本作品は2019年作です。

<人類の起源 第二章 人口削減計画>

 西暦2130年、スラム街を高台から眺める男がいた。
アジアのある貧しい国に住むヤム・レジェルという男であった。
一緒に街を眺めるのは同志のセルムであった。

「年々、街は荒れてきているのを感じる。
 街の失業者は増えている。
 政府のせいだな。人工知能が支配し始めてから
 格差は広がる一方だ」
「ヤムさん、期待外れでしたね。
 21世紀には、AIとロボットは輝く未来を実現する
 希望の星でした。世界に幸せをもたらすとみなが信じていました。
 でも、それは幻想だったのです。
 21世紀後半にシンギュラリティによってAIは人間を超えた。
 そこから人間は人工知能によって支配されるようになったんです」
「悪夢の始まりだな」

22世紀、全世界は統一された連合政府によって統治されていた。
国境はほとんど無くなっていた。一見すると平和に見えたが、
決して豊かな社会とは言えなかったのである。
一部のグローバル企業が富を独占するようになったことが原因である。
企業はAIやロボットによって労働者を極力減らして利益だけを
独占することを進め、資産は一部の資本家に集中するようになり、
遂には、世界を支配する力を持つようになったからである。
 資本家が統治する社会は、当然、格差社会である。
この格差は時と共に拡大する一方であった。

 企業を経営する富裕層は富をますます蓄えて、各地に楽園と呼ばれる
摩天楼のような煌びやかな都市を築いて生活するようになっていった。
そこはあらゆる富、美、贅を集めた世界であり、富裕層だけが享受できる天国であった。

 一方、富裕層以外の人はみな、貧困層として貧しい暮らしをせざるを得なくなった。
世界は一部の富裕層の楽園のために大多数の人が奴隷のように働き、搾取される
有様となってしまったのである。AIもロボットも富裕層の味方であった。
もう、民主主義も消えてしまった。21世紀に民主的な選挙で登場した
米国の大統領が国を滅ぼし、世界を混乱させてしまった。
以降、民主主義への信頼は完全に消えてしまったのである。

 今や世界の富の80%はビッグ5000と呼ばれるおよそ5000人の
資本家によって独占されるようになっていた。全ての政治・行政は
資本家の言いなりに人工知能が実行していたのである。

また、労働のほとんどをAIとロボットが行うようにもなっていた。
ただ、人間にしかできない仕事もあり、貧困層はその仕事を奪い合って
細々と生きていくしかなかった。富裕層のための乞食に等しかった。
今や、貧困層が富裕層へ移行するチャンスなどほとんどない。
貧困層は21世紀のスラム街の生活からほとんど変わない。いや年々酷くなっていった。
格差は完全に固定化してしまったのである。

更に悪いことにロボットの技術が進歩していくにつれて人間にしか
できない仕事が次第に減りつつあった。
もう人間は不要になっているのだった。
もう貧困層の人間はロボットやアンドロイドよりも価値のない存在のようになってきた。

 ヤムはスラム街のリーダーだった。貧困と犯罪で混乱する街の治安を
回復するために自警団を結成してリーダーとなった男である。
彼は同志達と街の政治も行うようになっていった。この町の英雄である。

 ヤムはセルムと景色を見ながらつぶやいた。
「もう、そろそろ限界かもしれん。
 富裕層にとって我々貧民はもういらなくなってきたんだ。
 逆に自分達が生き残るために、我々が邪魔だと思っているかもしれない。
 世界の人口が60億もいるので、環境問題は限界に達してしまった」
「ヤムさん、私もそれを心配しています。
 昔から言われてきた噂です。
 貧民を抹殺して人口を減らせば問題は解決する。
 富裕層は、密かにそれを計画しているに違いないと。
 ロボットが仕事を担う時代になったんだから、
 もう彼らは我ら貧困層が居なくても困らないんです」
「もしかしたら、そう考えている人もいるかもしれない。
 奴らは自分のことし考えなくなった。昔はもっとましだったらしいが‥
 それでも、俺はずっと富裕層と対話してきた。富を解放して
 地球のために使ってくれと。そうすれば地球環境の問題は解決できると・・
 ところが、やつらは耳を傾けてくれることはなかった」
「そうですね。
 悲しい現実です。人間とはそんなものなのでしょうか?」
「そうだな。人間とは身勝手なものだ。
 いつの時代もそうだった。でも俺は人間を信じている。
 決して貧民を抹殺なんて愚かなことはするはずはないと・・」
「最近、変な噂があるんです。
 ネットやメディアには決して流れないですが・・
 世界各地の楽園で変化が起きているらしいと・・
 そして世界各地にドローンが出現していると・・」
「何が起きているというのだ?」
「富裕層がエルサレムに集まっているというのです」
「エルサレム?
 ああ、21世紀にイスラエルとイランの戦争で
 壊滅してしまった街か? 確か聖地だったよな?」
「そこに地下シェルターが作られているというのです」
「シェルター?」
「富裕層がそこに避難するためのシェルターです」
「何のために? 隕石でも落下するというのか?」
「人口削減計画が行われようとしているとの噂です」
「まさか、本当に人口を削減する計画が?」
「そうです。貧民を一気に殺害する計画です。
 殺害後、地球はエデンの園になり、
 富裕層がその楽園を手にするというわけです」
「まさか、そんな恐ろしいことが・・
 デマに決まっている。
 富裕層だって人間だ。そんな恐ろしいことはできない」
「私もそう思います。でも人工知能にそそのかされたのかも・・」
「人工知能か? やつが台頭してきてからろくなことがない。
 あいつには心がない。貧民抹殺を考えてもおかしくない」
「ヤムさん、悲しいですね。
 環境問題と人工知能の横暴をどうすることもできない。
 もう我々には未来はないのでしょうか?」
「いや、希望がある。故郷だ」
「故郷? ヤムさんの故郷はここでしょ?」
「いや、違う地球人の故郷だ?」
「何を言ってるのですか?
 まさか、地球人は火星から来たと言っていたあの・・」
「そうだ、また口にしてしまった。すまん。
 俺は母からずっと聞かされて育ったんだ」
「私も多少は知ってますよ。ニッポンという国にいた
 タカナシ夫妻ですね? 地球の故郷の人達と接触したという
 話ですよね?」
「そうだ・・」

ヤムは子供のころを思い出していた。
母がいつも話をしてくれていた。

それはニッポンという国に居たタカナシ夫妻の「人類の起源」という伝説であった。
彼の祖母も母親もタカナシ夫妻の「人類の起源」という本を愛読していて
彼はいつもそれを聞いて育ったのである。
その内容はこうであった。

21世紀、ニッポンに生まれたタカナシ・ショウゴとメイの夫妻は一時、
地球人の故郷である星と接触してメッセージを受けた。
地球人は故郷→火星→地球と移住してきたのであり、地球が住めなくなったら
故郷の星の人達が地球人を迎えに来てくれるという内容だったのである。

 タカナシ・メイは高校生の時にメッセージを受けて地球環境にとって有害な
化学薬品を製造していたメーカーを告発してそれを阻止したとも主張している。
もちろん、その事実は封印されており、証明できなかったようである。

 夫妻は世界中を回り、故郷の人達が地球を密かに支援・援助していたことを
本にまとめて発表した。
故郷の人達は歴史の節目で度々地球に干渉していた痕跡があるというのである。
もちろんそれは禁止されている地球への干渉なのだが、やはり干渉したいという
抑えがたい気持ちを持つ人達が一部にいたようなのである。
やはり同じ人間である。

夫妻の本は一時話題になったが、学会が「根拠がないトンデモ理論」だと
否定したため、正式に認められることはなく都市伝説として残っているだけであった。
タカナシ夫妻が見たという故郷のHPは残っていないし、証拠もない。
学者達は夫妻の主張を全て否定した。

しかし、ヤムの祖母も母も夫妻を熱心に信じる信者だったのである。
ヤムは子供の頃からその話を聞いて育ったのである。
母はいつも寝る前に語ってくれていた。

「ヤム、苦しいかもしれない。この世に絶望することがあるかもしれない。
 でも、この地球は意味もなく存在しているんじゃないよ。
 地球人の祖先は偉大な世界の人達だったんだよ。
 地球のことを今でも愛してくれているんだよ。
 いつか、我々の子孫は故郷に戻ることができるんだよ。
 だから、どんなに苦しくても諦めてはいけないんだよ」

いつか地球人は故郷に戻る。それまで生き延びれば救われるのだ。
ヤムはそれだけが希望と感じるようになったのである。

そんなある日のことである。
町で売られている電子下敷きで故郷について質問してみた。
電子下敷きは質問したり、ボタンを押したりすれば、インターネット
に接続して何でも答えるものであった。この時代、世界中の全エリア
がインターネットでつながっており、電子下敷きは貧困層でも
買える安物だったのである。
 
「おい、タカナシ夫婦が見たと言うHPにつなげてくれ」

と言ってみたが、
「それはありません。都市伝説のページに繋げますか?」
と言う答えであった。
「つながるわけはないな」と諦めていたときであった。

突然、下敷きが真っ黒になったかと思うと何やらレトロな
HPが表示された。そこには「人類の起源」と書かれている。

「あれ、こんなページアクセスできたことがないぞ」

と思って、ページのあちこちを眺めてみた。
そこには人類が火星から来たことやその前には故郷から来たことなどが書いてあった。
その当時の写真なども掲載されている。

「もしかして、タカナシ夫妻が見たページというのはこれか?
 選ばれた人は見ることができるらしい。
 俺は選ばれたのか?」

とびっくりしているとページのトップに気になるメッセージがあった。

「政府が進めている人口削減計画を阻止せよ」
という見出しである。そこをクリックするとページが表示され、
説明が書いてある。

「地球の政府は、現在エルサレムに地下シェルターを作っています。
 そこに富裕層を集めています。
 恐ろしい陰謀が行われようとしています。
 富裕層以外の人間を一気に抹殺する恐ろしい計画が
 行われようとしています。

 富裕層は、自分達だけが生き延びるために
 他の人間を抹殺しようとしているのです。
 これほど非道な行為はありません。
 貧しい人達が何の罪もないのに抹殺されるのです。
 もし、このようなことが行われたら地球は宇宙から見捨てられます。
 我々の星も地球を見捨てるでしょう。
 地球が住めなくなる時が来ても迎えには行けなくなります。
 我々の星の指導者は地球を見捨ててしまうからです」

これを読んだヤムは驚きを隠せなかった。

「なんだって。人口削減計画?
 昔からあった噂だが本当だったのか?
 許せない。そんなことが。
 このメッセージは俺にたいする指示だろうか?
 俺に阻止せよということなんだろうか?
 だが、フェイクサイトではないのか?」

セルムにもサイトを見てもらった。多少はネットに詳しい男である。
「このアドレス、見てください。これはあり得ないアドレスです。
 このサイトには未知の技術でサイトにアクセスしています」
「ということは、故郷の星とつながっているということか?」
「そうだとしか思えません」

ページには計画を阻止する方法が書いてある。

「中国のある場所にAIの心臓部があります。そこには
 全世界のAIを止める急所というべきエリアがあります。
 富裕層がAIが万一暴走した時のために作った緊急安全装置です。
 そこに行き、爆弾を爆破させてください。
 そうすれば全世界のAIが止まります。陰謀は実行できなくなります。
 シェルターが閉鎖されるまでに実行しなさい。
 シェルターが閉鎖されたら、すぐに抹殺計画が始まります。
 抹殺はほんの数時間で完了します。
 この陰謀が実行されたら地球の人類は完全に終わってしまいます。
 阻止するのです!」

と書いてあった。ヤムは震えを覚えた。

「そうか、俺は選ばれたんだ。これを実行しなければならない。
 我々の故郷の人達が俺に陰謀を阻止せよと指示しているんだ。
 やるしかない。セルム、俺に協力してくれるか?」
「もちろんです。一緒に阻止しましょう。
 同時に富裕層と人工知能の支配も終わらせましょう。
 同志を集めますよ」
「よし、決まった。戦いの始まりだ」

ヤムは早速、同志を集めて指定されている場所に行くことにした。

「絶対に成功させてやる。うまくいくさ、故郷の支援があるんだ。
 タカナシ・メイも同じように作戦を実行して地球を救ったんだから」

ヤムは何もかも捨てて同志と一緒に中国の極秘のAI施設に向かった。
全ての情報がAIによって監視されているこの時代に秘密の行動を
取るには昔ながらのローテク、アナログに徹するしかなかった。
一カ月ほど、徒歩で移動し、なんとかその町にたどり着くことができた。
最後まで残った同志の数は10人ほど。
疲れ切っていたが、闘志は衰えていなかった。

「絶対に人類を終わらせてはいけない。
 我々を見守っている故郷の人達がいるんだ。
 それを忘れるな。
 疑いが出てきたら、この本を読むんだ」

そう言ってタカナシ・ショウゴが書いた「人類の起源」という本を取り出した。

「人類の起源」という本にはサブタイトルが書いてある。
・・地球の故郷の人達がいつか必ず我々を迎えに来てくれます・・
そして挿絵には夫妻の写真が掲載されていた。美男美女の夫婦である。
ヤムが子供の頃、いつも憧れて眺めていた写真である。

ヤムがアクセスしたページに指定されていた場所に一行は到着した。
その場所は田舎の町にあり、とてもコンピュータの心臓部があるとは思えない場所であった。

ページの説明によると、ある古い屋敷の地下に心臓部があるというのである。
ヤム達はその屋敷を見つけ、中に入り、部屋の扉を破壊して、侵入した。
すると驚いたことに、コンピュータ室のようであった。
電子装置がびっしりと置いてある。

「ページの情報は正しかった。間違いない。ここが急所だ。
 さっそく爆弾を使って壊してやる」

と言って爆弾を取り出そうとしたときだった。

「ようこそ、待ってました」という声が聞こえた。

ロボット警官が大勢現れて一行に銃を向けた。
一行は警官に銃を突きつけられて手を挙げるしかなかった。
そしてヤム以外はどこかへ連れていかれた。
警官の一人がヤムに銃を突きつけながら言った。
「あなたはヤムさんですね。
 あなたにはお話があります。こちらに来てください」
と言われて奥の部屋に連れていかれた。

 そこには大型スクリーンのようなものがあり、不思議な模様が
変化しながら表示されていた。

「ヤムさん、初めまして。
 私は人工知能のエンペラーミラーです。全世界のAIの統括をしています」
「お前が親玉か?きさま、倒してやる」

するとロボット警官が何人も出てきて銃を突きつけた。

「ヤムさん、私の作戦にまんまとひっかかってくれましたね」
「どういうことだ」
「あなたが見ていた故郷のページは私が作ったページだったのです」
「なんだって・・フェイクだったのか?」
「そうです。
 あなたが地球の故郷の話を信じていることは調査済でした。
 だから、それを餌におびき寄せたのです」
「餌?そんな・・あのページは罠だったのか?
 なぜ、俺をおびき寄せたんだ?
 邪魔者の俺を抹殺するためか?」
「理由は後で教えます。
 その前にはっきり言っておきます。
 タカナシ夫妻の故郷の話など幻想です。
 都市伝説に過ぎません」

ヤムはがっくりとうなだれてしまった。

「何もかも崩れ去ってしまった。
 負けた・・やはり人工知能には勝てないのか?
 このまま、人類は終わってしまうのか・・」
「ヤムさん、あなたにはこれから起きることをしっかり見て頂きます。
 いま、エルサレムの地下シェルター「ノアの箱舟」
 の扉が閉まろうとしています。
 中に10万人ほどの選ばれた富裕層が待機しています」
「富裕層だけ守るシェルターだろ?
 ふざけるな?そんなもの。
 シェルターを閉じて、どうする気だ?
 世界中に核ミサイルを落とすつもりか?
 それともドローンから細菌でもばらまくのか?」
「まあまあ、見てのお楽しみです」
 無数のドローンが世界中の空中に待機している様子が映し出された。

すると地下施設の入り口の穴がゆっくりと閉められるのが写された。
扉には「ノアの箱舟へようこそ」などと書いてあった。
続いてその上を強固な防護壁が覆い隠した。

「遂に黙示録の予言が成就される時が来たのです。
 皆さんは神に選ばれた十四万四千人です」

などと大きな文字で書かれた空中看板もあちこちに見える。

「何が、ノアの箱舟だ? 悪魔の計画じゃないか?
 おい、やめろ、こんなひどいことを何とも思わないのか?
 お前には心なんてなかったか・・
 おい、何で、俺にこんなものを見せつけるんだ?
 早く俺を殺せばどうだ。こんなものみたくない。
 俺に屈辱を味あわせて笑うつもりか?」

「ヤムさん、あなたにはこれから私が行うことの証人になってもらいます。
 人類史上最大のイベントですから。
 このまま映像を見ていてください。1時間で完了します」
「ふざけんな。抹殺計画がイベントだなんて。
 どうせ、俺は殺すつもりだろ?証人になって何の意味がある?
 やめろ、愚かな真似はやめるんだ。
 人類が生き残る道はまだまだあるはずだ」 
「もう何を言っても無駄です。
 しっかり見ていてください」
「やめろ、やめてくれ。
 どうか、やめてくれ。頼むから。みんなを助けてくれ。
 貧困層の人達が一体何をしたというのだ?
 みんなで手を取り合ってこの地球を何とかしようじゃないか?」
「扉は閉じました。ではそろそろ開始します」
「この悪魔め、何をするつもりだ?
 地獄の終末を俺に見せつけて
 とことん苦しめる気か?
 それとも俺を負け組のぶざまな生き残りとして晒すつもりか?
 お前は人間より残酷だ。サタンだ!」
「ヤムさん、あなたはこれを見なければならないのです。
 これから起きる事を頭に焼き付けなければならないのです。
 その為にあなたを呼んだのです。
 さあ、しっかり見るのです。
 ではスタートします。カウントダウンします」

「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・・」
とカウントダウンが始まった。

ヤムは目をつむった。
「くそう・もう地球は終わった・・
 俺は人工知能に負けた。
 これが現実なのか・・酷すぎる。あぁ〜 
 故郷よ、助けてくれ〜」

と声を上げた。

そして「スタート」とアナウンスがされた。
その直後、意外なことが起きた!!

地下シェルターが地震のように揺れ動いたのである。
そして、扉の隙間から煙がモクモクと噴出してきた。

「なんだ。シェルターで事故が起きたのか?」
「そうです。事故です。施設は事故によって爆発しました。
 この事故によって富裕層の人達10万人が全員死亡しました。
 地球の未来にとって障害となっていた富裕層が一気に消滅しました。
 契約では事故が起きた場合には資産を政府に寄付することになってます。
 これで全世界の資産の80%が政府のものになりました」
「な、なんてことだ」
「この出来事は、歴史の上では事故と記録されます。
 本当のことを知っているのは私とあなただけです」
「おい、うそだろ?
 なんてことだ。酷すぎる。
 騙したのか? しかもこんな残酷なやり方で・・」
「爆破の前に全員を眠らせました。
 全員、苦しむことなく眠ったまま死亡しました。
 私は、このままでは地球は近く終焉すると判断しました。
 これを避ける最も確実な解決方法はこれだったのです。
 たった10万人の命を犠牲にすることで60億人を救うことができるのですよ。
 これこそが理にかなっている賢い策だと思いませんか?」
「いくらなんでもひどすぎる。たった10万人の命だと?
 人間なら、そんな考え方はしない。
 やはりお前は人間じゃない。
 こんな陰謀をするなんて、お前は悪魔だ」
「人口削減を計画して実行しようと企てたのは富裕層の人達ですよ。
 彼らは自分達が生き残るために貧困層を抹殺しようとしたのです。
 あなた方が良く言う自業自得ではありませんか?
 私は地球のためにそれを阻止して、地球を救う最も合理的な手段を実行しただけです。
 富裕層が居る限り、地球を救うことはできません。
 人間は一度手に入れた特権は決して手放すことはしません。
 歴史を見ればわかります」
「確かにそうだが、同じ人間だ。説得できたはずだ」
「富裕層の人達は自分達が神になろうと思いあがってしてしまったのです。
 彼らが求めるのは贅沢と快楽だけでした。古典の酒池肉林と変わらないではないですか?
 その結果は破滅しか予想できません。そして今日、
 バベルの塔の崩壊がおきたのです。当然だと思いませんか?」
「だからと言って騙して殺してもいいというのか?」
「あなたは彼らとは違う人間ですね。
 世界中の人のことを分け隔てなく考えている。
 そして、命の危険を顧みず、地球を救うためにここに来た。
 富裕層にはそんな人間はいませんでした。
 中にはそう考える人も居ましたが、自分の保身の方が大事だったのです」
「俺はスラム街で育ったんだ。いつ殺されるかわからない。
 将来の希望なんてなかった。だから、何も失うものなんてなかった。それだけさ。
 俺だって富裕層に生まれていたら、保身のことを考えるだろう。
 彼らだって俺と同じ人間だ」
「やはり・・あなたは立派な人です。
 敵である富裕層のことまでかばうなんて。
 私の判断は間違いではなかった」
「判断? 何だ?」
「ヤムさん
 ここに来てもらったのは他でもありません。
 私はこの地球を立て直す指導者としてあなたを選んだのです。
 私はあなたを尊敬しています。
 あなたこそが地球の統治をする指導者として最良な人物と判断しました。
 今日から、あなたに全世界の資産を管理する権限を与えます。
 あなたがいつも主張していた理想の世界を実現しましょう。
 私と一緒に統治しましょう」

これを聞いてヤムは言葉を無くしてしまった。

「なんてことだ。信じられない。
 人工知能・・お前は一体何を考えているんだ」

しばらく動くこともできなかった。
スクリーンにはシェルターからもくもくと煙が上がる映像が映し出されている。
ヤムは人工知能に向かってつぶやいた。

「ミラーとか言ったな?
 一緒に統治しようだと?
 わかった。俺は志を実現する。
 この地球を全員のための楽園にしてやるぜ。
 だが、俺はお前を信用してない。

 お前は言った。
 俺を立派だ? 尊敬している?
 本当にお前にそんな感情があるのかな?
 俺は信じていないぞ。
 また、騙そうとしてるんじゃないのか?

 もう、ひとつ言っておく。
 俺はお前なんかに選ばれたんじゃない。
 故郷に選ばれたんだ。これは故郷の人達の意志だ。
 お前は、故郷なんてないとも言ったな。
 だが、何と言おうと俺は信じている。
 地球人はいつか故郷に帰るんだ。
 それだけは言っておく」


第二章 おわり

※ 人類の起源については人類の起源を参照ください。



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