本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第22話 山地剥>

 みさは占いの腕を磨くべく易の研究をしていた。
霊能者であるみさは筮竹やサイコロを振るようなことはしない。
眼をつむり、霊視で卦を出すと言う方法を編み出していた。
「これで運勢も霊視で見ることができるようになるわ」と意気込んでいた。
「早速、この店を占ってみるわ。絶対今年は商売繁盛間違いなしだわ」と考えながら。
すると脳裏に「山」「地」が浮かんできた。
「山地だわ。大地に山がそびえる卦・・きっと良い卦だわ」
と思って易の本を開くと・・

「山地剥:崩壊の危機」と書いてあった。
「えぇ?最悪の卦」みさの心に不安が広がるのであった。
すぐに悪い占いの結果を打ち消す呪文 テーメ・ヨメロン・ソラコ・ゼメン を唱えたのであった。

 近頃、世相が悪くなるのをみさは感じていた。
北コリアのミサイル騒ぎにより、米国は有事に出動することを明らかにしてくれたが、
その代わり、テロ組織IGSとの戦いに日本が参戦することを要求してきた。
IGSはイスラム過激組織ISが滅んだ後に後を継ぐように発生した組織で史上最も
悪辣なテロ組織であった。米国はこの組織と戦争をしていたのである。

 世論は北コリアの危機があるので、米国の言う通りに参戦することは
やむなしという見解が主流となっていた。
早々と国会で参戦が可決され、自衛隊がアフリカに派遣されることになった。
戦後初めて自衛隊が武力行使のために海外に派遣されることになったのである。

 国会で参戦が可決すると即座にIGSは「日本でテロを実行する」と声明を発表した。
既に弱体化しつつあるIGSであったが、テロの恐怖はぬぐえない。
日本中がテロの恐怖におののくことになってしまった。

 それにつれて東野美玲は頻繁に透視を依頼して来るようになった。テロに関する事が中心である。
社長もお国の為だから協力しなさいと指示したのでやむなくみさは協力していた。

 テロ組織は何度か日本国内でテロを計画したが、みさやマコトの情報によってテロは
全て未然に防ぐことができたのである。
しかし、みさにはその度に見えざる悪霊集団が周囲に忍び寄って来ているのを感じるのであった。
「テロ組織の背後には悪霊や悪魔が居る。そして自分に迫ってきている」
そう感じるのであった。

 そればかりではない。いつも夢の中で訪れているダギフの宮殿も何だか
暗雲が漂ってきているのを感じるのであった。
ダギフは顔色がよくないし、ジェマも何だか元気がない。
この日、みさはダギフ様に何が起きているのか聞いてみた。

「ダギフ様、何かあったのでしょうか?」
「うん、君に心配は掛けたくないので黙っていたのだが、西洋人は隣国まで
 迫ってきているのだ。彼らは王国を維持する見返りに人を出せと
 要求しているらしい」
「奴隷としてですか?」
「そうだ。嫌なら隣国を支配して代わりに人を出させろと言ってるらしい」
「そんな・・」
「隣国は我が国にせめてくるだろう。戦争になる。
 自分の国民を守るために戦わなければならない。負けたら国民を
 捧げなければならない。勝っても隣国の人達が奴隷として
 連れていかれてしまう・・こんな酷いことがあるだろうか?」
「ダギフ様、どうするおつもりですか」
「戦うしかない。私は民を守るために最善をつくすだけだ」
「ジェマさんの呪術団はどうしたのでしょうか?」
「ダメなようだ。最初は優勢だったが、敵はある時から攻勢に出てきたようだ。
 何でもジパングから来たオンミョウジとかいう集団が敵についてから
 ことごとく裏をかかれるようになったらしい。
 ジェマの呪術団もやられてしまったらしい」
「え、そんなことが・・」

そうこうしていると家臣が息を切らしてやってきた。
「王子様、王妃様、大変です。隣国の軍隊が押し寄せてきました。
 すぐに逃げてください」

宮殿の周りに隣国の軍隊が押し寄せているらしいのである。
耳を澄ますと外がなんだか騒がしい。

「私は逃げたりはしない」とダギフは言い放った。
「王子様、逃げてください」とみさは進言した。
「ダメだ、国を捨てて王子が逃げるわけにはいかない。
 死ぬ覚悟はできている」
「僕も王子様に最後まで仕えます」
とシャップも真剣な表情であった。

ダギフはみさには逃げるように指示した。

「君は生きるんだ。逃げなさい。ジェマと一緒に」
「嫌です。ダギフ様を置いてそんなことはできません」
「ダメだ。君までが国の責任を負う必要はないんだ」
みさが躊躇しているとジェマがやってきてみさの手を握った。
「逃げよう。これは王子様の命令なんだ」
「でも・・ダギフ様を置いてなんて・・」
と口にしたがふと思い出した。
「これは過去なんだわ・・」
緊張していた肩が少し緩んだ。

 ジェマはみさを連れて宮殿の裏口から外に出た。
周囲は敵の兵士に囲まれている。その奥には西洋人の軍隊もいるのが見えた。

「裏を通って海に出るんだ。そして船に乗って逃げよう」
「どこへ逃げるの?」
「ジパングに行こう。そこへ行って術を磨くんだ。
 再起を図ることができるかもしれない」
「日本は遥か彼方よ。行くなんて無理よ」
「とにかく港に行くんだ」
ジェマとみさは港に向かって走った。綺麗な海が近くに見えてきた。
しかし、ジェマは「ああダメだ」と大声を上げた。
港には敵の船が集結していたのである。
後ろを振り返ると宮殿から炎が上がっているのも見えた。

「ダギフ様・・」
「ダメだ、逃げられない。なんてこった。
 もうすぐ、敵がここに来る。
 君は美人だから殺されない。大事にされる。
 投降するんだ。僕はもうダメだ。あの世に行く」
「いや、敵の戦利品にされるくらいなら私もあの世に行くわ」
「そうか、じゃあ、これまでだ。
 でも、死んでも終わりじゃない。恐れるな」
ジェマはみさの手を取り、海岸の崖に連れていった。
「さあ、ここであの世に飛び込もう」

みさは崖を見て思わず声を上げた。
「ここ、日本のあの崖にそっくりだわ。私がダギフ様に会ったあの崖に」
そんな感慨にふけっていると周囲が騒がしい。敵の軍隊がこちらに向かっている。
「急げ、捕まったら大変だ」

二人は崖の前まで来て、下を眺めた。断崖絶壁の光景が広がっていた。
その時、ジェマが突然、みさを抱きしめた。そして
みさの手を握りしめて真剣なまなざしで見つめた。
突然のジェマのこの行動にみさは驚きを隠せなかった。

「ごめん。僕はずっと君が好きだった。あの世でまた会おう」

二人はそこで勇気を出して海に飛び込んだのであった。

 みさはそこで目が覚めた。

「なんて怖い夢なの。もう夢の世界には行けないのかしら」
と思っていると電話が鳴った。東野さんからである。
受話器を取ると東野さんは息切れしてあわてているのが分かった。
「みさちゃん、大変よ。テロリストがあなたを狙っているわ。
 私達のことがバレてしまったわ。スパイが店にいたのよ。
 きっと商品の仕入れ業者だと思うわ・・
 今日は店を休業にして逃げて・・テロリストが向かっているわ」
みさがびっくりしながら電話に耳を傾けていると電話の向うで突然
爆発音がして通話が途絶えた。
「東野さん・・どうしたの・・」

みさは大変なことが起きていると感じて店員達にすぐに臨時休業とする
ことを連絡した。そしてシャップをバスケットに入れて抱きかかえ、
自宅を後にした。どこに逃げればいいのか分からない。
「そうだ、社長の居る本社に行こう」と駅に向かった。駅前の電光掲示板に
ニュースが流れているのが見えた。「警視庁の建物が爆破されました・・」
みさは「さっきの音は東野さんがやられた音かも・・・」と想いがよぎった。
「どうしよう・東野さん無事かしら」
すると電光掲示板には「軽い怪我をした人が出たが死者はいないもよう・・」
と流れたのでみさはひとまずほっとした。

駅で電車を待っているとそこに吉田俊美が居た。
「吉田さん! 大変なのよ」とみさは声を掛けた。
「みさちゃん、どうしたの?」
「東野さんがテロリストにやられたの」
「ええーそれは大変だわ」
「私も狙われてるらしいの」
「ならば駅はあぶないわ。
 そこの商店街の裏に知り合いの店があるの。
 そこに隠れましょう。すぐに来て」

吉田はみさを連れて、人気のない裏地に回った。
吉田はそこで電話を掛け始めた。
知らない国の言葉を使って喋っている。

「みさちゃん、店の人に話をしたわ。ちょっとここで待っていてね」

数分後、そこにゾロゾロと外国人の男達が集まってきた。
みんなナイフを持っている。一目で危険な人達だと分かる。
男達は吉田とは面識があるような感じで知らない言葉で会話している。
みさが驚いて見ていると、吉田はにやりと笑った。

「みさちゃん、あんたもこれで終わりね。
 ここで死んでもらうわ。
 東野さんを狙ったのも私達よ」
「どうして、吉田さん、あなた・・」
「そうよ、スパイだったのよ。
 私は元々インドネシアからの帰国子女。日本に帰化する前から
 イスラム革命運動のメンバーだったのよ。
 見た目が日本人と変わらないからスパイにはもってこいだった。
 あんたが我々のテロを透視して東野さんに伝えていたのね。
 あんたは私達にとって最大の邪魔者。死んでもらうわ。
 店も今頃は火の海ね。仲間が襲撃しているわ。
 イスラムの敵はみんな死ぬがいいわ」
「IGSはイスラムじゃないわ。悪魔よ」

とっさにみさは敵の目をくらます術を実施した。
吉田達は目が痛いと目を手で覆った。
その隙にみさは走って逃げた。駅に行くと丁度電車が来たので電車に乗った。

 その頃、みさの店はテロリスト達が火を放ったことで炎が燃え上がっていた。
消防車のサイレンがけたたましく響いている。店が燃えていることに気づき、
恭子や店員達、そして武田が店の前に集まっていた。
恭子や店員達は武田を見つけるとすり寄ってきた。
恭子は武田の胸に飛び込んで泣き始めた。武田は恭子を抱きしめながら
「大丈夫だ。こんなことで負けたりはしない。
 店は必ず、再建する。君たちの生活は俺が必ず守る」
と真剣な表情で約束した。この時の武田は男らしかった。

 みさは電車に乗って社長の会社に到着し、社長の有子に報告をした。

「大変です。東野さんがテロリストに攻撃されました。
 そして・・吉田さんが・・吉田さんがスパイだったんです」
「なんですって。あの人が?
 今ねえ、情報が来たの。みさのお店が燃えてるって。
 武田さんから連絡があったわ」
「えええ・・そんな、お店が燃えてるなんて、どうしよう」
「心配ないわ。誰も怪我人はいないとのことよ。
 大丈夫よ。店はまた再建すればいいの。心配ないわ。
 それより、あなたの命が狙われているかもしれないわ。
 隠れましょう。私の実家の地下に隠れるスペースがあるわ。
 今、車で連れてってあげる」

有子は車に乗り、みさを乗せて出発した。
みさは恐怖で震えていたので有子は
「安心しなさい。私が何とかするから」と繰り返しなだめていた。
車は海岸沿いを走っていた。そして崖の近くに止めた。
「さあ、着いたわよ」
みさは窓の外をみて驚いた。
そこはみさが剛志やダギフと初めてあった崖っぷちだったからである。

「有子さん、どうしてここへ?」
「ここはあなたと初めて会った場所だったわね。思い出深い場所よね」
「そうですけど、今はそんなことを言ってる場合では・・」
「剛志との出会いの場所もここだったわよね」
「どうして剛志のことを知ってるの?」
「教えてあげるわ。
 剛志は私の息子なのよ」
「なんですって。苗字が違うじゃない」
「別れた夫に引き取られたのよ。
 剛志はあなたを愛していたの。本当によ。
 生贄の儀式はサプライズだったのよ。あなたにプロポーズする為の。
 その日はハロウェインだったでしょ?」
「嘘よ。そんなの。剛志は私を殺そうとしたのよ」
「そう思われても仕方ないわ。冗談が下手な剛志が悪いのね。
 私はあなたを見つけるためにこの場所に通ったわ。きっとあなたは来るって。
 そしてあなたと会うことができたのよ。
 剛志が初めて愛した人だから・・大事にしてあげたのよ。
 いつか誤解を説いて剛志と復縁させてあげようと思っていたの。
 でも・・」
「でも・・」
「剛志はショックで拒食症になってしまい・・先日ついに死亡したわ」
「・・」
「みさちゃん、お願いがあるの。剛志はあの世で孤独だわ。
 一緒にあの世に行ってあげて。お嫁さんになってあげて」
「何言ってるんですか? 有子さん」
「お願いだから死んで。私の可愛い息子のために」
「やめて・・有子さんがそんなこと言うなんて信じられない」

その時、バスケットからシャップが飛び出してみさに警告した。
「社長は霊にやられている。操られているんだ。
 早くここから逃げるんだ」

みさは目の前に居る社長から逃げようと周囲を見渡した。すると
恐ろしい光景が・・周りに黒い影が何人もいる。
「悪霊が集まってきているわ。テロリストを操っている悪霊達だわ」
みさが恐ろしくて動けないでいると車が何台もやって来て止まった。
先頭の車から降りてきたのは吉田だった。

「もう終わりよ。みさちゃん。あら、社長さんも一緒ね。
 みさちゃん、あんた、スマホの電源入れっぱなしだったでしょ?
 位置を探知させてもらったわよ。
 どこに逃げても筒抜けだったのよ。おバカさんね。
 東野さんを待っても無駄よ。今頃病院よ。来てくれないわよ」

車から男達が大勢降りて来て、社長とみさを囲い込んだ。
男達はナイフを持っている。もう絶体絶命である。

シャップはみさにアドバイスした。
「みさ、呪いを使うんだ」
みさは相手にダメージを与えるあらゆる術を必死に試みた。
術が相手に掛かりそうになった時、突然、黒い雲のようなものが
バリアになって術を全て跳ね返した。

「術が効かないわ。悪魔だわ。悪魔がいるのよ。
 テロリストを動かしている最強の悪魔だわ」

万事休すである。
このままテロリストに殺されてしまうのか?
みさは恐怖で体が震えている。するとシャップがみさに覚悟を迫った。

「みさ、腹を決めるんだ。テロリストに殺されるくらいなら
 海に飛び込んだ方がましだ。さあ、僕と一緒に。
 心配いらない。ダギフ様の所に行くだけだよ」

みさには考えている暇はなかった。
テロリストに刺されるくらいなら、もう飛び込むしかない。

「夢の中と同じだわ。
 どうしてこんなことになるの?
 せっかく幸せを手にしたのに・・
 やっぱり私はこうなる運命だったんだわ。
 はじめからそうだったのよ。うまくかないのよ・・」

嘆き悲しんでいるとシャップが叱りつけた。

「早くするんだ。これで終わりじゃないよ」

みさは、シャップを抱いて思い切って崖から海に飛び降りたのであった。
海はみさを飲み込んだ後、激しく波を立てたのであった。

つづく

※ テーメ・ヨメロン・ソラコ・ゼメン の呪文は悪い占いの卦が出ても、災いをはね返して幸運にする効果があります。(推奨19回)



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