本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第2話 月の光>

 衝撃的なあの夜から数日が経過していた。
みさは霊能者として生きて行く決意をしたのだったが、何かすっきりしない不安がくすぶっていた。
あの夜自分を助けてくれたダギフという存在は一体何なのか?
自分はしもべとして何をすれば良いのか? はっきりしない。
ダギフ様に御伺いを立ててみても、ほとんど答えは返ってこない。時々ポツリと声が返ってくるのみである。
「ダギフ様はクールな方なのですね。もっと色々教えて欲しいのに」と不満をもらすと、
すぐにロシアンブルーの猫シャップがやってきて代わりに答えてくれた。

シャップ「みさ、ダギフ様はいつも見守ってくださってるのよ」
みさ「一体ダギフ様はどういう方なの? 悪魔だって言っていたけど。
   それにシャップ、あんたも何者なの?」
シャップ「その内わかるわよ。私はダギフ様から遣わされたあなたの世話係よ。
     いつもあなたの傍に居るから」
みさ「何度聞いても同じ答えね。謎は解けないまま。まあいいわ」

 その日の夜、久しぶりにあの海岸が見たくなり、出掛けて行った。
もしかしたらまた月の光が現れてくれるかもしれないと期待しながら。
海岸は闇に包まれ、星の光や船舶の光のようなものが綺麗な夜景を映し出していた。

 よく見ると崖に腰かけている人がいる事に気づいた。中年の女性である。
みさは「もしや飛び降りしようとしているのでは?」と思ったので
そっとその女性の横に座ってさりげなく話しかけた。

みさ「あのう、失礼ですが、ここで何をされているのでしょうか?」
女性「ここで思い出に浸っているのよ。とっても不思議な、そして幸せな思い出よ」
みさ「もしよかったら聞かせていただけませんか?」
女性「私が若かった頃、ここで死のうと思ったことがあるの。そしたらお月様のような光が
   現れて・・私にいろいろと話をしてくれたの・・あれは天使か菩薩様だと思っているの」
みさ「それって・・」
みさはダギフが自分以外の人も救っていたことを知った瞬間であった。

 女性は身の上話を語り始めた。
その女性は今でこそ会社の社長として尊敬される立場にあったが、若い頃は今とは
全く異なっていた。慢性的な肥満と顔にシミがはっきり表れる病気に犯されていたのだ。
誰もが「醜い」と感じる容姿だったのである。その為彼女は若い頃いつも人目を避けて
生活していた。楽しいはずの学校生活も決して楽しくはなかったのである。

 しかも、家は新興宗教団体の熱心な信者。親戚もみんな信者であったし、近所づきあいも
ほとんど信者達ばかりであった。毎日の礼拝、勉強会、そして奉仕活動、布教活動・・
いつもそんなことを一家総出で行っていたのだった。
この女性の名は有子。有子は生まれた時からこの宗教の信者であった。彼女は
「何で自分だけこんなのやらなければならないの?」という疑問を抱いていたが、
教団は人類で唯一の正しい宗教で人類の命運が掛かっていると教えられていたので
「自分が怠けたら人類が滅んでしまうかもしれない」「神様に申し訳ない」
と恐怖に近い責任感をいつも感じていたのである。

 しかし、彼女は容姿のことでいつも悩んでいたので人前に出る奉仕活動は本当に苦痛であった。
言われた通りにお祈りや奉仕をしても病気は一向に良くならないし、
本音を言えば宗教活動など苦痛なだけだった。
特にいつも信者達から「病気と闘う立派な信者」という期待の目で見られていたために
無理をしていい子を演じなければならないことが彼女にとって一番辛かったのである。
しかも、信者達は有子を表向きは拍手を送りながら心の中で「罪深い女」とさげすんでいる
ように感じられることがあった。
ここの宗教の教えでは病気や障害は罪穢れによるものとされていた。元々人間には重い原罪があり、
それに先祖の悪徳や間違った信仰をした罪が重なり全ての人は死刑に値する重罪人であるとされた。
罪を償うには奉仕や布教をしていくしかなく、怠けることで罪は更に加算すると教えられた。
 有子のように罪深い人は休日も全て奉仕しなければ罪を償うことはできないとされた。

教団の人達から、成果を出せなければ神様が人類救済の為に授けた重大な使命を反故にしたことに
なり、とてつもない大きな罪を犯すことになると指導されていた。
当然のことながら死んだら魂を消されることになると教えられていた。
永遠の天国に行くか?消されるか? どちらかを自由に選びなさいと言われれば誰だって
永遠の天国の方が良いと思うものである。

 有子は一つ家族に隠していることがあった。それは占い好きであることだった。
何よりも占いが大好きだった。しかし、宗教の教えでは占いは魔物が付くということで禁止されていた。
でもやっぱり占いが好きなので、占い本やタロットを買ったりしていたが、それが親に見つかり、
こっぴどく叱られることが何度かあった。
「どうして占いはダメなの」と有子は不満を抱いていた。

 有子の体重は増える一方であり、顔のシミも増えていった。医師は大学病院で精密検査を
することを勧めたが両親は断った。宗教の教えの罪が原因だと思っていたからである。
両親からも親戚からも「より一層奉仕に励むように」とプレッシャーを掛けられるだけである。
その上、教団が推薦する健康食品の購入と周囲の人への販売のプレッシャーも掛けられたのである。

 有子は段々、宗教に没頭する家族に嫌気が募ってきて、ここから逃れるには勉強するしか
ないと思うようになっていた。勉強に励んだ結果、高校で有子は成績トップクラスになっていた。
また頑張って英検2級を取得することもできた。有子はとにかく学校を卒業して今の環境から
逃れたい一心で勉強に没頭していたのである。

 ある日、母親は嬉しそうに有子に言った。
「頑張ってるわね。今度県の大集会が行われるの。
 教団の方からあなたに体験談発表してはどう?と勧められたわよ。
 病気と闘うその姿が素晴らしいということで。光栄でしょ?」
有子はすぐに断った。
「いや、そんな発表したくない」
すると両親は激しく怒った。
「どうしてなの?せっかく良い機会を頂いたのに。これで我が家の罪も軽くなるのよ」
「だって恥ずかしいもん」
「恥ずかしいなんて甘ったれるんじゃないわよ。我が家の為、人類の為なのよ」
「私のこの姿をみんなにさらすなんていや」
「何言ってるの。全部自業自得なのよ。罪が深いことを悟りなさい。
 我が家の罪があなたに現れているの。それを解消できるかどうかはあなたに掛かってるのよ
 このままじゃ我が家の全員が魂を消されてしまうのよ。あなたのせいでそうなるのよ。
 私達罪人には自由なんてないのよ。一生神様の言う通りにしなければならないのよ。
 よく考えなさい。ここで神様を称えることができれば一家全員が天国に行けるかもしれないのよ。
 最高位の素晴らしい世界に行けるチャンスかもしれないのよ」
「私、最高位の天国なんていらない・・」

いくら議論しても平行線であった。
「私は醜い姿を耐えながら宗教活動に励む美談の人を演じているけどそんなの嘘。
 親に言われてやってるだけ。こんな偽善はまっぴら。
 何でこんな辛い思いをしなければらないの。
 いつまで経っても病気はなおらないし、私はやっぱり罪人なの?
 私はただ普通の生活を送りたいだけなのに、どうして一家や人類の為に
 奉仕に追われなければならないの?」
と有子は心の中で不満が爆発しそうであった。

 有子は夜中に家を飛び出し、海岸の崖っぷちに立った。
「こんなに苦しいなら魂を消してほしい。今すぐ。どうせ最後は消されるんだから」
と飛び込みしようしていた。

 すると崖っぷちの向うの暗闇の真ん中にお月様のような光が現れた。
その光は有子を優しく包んだ。有子はこの光が宗教の神様だと思った。
「最高神様ですか? お許しください。私は罪を償うことができません」
すると月の光は有子に語り掛けた。

「私は最高神様なんかじゃないよ」
「じゃあ、誰なの? 教祖様、それとも教祖のお母様・・・」
「私は名もなき者だよ」
「最高神様と教祖様以外の神なのね。消え去りなさい」
「私じゃ話をしてくれないのかい?」
「だめ。だって間違った神や低い神を信じたら不幸になるのよ。魂を消されるのよ」
「じゃあ、世界中の人が消されているのかい?」
「そうだと教えられているわ。
 世界中の人達が間違った信仰をしているために消されてしまっているのよ。
 だから私達が布教をして正しい信仰を弘める責任があるのよ」
「ははは、面白い理屈だねえ。
 どうして君がそんな責任を負わなければいけないんだ?君が悪い訳じゃないだろ?
 それに、君はもう消えたいと思ってここに来たんだろう。
 だったら私がその間違った神でもいいじゃないか?」
「そ、そんな、たしかにそうねえ(笑)」
「予言を信じるかい?」
「教祖の予言以外は全て間違いだって教えられているわ」
「そんなんじゃなくて、君の未来だよ」
「私の未来は罪を償うことができるかどうかで決まるのよ。何人正しい教えに導けるかで決まるのよ」
「君の言うことは面白いねえ。
 全知全能の神様が居るのに信者がどうして勧誘のノルマに苦しまなければならないの?
 全能の神様が新しい信者を連れて来ればいいじゃないか?
 そもそも最高の神様がどうして会員制クラブをつくって会員だけに愛を注ぐんだい?」
「う、そうね。私もいつもそう思うんだけど」
「君の未来は君の好きな占いで調べてみるといいよ」
「占いはやっちゃいけないのよ。魂が汚れるし悪魔にそそのかされるのよ」
「でも、君は占いが好きなんだろう? 君の未来は占い師だよ」
「ええ、そんなことわかるの?」
「正確には占いの会社の経営者だな」
「本当? でもそんなことしたら親に縁を切られるわ」
「切れば、いいじゃないか?君の人生だろ」
「それだけで済まないの、親も親戚もみんな不幸になるし、魂を消されることになるの。私のせいで」
「何だよそれ? マフィアの脅しかい?
 君の神様は随分と心が狭いんだな」
「それが宇宙の真理なのよ。悲しいけど」
「じゃあ、その真理とやらが本当に神様が伝えたものか見せてあげるよ。さあ、私を見なさい」

月の光に何やら映像のようなものが浮かんできた。
会議室で頭の良さそうな人達が集まって会議をしているような風景であった。
その中に教学部長の若い頃の姿を見つけることができた。みんなが真面目に議論をしている。
「収入の20%以上を教団の為に使わないと罪が償えないとするべき」
「寄付に何倍にも増えて戻る神様保証を付ける。これで寄付を増やせる」
「教団の教えや商品を周囲の人に勧めないと怠惰の罪になるとする。最も重い罪とする」
などと議論がされていた。
また、脱退者を阻止する為の脅し内容を黒板に並べて検討しているシーンも流れた。
「家族を人質にする教えを強化する・・自分が止めたら家族全員が不幸になることにする」
「近所の人達同士で「雑談会」を定期的に実施させる。相互監視させる」
などと書かれていた。
黒板には売上目標○○億円、寄付金額目標○○億円 − オーナーからの必達指示 と書かれていた。
そうやって教義が作成されている様子が映し出されていたのだった。

有子は驚いた。
「神様の教えって、人間が作っていたの?」

月の光は語り掛けた。
「そうだよ。人が作った教えなんだよ」
「みんな嘘だったの?」
「嘘だと言うならどこもかしこも嘘だろうね。誰も本当のことは分からないからね。
 真理なんてどこにも似たようなものが転がっているよ。
 だから何を信じるのも自由なんだよ。信じないことも自由なんだよ」
「信じない自由もあるの?」
「そのとおり。信じることが苦痛なら信じなくてもいいんだよ。
 君の宗教で幸せを感じている人もたくさんいる。そういう人はそこで頑張ればよい。
 でも、君はそこに居ても幸せは感じられないんだろ?
 ことわざに 牛の尻尾になるより鶏の頭になれ というのがあるよ」
「知ってるわ、それくらい。私は優等生だもん」
「君のことだよ。宗教団体の尻尾に居るより、人の上に立った方が似合ってるよ」
「確かに・・牛の尻尾にしがみつく人生なんてまっぴら御免です」
「君はそういう人だ。だから鶏の頭をめざしたほうがいい。
 君の周りの人達はみんな君とは違うタイプなんだけどね。
 この世で勝ち組になれないから宗教に入ってあの世で勝ち組になろうと考えているよ。
 君の宗教はそういう人達にまやかしの夢を売る商売をしているんだ。
 信者達はそこで頑張れば高いポイントを効率的に稼いで勝ち組になれると、心の支えにしている。
 そういう生き方も自由なんだけど、君はそんなセコイ人生なんか嫌いだよね?」
「その通りなんです。
 私、ポイント稼いで自分だけ天国に行こうなんて生き方嫌なんです。
 もっと大きな、夢のある生き方がしたいんです。
 この世で自分の夢を実現したいんです。
 でも、私は病気持ちなんです。これは医学的原因ではなく罪によるものなんです」
「きちんと大学病院で調べてもらったのかい?」
「いいえ、調べても無駄です。医学では治らないって教学部長がそう言ったんですから。
 教団の健康食品を食べて、他の人にも勧めない限り治らないんです」
「調べもせずに結論出してはいけないよ。今の医学で治るはずだよ」
「ほんとうなんですか?」
「だから、一度調べてもらいなさいって言っているのだよ。
 君は罪を背負った人でも何でもなく病気を患っているだけだよ。
 周りの人達は君を見て自分はまだマシだと安心したりする。
 そして家族は君が病気でいる方が美談を演じることができる。
 そんな依存の状況が君の病気の治療を妨げているんだよ」
「ほ、本当なの?」
「私の言うことを信じなくてもいいよ。さあ、どうする?
 私の言うことを悪魔の誘惑だと思うか?どうするかは自由だよ」
「あなたは自由だと言ってくれた。自由を与えてくれる神様の方が好き」
「そうか、ならば君を苦しめている神様とは縁をきるんだね」
「そうするわ。
 最高神様との縁を切るなんて、考えただけでも怖くて震えがするわ・・
 でも・・あなたが言うなら勇気を出して切ることができるわ。
 思い切ってここで・・最高神様、教祖様、さようなら」

有子は鞄から教団のお守りを取り出して海に投げ込もうとした。
粗末にしたら家族全員が裁かれることになるお守りである。
すると月の光がそれを制止した。

「まて! それはやってはいけない事だ!」

「どうして!
 縁を切れってあなたが言ったのよ。捨てたら罰が当たるの?」

「ゴミを海に投げ込むことはいけない事だよ。
 学校で教えられただろ! ただ、それだけだよ」

これを聞いて有子は噴き出してしまった。しばらく笑いが止まらなかった。

「ユーモアがあるんですね。そういう神様の方が好きです」

女性はこの崖であった若い頃の出来事を楽しそうに話した。女性は更に続けた。

「その後、高校卒業して上京し、占い師になったわ。夫と出会い、
 一緒に占いの会社を興したの。
 病気も大学病院で調べてもらったらあっさり治すことができたわ。
 もっと早く調べればよかったわ。
 全て、ここで会った月の光の予言通りになったのよ。
 ここでの出来事は私は一生忘れられないわ。勇気をもらったわ。
 月の光はきっと素晴らしい神様なんだわ」

みさは感激して涙が流れるのを感じた。
「よかったですね。実は私も月の光に助けられたんです。
 私はみさ って言いいます。霊能者をやっています」
「みささん、あなたもそうだったの。きっとこれも何かの縁よ。
 霊能者なら私の所に来ない? 丁度霊感占い師を探していたところよ。
 WEBスペースも、占い部屋も用意するわよ」
「本当ですか? HP持ってますが中々お客が来なくて困っていたんです。
 ところで有子さん、あなたには3匹の狼が守護しているのが見えます」
「あらそう。私の先祖は山に住んでたらしいの。きっとその縁ね。
 3匹もいるの? あなたに1匹差し上げるわ。本当よ」
 すると、3匹の内1匹がこちらに向かって来るのが見えた。
「ありがとうございます。遠慮なく頂きます。鋭い牙がチャームポイントなので
 キバと名付けて可愛がります」

この日の出会いによってみさは霊能者としての土台を固めることができたのであった。
みさ が自宅に帰るといつも迎えてくれるシャップがおびえたようにみさから離れた。
「おい、一緒にいる狼は誰だよ」シャップは伝えてきた。
「シャップ、怖がらなくてもいいの。この狼はキバ。今日から私の守護を担当するのよ。
 占い会社の社長さんから頂いたのよ」
「ふ〜ん。まあ強そうな用心棒だな」シャップはちょっと不機嫌であった。

「シャップ。今日崖の所で出会った占い会社の社長さんなんだけど、ダギフ様に
 助けてもらったそうよ。いろいろ人助けしてるのね。ダギフ様は。
 悪魔だって言ってたけど、本当は神様なんじゃないの?」
「・・・」シャップは黙っていた。

「その人は良い人に出会って幸せになったそうよ。
 私にも良い人が現れないかな・・剛志みたいな男じゃなくて」
「大丈夫、現れるから」
 シャップは何かを知ってるような目をして答えたのであった。


つづく



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