本作品は2017年作です。

●宮魔大師 シリーズ●

<第6話 ギャンブラー>

 霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
「何でも請け負う」という噂が広まっており、宮魔のところにはいわくつきの
お客が多く訪れるようになっていた。

 ある日のこと、宮魔のところに気の弱そうな痩せ型の青年がやってきた。
うつむきながら相談を始めた。

「あのう、初めまして山本と言います」
「何か相談ですか?」
「宮魔さん、僕は、あなたを一目みて分かりました。
 あなたは本当に能力がありますね。
 僕にはわかります。僕にも能力がありますから・・
 でも、あなたの方がずっと上です。それもわかります」
「ほお、君も能力があるの?」
「あります。僕には霊感があります。予知ができます。
 何でも当てられます。外れたことはありません。
 子供の頃、先生に当てられるのを全て予知できました。
 テストもマークシートだったら満点取れます。
 クジも全て当てられます。人の嘘も全部わかります。
 あんまりにズバリ当てることができるので気味悪がられてしまいます。
 だから、この能力はずっと隠してきたんです。
 テストだってわざと外しました」
「そりゃ凄い、この私よりも能力があるよ。
 うらやましいね。
 ギャンブルで儲けることができるじゃないか?」
「そうなんですが・・
 ギャンブルで勝つと必ず具合が悪くなって寝込んでしまいます。
 やってはいけないことなんだと思います。だからギャンブルはしません。
 そもそも僕、ギャンブルなんて大嫌いです」
「へえ、そういうものなのか?
 何でも分かるなら私に相談なんてしなくても透視できるんじゃないの?」
「それが・・
 最近おかしなことが起きるんです。
 最近、予知の映像の下に赤い線が見えるんです。
 こんなことは今までなかったんです。
 なんだか、怖くなりました。予知が外れるんじゃないか?と
 外れたらと考えたら恐ろしくて・・眠れないんです。
 そこで宮魔さんに教えて欲しいんです。
 この赤い線は何なのでしょうか?」
「ううん、何だろうね。
 その前に君が恐れている”外れたら怖い予知”とは何なんだい?
 聞かせてほしいんだよ」
「ちょっと長くなりますが・・
 僕は気の弱い何の取り柄もない男なんです。体も弱いし。
 級友からいじめられることもよくありました。
 だから、身を守ろうと懸命に努力したんです。
 そしたら何でも分かるようになったんです」

宮魔はこの青年を見て心の中で思った。

「確かに、ガリガリで気の弱そうな男だ。ルックスもさえないし、
 人に好かれるタイプでもないな。霊感だけは鋭いようだな」

「僕の能力をちょっとだけ見せてあげますよ」

青年はタブレットを取り出して、2ちゃんねるをアクセスした。

「今、ミュージシャンのミーヨさんが叩かれてますよね。
 ちょっとTVで失言したくらいのことで大騒ぎになってますよね。
 僕はミーヨさんのファンなんです。
 叩いてる人達が許せないんです」

そう言って青年は2ちゃんねるでミーヨの悪口を書いてる人に対して
レスを書いた。

「悪口書くのやめろ、俺はあんたの正体知ってるんだから。
 あんたは 横野修治 21歳、和歌山県のフリーター
 あんた、高校生の時、喫煙して停学くらってるな。
 人のこと言えないよ」

と書き込みをした。
すると執拗に悪口を連投していた名無しの書き込みがピタリと止まった。

続いて、別の人が書き込みを始めた・・

「あんた、透視でもできるんか? いいかげんなこと書くなよ。
 私のこと透視してみろよ」

青年はそれを見てにやりと笑って書き込みを始めた。

「あなたは東京都板橋区に住んでいる。BEMMという会社のOL、名前は美恵だろ?
 携帯番号の下4桁は 8184だろ?」

「うっそ、全部当たってるΣ(・□・;)」

とレスが書かれた。
青年は笑いながら書き込みをつづけた。

「これから、ミーヨさんを叩いた奴全員の住所・氏名
 そして隠し事や秘密を全て暴くからな!
 度胸のある奴だけ書きな!」

そこで、スレッドの書き込みがピタリと止まった。
宮魔はそれを見て目が点になった。

「君、凄すぎる。逆に凄すぎて危険だ。
 その能力、狙われるぞ。利用されるぞ。
 下手をしたら命を狙われる」

驚いた宮魔に向かって青年は話をつづけた。

「僕の能力を分かって頂けたようですね。相談を続けます。
 僕はある日、あこがれの人に出会ったんです。男らしい人です。
 その人はヤクザの親分なんです。
 僕はある日、居酒屋で友人に頼まれて占いをしていたんです。
 その時、その人が僕に声をかけてくれたんです。
 僕は占いをしてあげました。
 するとその人は感心してくれて、それ以来付き合いが始まったんです。
 その人は僕が占いをしてあげると代わりにいろんなことを教えてくれたんです。
 男の道とか、世の中のこととか、僕の知らないことを。
 お洒落な店とかいろんな所にも連れて行ってくれたんです。
 そして、約束してくれたんです。
 ”俺がヤクザの世界で天下を取ったらお前を占い師として独立させてやる”
 ”お前のために店を建ててやる”って
 その人は今、分裂抗争の渦中にある小さい組の親分さんなんです。
 今、激しい抗争が起きてるのを知ってますよね。
 勝ち抜いて天下を取る絶好のチャンスなんです。そう言ってました。
 僕はその人の為にいつも透視をしてあげてるんです。
 100発100中で当てて、その人はそれによってどんどん出世していってるんです。
 喜んでくれました。僕もうれしかった。この人はきっと頂点に立つ。
 そしたら僕も成功できる。僕も一人前になれると夢を描いてました。
 ところが、最近、何故か透視に赤い下線が現れるようになったんです。
 その人がトップにのし上がる山場の作戦に関する透視に線が出るんです。
 僕の予知では絶対に成功します。でも、何故か赤い線が・・
 不安なんです。これはもしかしたら・・エラーということなんでしょうか?」
「お前、暴力団と付き合ってるのか?
 やめろ、やばいぞ。恐ろしい世界だぞ」
「その人はいい人なんです。
 僕に夢を与えてくれた恩人なんです。
 その人と一緒ならうまくいきます」
「アホ言ってんじゃない。お前を利用してるだけだ。
 役割が済んだら捨てられるだけだ。
 暴力団お抱えの店長になる? そんなに世の中甘くないぞ。
 お前みたいな女々しい奴が極道を渡り歩けるわけないだろ?」
「僕にはその人が天下を取るのが見えます。
 その人が僕を守ってくれるから大丈夫です」
「天下を取るだって?
 そりゃ、ヤクザ達のイス取りゲームだぞ。
 いつ殺されるか分からんぞ。
 ギャンブルと同じだ。お前の嫌いな」
「もし、そうなら僕はギャンブラーになります。人生を賭けます」
「いいか、赤い下線は警告だ。
 危険なギャンブルだから手を引けって警告だ。
 そんな危険な真似はやめるんだ。普通の人生に戻るんだ」
「僕には他に何にも特技がないんです。
 アルバイトにしか仕事に就けません。
 僕の霊感の能力は神様が与えてくれたものなんです。
 これを使って人生に賭けます。それがギャンブルだと言うなら
 僕はギャンブラーになります」
「おい、ギャンブルなんてほとんどの人が負けてしまうんだ。
 やめろ。お前は俺と同じ霊能者になる方がずっといい。
 俺の弟子にしてやる。どうだ、その方がいいだろ?」
「宮魔さん・・僕を弟子にしてくれるんですか・・・」
「そうだ、お前は俺よりも才能がある」
「うれしいです。
 でも、僕は恩人と約束したんです」
「ヤクザなんか信用したらダメだ。
 逃げるんだ。俺がかくまってやってもいい」
「ありがとうございます。そのやさしい言葉忘れません。
 でも、僕はこの能力を使って頂点を極めてみたいんです。
 僕は昔から人に笑われて馬鹿にされるダメ男でした。
 でも、こんな僕でも夢があるんです。それに賭けたいんです。
 夢が実現したら殺されたっていいんです」

青年の真剣な訴えに宮魔は言葉が詰まり、しばしの沈黙が場を包んだ。

「山本くん、はっきり言おう。赤線が何かを教えよう。
 それはジョーカーさ」
「ジョーカーとは何ですか?」
「運命の落とし穴だよ。それに気づけってことだ。
 昔、腕利きのギャンブラーがいたんだ。百戦百勝で勝ち続けたんだ。
 どんな賭けをしても勝ち続ける。
 男はこのまま永遠に勝ち続けると確信した。
 そこで全財産を賭けて一発勝負に挑んでしまった。
 勝てば一生遊んで暮らせるほどの金を手に入れることができる。
 負けるわけはないと確信して全て賭けたのさ。
 ところがその一世一代の勝負に限って負けてしまい、一文なしになってしまった。
 彼はジョーカーを引いてしまったのさ。トランプにはジョーカーがあるだろ?
 ギャンブルをする奴にはこのジョーカーが落とし穴を用意して待っているんだ。
 君の予知の赤線もジョーカーの印だよ。信じたら落とし穴に落ちてしまうんだ。
 君を守護するいろんな存在が警告しているんだよ。手を引けと」
「恩人が抗争で負けてしまうということですか?」
「そうさ、早く逃げるんだ。もうヤクザなんかに関わってはいけない。
 その恩人は抗争で死ぬだろう。君の夢も消えてしまう。
 ろくなことがないぞ。俺の弟子になれよ。霊能者に育ててやるから。
 持って生まれた才能をギャンブルみたいな人生に使うんじゃない。
 君はギャンブラーには向かない」
「望みはないのですか?」
「俺の予知だと、0.1%くらいの番狂わせはあるかもしれないが、
 ほぼ0に等しいな」
「そうですか、それは残念です。
 僕の大切な恩人に抗争から手を引くように説得します」
「ヤクザとも縁を切るんだぞ。
 もし、縁を切ってくれなかったら俺のところに来い!
 俺がかくまってやる」
「ありがとうございます。
 僕のことを心配してくれた人は恩人と宮魔さんだけです。
 うれしいです。
 帰る前に宮魔さんに伝えたいことがあります」
「何だね」
「ちょっと・・言いにくいんですが・・」
「早く言ってくれよ」
「宮魔さん、僕には見えるんです。
 来年・・宮魔さんの身に危機が訪れます」
「危機って何だ」
「殺されるのが見えます」
「・・・
 そうか、やばい事ばかりしてきたからな」
「今年中にここから逃げてください」
「予知、ありがとう。
 でも、俺は運命には逆らわん。
 死ぬことなんて恐れてないさ。
 俺は簡単には死なないから。心配すんな」
「気をつけてくださいね」

そう言って青年は帰っていった。

 宮魔は、青年が言ってた恩人を透視してみた。
この人も苦労した人であることがわかった。
青年に会ったことで人生最大のチャンスを掴んだと確信しているのがわかった。
同時に青年のことを息子のように思っていることも感じられたのだった。

「共に夢を抱いて依存する間柄だったんだな。哀れな同士だ。
 この人は抗争で死ぬ運命だ。俺にはわかる。
 あの青年には抗争なんて関わって欲しくない。
 ヤクザやギャンブラーというタイプじゃないからなあ」

 ある日、ニュースを見ていると
暴力団同士の大規模な抗争事件が起きたことが報道された。

”現在、山田組と神戸山田組の分裂が波及して各地で抗争が激化しています。
昨日、全国で一斉に抗争事件が起きました。
東京でも大規模な抗争事件が起きて、機動隊が出動する事態となりました。
抗争により暴力団員20人が死亡したとのことです”

宮魔には例のヤクザが抗争で死亡したことが分かった。

「やはりな。あの青年にアドバイスしてよかった。
 一緒についていったら死んでいたはずさ」
「今頃青年はどうしてるかな? 俺の所に来るかな?」

など考えていると、来客があった。
宮魔がお客を迎えると、そのお客は例の青年だった。
青年は泣いている。
「君か・・どうしたんだ」
「宮魔さん、オヤジさんが・・」
宮魔は青年を抱きしめてなだめた。
「泣くな」
「オヤジさんは死んじゃったよ。僕のせいさ」
「君のせいじゃないよ。
 君の恩人は夢に賭けたんだよ。後悔してないさ。
 君は君の人生を送ればいいんだよ」
「僕、警告したのに・・だめだって言ったのに」
「それが本物のヤクザというものさ・・」
「僕、どうしたらいいんでしょうか?」
「俺の弟子になるんだ。
 お前の夢をかなえてやるぞ。オヤジさんの夢の半分以下だがな・・」
「ありがとうございます。
 僕にそんな優しい言葉をかけてくれたの宮魔さんだけです。
 気持ちの整理がついたらお世話になりに来ます」

青年は落ち着きを取り戻して、帰宅しようとした。
すると宮魔は青年にそっと語り掛けた。

「きみ、よく俺の所に来てくれたね。
 俺を安心させたかったんだな。
 律儀な奴だなあ。うれしいよ。
 でも、最後に一つだけ言わせてくれ。

 君、俺を騙そうとしても無駄だよ。俺は霊能者だよ。
 君がもう死んでいることはお見通しだよ。
 君はオヤジさんについて行ったんだね」

青年は宮魔を見つめながらすうっと消えていった。

「この青年は死ぬことが分かっていながら、恩人についていった。
 俺が逃げろとアドバイスしたのに・・
 0.1%の奇跡に賭けたんだな。馬鹿な奴だ。

 でも、君は弱い男なんかじゃなかった。
 本物のギャンブラーだったね。
 そして本物のヤクザだったよ」

宮魔はそっと手を合わせるのだった。

「そういや、この青年は俺の危機を予知してくれたなあ・・
 俺は来年に死ぬ運命だとか・・
 そろそろ裁きの日が訪れるってことか、
 受け入れるしかないかもね」

おわり



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