本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第11話 失踪者探し>

 ある日のこと、みさは占い部屋でタウン誌を読んでいた。
丁度お客が来ていなくて、暇つぶしをしたのである。

 タウン誌には、地元の理想都市「ユートピアオーシャンシティ」の広告が大きく出ていた。
ここは海を望むことができる高台にできた新興住宅地であった。
そこには綺麗な家がずらりと立ち並んでいて地元では憧れの的だったのである。
ここは単なる高級住宅街というだけでなく、公民館、各種施設、病院、学校などの
公共設備が完備された一つの要塞のような街だったのである。
周囲には自然農園や自然エネルギーの発電所などもあり、経済・生活すべてを
一つにまとめた未来指向の実験都市でもあったのである。

 コンセプトとして「共生・ふれあい・エコ・安全」を掲げていた。県もこの都市への
入居者誘致に積極的であり、東京などの都会から裕福な人達が入居していた。
みさは「うらやましいわ。こんな町に住んでみたいわ」とため息をつくのであった。

 そうこうしているとキバが突然みさの頭の上にやってきて威嚇し始めた。
「何かしら?霊がこちらに来るのかしら」と思っていると二人の男性が
訪問してきた。ちょっと上品なお父さんという感じの二人であった

 二人の内の一人がみさに相談を持ち掛けた。
「私は橋田と申します。ユートピアオーシャンシティの住人です。
 相談があるんです。実は私の息子のことなんです。息子は5歳なんですが・・
 失踪してしまったんです。霊感があるというあなたにどこに居るか探して欲しいんです。
 こちらに居るのは隣の家の御主人 江藤さんです」

江藤さんも挨拶をした。
「私は橋田さんご夫婦とは家族同然の付き合いをしています。
 橋田さんの奥様が寝込んでしまったので代わりに私が同行しました」

 江藤はシティを建設した会社に勤めていて自ら理想都市のプロジェクトに参加して
いたので、隣人の息子が失踪したことに強いショックを受けているようであった。

「私が手がけたこのシティは日本中で注目されている未来型の都市なんですよ。
 エコや循環型の都市というだけでなく、住民がみんな一つの村のように親密に
 生活するというコミュニティなんです。それによって子供達の安全も確保される
 んです。それを提唱してきたこのシティで失踪事件が起きてしてしまったことは
 残念でなりません。
 きっとどこかで元気に過ごしていると信じています。どうか探してください」

 みさは申し訳なさそうに答えた。
「ごめんなさい。失踪者探しはお断りしています。例え何かが見えても探し当てること
 は私の能力ではできないです。相談者を振り回して悩ませてしまうだけです。
 警察が協力してくださるなら別ですが、日本ではそれは期待できませんので・・
 それに会社からも禁止されているんです」

 みさは社長から失踪者探し、犯人捜しは絶対に応じてはいけないと言われていたのである。
その一番の理由は事件だった場合、大変なことになるからであった。
もし、殺されていてその死体を発見したりしたら、犯人に命を狙われる危険がある。
また、1件でも事件を解決した実績を作ったら、犯罪を隠している人達に不安を与える
存在になってしまうのである。
「もしかしたら、あの能力者は自分の犯罪を暴くかもしれない」
そういう不安にかられて能力者の命を狙うかもしれないからである。
「例え真相がはっきりわかっていても、犯人がわかっても、絶対に口にしてはだめ」
と社長に強く言われていたのである。

 二人は残念そうな顔をしながら
「そうですか、残念ですが、あきらめます」と落胆しているようであった。
みさは探し物・探し人が見つかる呪文を伝えた。
ホロワ・モモワワノ・ン・ン・ロトノ・ロメモ という呪文であった。

 二人が去った後、部屋に少年が現れた。
 無表情な顔してぼーっと立っている。そしてこちらを見つめている。
キバが少年の霊を睨んだ。
みさにはこの子が先ほどの相談者が言っていた男の子である気がした。

「ぼく、さっきの橋田さんの子供なの?」
「うん」と答えた。
「今どこに居るの?」と伝えると、子供は指を刺した。
するとその先に映像が写しだされた。
小屋のような倉庫の中の藁の中に死体が隠されている映像が空間に映し出された。

みさは思った。
「この子はもう死んでいるんだわ。この子の死体を見つけてあげたいけど、
 それはできない。もし、そんなことをしたら私は命を狙われてしまうから」

少年は「おねえちゃん、僕を見つけて。僕は殺されたんだよ」と訴えた。

それを見てみさは辛くなった。「私が見たこと、分かったことを橋田さんに
教えてあげたい。でも、それはできないわ。ごめんなさい」と答えた。
そして子供が成仏する呪文を唱えた。すると子供が殺された時の苦しみが
みさの体に伝わってきた。子供は男によって、水を入れたバケツに顔を入れられて
窒息死させられたのであった。
その時の苦しみ、そして恐怖と悲しみ がみさに伝わってくるのであった。
続いて
殺された後に男の子は裸にされて小屋の藁の中に隠されたことがビジョンとして見えた。
しかし、犯人は黒っぽくぼんやりした姿ではっきり見えなかった。

「こんなに苦しい思いをしたんだわ。可哀想に。何とかしてあげたい・・
 犯人は誰なのかしら? いやいやそれは見てはいけない。
 犯人がわかってもどうすることもできないから」

みさの心は憂鬱になってしまった。心が苦しいので社長に電話して相談した。
社長はなぐさめるように諭した。

「みさ、どうしようもないことだから忘れなさい。きっと警察が解決してくれるわよ。
 いい、絶対この件に深入りしてはダメよ」

 しかし、この件はこれで終わらなかった。少年の霊は毎日のようにみさの元を
訪れてみさに死体を発見してと頼むようになったのである。みさは少年が可哀想に
なってきた。
「何とかできないのかしら?」と悩んでいると
 ジェマが現れた。
「みさ、しばらくぶりだね。夢の中では過去の私と毎日会ってるみたいだけど・・
 みさ、犯人を霊視してはいけないよ。知ってしまったら君は悩むことになるから。
 人間にとっては知ってはいけないこともあるんだよ。

 少年を思う君の気持もわかる。そこで一計を案じてみた。
 少年の関係者全員に夢で死体の場所を見せる術を掛けてあげるよ。
 その内の誰かが気付いてくれると思うよ。
 それと君も術を掛けてみるといいよ。
 犯人の罪の意識を刺激する術を。
 少年が化けて出てくるイメージがいいと思う。
 犯人に自首させるんだ。うまくいけばそれで解決するよ」
「ジェマさん、ありがとう」

みさは言われた通りに術を掛けてみた。
「マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ」
と呪文を唱えて念じた。

 一週間位したある日、先日の二人が再びみさを訪れた。
「先日相談した者です。最近我々や近所の人などが夢の中で息子のことを
 見るようになったんです。それも内容がみな同じなんです。小屋のようなところで
 息子が隠されている夢なんです。
 教えてください。息子は死んでいるんでしょうか?」

みさはうつ向いて答えた。
「ごめんなさい。答えられないんです。会社の規則なんです」
「そこを何とか。教えて欲しいんです。真実が知りたいんです。
 もし、死んでいるなら一日も早く息子の死体を見つけてあげたいんです」
「ごめんなさい。何も私にはわからないんです」
「いや、あなたなら何か知っているはずです」

 キバがみさの頭の上に現れた。その直後、みさの目の前に少年が現れた。

少年は悲しそうに訴えた。
「おねえちゃん、早く僕を発見してよ。小屋はここだよ」
と指を刺した。するとそこの空間に映像が映し出された。
 高速道路の高架橋、そして焼却場の煙が見えた。その近くにある小屋だった。

 二人の男はまだしつこく、みさに何か手がかりを教えてと懇願した。
シャップがみさの横にやってきて「みさ、言ってはだめ」と伝えた。
江藤は
「かわいい猫だね。まるで何でも知ってるみたいな目をしてこちらを見つめているね。
 まさか、この猫も霊能猫なのかな?」と笑いながら話しかけた。
シャップはむっとして江藤を睨んだ。

 また少年が現れてみさに助けを求めてきた。キバは少年の霊に向かって
威嚇した。すると少年は悲しそうな顔をして消えた。
それを見たみさは少年が可愛そうだと、つい情に流されてしまい、
二人に見たことを話した。

「お二人にお願いです。私に聞いたとは決して言わないでくださいね。
 小屋は高速道路の高架橋、焼却場の近くにあります。そこに息子さんの
 死体が隠されています。
 息子さんは殺されてから裸にされて藁の中に隠されています。
 早く見つけて欲しいと言ってます。
 絶対に私が言ったことは秘密ですよ」

二人はそれを聞いて、すぐさま小屋探しに出掛けた。

 後日、TVで失踪していた少年の死体が小屋から発見されたというニュースが流れた。
少年の霊が両親や近所の人の夢に現れて、死体が隠されている小屋を示したのである。
それに霊感のある人のアドバイスも加えた情報を基に隣人達が団結して死体を発見したという
衝撃的なニュースであった。

 この不思議なニュースは世界中に配信された。霊のお告げによる不思議さもあったが、
コミュニティの住人の団結力も人々を驚かせたのであった。
 すぐさま、この地域で少年少女にいたずらを繰り返している変質者が容疑者として
浮かび上がり、警察が行方を追いかけるという状況になっていった。
 みさの元には誰もこの件について問い合わせて来ることがなかったので
「あの二人は私が言ったことは秘密にしてくれたんだわ。
 これで少年も成仏できるわ」とほっとしたのであった。

 ひと月ほどが過ぎたある日のこと。
みさが仕事から帰ろうとした時、ボックスカーがデパートの近くに駐車してあり、
先の二人がデパートの入り口で待っていた。みさを見つけると手を振った。
みさがお辞儀をすると橋田は声をかけた。

「先日はありがとうございました。
 凄いですね。あなたの言う通りの場所で息子は発見されました。
 息子が殺されていたことはショックでしたが、息子を発見してあげることが
 できてよかった。お願いがあるんです。ほんの30分でよいのでつきあって
 欲しいんです。息子の遺骨に線香をあげて欲しいんです。あなたに・・」

そしてボックスカーの中から橋田の妻、江藤の妻も出て来た。
「お世話になっています。今日はみんなで弔いをやろうということになりました。
 是非、あなたにも参加して頂きたいんです。30分でよいんです」

みさはこの仲の良い夫婦達の気持ちに打たれて一緒に車に乗った。
「これから自宅に行きます。線香をあげてくださったらあなたの
 お宅までお送りします」と橋田は運転しながら口にした。

 10分程走った時、急に車が止まった。そこはシティではなく人気の無い森であった。
みさは「どうしたのですか? ここはシティではないですよね」
と言うと江藤は笑いながら答えた。

「そうさ、ここはシティではないよ。君が眠る場所だよ」
「ええ、どういうことですか?」
「君は見えていたんだね。全てが・・
 俺たちはただ、死体の場所を適当に透視して欲しかっただけさ。
 死体を発見する口実として君を利用したかっただけなのさ。
 透視なんて信じてなかったが、君は小屋の場所を当てた。
 そればかりか、殺害の全てが見えていたようだね。
 君は”息子さんは殺されてから裸にされて藁の中に隠されています”と言った。
 君には子供が殺される場面がはっきり見えていたんだね。つまり犯人もだ」
「いえ、犯人なんて見てません」
「殺してから裸にする偽装工作も見ていたんだね。
 変質者の犯行にみせかける偽装工作を・・」
「ど・どういうことですか・・まさか、犯人は江藤さん・・」
「ちょっと違うな・・犯人は俺たち4人全員だ」
「どういうことなんですか? 橋田さんご夫婦もですか? 息子さんを・・」

橋田がにやりと笑いながらみさに答えた。

「教えてやろう。あの子は俺の子じゃないんだ。江藤の子だったんだ。
 理想のシティはその名の通り、隣人が家族のように交友する町さ。だが盲点があった。
 不倫が横行したのよ。よりによって妻と隣の江藤が不倫してその結果、あの子が生まれた。
 最初は気づかなかったが成長するにつれてあの子は江藤に似てきた。
 これは隠しようがない。しらばっくれてもDNA鑑定すればいずれわかる。
 隠し通せるものではない。二人は不倫していたことを認めたわけさ。

 もう大変な修羅場になったわけだが・・周囲に気づかれる訳にはいかない。
 しかたないのでみんなで仲良い隣人・仲良い夫婦を演じることにしたのさ。
 みんなで仮面をかぶっていい人ごっこをなあ。結構きつかったな。

 俺はこの江藤がどうしても許せなかった。息子への愛情も失せた。
 このままではいずれ俺は耐えられなくなって爆発する。
 江藤も不倫が噂になったら会社に居られなくなる。
 何しろこの町を作った立役者だからな。
 俺たちは破滅することになる。ここは逃げ場のないコミュニティーだからな。

 そこで俺たちは計略を図ったのよ。
 息子にはすまないが死んでもらうことにした。変質者に襲われたということにして。
 江藤は事件が起きたことで責任を取って転勤を申し出て引っ越すというストーリーさ。
 そうすれば周囲の人達は同情もしてくれて何もかも穏便に済む。

 君には死体発見の手助けをする「ふり」だけしてもらえばよかったんだが、
 君は本当に能力があるようだ。俺たちが殺したことも、変質者の犯行に
 見せかけたことも見えていたんだね。それは誤算だった。
 君はしゃべってしまうかもしれない。
 あるいはシティの誰かが君に犯人捜しの依頼をするかもしれない。
 それは困るんだ。だから君には消えてもらうよ」

みさは驚愕して命乞いした。

「そ、そんな。あなた達が犯人だったなんて見えなかったです。
 助けてください。私は絶対に何も言いません。誓います」
「もう遅い。全てを知ってしまった今、生かすわけにはいかない。
 我々のシティは800人もの人が住む理想郷なんだよ。
 国の将来もこのプロジェクトに掛かっているんだ。
 この事件がばれたら全てがパーになってしまう。
 一人や二人の人間の命なんかよりずっと大事なんだよ。だから君にも死んでもらうよ。
 これは犯罪なんかじゃない。
 シティと国の未来を守るための害虫駆除みたいなものさ。
 さあ、車から降りるんだ」

 みさは車から降ろされた。絶体絶命の危機である。
相手は4人。呪術では対抗できない。
一人の男がみさの両手を後ろから押さえつけ、もう一人はロープを持っている。
自分の首を絞めるつもりであることが想像できた。

「もう、どうしようもない。ここで叫んでも無駄・・」
みさの心は恐怖で張り裂けそうであった。
「お願い助けて! 私が一体何をしたというの?」
と懇願したが男はみさの首にロープを巻き始めた。
「ああ、もうダメ」と思ったその時であった。

人の気のないこの場所に突然、黒い車が走ってきて、目の前に止まった。
車から二人の男が出てきた。「警察だ!観念しなさい」と叫んだ。
続いて一人の女性が出てきた。二人の男を指揮しているような感じであった。

「その人を殺す気? 殺人未遂の現行犯ね。
 どういうことなのか?署で説明してもらうわ。
 すぐにその人を離しなさい。
 パトカーも今呼んだわ。逃げられないわよ」

 突然のことで橋田夫婦も江藤夫婦も呆然と立ち尽くしてしまった。
二人の男が橋田と江藤を押さえつけた。
しばらくするとパトカーが何台もやってきて、警察官が4人を逮捕した。
更にパトカーには有子が乗っていてみさを迎えてくれた。
みさは有子に抱き付いて泣きじゃくった。
有子はみさをやさしく抱きしめて慰めた。

「怖かったでしょう。もう大丈夫よ。
 念の為に警察に相談しておいたのよ」
「ごめんなさい。禁止されていたのに霊視してしまったの」
「そうだと思ったわよ。 
 これでわかったでしょ。事件には首を突っ込んじゃだめなのよ。
 人間は不安を消し去る為なら何でもやってしまうのよ。
 だから見えても言ってはいけないのよ。
 疲れたわね。しばらく休みを取りなさい」

「社長、ありがとうございます」

先ほど車でやってきた女性がみさに近づいてきた。
「みささん、私は東野美玲というの。よろしくね」
と名刺を差し出した。若くて綺麗な女性である。

「あの、刑事さんですか?」
「私は刑事とはちょっと立場が違うんですけど・・
 これからみささんとは一緒に仕事をすることになるわ」
「どういうことですか?」
「その内話しますね。
 また今回のような事件があったらいつでも連絡してね」

そう言うとその女性は車でどこかに行ってしまった。
 
 後日、みさはあの日のことを思い出すと、疑問に思うことばかりであった。
あの女性はどうしてあんなにタイミングよく来てくれたのだろうか?
社長もすぐに来てくれた。まるでドラマのラストシーンのようである。
どうしてそんなことができたのだろうか?

「もしかして、あの女性は私のことを常に監視しているのかしら?
 あの人は一体何者なのだろうか?」
と思ってもらった名刺を見ても「東野美玲」という名前と電話番号、
メルアドしか書いてない。
「不思議な名刺?肩書が何も書いてない」
みさにはミステリーであった。
背負うべき重大な任務を未だ知らなかったので当然であった。

シャップがいつものようにみさに寄り添って話しかけた。 
「今回は怖い体験をしたね。ダギフ様も随分心配していたんだよ。
 危機一髪で助かったのはダギフ様やジェマのお陰でもあるんだよ。

 今回、いい勉強になったはずだよ。
 あんな幸福を絵に描いたような人達でも本当は苦しんでいたんだよ。
 地獄のような日々を送っていたんだよ。
 幸福を演じていたから逃げ場もなかったんだよ。
 人間そんなものなんだよ。
 他人は幸せそうに見えても心の中は地獄だったりするんだ
 だから、他人を羨んではいけないよ」

つづく

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