本作品は2019年作です。

<人類の起源 第一章 火星から来た少女>

 郊外にある高級住宅街、その中の一つの家を見つけ、高梨省吾は
「ここだ。さあ、どんなことになるのかな?」
などと期待と不安を抱きながらインターホンを押した。すると
「どちら様でしょうか?」と返事があった。
「高梨です」と答えると扉が開いた。
出迎えてくれたのは大学教授の山下であった。
「ようこそ、いらっしゃいました。
 そちらの部屋へどうぞ」
と案内してくれた。
「豪華な御宅ですね。大変趣味もよろしいですね。
 この絵を飾るとは通ですね。
 私は絵に詳しいですよ。レアものですね」
「ありがとうございます。
 早速、お話しに入りましょう」
「お嬢さんのことですね。ニュースで聞いています」
「そうです。娘はニュースで報道されたように、
 この家でおそろしい武器を作っていたのです。
 前代未聞の事件です」
「マスコミで大きく報道されたので知ってます。
 報道によると殺虫剤を濃縮して毒性を増すように
 工夫していたそうですね」
「ほんとうはもっと恐ろしいものを作っていたんです。
 化学兵器です。市販の薬物を調合して神経ガスみたいに危険な毒を
 作っていたんです。家内が発見して恐ろしくなって警察に通報しました。
 鑑識の結果、人を殺せる毒であることがわかり、
 公安警察の取り調べをうけています」
「どうしてお嬢さんはそんな毒を作る方法を知っていたのですか?」
「自分で考えたそうです」
「お嬢さんは高校生でしょ?
 高校の化学の知識で考えた?」
「そうです」
「そりゃ、凄い。天才ですね。
 新聞によると化粧品メーカーを攻撃しようとしたとか?
 動機を詳しく聞かせてください」
「それが・・表向きは化粧品メーカーが環境汚染をしているという
 フェイクニュースを見て怒りを覚えたということになってますが・・」
「私もそうだと思ってましたが違うんですか?」
「違うんです。娘によると化粧品メーカーは化学兵器の材料を作って
 海外に裏で販売していたというのです。それは地球環境に大変な危機をもたらす
 ということでそれを暴くためにテロを起こそうと思ったらしいのです」
「それもどこかのフェイクニュースを見てですか?」
「いや、違うようなのです。
 公安警察が調査したところ、それは事実だったのです。
 化粧品メーカーは闇で商売をしていたのです。
 もちろん、こんなことはマスコミには報道されていませんが」
「お嬢さんは何故、それを知っていたのですか?」
「わからないんです。
 とにかく娘は今、政府の厳重な監視下に置かれています。
 毎日、取り調べが行われているんですが、取調官には
 娘のことがよく理解できないらしいんです。
 心理学者などを動員しても理解できないらしいんです。
 このままでは娘は精神異常と烙印を押されてしまいます。
 そこであなたに声を掛けたというわけです。どうか娘を助けてください」
「はい、とても興味があります。
 でも、私は心理学や犯罪の専門家ではありません。
 フリーの歴史研究家に過ぎません。
 そんな私に娘さんを救うことができますかね?」
「娘とあなたには共通点があります」
「なんですか?」
「火星です。
 あなたは地球人は火星から来たと本で主張されていますよね?」
「ええ、これは私のライフワークです。間違いないと確信してます」
「娘も同じことを主張しているんです」
「ええ、お嬢さんが・・」
「娘は何か秘密を握っているのです。火星に関する何かの秘密を。
 きっと誰にも理解してもらえず苦しんでいるに違いありません。
 あなたならそれを理解してくれると依頼したのです」
「わかりました。それならば、お嬢さんにお会いしましょう。
 お嬢さんは芽依(めい)さんと言うお名前でしたね。
 私が調べたところ、びっくりするような才女でいらっしゃる。
 まず成績はつねにトップ。去年の全国模試で数学・英語両方で全国1位。
 また、スポーツ万能でチアリーディング部に所属。明るく人気者です。
 その上、東京に行けばスカウトマンに声を掛けられるほどの美貌の持ち主。
 学校でも地元でも人気者でしたね。
 どこの大学に進学するのだろうか? どんな道に進むのだろうか?
 将来が楽しみだ。と地元では注目されていましたね」
「そうなんです。うちの娘はできすぎの子でした」
「いや、大学教授のあなたとミス日本だった奥様とのお子様ですから当然です。
 そんなパーフェクトヒューマンのお嬢さんがどうしてテロなんて・・」
「それが分からないのです。親としては悲しくて言葉にもなりません。
 あなたにその理由を解明して頂きたいのです。
 本当の原因を解明して欲しいのです」
「わかりました。きっと何か深い秘密があるはずです。
 解明してみせます」
「お願いします。娘を助けてほしいのです。
 助けることができるのはあなたしかいないのです」
「ありがとうございます。
 私のような変わり者を信頼してくださるとは光栄です。全力を尽くします」

省吾はフリーの研究家であった。テーマは「火星文明」である。人類の起源は
火星であるという主張を本気でしていたのである。人間の体内時計が25時間である
ことなど数々の状況証拠を集めて研究していたのである。
だが、省吾の主張は学会はもとより、一般の人からも馬鹿にされることが多かった。
しかし、省吾は真剣に研究しており、オカルトルポライターと一緒にされるのを
嫌ったりしていた。
「私は金儲けのための都市伝説やフェイクニュースを作ってるのではない」
という信念を貫いていた。

 省吾は長身でスマート、その上、道行く人から振り向かれるほどのイケメンであったため、
「あいつはタレントになろうと目論んでいるんだ。火星なんてそのためのネタさ」
と言われることがあった。
実際、彼をタレントに起用しようとするメディアもあったが省吾はきっぱりと断った。
「俺はルックスを武器にするような姑息な男ではない」
と言い放った。そんな男であった。

 省吾は特別な許可をもらって芽依のカウンセリングを行うことになった。
省吾が取調室に入るとラフな格好をした少女が机に座っていた。
ラフな格好をしていても、とても美しい少女である。思わずうっとりしてしまった。

「芽依さん、はじめまして高梨省吾です。あなたのお話を聞くためにきました」
「はじめまして、芽依です。一目見て感じました。
 あなたは私のことを理解してくれる人ですね。よろしくお願いします」
「今の気分はどう?
 もう何日も学校に行っていないよね」
「私はもう学校には戻れません。全てを失ってしまいました。
 でも、すっきりしました」
「ええ、どうして?」
「私はいつも周囲の人に注目されて、
 それに答えるだけのロボットだったんです。
 子供のころからずっと。もう自由になりたいのです」
「そんなものなのかな? 僕は全く逆だよ。
 親からも、先生からも期待されたことなんてないよ。
 誰も僕の事なんて注目も理解もしてくれない。
 だから僕は、自分一人で好きに生きていくと決めたんだ」
「私は、あなたのように自由に生きたいです」

しばしの沈黙の後、省吾は小声で言った。

「そうか、じゃあ、僕と一緒に生きていこうか?」

それを聞いて芽依の目が一瞬輝いたように見えた。
省吾も「何故初対面の人にそんなことを言ってしまったのか?」
と自分の言葉に驚いてしまった。

「もしかしたら、俺はこの子に一目ぼれしてしまったのかも」

「ところで芽依さん、どうしてあんな事件を起こしたの?」
「・・・」
「言いたくないの?」
「今まで散々取り調べで話したわ。でも理解してもらえないの」
「僕はきっと理解してあげられる。もう一度話してくれないか?
 君は火星に興味があるんだろ? 僕もだよ ほら」
と自筆の本を見せた。
「火星文明の検証」という本である。
それを見て芽依は目をかがやかせた。
「あなただったのね。この本の著者は」
「そうだよ。君も同じことを考えているんだろ?
 ネットで情報を見たのかい、それとも僕の本を読んだのかい?」
「ネットも見たけど、ほとんどは私の推論なの・・
 ちょっと長くなるけど、聞いてくださる?」
「時間は十分もらったから大丈夫だよ。是非聞かせてくれ」

芽依は人類が火星を起源とする根拠を筋道立てて説明始めた。

進化論では知的生命体が誕生することを説明できないことや
火星から人類が移住してきたとする方があらゆる面で説得力が
あることなどである。

省吾は彼女の理路整然とした説明に驚愕した。

「し、信じられない。高校生がこんなに凄い論理展開をするとは。
 この子は天才だ」

しかし、その驚愕はそれだけではなかった。
人類は火星に来る前にはもっと別な星から移住してきたというのだ?
地球の起源は火星、そしてその前にはもっと別な星があったというのである。
そこは地球の故郷とも言えるのである。

「おどろいた。確かに、その説に従えば今までの疑問が全て解ける」

省吾が感激していると芽依は更に驚くべきことを語った。

「省吾さん、ここからはその故郷の人からのメッセージなんだけど、
 信じてくれる。誰も信じてくれないの」
「君の言うことなら信じるよ。君は本物だ」
「地球はあと1万年ももたないの。火星と同じ運命をたどるの」
「じゃあ、人類は滅びてしまうのかい?
 それともまたどこかへ移住するの?」
「そうじゃないの。故郷にもどるの」
「故郷に移住するということかい?」
「そうじゃないの。
 故郷の人達が迎えに来てくれるの」
「なんだって」
「おそらく地球人には移住は無理なの。だから
 故郷の惑星の人達が地球の人達を引き取ってくれるの。
 私達地球人を身内だと思っているからよ」
「だったら、今からでも交流すればいいじゃないか?」
「それは許されていないの。干渉してはいけないルールなの。
 このことは絶対に地球人には言ってはいけないことなの」
「良く分からないなあ。何で秘密にしなけりゃいけないの?」
「知ってしまったら、属国や植民地と変わらないでしょ?
 それは禁止されているの。
 自分達で文明の方向を選ぶ自由は侵害してはいけないルールがあるの」
「ではどうして君は知ってるんだ?」
「禁止されているけど、逆らう人もなかにはいるの。
 干渉しようとして罰せられた人も、故郷にもいろんな人がいるわ。
 その人がインターネットで私に情報を提示してくれたの。
 たぶん地球のどこかに来て居て発信してるのよ」
「じゃあ、それを見てみよう。フェイクサイトかどうか調べてあげるよ。
 パソコンを持って来たよ。
 許可してもらったんだ。君が触らないという条件で」

省吾はノートパソコンを開けてインターネットをアクセスした。
少女に言われたアドレスをインプットすると
英語で「人類の故郷」というタイトルのHPが表示された。

省吾がHPをあちこちを見て回ったが、どの内容もおどろくほどに
理路整然とした主張が書かれている。そして過去の火星文明の写真や故郷の星の
写真なども掲載されていた。
「フェイクか?」とじっくり見たが省吾には作り物であると判断する
盲点は発見できなかった。
「こんな精巧なフェイクはありえない」
と驚愕した。
「これは凄い。こんなサイトは初めてみた。故郷の人達が発信しているのか?」
「そうよ。何一つ怪しい点はないわ。間違いなく故郷のサイトよ」
「じゃあ、もっと世に広めよう」
「ダメ、故郷では秘密を漏らすことは禁止されているわ。
 だから、このサイトも消されてしまうわ」
「情報を発信している人達は地球の味方なのかい?それとも敵?」
「味方よ。敵もいると思うけど」
「敵?」
「地球人を引き取るべきではないという人達も若干いるみたい。
 でも、このサイトの人達は味方よ。
 地球が迎えを受ける日まで延命できるように、
 そして自滅しないようにと活動をしているの。
 この地球上で何人かの人に情報を提供しているらしいの」
「君もその一人だってことか?」
「ここで見ているあなたもそうよ。間違いないわ」
「もしかして、君が計画したテロもこのサイトと関係ある?」
「そう、このサイトに書いてあったの。化粧品メーカーが
 地球にとって取返しのつかない毒物を製造して輸出していると」
「そうだったのか?」
「君が事件を起こしたことで阻止されたというわけか」
「そうなの。
 阻止する方法も、兵器の作り方も書いてあったの。
 その結果、私は何もかも失ってしまったけど。
 それでもいいの。地球の未来のためなの」
「そういうことだったのか?
 そりゃ、誰も理解できない話だね。
 でも、まだ不安だよ。どこかの国の陰謀ニュースではないのか?」
「私には確信があるの、間違いがない確信が」
「一体、なんだい?」
「私は過去に火星に居たの。その記憶があるの。そして故郷の記憶も」
「ええ、前世ということ?」
「わからないけど、記憶があるの、そして・・」

しばしの沈黙の後、男はつぶやいた。
「いま、何を言おうとしたんだ?」

「いや、ちょっと恥ずかしくて・・でも言うわ。
 あなたに会った瞬間にも感じたの。
 あなたと一緒だったことがある気がするの。間違いない。」
「運命で結ばれてるってことかい? じゃあ、僕も言うよ。
 実は僕も君に会った瞬間に同じことを思ったよ。
 君と会えてよかった」

省吾は何度も芽依との面談を繰り返した。彼女に会うことが
楽しみになるようになっていた。芽依も同じである。

ある日、省吾は芽依の父親に報告に行き、面談の状況を説明した。
父親は省吾を温かく迎えていた。

「高梨さん。芽依の調査に協力してくれてありがとう。
 どうだね。芽依は?」
「元気です。彼女はとにかく頭がいい。こんな少女は初めてです。
 彼女は人類が火星を起源としていることをよく理解していました。
 凄いです。彼女の言うことは矛盾などなく筋が通っています」
「そうか、よかった。
 娘は頭がおかしくなったのではないのですね?」
「もちろんです。健康状態も精神状態も正常です。
 今まで誰も彼女の言うことを理解してくれなかったから
 ストレスが溜まっていただけですよ」
「そうか、よかった。
 高梨さん、もしよかったら娘を助手かアシスタントにして欲しい」
「え、いいんですか?
 こちらこそ喜んで。助手なんて、すぐに彼女が主人で私が助手
 にひっくりかえりますよ」
「よかった。高梨さんを選んだのは正しかった」
「お父様、ちょっとここで見せたいものがあるんです。
 彼女は人類が火星から移住してきた証拠をつかんでいたのです。
 これが情報源です」

と言ってPCを開いて芽依と一緒にアクセスしたアドレスを再入力してみた。
しかし、「Not Found」と出て開けない。
「あれ、どうしたんだろ、彼女といる時はいつもアクセスできるのに・・」
これを聞いた父親は笑いながら
「いいんだよ。見れなくても、君が言うんだから間違いないよ。
 ありがとう。娘をどうか頼んだよ」

省吾が帰った後、妻が近づいてきた。慎重な面持ちである。

「あなた、
 高梨さんは、間違いなく娘に恋してるわ。いいの?
 若い男女を会わせたら恋に落ちるのはわかっていたでしょう?」
「実をいうとそれが狙いなんだ。
 あの男を選んだ理由は能力や見識などではない。
 はっきり言って学問の世界からみたらただの変人だ。
 あの男の本なんて学問的な価値はまったくない。
 調査を依頼したが本当は何も期待していない。
 私があの男を選んだ理由は、娘と同じ妄想を抱いてること、
 世間の目を気にしない強さ、図太さ
 そして娘に相応しい男前だということだ。
 娘の伴侶になってほしい。ただそれだけなんだ」
「ということは二人を結びつけるつもり?」
「そうだ、娘の事件は日本中に知れ渡ってしまった。
 こんな事件を起こした娘にはもう将来なんてないだろ?」
「残念だけど、そうね。もう普通の人生は送れないでしょう。
 誰かに助けてもらうしか生きる道はないわね。あの男が?
 確かに・・あの男と一緒なら・・生きていけるかもしれない」
「娘があんなになってしまった原因は全て私にあるのだ。
 私は間違ったことをしてしまった。
 デザイナーズベイビーの研究を成功させようと実験をしてしまった。
 自分の娘に。絶対に成功すると自信があったんだ。
 娘はあらゆる遺伝情報を操作して完璧にデザインされた子供だった。
 何もかもうまくいったと思っていたが・・やはりどこかが狂っていた。
 火星なんて変な妄想を抱くようになり、遂にはテロまで計画してしまった。
 どこかに欠陥があるんだ。
 やはりデザイナーズベイビーなんて失敗だったのだ。
 この研究はもう封印する」
「あなた、もういいの。そんなに自分を責めないで
 世の中のために、娘のために実験したのだから」
「芽依は失敗作とは言え、私の娘だ。
 幸せな人生を送ってもらいたい。
 あの男と一緒なら娘は幸せになれるだろう。
 火星文明なんて妄想を追いかけても構わない。
 娘がそれで満足するならそれでいいんだ・・
 それが父親としての気持ちだ」

省吾は自宅に戻り、芽依との面談の記録をまとめていた。

「父親から彼女をよろしくと言われたな。
 彼女を妻にしてもいいということかな?
 彼女と一緒に火星、そして故郷について探究するか?
 なんだか、ワクワクしてきたなあ」

「ところで、何でサイトがアクセスできなかったんだ」
と思い、PCを開いて再度、例のサイトにアクセスしてみた。
しかし、やはり「Not Found」と出る。ちなみにどこの国のサーバかを
調べてみようとアドレスを確認してみた。するとそれはインターネットの
URLのルールには登録されていないものだった。
「え、これはアクセスできるはずのないアドレス?
 つまり、存在しないアドレスだ」

「一体どういうことなんだ?
 いままで故郷の星と直接つながっていたのか?
 何で急にアクセスできなくなったんだ?規制されたのか?
 もしかして、もう彼女の役目は終わったということか?
 もう情報は送ってもらえないのか?
 そりゃ、寂しすぎるよ。
 もう一度、ページを見せてくれよ、お願いだ!」

第一章 おわり

※ 人類の起源については人類の起源を参照ください。



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