本作品は2019年作です。

<1番は誰だ?>

1.全ての人が情報で管理される時代

 西暦202X年、電子決済が当たり前になり、全世界がネットワークに接続される時代となった。
もはや、世界中どこでもスマホが使えるようになり、世界中どこに居ても通信ができる。
 世界の情報通信の進化はすさまじい速さであった。
  そうなると人間も全て情報端末のように扱われるようになった。
ここ数年で、全人類がIDで管理されるようになったのである。
18才以上の全ての人は右手にほんの1mmにも満たないチップが埋め込まれ、
これで本人確認をすることが義務付けられたのである。
右手をかざすだけで身分証明ができる、買い物ができる。役所の手続きが簡単になる。
など便利な側面があったが、一方でこのチップがない人は
買い物も何もできない。生活することができないのである。
このチップの中に「666」のコードが隠されているなどと噂する人も居た。

 導入当初は人類の管理だと反対する人も多かったが利便性や防犯の誘惑には勝てず、
いつの間にか世界中で導入されてしまった。
実際、チップ導入によって治安は改善されたのである。

 更に各国で盛んに行われるようになったことがある。
それは人間の適性や価値をAIが判断して全ての人を最適な人生に導く、人生ナビである。
全ての人の能力、信用、性格、適性など全てを正確に評価して、その人に合った指導をAIが
してくれるシステムである。これによって社会の需要と供給をマッチングさせて、
誰もが効率よく職業を選択し、分相応な生活をすることができるようになるのである。
これは格差の不平等を無くすための政策でもあり、各国政府がこれを導入した。

コンピュータとAIが発達したこの時代では、一人一人のDNA情報からも
その人のあらゆる面の適性と価値を評価することが可能となった。

 多くの人はAIの判断と指導に従うことで無理のない相応の生活ができると納得した。
実際、AIは人間の判断では不可能なきめ細かい評価とアドバイスをすることができるのである。
多くの人々は車のナビの指示に従うようにコンピュータの指導にしたがって人生を生きるように
なっていった。価値がある人は優遇されて良い生活ができるが、その分社会に役立つ仕事を
しなければならない。その長短のバランスが計られていたので人々は不満を感じなくなった。

 これによって誰もが無理のない、ストレスを感じることがない生き方へ
導いてもらうこともできるようになった。世の中のマッチングが最適にされたのである。
価値が低い人は収入、結婚、契約、渡航などで不利になることはあったが、AIはそれも当人が
満足するように適正な指導をしてくれていたのである。
価値が低い人は社会の義務が軽くなる配慮がされ、その分楽に生きることが可能となった。
AIは全ての人にとって人生の家庭教師の役割を果たすようになり、多くの人が
このサービスを使用した。もちろん、これを嫌う人も居たが。

2.誰が1番なのか知りたい

 ここで人間の性というべきものか?欲望というべきものか?がうずめきだす。
点数化されると誘惑にかられてしまうことがあるのだ。
それは、総合点を集計して順位をつけてみたくなることである。
全ての人を総合点で順位を付けて比較してみたくなるのである。
人間は必ずこの誘惑にかられてしまうのだ。
当初は適性を調べて人々を最適に導くためのシステムであったのに、
いつの間にか人の順位をランキングするためのシステムにもなってしまったのである。
そうなると人々が興味を持つことは、自分は全人類の中で価値がどの辺りなのだろうか?
ということである。誰しもがそれを知りたくなってしまうのである。

現代のコンピュータを駆使すれば、順位を計算するなどいとも簡単である。
しかし、もし、自分の価値が平均以下、あるいは最下位に近い方だったら・・と
考えると恐ろしい。人によっては絶望的なショックを受けてしまうかもしれない。

だから、政府は、上位20%の人達だけにしか順位は教えないという方針とした。
希望しても、上位20%以下であった場合には公開されないのである。
だが公開されないとますます知りたくなるものである。これも人情である。

 この順位公表は平均以下の人にとっては悪夢である。だから、犯罪者の刑罰の一つと
して用いられた。裁判で有罪が確定した人は氏名だけでなく価値評価、順位が公表される
のである。ほとんどの犯罪者は下位なので当人には耐え難いことであった。
また、順位が高い人だった場合、有罪判決を受けたことで一気に評価が下がってしまう。
その転落劇が人々の興味をさらった。
これはガス抜き政策でもあった。誰しも自分の順位は知りたいがショックは受けたくない。
また他人の順位を覗き見したい。
そんな不満を反らすために犯罪者の順位を公開して見せしめにしたのである。

 更にもう一つの人間の性がうめきだす・・それは「誰が1番か?」ということ。
「一番の人は誰か? どんな人か? 見てみたい」それが人々の強い好奇心である。
だが、政府は犯罪者や本人が望む場合を除いて順位を公表することはない。
でも、人々の知りたい欲望は抑えられない。そこで、専門家達が、公表した人の順位や
様々なデータを元にベスト10の順位を予想していた。中でも世界中の人達が興味を示すのが
もちろん「1番は誰か?」である。
度々雑誌の記事になるほどの関心の高さである。多くの専門家が該当しそうな著名人
などを割り出して上位ランクを予想したりしていた。
そんな中、ここ最近、にわかに出てきた噂がある。

「最近上位の人達の順位が一斉に一つ下がった。新たに1位になった人がいるに違いない。
 様々な状況証拠から、それは日本である可能性が高い」

「日本で最近、検査を受けた人の中に世界1位がいるらしい。
 それは日本の高校生に違いない」

と分析する専門家が相次いで出てきたのである。

「それは誰なのか? 直ちに日本へ」

という話になってきて世界中が日本に注目していた。

3.1位の青年の悲劇

 日本で、ある高校に通う青年がいた。米田才樹(さいき)である。
才樹は美しい男の子である。しかも、明るいスポーツマンである。野球が大好き。
しかもエースである。女子にモテモテの高校生である。
才樹は理髪店の息子で父親の後を継いで理容師になることを考えて自由に過ごしていた。
受験競争などには興味がない。大好きな野球に情熱を注ぎ、町内会でも活躍していた。
彼の特技は野球だけではない、勉強も抜群にできた。彼は一度授業を聞いただけで
全て理解して記憶することができた。ノートを取る必要もない。だから自宅で勉強する
ことも不要である。一度本で読んだ内容、聞いた内容は全て完璧なくらい記憶することができた。
また、ギター、ピアノ、料理、ダンスなど習い事も1日で身に着けてしまうことができた。
地元や町内会で彼は何でもできる神童ともてはやされていたのだ。
学校のテストでも全て満点を取ることができたが、満点を取ると他の生徒が
傷つくことを知っていたからわざといつも間違えて点数を下げていた。
彼はガリ勉が集まる高校に行くのが嫌だったので先生には「甲子園に行きたいんだ」
などと言って野球部が強い普通の高校に進学したのである。
大学に進学するより楽しい高校生活を満喫してから、理容師になろうと考えていた。

 高校1年の時に全員が受ける義務とされる適性検査を受けた。
その結果が返ってくると突然、才樹と両親は校長先生に呼ばれてしまった。
校長室には政府の役人までが来ていた。
才樹は困惑して、先生に質問した。

「一体何事ですか? 校長先生」
「才樹君、大変なことなんだ。よーく聞くんだよ」
「なんなんです」
「君は適性検査の結果、全世界1位なんだ。
 IQ250 健康状態、ルックス、身体能力、コミュニケーション能力どれも抜群だ」
「ええ、世界一?」
 一瞬、才樹に喜びの感情が湧いた。
「よかったと言いたいところだが・・実は大変なことなんだ」
「黙ってればいいんでしょ」
「そんな簡単なことじゃないんだ。
 君は来週から政府の秘密施設に移ってもらうことなった。
 今週で学校を退学してもらう。
 我が校で君を預かることはとてもできないんだ。すまない。
 政府が保護すると言ってるんだ」
「政府?なんですって?
 僕がどうして高校を退学しなけりゃならないんです。
 ちゃんと高校卒業して理容師の学校に行きたいのに」
「才樹君の御両親に言っておかなければならない。
 もう、才樹君は理容師にはなれないんだ。
 普通の人生は送ることができないんだ。
 まずは、政府の保護の下、一時的に隠れてもらう。
 その後、才樹君に政府から特別な任務が降りるだろう」
「どうして? 1位になったからですか?
 だったら検査結果は伏せてください」
「そうはいかない。
 世界の記録にもう登録されてしまったんだよ。
 君は世界中から狙われることになる。
 君自身、そして君の精子やDNAは何兆円もの価値があるんだよ」
「一体、どういうことなんです。
 僕が何をしたっていうんです。
 検査は適性を調べるためのものでしょ?
 順位をつけるためのものではないはずです」
「人間と言うのは何でも順位を付けてしまうものなのだよ」
「だったら初めからそう言ってくれればテストを加減したのに・・」
「君は世界一優れたパーフェクトヒューマンなんだ。
 それを自覚して欲しいんだ。
 ニュートンやアインシュタインよりも優秀なんだよ。君は?
 理容師で満足したら宝の持ち腐れだ。国にとって損失だ」
「冗談じゃないですよ。
 理容師を馬鹿にしないで欲しいです。
 僕はお父さんと店を継ぐ約束をしたんです。
 僕が世界一なら世界一の床屋さんになってみせます。
 それに、この町が大好きなんです。町のために働きたいんです」
「そんなことは言ってられないんだ。いつ秘密組織が君を浚いにくるか
 分からないんだ。来週にも政府の施設に移ってもらう」
「ちょっと、冗談でしょ」
「君の安全のためでもある。すぐ準備をしなさい」
「なんで突然こんなことに。
 僕は両親と、そして大好きな彼女とこの町で普通に暮らしたいと
 思っていたのに、それはダメなんですか」
「ダメだ。君には恋人がいたのかね?それは誰だね。
 説得して別れてもらうから」
「え〜そんな。どうして・・」
「君の精子で儲けようとか、君のクローンを作ろうとか考えている
 いろんな連中がいるんだ。早くしないと危険だ。もう議論してる暇もない」
「どうして情報が洩れるんです。1位であることは個人情報でしょ?」
「確かにそうだ。順位は厳重に管理されているはずだが・・
 人間とは1位に弱いものだ。
 秘密を漏らしてしまう人がいないとも限らん」
「なんてこと。僕は順位を出してくれなんて頼んでないですよ。
 望んでもいないのに勝手に順位が付けられて、それで身の危険が迫ってるとか
 どういうことなんです? 1位なんて取り消してください」

4.餌に群がる人間達

 才樹は自宅に帰り、両親とじっくり話し合った。
両親は才樹のことを考えて

「狙われるかもしれないんだから、言う通りに政府の施設に隠れなさい。
 お前は政府の重要な仕事をする器なんだよ。
 いいんだよ。理容師を継がなくても。
 お前が国のために役に立つ人になってくれればそれでいいんだよ」

と言ってくれたが才樹は納得できなかった。

「どうして、こんなことに。
 僕は何にもしてないのに、突然、世界中から注目されて狙われるなんて。
 こんな馬鹿な話があるだろうか?」

と嘆いていたが、さすがIQ250である。
すぐに気持ちを切り替えた。

「わかった。僕はお父さん、お母さんの下をいったん離れるよ。
 もしかしたら、政府ではなく別な場所に行くかもしれない。
 でも、必ずもどってくるから。僕を信じてね」
「才樹、別な場所って?どこかに行くつもり?」
「心配しないで。必ず戻ってくるから」

才樹はベッドで眠ろうとしたが、眠ることができない。

「人間はなんて馬鹿なんだろう。どうして1番にこだわるんだろうか?
 人間とは1番に弱い生き物なんだなあ。
 動物が主人公のアニメを思い出すなあ。そこに人間が登場するんだけど、
 人間は金塊にむらがる生き物と表現されていたな。
 金塊を餌に罠にはめられてしまう。間抜けな生き物だった。
 人間は本当にそういう生き物だったんだ。金だけでなく、1番という餌にも群がる
 馬鹿な生き物だったんだ。
 
 一体、政府の施設に入ったらどうなるのか? おそらく実験サンプルにされる。
 僕のDNAでクローン人間を作ろうとか、遺伝子の実験とかいろいろやらされるだろう。
 もしかしたら、毎日精子作りをやらされるかもしれない。
 将来は政府の言いなりに秘密の任務をやらされるかもしれない。
 僕の人生は僕が決める。政府のいいなりになんかなるもんか。
 僕は理容師になってこの町で暮らすんだ。
 ようし、いい案がある。僕をなめるんじゃないよ」

翌朝、自室には才樹は居なかった。先生は大騒ぎ。

「しまった。誘拐されたかも」

と先生は動揺していたが、両親は冷静だった。

「才樹のことだから、誘拐じゃなくて、自分で出ていったんだろう。
 大丈夫、あの子のことだから心配ない」

と考えていた。

 それから1年が経った。才樹の行方は不明なままである。
ある日、才樹の店で父親が仕事をしていると若いお客が来場した。

「いらっしゃいませ」
と声を掛けて顔を見たところ、才樹であった。
「才樹、どうしたんだ。無事だったんだね」
「お父さん、ちょっと旅に行ってたんだよ」
「大丈夫なのかい? 狙われてはいないのかい?」
「心配要らないよ。もう誰も狙わないよ」
「どういうことなんだね」
「実は僕、ハッカー集団に入って修行をしていたんだ。
 そして、政府のコンピュータにハッキングすることに成功したんだ。
 そしてちょっとデータをいじってやったよ。
 架空の人間で1位を登録してやったよ。
 100年に一人の天才がアフリカで誕生したということにしたよ。
 きっと世界中の人がアフリカに行って、存在しない1位の人を探し回るだろうね」
「そんな、映画みたいなこと、本当にできたのかい?」
「僕にはちょっと冒険だったけど。なんとかうまくいったよ。
 僕が仕込んだ餌はきっと誰も気づかないね。
 馬鹿どもが存在しない餌に釣られて探し回るのを笑ってやるよ。
 もう僕を狙う人はいないよ。
 僕のDNAデータに、癌や遺伝病のリスクをたくさん打ち込んでおいた。
 そしたら僕は上位ランクから転落したよ。もう僕に興味を持つ人はいないよ。
 これで約束通り、理容師になるからね」

おわり

注)・・人間は何でも順位を付けて1番に群がる奇妙な習性を持つ生き物である。



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