、早く戻ってこい!
 ああ、ダメか(>_<)
 あんたの命は無駄にはしないからな」

お局は必死に魔術を掛け始めた。占い師仲間にも指示をしたのである。

「みんな、これで未来の計画表を書き替えることが邪魔されなくなったわ。
 さあ、未来を書き替えて! 日本を守るのよ」

するとまた、これが目立ってしまったのか?
遠くから弓矢やスナイパー射撃が一斉に飛んできて、お局の身に
襲い掛かった。お局もまたハチの巣になり、悲鳴を上げて落下していった。
これを見たモグロやシンリもショックを受けてしまった。

「おい、勇樹、お局さん どうしたんだ。やられてしまったのか?
 おい、なんってこった。
 くそう、許せん!」

敵軍がモグロ達を特殊部隊だと気づいたのか、こちらに向かってくる。
とてつもない数の霊達がモグロ達に襲い掛かってきているのが見えた。
このままでは、やられてしまうことは目に見えている。
モグロやシンリは恐怖でパニック状態になり動けなくなってしまった。

その時、シンリは、どこかからエネルギーが供給されてくるのを感じたのである。
光の束が突然シンリに降りてきているのである。
その光の束には「天の岩戸開き」と書かれた札が付いてるのが見える。
この光を浴びたシンリは、パニック状態だったのが突然人が変わったように強気になった。

「よーし、なんか勇気が沸いてきた。
 どっかから凄い力が我々を応援しているのが感じられる。
 一気に戦況を転換するチャンスだ。ここで戦艦の登場だ」

シンリは目をつむってなにやら術を念じ始めた。
突如煙が立ち込めて周囲が煙で何も見えなくなった。
その煙の中から、なんと宇宙戦艦ヤマトが突如出現したのである。
シンリは念力で自分自身を戦艦に化けさせたのである。シンリの一世一代の術である。
シンリはモグロに戦艦に乗るように依頼する。

「モグロさん、船長になってください」
「シンリ、どこに行ったんだ?」
「この戦艦が私ですよ」
「ええ、お前がこんな巨大な戦艦に化けたの?」
「凄いエネルギーが供給されて、何故かこんなことができたんですよ」
「そうか、凄いな
 よしわかった。船長になってやる。
 ヤマトの船長にあこがれてたんだよ実は」

モグロは司令室に入り、ヤマトの宝刀である波動砲を放射してみた。
すると波動砲が散弾銃のように広がって放射されたのである。

「あれ、波動砲って散弾銃だったっけ?」

と口にするとシンリはモニタを通じて答えた。

「いいんですよ。ちょっと違っていても。
 私がイメージしたヤマトですからね。
 散弾銃こそがこの戦いでは威力を発揮します」

波動砲の威力は凄まじいものだった。散弾銃のように広がった光線に当たった霊は
一瞬でバラバラになった。敵の装甲車も粉々に破壊された。
これで敵の部隊の多くが一気に壊滅したのである。爽快な眺めである。
波動砲によって何万もの軍団を倒すことができたのである。
敵は恐れをなしてぞろぞろと撤退するのが見える。

「やった。勝ったぜ。無敵の戦艦だ!」

とモグロが喜んでいると、こんどは雲にのった猿みたい男が一人、
こちらにやってくるのが見えた。

「なんだ、ありゃ、一人で戦うつもりか? バカか?
 あれ、どっかで見たような姿だな」
「モグロさん、孫悟空ですよ。
 あれはきっと手ごわいです。
 一人で何万もの軍隊に匹敵する力があると思われます。
 甘くみないでください。波動砲を使ってください」
「よし、わかった」

モグロは波動砲を発射するが孫悟空はのらり・くらりと光線の雨をすり抜ける。
再び、波動砲を放射するが、またそれをすり抜ける。
モグロが意地になって何度も波動砲を発射し続けたところ、
ついに波動砲が燃料切れで止まってしまった。
波動砲のスイッチを押しても何も発射されなくなってしまった。

「しまった。孫悟空の姿に騙された。
 燃料切れにする作戦だったんだ。やられた」

波動砲が打てなくなったのを待っていたかのように一斉に
敵の軍隊がヤマトに向かって攻撃を仕掛けてきた。

ヤマトは敵に囲まれて、これまたハチの巣にされて火を放たれ、燃え上がってしまった。
シンリもモグロも悲鳴を上げながら炎に包まれてしまったのである。

合戦はやがて終わり、静けさが戻ってきていた。

モグロ達は目を覚まし始めた。

モグロ「おい、みんな大丈夫か?」
勇樹「あれ、俺死んだんじゃないの?」
モグロ「大丈夫だよ。お化けは死なないんだよ。
    シンリ、お局さん、無事か?」
お局「ああ、痛かった。ここに居るよ」
モグロ「よかった。シンリも無事だな。
    戦争は終わったんだな。俺達は負けたのかな?」
お局「あちこちに新聞がばらまかれているよ。
   号外って書いてある。
   日本が大国の軍隊に勝利した、日本を死守した と書いてるよ」
モグロ「おお、そうか、勝ったんだな。
    でも、劣勢だったよな。兵隊の数が全然違っていたよな。
    どうやって勝ったんだ」
シンリ「天の岩戸開きだよ。俺は感じたよ。
    どこかの世界が日本の味方になってくれたんだ」
お局「号外にも書いてるよ。どこかからの支援が来て、攻勢が逆転したって。
   この銀河系以外のどこかが日本を守ってくれたらしい。
   日本は歴史上何度も守られたらしい。
   霊界の歴史チームの間でも謎とされているらしい」
モグロ「へえ、そういう都市伝説があったけど、本当だったんだ。
    でも勝因はそれだけじゃないよ。
    シンリの戦艦ヤマトや勇樹の突撃やお局さんの
    運勢変更の術も勝利の一因に違いないよ」
勇樹「そうだよ。俺達も役に立ったんだよ。参戦した甲斐があるね」
モグロ「とりあえず、終わってよかった。
    どころで、みんな、これからどうする。どうしたい?
    勇樹はチームを持ちたいって言ってたな。
    シンリは悟りチームに行きたいって言ってたよな。
    お局さんは上の世界に行って高品質なコレクションをしたいとか言ってたな」
勇樹「モグロさん、
   俺本当のこと言うと、現世でもう一度サラリーマン人生を生きたいよ。
   今度こそ、生き甲斐を手にしたいよ」
シンリ「私はもう悟りなんてどうでもいい。
    あの世で仕事をしているうちに考えが変わったんだ。
    特に勇樹、お前が来てから、我々のチームは何かが変わったよ。
    おかしな仕事ばっかり舞い込んできたけど、楽しかったよ。
    勇樹を見て思った。
    俺もお前みたいに素直で人間らしくなりたいってね。
    もう一度最初から人生をやり直したいなって思うようになった」
勇樹「そんなこと言われると照れるなあ。俺もシンリさんに憧れてたんだよ。
   頭いいもんね」
モグロ「みんな角があるけど、どこか憎めないキャラだよな。
    お局さんもそうだよ」
局「ふふふ、私はね。もっとコレクションを極めたいわね。
  というのは嘘よ。私も本音を言うとね、
  もっと心が開いたマトモな人間になりたかったの。
  コレクションで紛らわす自分のことが本当は嫌いだったの。
  モグロさんやシンリ、勇樹みたいに愚直で心を開いたキャラに憧れを感じたわ」
モグロ「そうか、そうだったのか?
    やっぱり私の目に狂いはなかった。ここで本当のことを教えるよ。
    私が君たちを選んだのは役に立つからでも能力があるからでもなかったんだ。
    君たちは優しい心を持っているんだが、うまく人生を生きることができない。
    障害や不幸によって心傷ついていて素直に自分を表現することができない。
    そんな君たちが気に入ったからなんだよ。
    私が惚れたのは君たちのハートだったのさ」
勇樹「モグロさんだって、そういう人じゃないですか?
   あなたみたいに優しい人は見たことないですよ」
モグロ「ははは、それはうれしいなあ。
    私もやりたいことを打ち明けるよ
    勇樹と同じでもう一度人生をやり直したいんだよ。
    生まれ変わりというのをしてみたいよ。
    シンリ、生まれ変わりはあるのか?」
シンリ「あるとも言えますし、無いとも言えます」
モグロ「おい、そんな禅問答みたいな回答じゃなくてどっちなんだよ」
シンリ「ごまかしてるんじゃなくてそうだと私は理解しています。
    人間の頭で理解できることじゃないんです」
モグロ「じゃあ、あるという事にしていいんだな?」
シンリ「私には断定できません。太陽に聞いてみてください」
モグロ「そうだな、聞いてみるよ。
    太陽様、神様、もし、生まれ変わりがあるのなら、
    我々をもう一度現世に生まれ変わらせてもらえませんでしょうか?
    一度だけでいいんです。我々の望みはそれだけです」
勇樹「太陽が答えてくれたことなんてないよ。
   一度くらい答えてくれてくれたらいいのに」
モグロ「そうだな。答えて欲しいね。でも無理だろうな」

すると太陽が突如4人に強い輝きを浴びせ始めた。
強く光を放ちながら、4人にメッセージをはっきりと伝え始めたのである。
これには4人共びっくりしてしまった。

太陽「皆の者、答えてあげよう。
   お前達はここで立派に仕事を果たした。
   しかも、今回、全てを捧げて国を守ろうとした。
   その行いは認められる。必ずお前達は報われる。
   4人の望みをかなえてあげよう。
   現世で人生をやり直す機会をもう一度与える。
   ただし、その人生を生きる舞台は、日本とは限らない。
   地球とも限らない。それでもいいか?」
モグロ「お答えいただき、ありがとうございます。
    初めて太陽様のお言葉をはっきりと聞くことができました。
    感激です。やはりあなたは神様なのですね。
    人生をやり直せるならどこでも文句は言いません。
    贅沢を言って申し訳ないですが、もう一つだけお願いがあります。
    現世に生まれてくるとき、我々4人は一緒に人生を歩みたいです。
    できれば家族がいいです。それを叶えてほしいんです」
太陽「そうするつもりだ。必ずその望みを叶えよう」

それを聞いた4人は互いの顔を見つめてにっこりと笑みを浮かべるのだった。
モグロ、シンリ、お局、勇樹はしばらく無言で見つめ合った。

その頃、現世では富士山や日本全国で体調不良になる人が増えていることが
問題となっていた。ニュースは次のように伝えていた。

「最近、各地で原因不明の不調を訴える人が増えています。気象庁も原因が
 分からないと言ってます。おそらく気圧や寒暖の差が原因と考えられます。
 近年の地球温暖化との関連を指摘する人もいます。
 特に富士山で不調を訴える人が続出しており、登山は控えるようにお願いいたします。
 ここ数日、異変は収まっているとの報告もありますが、皆様十分ご注意ください」

富士山の上空で一体何が起きていたのか? 現世でそのことを知る者は誰一人としていなかった。

−完−



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