本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第13話 同業者の呪い>

 みさの現実と夢の中の二重生活は続いていた。夢の中では様々なことを
教えてもらっており、特にアフリカの各地の文化や工芸などについて各地の講師に
教えてもらうことが何よりも楽しみになっていった。ダギフ様もそれが日本で
役に立つからと勧めてくれていた。同時に、呪術についての授業も必ず
受けさせられていたのであった。
 
 最近では講師であるジェマが実践呪術のテクについて具体的に教えてくれるように
なっている。敵についてイメージ化して図に書き示して、その中のリーダー格の人を
攻撃して集団をかく乱する方法、恐怖や妄想を与えて戦意をそぐ方法、人間関係を
疎遠にして結束力を削ぐ方法など。

 実際、アフリカ西部やアラブにおいて呪術師が侵略者達の集団に呪いを掛けて
打倒することに成功しているらしい。成功するとそれが伝説になって人々は
恐れて来なくなるという成果も出ているようである。

 しかし、呪術にはまた呪術の報復合戦があり、防御する技術も必要であると教えられた。
術や生霊の攻撃を受けた時の防御方法として、バリアを張る、人形にそらす
などの方法があることも教えてもらった。また、呪術の戦いで最も重要なことは
多くの霊的存在を味方に付けることであり、それにはテクだけでなく日頃からの
信仰や霊的存在との駆け引きが必要であることも教わった。

 ちょっとみさには興味が湧かない授業ではあったが、必要なことらしいので
努力して勉強に勤めたのであった。

 夢から覚めた現実の生活も次第に充実してきた。みさの評判を聞いて相談に来る
人が増えてきて、みさはこの界隈では有名な霊能者となっていた。仕事が増えるに
連れて給料も増やしてもらうことができて、生活も楽になってきた。

 ある日、50代くらいの女性が近くの休憩所にずっと座っていることに気づいた。
その女性はみさに相談するでもなく離れたところからみさを見つめたり、そらしたり
を繰り返している。彼女がこちらを見つめる度に強い圧力のようなものがみさに突き刺さる
ような感覚を覚えた。みさには彼女が敵意を示していることが分かった。
そして彼女が普通の人ではなく特殊な能力を持った人であることもわかった。
風貌もちょっと普通の人ではない。派手で妖しい衣装を着て目つきが鋭いからである。

 その女性はこの地域に昔から居る仏教系の霊能者 天龍宮徳明院 であった。
この地域では彼女に病気治癒や日々の生活の相談をする人も多く、
多くの人のスピリチュアルな面のホームドクターみたいな仕事をしているのであった。
彼女はみさの噂を聞きつけて偵察に来たのであった。

「あれが噂のみさか。小娘じゃないか。あんな女にこのシマを荒らされたとあって
 は私の顔が立たないわ。痛い目に遭わせて追い出してやることにするか。
 私を怒らせて無事だった人は今まで一人もいないのよ。
 私の恐ろしさを思い知らせてやるわ」
とこの女性は笑いながら席を立った。

 隣にいた占い師がみさの所に来て小声でさきほどの女性について教えてくれた。
「さっきあっちに座っていた女性、天龍宮さんと言う人よ。霊能者よ。みさのことを
 睨んでいたわよ。この辺では昔から有名な能力者よ」
「あの人は霊能者だったんですか? どんな人なんですか?」
「信者は大勢いるみたい。何でも教えてくれるし、病気も治してくれるみたい。
 でも、噂じゃ一度頼ったら抜け出せなくなるって話よ。頼ってる人達は病気や
 不幸が続いて結局は幸せになってないという噂もあるのよ。変な宗教と一緒よ。
 気をつけた方がいいわよ。あの人に睨まれた人はみんな倒れてしまったという噂があるわよ。
 みさちゃんも、彼女に狙われたら早く別の場所に移転した方がいいわよ。
 社長に言って別な場所に移してもらえばいいわよ」

みさは「私は何も悪い事してないし、狙われる理由がないわ」と思っていると隣に
居たシャップがテレパシーでみさに話しかけた。
「さっきの人、かなり敵意を送ってたよ。僕の見立てだとあの人はみさを商売仇だと
 思ってるよ。気を付けた方がいい」

 みさは天龍宮という人がどんな人かを透視してみたところ、大勢の武士の姿が
見えてきた。いかつい姿をして今にも刀を手にしそうな感じである。
大勢の武士が守っていて、女性の身辺には動物霊やら獣のような姿の霊達が
大勢いて霊力を支えているのが見えたのであった。

 その日の夜であった。みさは風呂に入って髪を乾かした後、寝床に就いた。
夢の世界への出発しようとしており、布団の中に入って眠りに就いてていた
その時である、いきなり全身に針で付いたようなチクチクする痛みが・・
「痛い・・」みさは目を覚ました。体中の皮膚がチクチクする。
「なに、この痛みは・・」みさはパニック状態に陥った。
「何か悪いものでも食べたのかしら? 虫刺され?」などと考えてみたが同時に
体中の皮膚が痛むのは経験したことがない。我慢できないほどの苦しみ・・
みさは「助けて〜」と叫んだ。

 すぐにキバやシャップが駆けつけてくれたが、原因が分からない。
「霊じゃない・・でもみさの皮膚にはたくさんの針みたいなものが見えるよ」
キバには針を取ることができないし、シャップが爪を立てて針を掻き取ろうと
したが針は次から次へとみさに刺さってきて取り切れない。

 するとジェマが現れた。
「みさ、これは呪術だ。ぬいぐるみに身代わりになってもらうんだ」と伝えた。

みさは夢の中で習った身代わりの術を思い出し、部屋にあったクマのぬいぐるみに
身代わりの術を掛けた。すると針はすうっと消えてぬいぐるみに移っていった。
ぬいぐるみはみるみる色あせていくのが見えた。
ジェマは術について説明した。
「これは今日、みさを睨んでいた女性が掛けた術だね。白い四角で柔らかい食べ物を
 みさに見立てて針をたくさん刺して術を掛けているのが見えるよ。凄い力だ」
「四角くで白い食べ物って豆腐のことだわ」

ほんの数分でも気が狂いそうになるほどの術だったのでみさは恐怖で体が震えた。
「どうして私が・・」不安と恐怖でその日はほとんど眠れなかった。

 次の日の夜、部屋でTVを見ていると突然めまいがしてきた。喉や胃が苦しく
なってきた。そして体中にじわ〜と重苦しい感じが伝わってきた。まるで突然
熱中症の症状になったみたいな感じである。みさは横になり、原因を考えた。
「風邪?、それとも疲労?」しかし思い当たるふしはない。しばらく横になって
も治るどころかどんどん体の調子が悪くなってくる。まるで血液に毒をどんどん
注入されているような感じである。やがて苦しくて呼吸ができないような感じに
なってきた。「何なの?」
すぐにキバがやってきたが霊が攻撃している訳ではないので対処できない。
シャップにもどうすることもできない。

 するとまたジェマが現れた。
「また、昨日と同じ人が術を掛けてるよ。これは病気や疲労の毒をみさの
 血液に注入しているんだよ。おそらく自分の患者から取り去った毒やら
 悪霊を集めておいて、それを相手の血液に封入する術なんだな」
「ジェマさん、どうしたらいいの」
「このまま放っておくとみさは原因不明の重病で寝込むことになるよ。
 術を跳ね返すバリアを張るんだ。夢で教えてもらったはずだよ」
「ダメ、苦しくて術も使えない。助けて」

するとシャップが「僕がやってみる」と言って腕を上げて無理して呪文を唱えた。

「マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ」

と唱えた。するとみさの周りにバリアが形成されて送られてくる毒がバリアの周りに
食い止められて張り付いていくのが見えた。次々と毒が送られてきてアッと言う間に
バリアの周りが真っ黒くなってしまった。
 みさはバリアによって多少は楽になったので、邪気を抜く術を行って自分の体と
バリアに張り付いた毒を近所の川に捨てた。
 みさはバリアを自宅や自分の周りに幾重にも張って防御を固めることにした。

 翌日からは攻撃が無く、相手は諦めたのだろうと安心した。
しかし、今度は職場に異変が起きるようになったのである。占い部屋に出勤して
他の占い師に挨拶をしても何故か答えてくれない。みんな話しかければ愛想程度に
答えてはくれるがそっけない対応を取るようになった。

 ある時みさは、占い部屋に入ってきたお客に愛想よく「いらっしゃいませ」と
声を掛けて招き入れて占いをしたところ、他の部屋の占い師が怒鳴りこんできた。

「ちょっと、あんた、さっきのお客は私の常連さんなのよ。横取りするつもり、
 最近、あんたいい気になってない? みんな陰でそう言ってるわよ?
 お客は横取りするし、社長におべっかつかうし性格わるいわね〜」

と強烈な嫌味を浴びせたのである。占い部屋は凍り付く雰囲気になってしまったが、
誰もフォローをしてくれない。何かいつもと雰囲気が違う。
みさはショックを受けて何も口にできなくなってしまった。
シャップが慰めてくれた。

「きっとこれは術だよ。天龍宮が術を掛けているんだよ」
みさは夢の中で仲たがいをさせる術があるという話を聞いたことを思い出した。

みさは目をつぶって霊視してみた。するとこのデパートのフロアのあちこちに
武士の霊が多数居ることが見えた。占い部屋にもたくさんの霊が居て悪意を出して
いることがわかった。

「武士の霊を式神みたいに使っているんだわ。嫌がらせしているのね。
 しかも手ごわいわ。武士の霊だから強そう。
 ジェマさんの分身さんでも倒せないかもしれない」
と不安に感じたのであった。

シャップは状況を説明してくれた。
「みさ、間違いなく天龍宮が呪いを掛けているよ。ダギフ様もそう言ってるよ。
 みさが目障りなんだよ。同業者の妬みというやつ。
 彼女は大勢の霊を従えている女王様ね。霊達はこの辺りの縄張りを支配する
 ヤクザみたいなもの。悩みを抱えて相談に来た人達を一度は助けるけど、その後
 まとわりついて金品やエネルギーを生かさず殺さず搾り取っていくの。
 悪質なタイプの霊能者よ。

 この地域の神仏はこの霊団を厄介だと思ってるけど、ヤクザと同じで悪霊達を
 抱え込んで抑える役割もしているので容認しているわけ。
 ダギフ様は、この地域の問題なのでこの地の一之宮の神様に相談するのがよいと
 言ってるよ。場合によっては移転することになるかもって」
「移転? どこに?」
「その内わかるらしいよ。
 ジェマが神社の神様に退治してもいいか?掛けあっているらしいよ」
「ジェマさん、思いっきり異国人じゃない? 神様が相手にしてくれるかしら」

占い部屋の険悪な状況は益々ひどくなり、みさは完全に無視され、辛く当たられる
ようになってきた。出勤することがストレスに感じられるようになってきたのであった。
人間関係が辛くても耐えられる呪文「ロモンワトソー・トナデー・ソモラユンロ」を
唱えて耐え忍んでいたのであった。

 ある夜、自宅に帰り、眠りに就こうとすると何だかざわざわしてくるのを
感じた。霊感を研ぎしましてみると自宅及びその周辺に何千と思えるほどの霊が
集まっている。「どういうこと、まさかあの天龍宮が?」と思った時、突然、
部屋の四方から武士が何人も刀を持って入ってきた。みさは「きゃー」と声を
上げて起き上がった。キバが現れて自分のそばで威嚇してくれた。しかし、武士は
大勢いる。まるで討ち入りのような状態である。
武士の一人がにやりと笑って刀を振り、襲い掛かってきた。「あ、切られる」と
思った時に目の前にジェマが現れた。武士は邪魔するジェマを真っ二つに切った。

「ジェマさん」と叫ぶと別の方角から「大丈夫だよ。分身だから」と聞こえてきた。
そしてキバとみさの周りにドーナツ状に分身が大勢出現して互いに押しくらまんじゅうの
ように固まってドーナツ状のバリアを作った。
武士の霊はこのドーナッツを払いのけようと何度も刀で切りつけたが切れた瞬間に
またくっついてこのドーナッツは一向に払いのけられない。
武士の霊達は「何だこれは?」と首をひねって困り果てた。

ドーナツの中でみさは震えていた。天龍宮の恐ろしさを身に染みて感じていた。
「ジェマさん、どうしたらいいの?
 謝って、この町から出ていくと言えば許してくれるかしら?」と訴えた。
するとドーナッツから声が聞こえた。
「君は何も悪い事してないじゃないか?
 敵は2,3万は居るな。戦ってもきりがないね。
 最後の手段を使うしかないね。応援の軍隊を今呼ぶから。
 ここ数日、一之宮の神様に、戦う許認可を申請していたんだよ。
 異国の軍をここに入れるわけなので許可をもらわないとねえ。
 最初は異人として門前払いされたけど協力してくれた人がいたんだよ。
 井喜田成勝さんという人が一緒に掛けあってくれたよ。
 そしたら神様がすぐに許可を出してくれた。
 今がグッドタイミングだ。アラビア半島から軍団を呼ぶからね」

しばらく武士の霊とのにらみ合いの緊迫した状況が続いた後、遠くの方から
地鳴りが聞こえてきた。みさには霊的感覚でドドドドと聞こえてくるのであった。
「あ、何かが来る、凄い大勢の何かが・・」
そしてその音は激しくなって自宅の近くまで迫っていた。ドドドドと凄い音がして
自宅がゆらゆらと揺れた。武士の霊達も「なんだ、なんなんだ」と動揺していた。
遂に家にまで迫ってきて何か侵入してきた・・・それは、ハサミをもった大きな怪物だった。

みさは映画のエイリアンを思い出して「キャー怪物・・」と叫んでしまった。
それは人間の倍くらいの大きさのサソリであった。
サソリはぞろぞろと部屋に入ってきた。武士達は刀を使って
「おのれ、妖怪退治してくれるわ」とサソリに切りかかったが全く刀が効かない。
サソリ達は武士をハサミでひょいと掴んで、そのまま外に連れ出していった。
みさが霊視してみるとサソリの数は集まってきた霊達の何倍もいる。この周辺
全体にサソリの化け物が結集している。まるでSF映画の世界。
サソリ達は集まっていた霊をことごとくハサミで掴んでどこかに消えてしまった。

 サソリの軍団は天龍宮の家にも大挙して押し寄せていた。その数3万くらい。
天龍宮の家でも地響きがして、家来の霊達が「何だ、何だ?」と騒ぎだしていた。
あれよと言う間に家の周りにサソリの軍団が結集した。
天龍宮は「何事なの?」と家の周りを見て驚いた。
自宅の周りに、とんでもない数の怪物達が包囲している。
家来の霊達が怪物とにらみ合っている。まるで合戦前のようである。

「何なのあれ? どこから来たの? 見たこともない怪物・・
 は、早く、怪物たちを倒しなさい。攻撃しなさい」

パニック状態になった天龍宮は護衛の霊達に激を飛ばして突撃させたが、
突撃した霊達はサソリの餌みたいに摘み取られるだけであった。
それを見た霊達がビビっていると、ジェマが「突撃!」と号令を発した。
するとサソリの軍団は一斉に霊達に飛びかかった。
サソリの軍団は次々と霊を捕まえた。
あまりの勢いに霊達はちりぢりになって逃げ惑うありさまである。
サソリの軍団は霊達を追いかけて全て捕まえてしまった。
天龍宮の霊達はあっけなく全滅してしまったのである。
ジェマは霊がもう残っていないことを確認すると「退却!」と号令を発した。
するとサソリの軍団は、霊を掴んだまま、一斉にどこかに行ってしまった。
残された彼女は、護衛の居ない、裸の王様、いや裸の女王様になってしまったのである。

ジェマはみさに成果を報告した。
「みさ、敵の軍団を全て撃退したよ」
「あのサソリの怪物は一体何なの?」
「怪物じゃないよ。
 見た目は怖いが神様なんだよ。5万は来てくれた」
「霊達をどこに連れていったの?」
「そうだねえ。太陽にぶっこむかな? みんな汚れているから燃やして浄化するよ。

 今がチャンスだよ。反撃するなら。天龍宮は無防備だから」

みさは夢でならった術を使おうと天龍宮に意識を向けた。すると意外な光景が。
天龍宮は攻撃もしてないのに悲鳴を上げてもがき苦しんでいる。その姿が見えたのである。
彼女を襲っているのは今まで彼女に苦しめられてきた人の守護霊やら先祖霊、
彼女の悪行を良く思っていなかったこの土地の霊達であった。
無防備になった彼女に、この時とばかりに敵意を持つ霊達が一斉に報復していたのであった。

「私が反撃する必要なんてないわ。もう彼女はやられてるわ。
 相当いろんな霊から憎まれていたのね。

 ところでサソリの軍団を統率するなんてジェマさんカッコいいわ。
 それに意外と日本のサムライって弱いのね」
「ほとんどは本物のサムライじゃないよ。サムライの真似をした霊だね。
 刀を持っている方が強そうに見えるから、真似したくなるんだね」

 後日、天龍宮が入院して廃業したとの噂がみさに伝わってきたのであった。
そして社長の有子がやってきてみさに告げた。

「みさ、聞いたわよ。霊能者に襲われたんですってね。無事でよかったわ。

 あなたに良い話があるのよ。以前、スピリチュアルマシンとか言ってた
 武田賢治さんがバイク店を改装して占いカフェを開くことになったの。
 是非、みさに来て欲しいって言ってるのよ。占いだけでなくカフェや
 雑貨もやるのよ。あなたの才能が発揮されるわよ」

これを聞いてみさは喜んだ。
「有子さん、ありがとうございます。是非店で働かせてください」
天龍宮の嫌がらせによって他の占い師との人間関係がギクシャクするようになって
この場所が居づらい雰囲気になっていたこともあり、みさには好都合であった。

「じゃあ、来月から移転してもらわよ」
「わかりました」

 せっかく占い部屋の皆さんと仲良くなったのに呪いによって険悪にされてしまい
そのまま逃げるように引っ越すのはちょっと心残りであったが、
みさはこれによって自分の店を持つという夢を実現することができたのであった。

 実は、占い部屋の人達がみさに冷たくした本当の原因は呪いではなく
みさの人気に嫉妬していたからであったがみさはそれに気づくことはなかった。

つづく

※ ロモンワトソー・トナデー・ソモラユンロ の呪文は辛い状況でも精神的に耐えられるようにする効果があります。(推奨10回)



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