本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第9話 笑い声>

 慎也はゲームオタクだった。子供の頃からゲームが大好きでいつも没頭していた。
大人しい性格で自己表現が下手だったため、現実世界よりもゲームの中で
なりたい自分を演じて、それにワクワク感を感じるタイプだったのである。

 当然ながら慎也は、現実社会では目立たない男であった。
社会人になって、いろんな仕事を転々としていたが、いつも人とのコミュニケーションが
うまくできない。

 そのうっぷんを晴らすためにより一層ゲームに励むのであったが、歳を重ねるにつれ、
普通のゲームでは物足りなくなり、最近はネットにはまるようになっていった。と言っても
ネットゲームではなく、匿名掲示板でゲームのようにあちこちを荒らし回っていたのだった。

 仕事から戻ると自室の机に座り、PCとにらめっこする。大人しい慎也が突然ギンギンと
目を輝かしてモニタをにらむ。まるで獲物を探す獣のようだった。
机にはPCが2台あり、その他にスマホを使って、常にあちこちをウォッチしていた。
まるで株のトレーダーみたいに忙しく画面を見ては、書き込みを繰り返した。
書き込みのほとんどが暴言、煽り、挙げ足取り、ヘイト書き込みであった。
完全にネット荒しと化しているのであった。
 
 慎也は日々のうっぷんを晴らすようにあちこちの掲示板に嫌がらせ、暴言の書き込みを
繰り返し、どこかで炎上しているのを素早くみつけて便乗して袋叩きに参加した。
匿名掲示板ではPC2台とスマホを使って3人になりすますこともでき、これによって
どんな相手も数人掛かりのように叩くことができた。
また、大勢の人が苦情を書いてるように見せかけて相手の印象を落とすこともできた。
毎日そうやって誰かを傷つけることで人を裁く快感を味わっていたのである。
「ネットの中では正義の味方になって悪い奴を裁くことができる」
慎也はネットの世界でヒーローのような気分を味わうことができたのである。

 初めのうちは世の中の悪い人をリンチするという意図で炎上に便乗したり、
犯罪者の身元洗い出しなどに励んでいたが、段々それも刺激を感じなくなっていった。
段々と弱い人や初心者をけなしたり、世の中の善意や美談にいちゃもんをつけて
善良な人を傷つけることに刺激を求めるようになっていった。
弱い人や真面目な人を叩く方が効果がはっきりわかるからである。
更にエスカレートして「もっと刺激的なことはないだろうか?」と考えるようになった。

そこで次のターゲットとして、自分が日頃うっぷんを感じる人を立ち直れない
ほどに繰り返し攻撃することを考えるようになった。ストーカー作戦である。
若い女性、エリート、幸せそうな人、能力がある人など自分がむかつく人をターゲットに
定めて徹底的に嫌がらせをすることを繰り返した。

よく使う手は、匿名掲示板にありとあらゆる悪口を書く、一人3人で大勢の人が叩いてるかの
如く見せかける。
次に親切な人を装って当人にメールを送る。「悪口書かれていますよ」と。

 それを見た本人が掲示板に反論する書き込みきたら思う壺。野次馬を集めて炎上させる。
こうすることでその人の心を徹底的に傷つける。休む暇もないくらいに毎日嫌がらせ書き込みをする。
相手がノイローゼになって倒れるまで続ける。それが定番のやり方であった。
「幸せな奴、弱い奴、善良な奴・・誰かを不幸にするゲームさ。
 うつ病や自殺に追い込めば最高点」

 慎也はこの悪趣味なゲームにはまっていった。
何年も繰り返すうちに嫌がらせのプロと言えるほどに上達していったのである。
そうやって、不幸にした人の数を1人100点としてノートに記録しており、
それを貯金通帳のように眺めてニヤリとした。

ネットで相手にダメージを与えた時は慎也は部屋で一人、声を挙げて笑うのが癖だった。
「は、ははははは・・・」と下品に笑い続けるのであった。これが慎也の癖である。
だが最近おかしなことが起きるようになった事に気づいた。

笑っている内に笑いがこだまのように響いて聞こえるのであった。
誰かが一緒に笑っているように部屋に声が響くのである。
「なんだ、エコーか?」と疑問に思ったが結局よくわからない。
気のせいでいつも済ませていた。

 誰かを苦しめる・・この快感を覚えた慎也は、毎日自宅に帰ると
深夜までこのゲームに励んで刺激を求め続けたが・・スリルと刺激は段々麻痺してくる。
更にもっと強い刺激が欲しくなってきた。

「ネットでは物足りない。本当に不幸にしたのか? 実感が湧かない。
 リアルでもっと確実に人を不幸にできないか?」
「何が一番人を苦しめるか・・そうだ冤罪だ」と思いついた。
「ネットではなく現実で・・」という恐ろしい企みを考えるようになった。
「そうだ、万引き冤罪で誰かを陥れる。実際にやってみよう」

 慎也は県内トップクラスの高校の近くの書店を物色した。
「この本屋には高校生が一杯いる。しかも監視カメラはない。ここならできる」
高校生の中には部活帰りで手提げなどを持ってる生徒も何人かいた。
ちょっと疲れた感じの生徒が手提げを持って本を探している。
「あいつだ」
慎也は本を片手に持ち後ろに隠しながら生徒に話しかけた。
「君、今バッチが落ちたよ。そこだよ」と先の方を指さした。
その生徒がそちらの方に目をやりバッチを探している間にさっと本を
手提げに入れた。「うまくいった」慎也は内心思った。
バッチが付いてることに生徒が気づくと慎也は
「ごめん、ごめん、虫だったかも?」と言って離れた。

そして店員にささやいた。
「あそこにいる高校生、万引きしましたよ。手提げの中に本を入れるのを見ました」

慎也は店内で立ち読みをするふりしてウォッチしていると・・
さっきの生徒が店を出ようとした時、店員が生徒を呼び止めた。
「君、ちょっと手提げの中見せてくれる」と手提げをひらいた。
中からは新品の本が出てきた。「君、万引きしたね。ちょっと来てくれるね」
生徒はびっくりした顔をしながら連れられていった。

「やった、大成功だ。あのエリート高校の奴、これで大学進学はパー。
 人生を狂わせてやった。快感!」

慎也は自宅に帰り、ノートにポイント100点いや1000点と記録した。
「凄いスリルと快感。ネット書き込みなんかじゃ体験できない爽快感」

いつものように「ははははははは・・」と大声で笑い転げた。
この時もまた、笑いが尽きかけた頃に一緒に誰かが「はははは・・」
と笑っているように響くのが聞こえた。
「なんだ、この声は・・どっかに反射しているのか?」
不安に感じたが、今度も気のせいだろうと考えて済ませた。

万引き冤罪でこれまでにない快感を感じた慎也は次のゲームを考え出した。
「痴漢冤罪」である。痴漢を行い、それを誰かに押し付けることであった。
痴漢で逮捕されたら最後、男はやってないことを証明できない限り、有罪に
なる。会社はクビになり一生辱めを受ける。一人の人間だけでなく家族も
不幸にできる。これはポイントが高い。快感である。
だが、自分が痴漢で捕まるリスクもある。
それをどうするか? いろいろと作戦を考えていた。

慎也は自分の作戦が成功した時のことを想像するとしびれた。
「官庁街のエリートを冤罪で陥れたら、新聞に載るかもしれない。
 そうなったら愉快。 冤罪だ、冤罪、・・ははははは」
と興奮しながら大声で笑い転げた・・すると
またしても「ははは」と部屋にこだましたのであった。
そして最後に「え・ん・ざ・い・」と声が響いた。

「なんだよ・・この声」と思っていると隣の寝室でバタリと何かが落ちる音がした。
慎也は何が落ちたのかを確認するために寝室に行ってみるとベッドの上に
雑誌が落ちていた。落ちてページが開いていた。
「雑誌が落ちたのか? 何でだ?地震でもないのに」と思いながら
雑誌を見ると丁度、心霊特集の記事が開いていた。
「刑場に残る冤罪の霊の恨み・・」とタイトルに書かれていた。

読んでいなかった記事だったのでさっと目を通してみると驚きの記載が・・
刑場だった場所というのは自宅の近くだったのである。
「冤罪の霊・・」慎也の体にぞっと寒気が走った。

その夜のこと、慎也はありありとした夢を見た。
江戸時代の処刑場のような場所であった。空は台風の前みたいに淀んでいる。
受刑者が縛られて座っていた。
そこへ刀を持った役人がやってきて受刑者の首をはねる場面であった。
ドラマでは首が切られるシーンは当然伏せられるが夢の中では首が切られる映像、
そして受刑者の首の無念の表情までがありありと見えたのである。
受刑者は言葉は発していないが「冤罪」と言ってるのが何となく感じられた。

首を切った後、役人はニヤリと笑った。そして「愉快」と言うのが聞こえた。
そしてその役人の顔がズームアップされたのであった。その顔は自分であった。

「わぁー」と叫んで慎也は目を覚ました。

その日から、変なことが続けて起きるようになった。物が突然落ちる、
TVの電源が突然点灯することも毎日起きるようになった。TVが付くと
きまって時代劇の処刑のシーンやドラマの葬式のシーンなどである。

「どういうことだ。冤罪の霊に憑かれたのか・・」
慎也は不安を感じたが、こればかりは誰にも相談できなかった。

数日後、仕事から帰ってきて寝室に入るとベッドの壁に自分の
お気に入りのスーツが後ろ向きに掛けてあった。
「あれ、俺は掛けてないぞ。ドロボーか?」と驚いたが、よく見ると・・
心臓が止まりそうになった。スーツの上から壁にポールペンが突き刺してある。
「誰がこんなことを・・」
慎也は壁からボールペンを抜いてスーツをしまった。すると壁にはマジックで
「えんざい」「ゆかい」と書かれてあった。「誰が・・」と思ったがよく見ると
これは自分の字であった。

 慎也は怖くなって家を出て、歓楽街に行った。不安を忘れるために
店をはしごしてお酒を浴びるほど飲んだ。
やがてある店のカウンターで眠ってしまった。
店員に「お客さん、閉店の時間です。お帰りください」と起こされた。

しぶしぶ慎也は自宅に戻った。自宅の鍵を取り出そうとポケットを探ると
紙が入ってるので取り出してみた・・すると1万円札であった。
「しまった。酔ってる間にお金を無駄使いしてしまったかな」
と思いながら部屋に入ると倒れるように眠りに就いた。

翌朝TVを付けるとニュースで地元の繁華街が映し出されている。

「昨晩、繁華街で男が札束をビルの屋上からばら撒いたという事件が
 起きました。数百万円ばら撒いたと見られています。
 繁華街に居た人達が殺到してお金を持ち去ったとのことです。
 警察が来た時にはお金は全て無くなっていました」

TVのゲストは笑いながらトークを始めた。
「これは愉快犯でしょうね。お金が余っているんでしょうかね?」
「自分の意志でばら撒いたのですから、犯人捜しはしなくてもいいと思いますよ。
 一応軽犯罪なんでしょうけどね」
「いや、こういうことをすると思わぬ事故が起きる場合があるので
 取り締まるべきですよ」

「愉快犯か、自分のお金をばら撒くなんて何を考えているのか?」
と慎也は他人事のように思っていると・・

ニュースは目撃者の情報から犯人像、服装などを伝えた。
慎也は「俺にそっくりじゃないか? まさか・・」
すぐにネットで銀行口座を調べてみた。すると貯金は0になっていた。
昨日全額引き落とされている。
「まさか、俺が酔っている間にこんなバカなことをしたのか・・」

するとその時
部屋の扉がガタっと開く音がした。そして
部屋中に「愉快、愉快、愉快・・」と自分の声で繰り返し聞こえたのである。

慎也は恐怖で震え上がった。
「これは霊の仕業だ、間違いない。俺はきっと殺される」
すぐに部屋を飛び出してどこへ行くでもなく歩き回った。
ふと、思い出した。そうだここのデパートの占い部屋に凄腕の霊能者が
居ると職場の人が言っていた。みさ とか言う。
慎也はデパートの占いコーナーに走って行った。みさの部屋に行ったが
そこには「本日休業」との看板があった。
「休みか・・」
慎也は他の占い師に「誰か霊を祓ってくれないか? 冤罪の霊がついてるんだ」
と声を掛けて回った。しかし、興奮した慎也の姿に占い師達は恐れを感じて
「お断りします」と拒否した。

慎也は諦めてデパートを出ようとした。
途中、便意をもようしてトイレに入った。
トイレの便器に座っているとスマホが突然鳴った。
非通知であったが、とりあえずスマホを耳に当てると
「冤罪、冤罪、冤罪・・」と聞こえてきたのである。
慎也はびびってスマホを落としてしまった。そのままトイレから
飛び出した、するとトイレには女性が何人か居た。
女性は「キャー」と声を上げた。
「しまった。ここは女子トイレだったのか?」
「間違えたんです」と言って慎也はトイレから走って逃げた。
自宅に着いてから気づいた。
「しまったスマホをトイレに置いてきてしまった」
「今なら間に合うかもしれない」と急いでデパートの女子トイレに戻った。
誰も居なかったのでスマホを取りに入ったが、もうスマホはなかった。
「しまった。拾われたか、しかたない。
 それより通報されてないようでよかった」

とトイレから出ようとした時、入り口に二人の警備員が立っていた。
「やっぱり取りに来たでしょ?」「お前の勝ちだな」と会話していた。
警備員は慎也に向かって厳しい顔をして言った。
「あんた盗撮してたんだろ。警察に行ってもらうよ」

慎也は警察に連れて行かされ、取り調べ室に座らせられた。
警官が調書を書きながら対応した。

「君は女子トイレに入って盗撮したんだよね」
「してません。間違えて入っただけです」
「スマホには撮影した映像が入っていたよ。これでも白を切るつもり」
「操作ミスしただけです」
「私は忙しいんだ。しらばくれるのは止めてくれ。
 罪を認めて署名すれば条例違反ということで済むよ。
 今日にも釈放してやるよ。
 さあ、書類にサインしなさい」

と言って警官は後ろを向いて他の仕事を始めた。

その時である
「お前、本当にやっていないなら、そのボールペンで俺を刺してみろ、
 そしたら本気だってことを信じてやるよ」
と警官が言ってるのが聞こえたのである。

慎也はこれを聞いて、ボールペンを握って警官の背中に思いっきりつき刺した。
「ぎゃー」と警官は声を上げた。
近くに居た別の警官が駆けつけてすぐさま慎也を抑えつけた。
「てめえ、何しやがるんだ」
「あ、あなたが刺してみろと言ったんじゃないですか?」
「なに、言ってんだ。もう許さない。
 お前は明日の新聞に載せてやるからな・・いてえー」
 
 翌日、デパートではこの話でもちきりであった。
隣の部屋の占い師のおばさんがみさにこの話題を持ちかけた。

「みさちゃん、昨日このデパートのトイレで男が逮捕されたのよ。盗撮よ。
 新聞にも出てるわよ。
 しかも、警察に行ってからボールペンで警察官を刺したんですって。
 私、この男が警察に連行されるのを見たのよ。
 実はねえ。この男、昨日、ここに来たのよ。
 霊が憑りついてるとか言ってたわよ。みさちゃんに会いに来たのよ。
 昨日、居なくてよかったわね。居たらこの男にみさちゃん、
 刺されていたかもしれないわよ」
「私に相談に来たのですか?
 昨日はどうしても具合が悪くて休みを取ったんですけど、そんなことがあったんですね」

みさは男の背後に霊が絡んでいることが直観でわかった。
「もし、私が相談にのっていたらその人は事件を起こさなくても済んだかも・・・」
と真面目に考えてしまった。するとシャップがやってきてみさを慰めた。

「みさ、気にすることなんかないよ。その男はどうしようもない男だったのさ。
 悪い事ばかりしていて、無数の生霊や霊にやられているよ。

 ダギフ様がみさには会わせないようにしたんだよ。
 あんな人間を助ける必要はないって言ってるよ。
 事件は自業自得。みさの責じゃない。
 本当にどうしようもない人は救いのチャンスも与えられないの」

占いのおばさんは、みさをからかうように言った。
「あの変質者、もしかしたらみさちゃんのことが好きだったのかもしれないわ」
「そんな嫌です。勘弁してほしいです」
「冗談よ、でも気をつけなさいよ。盗撮のカメラが仕掛けられているかも〜」
「やめてください〜 そんなこと」
「そうね、ごめんなさいね。ほほほほ・・」

とおばさんは大声で笑い出した。
やがて笑いが治まった時の静けさに「ほほほ・・」と笑い声が不気味にこだましたのであった。

つづく

※ 女性を犯罪から守る数字を紹介します。9888099958639707 (16桁)推奨個数12個です。



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