本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第21話 世界の危機>

 またしても、TVでコリア民主主義人民共和国がミサイル発射を
したというニュースが流れた。
度々のニュースでもうみんな馴れてしまい、あまり危機感を感じない。
麻痺してしまっていた。
みさもあまりこのニュースには関心を抱いてはいなかった。

 それよりも、みさの心配事は夢の中の世界の雲行き悪化であった。
夢の中の世界は過去の記憶なのか?過去そのものの進行形なのか?
よくわからない世界なのであるが・・
ダギフの国に西洋人や隣国が迫ってきている様子だった。
ジェマが率いる呪術団、マーコットが作った軍隊も苦戦しているらしいのである。

「一体、ダギフ様の国は500年前にどうなったのかしら?
 私はどんな運命をたどったのかしら?」
過去のことでありながら自分の将来のことのように不安を感じるのであった。

 さて、現実の世界に戻って仕事に就くと、その日、一人の老婆が相談に訪れてきた。
見た目は西洋人であるが流暢な日本語を話す人であった。
話を聞くと海沿いの崖に立つ西洋のお城みたいな家に住む老婆であることが分かった。
この人はルーマニア人で若い頃に日本人の男性と熱愛して来日したのであった。
 今は夫に先立たれて孤独な生活を送っているとのことである。
故郷にはもう帰るあてがなく、日本に親戚もいないので孤独だった。

 彼女は自宅にたくさんの西洋人形を収集していた。彼女は自慢そうに
その写真を見せてくれた。30体くらいの人形が部屋を埋め尽くしている
写真であった。どの人形もまるで生きているように見える。
ちょっとホラーな雰囲気である。
時々、この人形達が喋ったり、歩いたりするらしい。
女性の悩みはどうやらこの人形達の行く末らしい。

「私の家って、ドラキュラのお城みたいに思われているわよね。
 私はそこに住む魔女ってわけね。
 加えて中は人形の館、本当にお化け屋敷ね」
「そんなことはありません。綺麗なお宅です。
 みなさん憧れてますわよ」
「ありがと。
 私の悩みは、この人形達がどうなるか?ということなの。
 私はもうすぐこの世を去るわ。
 そうしたらこの子達はどうなるのかしら。
 この子達には魂があるの。
 売ったり、譲ることもできると思うけど、いい人が
 引き取ってくれるかどうかわからなくてできないの」
「私が見たところ、子供さんの霊が宿っているわ。
 みんな寂しがりやの子達ね。無縁仏の霊だと思うの。
 不思議ねえ。ほとんど中世の西洋の子供達みたい。

 大人に成長した子も居るわ。あなたが育てたお子様ということになるわ。
 みんな家族みたいね。ずっとあなたと一緒に居たいって言ってるわよ。

 みんな優しい子達ね。
 後のことまで心配しなくてもいいって言ってるわ。
 みんな一緒にあの世に行くって。だから人形は捨ててもいいって。

 遺言に人形供養で炊き上げてくれるお寺に奉納するように書いておけば
 いいと思うわ。丁寧に燃やしてくれるはずだから。
 魂は一緒にあなたのそばに来てくれるから心配ないわ。
 あの世でみんなと幸せに過ごせる呪文を教えてあげます。
 テネベネ・トーノ・ユーワメ・レヨーロです」
「ありがとう。この子達があの世についてきてくれるなら寂しくないわ」
「それと旦那さんが見えるわ。あなたのそばにいるわよ。凛々しい方ね」
「そうよ、夫は男らしくて芯の強い人だったわ。頼りがいもあったわ。
 この人と一緒なら異国で暮らしてもいいって思って日本に来たのよ。
 
 ところで、気になることが一つあるの。
 最近、この子達が夢に出てくるようになったの。何か言いたい事があるみたい。
 戦争が起きるとかって・・ 
 私はもうすぐあの世に行くからいいけど
 戦争がおきたら若い人達が可愛そうだわ。それが気がかりなの」
「え、戦争?」
みさは子供の霊に聞いてみた。
「戦争が起きるの?」
「うん、最初に 槍みたいなものがこの国に降ってくるよ。それが始まりだよ。
 その後世界中で戦争が起きるよ」
「槍ってミサイル? 北コリアのミサイル?」
みさは突如として不安に襲われるのであった。
「せっかく、お店を持つことができて、
 生き甲斐を見つけたのに世界が戦争になるなんて・・」 

 ここ最近、極東は不穏な空気に満たされていた。
米国に新しく就任した大統領は日本、韓国の防衛から手を引くと宣言しており、、
日本や朝鮮半島に有事があっても米国は助けてくれないのでは?
という不安が広がっていた。
また、北コリアの国内では内乱が度々起きているらしい。
クーデターが起きるのでは?という憶測も飛び交っていたのである。
そんなある日、突如として韓国との軍事境界線で軍事衝突が起きたのである。
「朝鮮戦争の再開!?」と新聞の一面が躍った。

 どうやら、北コリアは追い詰められて賭けに出たようである。
米国は、朝鮮半島の有事には手を出さないと賭けたようである。
それだけではなかった。
遂に北コリアは日本にミサイルを発射する決断をしたのである。

「我々は核ミサイルの技術を手にいれた。
 もし、米国が手をだしたら核戦争になる。
 しかも、米国は今テロ組織IGSと戦っていて余裕がない。
 だから米国は手を出すことができない。
 日本にミサイルを打てば、米国は更に混乱して足踏みしてしまう。
 これで米国が極東に介入しないことを世界にはっきり見せしめることができる。
 一気に韓国制圧に乗り出すことができる」

このように読んだようである。
読みが外れたら終わりであるが、制裁と内乱により危機的状況にある北コリアは
思い切って、ここで大博打に出たわけである。

 ある日の朝、北コリアのミサイルが発射され、日本海を通過して本州まで到達してしまった。
迎撃ミサイルが作動して発射されたが、迎撃に失敗してしまうのである。
移動式ミサイルだった為に間に合わなかったのである。

ミサイルはそのまま東京に向けて進み、埼玉県北部の山岳地帯に落下した。
ミサイルには弾頭は登載されておらず、山岳地帯の森の中に落下しただけなので
被災者もいなかったが、北コリアが東京に向けてミサイルを発射したことと、
迎撃システムが失敗したことは日本中に衝撃をもたらした。
TVは直ちに特別番組に変わり、政府は非常事態宣言を発令した。

「北コリアと戦争が始まった」
「もし、ミサイルに核弾頭が登載されていたら東京は壊滅だ」
「米国に報復してもらえ」
「中国が黙ってない。米中戦争になるぞ」
「世界が終わる・・」

と掲示板やツイッターでも大騒ぎとなった。
東京はパニック状態になり、東京から地方に逃げ出す人が殺到して
交通機関が混乱する始末になってしまった。

1発目のミサイルが無事に関東まで到達したことで強気になったのか?
北コリアは1時間後にもう1発のミサイルを日本に打ち込んできた。
再び、迎撃ミサイルが作動したが、またもや迎撃に失敗する。
2発目のミサイルは遂に東京の都心を通過して東京湾に落下した。
精度が悪くて外れたのか?わざと外したのかは定かではないが、
東京までミサイルが到達したことだけは事実である。
政府は外出禁止令を出すと共に戦争勃発の危機であると宣言した。

「迎撃ミサイルが役に立たない」
「もうダメだ」
「今度は核ミサイルが撃ち込まれるぞ」
「その前に北コリアを叩け!」
「米国から北コリアの首都に核ミサイルを打ちこんでもらえ」

とネットでは狂乱状態の書き込みがされるパニック状態となった。
 
日本がパニックになっている隙に、今度は尖閣諸島でも問題が発生した。
中国が尖閣諸島に軍を進めたのである。この機会に尖閣諸島を制圧して
実行支配してしまう戦略である。また米国をけん制する狙いもあった。
しかし、中国の尖閣諸島侵攻はあまりに衝撃的だったのでTVでは報道されなかった。

「北コリアだけでなく中国まで・・」
未曾有の危機に政府はパニック状態に陥っていた。

日本の危機である。みさは店を臨時休業にして閉店した。
店員たちと不安に駆られながらTVに釘づけになった。
そんな時、突然店の駐車場に車が急ブレーキをかけて止まった。
誰かが急いで店に入ってくる音が聞こえた。東野美玲であった。
東野は緊迫した表情でみさを呼んで部屋に連れていった。

「みさちゃん、大変よ。
 北コリアがミサイルを日本に打ち込んだことは知ってるわよね?
 戦争が起きるわよ。
 米国は手を出さないと見て賭けに出たようよ。
 でも、米国は出動するわ。戦争になるわ」
「北コリアと米国の戦争になるの?」
「それだけじゃすまないわ。中国だって黙っていないわ。
 世界大戦になる恐れがあるわ。
 核兵器が使われてもおかしくないのよ」
「そんな恐ろしいことが起きるの」
「だから、みさちゃんにお願いがあるの。
 北コリアは正午に国営放送で宣戦布告するわ。
 そうなったら最後よ。戦争勃発よ。世界が終わるのよ。
 その前に北コリアを攻撃するのよ」
「攻撃するって誰を?」
「これよ」

東野は北コリアの支配層であるキヌファミリーの写真と名前が記載されている
模造紙みたいなシートを広げた。そこにはよくTVに報じられる委員長の他に
ズラリと家族の写真が乗っている。子供までが掲載されている。

「この人達全員を呪いで攻撃して」
「子供さんまで? そんなのできない、怖い・・」
「ダメよ。やらなければダメ。
 いい、世界大戦が起きるかもしれないのよ。
 核兵器が使われて何百万人もの人が死ぬかもしれないのよ。
 やりなさい!」
「どんな術を掛けたらいいのでしょうか?」
「そうね。恐怖を抱かせる術ってできる?」
「一番基本の術です。相手を恐怖症みたいにさせる術です。
 脳のある部分に術を掛けるだけで相手は恐怖でパニック状態になります」
「それを全員に行って!すぐに
 あと2時間しかないわ。すぐに実行して」

東野はこの時、鬼のような怖い顔をしてみさに命令したのであった。
みさはべそをかきながら「わかりました」と答えた。

「日本の危機なのよ。辛いかもしれないけど、こうするしかないのよ」

みさが「怖い」と震えているとシャップが寄り添ってくれた。
「一緒に頑張ろう」と励ましてくれた。キバもジェマもそばに来てくれた。
マコトがメールを送ってくれた。
「大丈夫、東野さんに従えば全てうまくいくよ」と書いてあった。

みさは術の準備をしていると、東野は横で電話を掛けていた。
「いい、北コリアがウォッチしている各サイトに一斉にデマを流して・・
 米国が新兵器を使って北コリアに攻撃を開始したと・・」

みさは言われた通りに真剣に術を実行した。一通り術が終了して、力を抜いた。

「みさちゃん、どう、上手く言ってる?」と東野が問いかけてきた。
みさが相手を透視してみると、ファミリーの人達が一斉にパニック状態に
なっているのが見えた。原因不明の錯乱状態になっている。
しかも、デマが耳に入ったらしく「米国の新兵器にやられた・・」
と恐怖におののいて叫んでいる様子が見えてきた。

緊迫した状況なのであっと言う間に正午になってしまった。
「TVを付けて」と東野が命令したのでTVを付けると特別放送で
北コリアの国営放送が中継されようとしていた。
世界中がかたずを飲んでこの放送に注目する瞬間であった。

「どんな恐ろしい宣言がされるのか?」「日米韓に宣戦布告するのか?」
「米国がどう反応するのか?」「日本はどう対応するのか?」

誰もがTV画面をしがみつくように見つめた世紀の一瞬であった。

オープニングの後、北コリアの女性アナウンサーが登場した。
ここで強気なアナウンスがされる・・と思いきや。
突然女性はふかぶかと頭を下げた。

「この度、我が国のミサイルが2発、誤作動して日本国内に落下しました。
 大変申し訳ありません。誤作動による事故です。
 日本に謝罪します。損害を補償します。
 また、韓国との国境線の紛争は即時停止にします・・」

見ている人達はみな、あっけにとられた。宣戦布告だと思っていたのに
”ミサイルの誤動作でした。ごめんなさい”という内容だったからである。

「明らかに東京に向けて2発もミサイルを撃ち込んだのに誤作動だった
 なんて、取って付けたような嘘であることは誰が考えても明白。
 これはジョークなのか?」

世界中が肩透かしに会ったような感じであった。

中継していたTVのスタジオもしばらく、呆然とした状態になってしまったが
アナウンサーが場を取り持った。

「ただいま、北コリアの国営放送を中継しましたが、ミサイルは
 誤作動、つまり事故だったということです。
 ひとまず戦争にならず安心しましたが、どうも変ですね?
 コリアンレポートの ピョン・ジンチョルさんどう思いますか?」
「ううん、変ですね。私は戦争やむなしと腹を決めたんですが
 どうしてドタン場で宣戦布告を撤回したんでしょうかね?
 私にも全くわかりません。
 こんな世界に恥をさらすような失態を北コリアがするはずはないんですが・・
 謎としか言いようがありません」

 政府は非常事態宣言を解除した。
また、朝鮮の軍事境界線の紛争も停戦合意がされた。
世界の危機は回避されたのであった。

 東野は安心したようであった。
「みさちゃん、うまく行ったわ。北コリアは矛先を収めたわ。
 ファミリーがみんな恐怖症になって戦争できなくなったのよ。
 みさちゃんの力よ。あなたが世界を救ったのよ」

しかし、みさはあまりの恐ろしさに涙を流していた。
「みさちゃん、ごめんなさいね。
 こんな辛い仕事をさせてしまって。
 でも、誰かがやらなければならないことなの」

東野はみさを抱きしめた。
「私の父はねえ、警視庁の特殊部隊の隊員だったの。
 いつも家族に”俺はいつ死ぬかわからない。覚悟しておくように”って言ってたの。
 私はそんな父に誇りを持っていたわ。誰かが危険な矢面に立たなければならない。
 それを自ら志願した父の生き方にあこがれたわ。
 だから、私も警察官になったのよ。
 国を守るために命を捨てる覚悟はできてるわ」

その時、マコトから東野にメールが送られた。
「東野さん、中国の尖閣諸島侵攻も撤収したよ。
 惑星モリアに光を放ってもらって、僕がジェット機に小細工してやったんだよ。
 そしたらびびってたよ。
 僕はジェット機のマニアでもあるんだ。メカに詳しいんだよ」
と書いてあり、東野はびっくりした。
「なに、凄いじゃない!」と声を上げた。
みさは
「ああ、またマコトさんが余計なこと書いてるんだわ。
 黙ってればいいのに」
とあきれた顔をしていた。

その頃、中国では党の最高幹部が集まり重要な会議をしていた。
中国最高の気功師を呼んで話を聞いていた。

「気功師の君を呼んだのは、本日の北コリアの件についてだ。
 北コリアの上層部が一斉にパニック状態になって宣戦布告を取りやめた
 という情報を得ている。米国の新兵器が使われたという噂があるが、
 もしかしたら気功のような術を掛けたのではないか?という見方もある。
 君はどう思うかね?」
気功師は
「はい、気ですね。いわゆる呪いですね。
 呪いを掛けたのは日本人です。女性だと思います」
「もし、その女性が我々を攻撃してきたら防御はできるのかな?」
「できないですね。術が使える人を消し去るしかありません」
「日本には他にも能力を持った者がいるのかな?」
「わかりません。でも複数居る可能性があります。
 度々我々には分析不能の"気"が日本で感知されます。
 政府が組織的に絡んでいるように感じます」
「日本にそんな力があったとは。
 我が国にとってこれは脅威だな。
 次に尖閣諸島に現れた謎の光についても聞きたい。
 この時、我が国は尖閣諸島に侵攻した。しかし、突如として
 不可思議なことが起きた。
 尖閣諸島の上空に謎の光が発生したのだ。これがその写真だ。

 その直後、戦闘機が操縦不能になった。
 3分間も何もできなくなった。その後復旧して無事だったが、
 あのまま不能状態だったら墜落していたと思う。
 これはあの光の仕業なのだろうか?
 あの光は何なのか? わかるかな?
 米国の新兵器ではないか?と言う見方があるが
 パイロットは「強い気」を感じたと証言している」

気功師は政府の上層部に警告する。

「これは米国の兵器などではありません。
 未知の世界の光です。地球のものではないです」
「宇宙人だとでもいうのか?」
「わかりません。でも我々の技術で作られたものではないことは確かです。
 日本を守る意図が感じられます。
 戦闘機を操縦不能にしたのもこの光ですね。警告の意図が感じられます」
「どんな警告だね?」
「日本に手を出すなということです。
 やろうと思えば戦闘機でも軍艦でも全て停止させることができる
 ということだと思います」
「兵器を使えなくする力を持っているというわけか。
 勝てる相手ではないということだな」
「そうです。日本は未知の存在に守られているのです。
 これは私の意見なのですが、
 日本は聖域なんだと思います。聖域は荒してはいけない。
 でも、聖域は様々な御利益を与えてくれます。
 日本を征服するのではなく、そのまま残しておいてうまく利用する。
 その方が我が国の国益にもなると思います」
「なるほど、日本を奪い取るのではなく、聖地として活用するということか」

惑星モリアとマコトのトリックは見事に成功して中国は日本を不可侵な聖域と
みなすようになったのであった。

 みさとその仲間達が日本、そして世界を救ったのであった。
しかし、そのことを知る者は誰も居なかった。歴史に刻まれることもなかった。
 
そしてまた、いつもの日常が戻ってきたのである。
しかし、運命は目まぐるしく動いているのだった。
悲劇の足音がみさに迫っていたのである。
みさはこの時、そんな未来を想像してはいなかったのである。

つづく

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