本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第16話 新規開店>

 社長や武田さんの尽力によりみさの店がオープンすることとなった。
店は「阿弗利加のお部屋」と命名され、エキゾチックでアフリカを思わせる雰囲気の
外装がされており、1Fはカフェ、そして占い相談室、2Fには雑貨店となっていた。
カフェには町で長年飲食店を経営していた腕利きの料理人とアルバイトが働くことが決まり、
雑貨店は恭子が担当し、アフリカから仕入れた工芸品、装飾品、衣類などが陳列された。
資材の輸入は県の観光担当、吉田俊美が面倒を見てくれた。

 店の運営全般はみさが指揮することになり、みさは20代にして実質的な店の主人と
なったのである。若いみさには重荷と感じられたが、みさのことは社長や武田、
それにダギフやシャップ、森の住人達などが常に支えてくれていたのであった。
 
 開店当日の朝、社長、武田、吉田、恭子、料理人、バイトが集まってミーティング
が始まった。みさが最初に挨拶をした。
「皆さん、今日から念願のお店がオープンします。これも皆さんのお陰です。
 是非お店を繁盛させたいと考えています。
 みんなで一丸となって頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします。
 お客さんが集まる護符を作りました。是非皆さんに携帯して頂きたいと思います」
みさはお客が集まる自作の護符を全員に配った。 

商売繁盛護符

続いて社長が挨拶をした。
「みさちゃん、よかったわね。これもあなたの実力のお陰よ。
 しっかり宣伝したからお客さんは集まるはずよ。
 県の吉田さんも期待しているはずよ」
「吉田です。このお店で何がお客さんのニーズに合った商品なのかを調べることは
 大変重要なことです。今後の県の産業のヒントにしたいと考えています。
 また、皆さんのアイデア、センスでアフリカに注文を出して製造してもらうことも
 考えています。皆さんのグッドな提案をお待ちしています」
最後に武田が挨拶した。
「武田です。こんな綺麗な店がオープンしてうれしいです。この店には
 みさちゃん、恭子ちゃんの二人の看板娘が居るから繁盛間違いなしですね。
 皆さんの頑張りに期待していますよ。
 何か要望がありましたら何でも気楽に言ってください」

みさには店にジェマや森の住人やあの世からマコトが来ているのも見えていた。
さらにダギフ様の光や惑星モリアの光までが照らされているのが感じられたのである。
みさは感極まっていた。

「何にも取り柄も価値もないと思っていた自分がこんな晴れ舞台を踏むなんて、
 信じられないわ」と考えていると
シャップがテレパシーで祝福してくれた。
「みさ、君は決して価値の無い人間なんかじゃないよ。今までそう思っていたこと
 が幻想だったんだよ。君は多くの人から必要とされる価値のある人だったんだよ」
みさはシャップを抱きしめて「ありがとう」とつぶやいた。

武田がみさの所に来たのでみさは店で気づいたことを話してみた。
「武田さん、お父様のことなんですが、今はどうされているのでしょうか?」
「オヤジか、今は足腰が悪くなって自宅でゴロゴロしているよ。たまにデイサービスに
 行くくらいかな。本当は仕事をしたいんだろうけど、歳だからねえ」
「このお店にはお父様の想いが残っているんです。見えるんです。
 お父様がバイクの修理をしてる姿が」
「へえ、そうなの? オヤジは仕事が大好きだったからなあ」
「凄く真剣な表情をしてお仕事してる姿が見えるんです」
「オヤジにバイクの点検を依頼すると性能がアップするって評判だったんだよ。
 オヤジはバイクをちょっと見ただけでどこをどう調整すればいいか全てわかるんだ。
 人間国宝級の職人だったな。だから遠方からもお客さんが来てくれた」
「凄い人だったんですね。その想いが残っているんです」
「そうか、それに比べて俺はダメだったなあ。想いの違いかな?」
「武田さんもお父さんみたいに誠実で熱い想いを持った人ですよ」

 店がオープンすると占い部屋の常連などが訪れてくれた。
また、みさに是非見てもらいたいというお客も何人か来てくれた。
また、アフリカのお茶や衣類などに興味を持って訪れる人やアフリカ人も
来てくれた。また、みさのアドバイスでアフリカの料理も提供することが
でき、これも評判が良かった。みさは夢の中でアフリカ料理を学んでおり
それが役に立ったのである。

 初日はそれほどお客は来なかったが、お客が一様に驚いたことがあった。
それはカフェで注文したり、ショップで買い物をすると漏れなくメールが
送られてくることであった。あの世で森の巫女達が占いをし、マコトがメール
をお客に送信するサービスをしていたからである。携帯を持ってないお客に
はPCにメールが送られてきてプリントアウトしてあげていた。
メールにはお客が関心を持っている事や悩み事などに関して占いやアドバイス
が書かれていて受け取った人は皆びっくりしたのである。
「誰にも言ってないことなのに・・」

これはツイッターやネット情報などで忽ち話題になった。
「あの店で注文するだけで占いのメールが送られてくる。
 しかも、ピッタリ当たる」と。
口コミは一気に広がり、休日には店に行列ができるほどお客が来た。
開店して数日で行列ができる店になったのである。

 みさの店はタウン誌だけでなくオカルト雑誌「ムー民」にも掲載された。
するとわざわざ遠方から来てくれるお客まで現れた。
「店に行くだけであの世からメールが届く。もちろんメールアドレスなど
 教えていないのに・・こんな不思議なことがあるだろうか?」
これはあちこちで話題になった。
「あり得ない、何かのトリックに違いない」と主張する人も現れた。

特に超常現象は全てあり得ないと強く主張する有名大学の大月教授がかみついた。
「そんなもの、トリックに決まっている。私が行ってトリックを暴いてやりたい」
とツイッターに宣戦布告をした。するとTV局が興味を示して
「じゃあ、トリック暴きに行きましょう」ということになった。

 平日のある日、TV局のスタッフと大月教授が店にアポなしで突然やってきた。
みさはTV局が取材に来てくれたと喜んだ。しかし、大月教授はぶっきらぼうな態度で
「ここがインチキで儲けてる店か?ちゃんと調べろよ」とアシスタントに指示した。
アシスタントは何やら電波を検出する機械のようなものを持ってあちこち
を検出していた。
一行はカフェに入り、テーブルに腰かけた。
「おい、人数分コーヒーを出してくれ」と教授は注文をした。
すると一行全員の携帯が鳴った。携帯を見ると
「阿弗利加のお部屋占いサービス」と書かれたメールが入っている。見るとそこに
は各人の運勢やら、気になっていることに対する具体的なアドバイスが書かれていた。
一行はみな驚いた。
「こりゃ、凄い。誰にも言ってないことなのにアドバイスが書いてある」

教授は怪訝な顔をして
「こんなもの、誰にでも当てはまることを書いてるだけだよ。
 どうやってメールアドレスを採取してるのかな?
 きっと特殊な機械があるに違いない」

と声を荒げた。
しかし、アシスタントは「どこにもそんな装置なんてないですよ?」
と答えた。教授はイライラしてきた。

スタッフの一人が「教授にはどんなメールが来たんですか?」と聞いた。
「バカバカしい。そんなもの見る価値もない」と言ったがスタッフがせがむので
おもむろに携帯のメールを開いた。そこには驚くべきことが・・

「大月先生が今一番気に掛けていることは
 お父様の遺品の万年筆が紛失してしまったことですね?
 万年筆は大月先生の去年の8月の日記に挟んであります。
 丁度、UFO映像の謎解きをするために山形まで行った時の日記です」

と書かれてあった。それを見た教授は絶句した。
「日記や万年筆の事は誰も知らないはず・・こんなことがあるはずない」
スタッフはメールを見て教授に提案した。
「先生、この後、ご自宅に行って万年筆があるかどうか?取材させてください」
教授は真っ赤な顔をして怒鳴り出した。
「もう、取材は止めだ。帰る」と席を立ち始めた。
スタッフはびっくりした。
「先生、どうしたんですか? せっかくここまで来たのに。
 トリック暴きはしないんですか?これでは取材になりませんよ」

しかし、教授は勘定を払ってそそくさと車に戻ってしまった。
スタッフもしぶしぶ帰ってしまった。

みさはあっけにとられた。
「みなさん、コーヒーも飲まないで帰ってしまったわ。
 何を取材しに来たのかしら?」

 後日、万年筆がメールの指摘していた場所にあったことを教授は認めた。
それによってみさの店のメール占いサービスの噂は更に広がって
お客が増えて平日でも行列ができるようになった。
うれしいことだが、みさにはちょっと不安があった。

「メールを目当てに来るお客さんで混雑してしまった。
 これではお店を愛してくださるお客さんに申し訳ない。
 売上を増やすよりもお客さんに満足してもらいたい」
と悩みを抱くようになってしまった。社長に電話で相談すると

「そうねえ。メールだけが目当てのお客さんには私のサイトの会員登録すれば
 定期的にメールが届くようにしてはどうかしら? マコトさんが対応できればだけど」
との回答であった。
するとすぐさまマコトからメールが送られたきた。

「みささん、大丈夫、今よりももっと大勢の人にメールを配信できるよ。
 あの世では僕の手伝いをしたいって言う人が一杯いるんだから。
 巫女さんも仲間が一杯いるみたいだし、やる気満々だよ」
と書いてあった。

社長にも同じメールが送られたようで。社長は連絡してきた。
「では、メール配信サービスを開始しましょう。
 店には本当に来たいというお客さんに来てもらうわ。
 これで私の会社の会員も増えるし、一石二鳥よ」

 雑貨店も順調であった。すっかり女の子らしく変貌した恭子がうまく
切り盛りしていたからである。
彼女のことは惑星モリアが支援しており、雑貨店はアフリカ雑貨に調和した
癒しのエネルギーが漂う空間となっていた。この独特の雰囲気が
たまらないと通う常連さんも現れるようになってきた。

 全ては順調に進んでいるかに見えたが現実はそう単純ではなかった。
店が注目を浴びると当然誹謗中傷をする人が出てくる。
匿名掲示板に、みさの店に関するスレッドが立てられて、メール配信や
霊感占いをインチキだと誹謗中傷する書き込みが書かれた。

 みさはそれを見てショックを受けた。心無い悪口の繰り返し。
中学生の時の学校裏サイトを思い出してしまった。
みさは当時、いじめられていてサイトのネタにされたことがあったからである。
ある時は集団でいじめられて顔にマジックでイタズラ書きされて
その写真を投稿されたこともあった。
クラス委員の女の子が通報してくれて火消ししてくれたが
あのままイジメがエスカレートしていたらと考えると、
思い出すだけでもぞっとしてしまう思い出であった。
ネットの誹謗中傷の書き込みを見る度にそれを思い出してしまうのであった。

 みさは社長にスレッドのことを相談した。すると社長はあっけらかんとして
「心配要らないわ。そんなの。今の時代当たり前なの。
 逆に宣伝になるわ。プロに任せなさい。うまく批判をそらしたり、
 宣伝に持って行ったりしてくれるわ。うちの会社にも対策のプロがいるのよ」

 社長が言う通り、ネットの書き込みはうまくそらされるようになった。
つまらない馴れ合いの書き込みばかりになり、いつの間にか見てもつまらない
スレッドになって書き込みが沈静化していた。それが自然に行われていたので
みさは「プロは凄いわ」と安心したのであった。

 一安心した頃、スレッドをチェックしてみると・・恐ろしい書き込みが。

「阿弗利加のお部屋 の みさ の正体
 本名:紫之我 みさ
 ○○中学 △年卒業 実家の住所:XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
 みさ は陰気な性格で友達もなく、一人で妄想にふけっている変な子だった。
 何をしてもトロくて無能なので級友から嫌われており、
 クラスのみんなに溶け込もうともしないので、いじめられていた。
 その証拠写真→ http://www.xxxxx.xx/ 」
 
リンク先にはみさが顔にマジックでイタズラ書きされてべそをかいてる恥ずかしい
写真がアップロードされていた。それを見たみさはショックを受けてパニック障害
のような症状が再発してしまった。

「どうして、誰が? こんなことを」

 この書き込みや写真を見た大勢の人が好き勝手なレスを書き始めていた。
みさはそれを見て心が痛み、胃腸が痛くなるのを感じた。
怖くてネットを見ることができなくなり、四六時中心から離れない。
鬱状態になってしまい、店に出勤することもできなくなり、翌日は休みを取った。
「どうしよう。せっかくお店を開店して頂いたのに」
みさは社長に助けを求めた。「どうしたらいいのでしょうか?」とメールを打った。
すると夕方に社長から電話が掛かってきたのであった。

「みさちゃん、東野美玲さんを覚えているでしょ? ユートピアタウンの事件の時に
 助けてくれた警察の人、あの人に相談したら、法務省から削除依頼を出してくれたみたい。
 書き込みは削除されるわ。心配要らないわ。
 でも、写真は海外のアングラサイトなので削除できないらしいの。
 あのURLをあちこちに書き込みされたらたまらないわね。
 もし、そうなったら、書き込みした人を何とか特定して訴えるしかないわね」

それを聞いてみさは落ち着きを取り戻した。
「一体誰が、こんな嫌がらせを」
みさの脳裏にはいつも自分をいじめていた人物数人の名前が浮かぶのだった。
「きっとあの人たちね。酷いわ、今でも私をいじめようと思っているのかしら。
 私は何もしていないのに。どうして」
みさに強い怒りの気持ちが湧いてきた。

 怒りを抑えきれないでいるとマコトからメールが送られてきた。

「みささん、辛い気持ちお察しします。
 嫌がらせ書き込みした人は次の人です。

 矢部真美
 ○○中学 △年卒業、みさと2,3年で同級生 住所:OOOOOOOOOOOOOOOOOO
 県でトップの女子高を卒業したが希望の就職ができず、現在派遣社員
 生活は厳しい状況。
 父親は公務員で3年前に着服で解雇されて彼女が扶養している。
 この事件は地方新聞に掲載されている。
 記事の写真もあり

 みささん、この人は削除できないサイトに写真を投稿して一生みささんの
 ことを苦しめようとしたんだよ。動機は嫉妬。
 僕は許せないよ。
 僕には、サイトの写真をこの人の父親が逮捕された記事の写真に
 差し替えることができるよ。
 仕返ししようよ。みささんを苦しめたんだから。
 もちろん、しばらくお灸を据えたら削除するから」

みさはこのメールを見てびっくりした。嫌がらせをした人物はてっきり
いじめた子だと思っていたのに、ここに書かれていた「矢部真美」は
自分を唯一かばってくれたクラス委員だったからである。

「どうして、あんな真面目な人がこんなことするの?」
逆にみさはショックを受けてしまった。
そしてメラメラと怒りがこみあげてきた。

「嫉妬によって何もしてない私の人生を妨害しようとするなんてひどすぎる。
 私には復讐する権利があるわ。マコトさんの言う通りにしてもらうわ。
 一生苦しめてやるわ!許さないわ!」

シャップがみさの元に飛び込んできた。
「みさ、ダメ、復讐の誘惑に負けてはダメ」
「だって、悔しいじゃない。こんなに私は苦しんだのよ!」
「もういいんだよ。マコトさんに写真を削除してもらえばいいの」
「でも、ひどすぎるわ。私の気持ちが治まらないわ!」

するとダギフ様がみさの脳裏に現れた。
「みさ、君はそんなことをする人じゃない。
 彼女も辛い状況だからこんな愚かなことをしてしまったんだ。
 許してやりなさい。
 君をいじめた人も後悔しているよ。だからみんな忘れるんだ」

それを聞いてみさは怒りを覚えながらも、段々と冷静さを取り戻した。
「分かったわ。彼女を許します。
 マコトさん、投稿された写真を削除してください」

するとマコトからメールが送られてきた。
「了解。削除しておくよ。
 彼女にはメールでさっきの内容を送っておくよ。
 全てお見通しだよって伝えておく。
 きっとビックリ仰天して二度と嫌がらせをしないだろうね」

みさはその日もショックで休んでしまった。
心配した社長が自宅に見舞いに来てくれた。
みさがこの件のことを社長に話すと、社長はやさしい言葉を掛けてくれた。

「人間というのは浅はかなものなの。
 人も、野菜やペットみたいに優劣のランクがあると考えてしまうの。
 生まれつきや育ちによって人生が既に決まっていると思い込んでるの。
 みんな、自分が高いランクでないことに不満を抱いて、自分より上だと思う人にケチをつけたり、
 自分より下だと思っている人を見下して心を慰めているの。
 だから、下だと思っていた人が成功すると許せないと足を引っ張ったりしてしまうの。

 でも、それは人間の真実を知らない浅はかな思い込みによるの。
 占いの理論には、はっきり書いてあるわ。人の人生にランクなんてないの。
 全ての人に目的や意味があって、平等に輝くチャンスが与えられているの。
 どんでん返しも当たり前にあるのよ。
 人間の人生は偏差値で計ったような単純なものではなく不可思議なものなの。
 私は、人生の可能性を教えて勇気づけるのが占い師の仕事だと思ってるのよ。
 あなたはそれを身を持って証明してるのよ」

 社長の言葉に救われるみさであった。
しかし、この後、更なる試練と誘惑が襲ってくるとは予想だにしていなかったのである。

つづく
 
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