本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第1話 霊能者誕生>

 紫之蛾(しのが) みさ は19歳の女性である。
みさ は子供の頃から孤独であった。家庭環境がよくなかったからである。
父親はアル中でろくに仕事もせず、いつも母親やみさに暴力をふるっていたため、やがて離婚。
母親は働きながらみさを育てたが極めて貧しい生活を強いられた。

母親もまた、みさを虐待することがあった。
その上、TVを買うお金もなかった為、みさは世の中の流行を知らない。
子供らしいことは何一つしてもらえなかったし、洋服も毎日汚い洋服を繰り返し着ていた。
その為、みさは近所の子供達からも「変な子」として避けられていつも一人であった。
いつも一人ぼっちで遊んでいる寂しい子であった。

 そんなみさには、たった一つ特殊な能力があった。霊が見えるのである。
自宅にはいつも黒い人達が何人もいるのが見えていて、彼らは強い怒りを抱いており、
鬼のような目だけが黄色く光っていていつも母や自分を睨みつけているのが見えたのである。
その黒い人が母親に乗りかかると母は必ずヒステリーを起こしてみさに暴言・暴力をふるうのであった。

 夜寝ようとすると、いつも、みさの眼の前に霊達が立ち「お前は苦しみ抜いて死ぬのだ」と叫んだ。
みさにはこの霊達が昔の人達であり、自分の祖父やその前の時代の恨みを持つ人達である
と直観的に感じていた。

「きっと、私の先祖がこの人達を苦しめたんだわ。それで恨みを晴らしているんだわ」
「私は何もしらないの、何もしてないの。私が何で先祖の罪のために苦しめられなければ
 ならないの?許して」と霊に念じてはみるが霊は気味の悪い笑いをしながら
みさに乗りかかり、金縛りにした。その度にみさは心身共に疲れ果て、生気が抜けたように
なってしまうのであった。
「仕方がないのね。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い これが人間の感情。
 私だって恨みを抱いたら子や孫まで呪うでしょうね。きっとこれも宿命なのね」
みさの悩みは誰にも相談できなかったし、解決する術も思いつかなかった。

 みさは学校に通うようになっても一人だった。
時代の流行も知らないし、子供らしい遊びも何も知らない。
コミュニケーションを取る経験も積んでいない。
同級生達となじむこともできず、いつも孤独だった。
いつしかいじめられるようになっていた。
いじめられる時は例の黒い人達がそれを操っているのが見えたのであった。
先生にいじめられることもあった。

 中学になると学校に行ったり、不登校になったりを繰り返した。
なんとか卒業して親元を離れたが良い仕事は見つからなかった。
どこへ行っても人間関係がうまくいかない。彼女は子供の頃のトラウマからうつ病や
パニック障害があり、いつも陰鬱な雰囲気を漂わせていたからである。
雰囲気が暗くなるので、人から避けられていたのである。
その原因が例の黒い霊達によるものであることがわかっていたがどうすることもできない。

 みさは何をしても外れクジを引くように運が悪かった。
不思議なくらい何をしても裏目に出る。次々とトラブルや良くないことが起きる。
仲間外れにされる。いじめや嫌がらせをされる。
変な男にストーカーのようにつきまとわれることもあった。
一日として心休まる日はない。何か辛いことが起きる。
まるで誰かが自分を苦しめて自殺に追い込もうとしているように感じられたのであった。
そして誰も助けてはくれなかったのである。

 みさは休みの日に近くの海岸によく行った。そこは絶壁の海岸であり、観光客に人気の場所である。
崖から見下ろす海は美しく、飛び降りれば気持ち良く海に溶け込むことができるように見えるためか、
自殺の名所でもあった。
その為、自殺を留める看板や命の電話の張り紙などがしてあった。
夜は電燈が灯り、定期的にパトロールや巡回が行われているようであった。

みさはいつもここに来て「いっそここから飛び降りて消えてしまいたい」と思っていたのだった。
日々苦しいことばかりで将来を考えても何も希望がなかったからである。
それでも若い内は何とか生きていける。もし、年を取ってしまった生きることすらできないだろう。
ならば今の内に消えてしまいたいと考えていたのだった。消えることだけが心の支えであった。

 ある夜死にたいという強い思いが衝動的に湧いてきた。
職場をクビになり、次の仕事を探す気力もない。もう何もかもが絶望的であると感じたからだった。
夜の海岸にふらふらと行き、崖っぷちに立っていた。
「ここで飛び込めば全てが終わる」と飛び込む決意をしたが中々それができない。
「自分なんて生きる価値のない人間。死んでしまった方がいいのよ」と決意を新たにした時で
あった。背後に人の気配が・・
「君、ここで何をしているの?」「まさか・・」
「ちょっと待ってよ。僕とちょっとお話でもしない・・」
男の人の声であった。みさはきっと変な男が来たのだろうと思った。
こんな男に付いていったら何をされるか分からない。逃げようと思った。
「君、飛び込むつもりなんだね。僕も同じこと考えていたんだ」
みさはこの言葉を聞いて男の顔を見た。大人しそうな顔をしている。オタクっぽい男である。
「私と同じような苦しみをもった人なの?」みさはなんとなく安心感を感じた。
もうどうなってもいいとこの男の車に乗った。
男は夜の街をドライブしながらみさに話しかけた。

「俺、柳井剛志っていうんだ。剛志なんて強そうな名前だけどちがうんだ。
 もう何もうまくいかなくていっそ消えようかなって海岸に行ったら君が先に立っていた。
 これはきっと運命の出会いかもって感じたんだ・・
 いや君と交際しようとかそんなんじゃなくて、君となら心を打ちとけることができるかもって」

剛志は自分が不遇な家庭に育ち、子供のころから孤独でいつもいじめられていたことなど
不幸自慢を話し出した。しかも面白おかしく話をするのでみさも自分の不幸自慢をして盛り上がった。
二人で不幸を笑い飛ばした。自分の心に秘めた想いを喋ってそれを笑い飛ばすことが
できたのは初めてであった。みさは感じたことのない爽快感を感じた。

「剛志さん、お仕事は何をしているの?」
「おれ、呪い代行業をしてるんだ。驚いた?」
「インターネットの? 呪いが使えるの?」
「おれ、昔から呪術が好きで研究しているんだ。呪いの術が使えるよ。
 でも、ちょっと力量不足なんだ。それが悩みで、これで食っていくのはちょっと厳しいんだ」
「呪いなんて意外ねえ。そんな優しそうなのに・・
 私、霊が見えるのよ。霊感があるの」
「へえ、そりゃいい。是非アシスタントになってよ。霊感透視+呪いなら商売うまくいくさ」

みさは早速翌日から剛志の呪い代行業を手伝うようになった。
剛志の部屋には魔術関係の本が山ほどあり勉強ぶりが伺えた。
霊感のある自分と魔術を好むこの男とは何か深い縁があると感じたのであった。
いつしかみさと剛志は男女の関係になっていた。
剛志は初めての男であった。
「自分を愛してくれる人など居るはずはない」と思っていたのでみさは幸せ一杯であった。
みさには剛志も女性経験が無いことが分かったが
女性を知らない男でありながら女性の心はわかる。
自分のことを理解してくれているということに親しみを感じた。
オタクの男は通常、女性に対してドラマのヒロインみたいな理想像を抱いていることが多い。
しかし、剛志は何の取り柄もない自分をありのままで認めてくれていると感じられたのである。

「この人は心の優しい人、そして自分と同じ苦労をした人なんだ」
「きっといつか自分と一緒に死んでくれる。この人と一緒ならあの世に行っても寂しくない」
とさえ思うようになっていった。

 ある夜、剛志はみさを呼び出した。
「これからあの海岸に行こう。重大な話があるんだ」
みさは車の中で剛志がいつになく真剣な表情だったので思った。
「きっと、一緒に死んでくれるんだわ。もうこんな苦しみから解放されるのね。
 一時だったけど夢のようだったわ」

 剛志と初めて会った海岸に着くとそこは夜の闇に包まれていた。
電燈の明かりが自殺防止の看板を照らしていた。
剛志はみさを連れて崖っぷちに立った。
みさは「二人で飛び込むつもりね」と死を覚悟した。

その時であった。剛志は突然みさの手を紐のようなもので縛った。
「な、なにするの」とみさが叫んだが剛志は黙ってみさの足も縛った。
みさは紐をほどこうとして転んでしまった。
「心中するんでしょ?私は逃げないわ」とみさは叫んだ。
剛志はにやりと笑って答えた。
「心中だって? 馬鹿か? お前なんかと心中するわけねーだろ」
「どういうことよ」
「教えてやろうか。お前は生贄さ。これから悪魔の生贄儀式をする。
 悪魔に生贄を捧げることでおれは霊力を授かるのさ」
「この紐は紙で出来ていて水に溶けるんだ。死体が発見されても紐で縛ったことは分からない。
 お前なんて死んでも自殺だと人は思うだけ。そういう生贄を探していたんだよ」
「え、私はその為だけの・・」
「そうさ。その為だけにお前を選んだのさ。俺はどうしても霊力が欲しかったのさ」

みさの頬を悲しみの涙が流れ出た。
「そんな、私との出会いも優しい言葉もみんな嘘だったの。
 人を生贄にしてまで霊力が欲しいの?」
「魔術の理論によると生贄を怒らせると効果が倍増すると書いてある。
 教えてやろう。本当の目的を、本当の理由を聞いたら怒り狂うだろうな。
 おれは魔術に元々関心なんて全くなかったのさ。
 何で魔術をやったかと言うとアイドルグループBMK29の巴山玲の大ファンなのさ。
 彼女は魔術が趣味なんだ。だから魔術師になって彼女の気を引きたいのさ。
 本物の術が使えたらきっと彼女の気を引くことができると思ってね」

これを聞いてみさは唖然とした。
「アイドルと親しくなりたいから? そんな理由で・・
 あなたがいくら頑張っても、アイドルと結ばれるなんて無理よ。
 そんなことも分からないの」
「そうかもしれない。でもそれが男のロマンというやつさ」
「そんなくだらないロマンの為に私を殺すの?なによそれ・・」
「くだらないだと?巴山玲を侮辱するつもりか?
 お前なんか、巴山玲に比べたら彼女のウンコの価値もない。存在する価値のないゴミさ。
 まあ、恋愛の練習台としての価値はあったかもな。巴山玲と結ばれた時の予行練習になったわ。
 おまえみたいなブスは死んでも誰も困らないよ・・ほーら頭に来ただろう?」
「な、なんてことをいうの・・」
「儀式の準備をするからちょっとここで待ってろ」

みさはあまりに酷い言葉に頭が動転してしまった。
崖の周辺には何やら黒い影が集まって来ているように見えた。
黒い影は生贄を待っているようだった。「はやくしろ、生贄を落とせ」と叫んでいた。
みさは叫んだ。
「こんな終わり方はいや。いくら何でも。こんなのいやー!」

 その時であった。崖っぷちの向うの暗闇の真ん中にお月様のような光が
出現した。みさは「何なのこれ」と光を見つめた。光はみさに語り掛けた。

「みさよ、お前は生贄にはさせない。お前は私のしもべとなって働くのだ」
「あなたは誰? 神様?」
「私の名はダギフ・コマンザ 悪魔だ」
「悪魔? 私は殺されて魂を捧げられるの?」
「お前は殺されない」
「でも、あの男が私を殺そうとしているわ」
「男を恐れるな。怒れ。そうすれば倒せる」

突然、猫が闇の中から現れた。ロシアンブルーの猫だった。猫はみさの腕を縛っている
紐をかみ切った。手が使えるようになり、足の紐もほどいた。猫は自分の顔を
見つめて語りかけた。テレパシーのように猫の言葉が聞こえた。
「男が来ても大丈夫。あなたは念じれば男を倒すことができるよ。
 呪文を唱えるのよ マノゼェー・ドロンドロ と」

そこへ仮装行列みたいな黒ミサの衣装を着て剛志がやってきた。
剛志はみさが紐をほどいて立っているのを見て驚いた。
更に背後の闇に月のような光があるのも発見して狼狽してしまった。
みさは呪文を唱えて手を伸ばして剛志が動けなくなるように念じてみた。
みさの心には激しい怒りが湧いてきており、不安など消え去っていた。
「絶対に倒してやる」という一念だけがあった。
すると剛志は金縛りの術に掛かったように立ったまま動けなくなった。
みさは剛志に向かって怒りをぶつけるように叫んだ。

「ふざけんじゃねーよ。
 よくも私を舐めたわね。あんたなんてアイドル狂の能無しオタクよ
 何その格好、笑っちゃうくらいダサい仮装行列ね。
 そして意気地なしよ。悪魔の生贄なら私の心臓を取り出しなさいよ。
 捕まるのが怖いから自殺に見せかけるなんてみみっちいんだよ!」

みさの心は怒りで満たされていた。

「あの光は本物の悪魔よ。あなたを生贄にするように言ってるわ。
 さあ、海に向かって歩きなさい」

みさが念じると剛志は意志に反して海に向かって歩きはじめた。
剛志は恐怖で震え上がった。
「た、助けてくれ。たのむ。何でもするから」
その時崖っぷちに集まっていた霊達の様子も変化した。さっきは自分を生贄にしろ
と叫んでいたのが今度は剛志を早く生贄にしろと叫んでいるのだった。
霊達はあの光に従っている。あの光はすごい。やはり悪魔なんだと感じた。

剛志は震えながら叫んだ。
「助けて、謝るから、お願いだ。呪いサイトもみんなあげるから助けて」
「命乞いするの? 情けない男ね。堂々としてれば格好よかったのにね」

みさは怒りに動かされて「このまま海に落としてやる」と念じていたがふと思い出した。
この人は一度私を助けてくれた。そして私に安らぎを与えてくれた。
一時は本気で恋人だと思った事を思い出した。

「あなたには借りがあるわ。許してあげる。
 でも、その代り二度と私の前に現れないことね。
 霊達があなたを落とせと言ってるからこのままじゃ引き下がれないわ。
 あなたにはピエロになってもらうわ」

みさは街灯の下で黒魔術の衣装を着たまま立っている剛志の下半身を開いてズボンと
パンツを降ろして下半身を露出させた。滑稽な姿である。それを見て霊達は大笑いした。
「生贄にはできないの。これで勘弁してね」と みさは霊達に許しを求めた。

みさ は剛志のみっともない姿を携帯のカメラで写真に収めた。
「もし、あなたが私の前に現れたら写真をネットに晒すからね」
「も、もう二度とあなたの前には現れません。誓います。許してください」
「もう魔術なんてやらないことね。あんたには向いてないわ。
 あんたはアイドルのフィギアでも売ってればいいのよ」

猫が自分に絡んできてテレパシーで語った。
「ダギフ様の言う通りになったでしょ。あなたは明日からはダギフ様に仕えるのよ」
「あなたの名前は何?」
「シャップ」
「シャップ? シャラップということ?」
「シャップと呼んで」
「わかったわ、シャップ」
「ダギフ様はみさのことが気に入ったみたいだよ。
 ダギフ様は悪魔だけど優しい方よ。あなたのような人を助けたいみたい」
「助けたい? 悪魔なのに?変な悪魔ね?」

やがて月のような光も霊達も消えていった。みさは自分に起きたことが一体何だったのか
混乱した状態のまま自宅に帰った。
死ぬことしか頭になかったみさだったが今は死ぬ気など消え失せてしまった。
逆に自分に何か強い力が備わった気がするのであった。

 翌朝目が覚め、しばらくすると昨日の記憶がよみがえってきた。
恐怖とそして驚くべき体験。ありえないようなことばかり。
「夢だったのかしら」と思った時、突然ロシアンブルーの猫が枕元にやってきて
語り掛けた。「夢じゃないよ」
「確か、シャップだったわね。夢じゃなかったのね」
「そうだよ」
「昨日は驚いたわ。ダギフ様の力は凄かったわね。本当に男が金縛りになったわ」
「あれはあなたの力よ。あなたには力があるのよ」

 みさは自分には力があるということをこの時発見したのであった。

この日から剛志が運営したサイトを引き継ぎ霊能サロン「ドロン・ドロ」と名付け運営することにしたのであった。

つづく 

※ マノゼェー・ドロンドロ は逆境を克服する効果がある呪文です。実際にパワーがあります。



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