本作品は2017年作です。
●宮魔大師 シリーズ●
<第7話 悟り>
霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
「何でも請け負う」という噂が広まっており、宮魔のところにはいわくつきの
お客が多く訪れるようになっていた。
ある日のこと、ヒロシと名乗る男が相談に訪れた。
ごく普通のどこにでもいる30代の男に見えたのだが、驚くことを口にした。
「宮魔さん、またお願いに来ました」
「また? 今日初めてお会いしましたが?」
「その言葉も毎回聞いていますよ?」
「何を言ってるのですか?」
「・・では相談を始めます。
私は不老不死なんです」
「不老不死? なんだって?」
「私は今31歳なんですが、実は51年生きているんです。
31歳のまま20年間年をとっていないんです」
「何を言ってるんだ、君は?」
「いきなり言っても分からないでしょうね。説明します。
私は今年、2017年をループして繰り返しているんです。
2017年の12月31日、つまり大晦日の次の日は2018年の元旦ですよね?
私の場合は、大晦日の次の日、目が覚めると2017年の元旦なんです。
つまり2017年をぐるぐる回って繰り返しているんです。
その間、年も取らないんです。だから不老不死なんです。
これをもう20回、つまり20年間繰り返しているんです」
「君、頭大丈夫か?」
「そう思うでしょうね。でも、実際に年取ってないんだから
妄想ではありません」
「同じ年を繰り返しているとうこと?」
「そうなんです。もういつ何が起きるか、全て頭に入ってしまいました。
だから失敗を全て避けることができます。
完璧というくらいに一年を過ごしています。
でも、もう飽きてしまいました。次の年2018年に進みたいんです。
そこであなたに相談したわけなんです。
何で私はループしているのか? 解決する方法はないのか?」
「なんとなくわかった。でも、俺に解決なんて・・」
「宮魔さん、あなたは毎年物分かりがよくなってますね。
最初に相談した時、10年前は「お前は精神病だ」と怒鳴られましたよ。
でも、私には解決することができるのはあなたしか居ないと確信してます。
だから毎年相談に来ているんです」
「10年前に君の相談なんか受けてませんよ」
「私にとってあなたに相談するのは10回目なんですよ。
毎回、今日の日に相談に来てます」
「なんだか、頭が混乱してきた・・ちょっと休ませてくれ・・
君の相談を端的に言うと・・2018年の元旦を迎えたいとうことですね?」
「そうなんです。毎回、大晦日には眠らないようにと頑張るのですが
12時前になると何故か眠ってしまうんです。それで目を覚ますと
1年前の正月になっているのです。
友人に一緒に居てもらって眠らないようにと頑張ったのですが、
やはり眠ってしまい、目が覚めたら友人も居なくてまた2017年の正月
になっているのです。その繰り返しです」
「だったら、ずっと2017年を繰り返せばいいのでは?」
「嫌ですよ。毎年同じことの繰り返し」
「でも、いいんじゃないの? 年取らないし、
1年でリセットされるんだから何をしてもいいし」
「確かに最初の内は仕事やめて旅したり、いろんなことをしてみました。
そういう意味では面白いんですが、僕には大切な仕事があるし、
結婚して家庭を持ちたいし、1年でリセットされるんじゃ嫌なんです。
解決してください。これは霊の仕業なんですか?」
「霊じゃないな。霊能者の出る幕じゃないよ。
君自身にも原因があるんじゃないか?何か心当りないのか?」
「初めは、僕は2018年に死ぬ運命なのだろうと思いました。
死にたくないから2017年のままを繰り返してるのだと・・」
「それなら見てあげるよ。
君は2018年に死ぬ運命なんかじゃないよ。
世界が破滅するわけでもないし」
「そうですよね。
いろいろ考えてみたんです。考え詰めた結論は・・
ソフトのバグじゃないかって?」
「なんだって?」
「私はゲームソフトを作るプログラマーなんです。
今年、新しいソフトを開発することに成功したんです。
もう20回も同じことを繰り返してますからバッチリ作りました。
そこで来年から昇進させてもらえることになったんですが・・
輝く来年を迎えることができないんです。悔しいんです。
プログラマーの私にとってこの現象はゲームソフトのバグ、つまり
ミスですね。ミスがあるから年が変わる時に先に進めないわけです。
そう思えるんですよ」
「何を言ってるだね。
まさか、君の人生がプログラムの中のキャラだとでもいうのか?」
「そうだとしか思えないんです。
この世の中は誰かが作ったゲームかシミュレーションのソフトの中だと思うんですよ。
最近、RPGが現実と変わらないほどに精巧になってきて人々が気づいてきましたよ。
この世もRPGなんじゃないかって?
この世は誰かが作ったソフトの世界という説に従って考えると今まで解決できなかった
不思議な現象がみんな説明できてしまうんです」
「なるほど・・」
「この世がソフトだとすると科学者を悩ませてきた現象も説明できるんです。
科学者達は素粒子の実験で理論通りの結果にならない事象があることを認めています。
その理由として古くは観察者効果ということで論じられてきたんです。
つまり、実験結果を観測しようとする行為そのものが事象に影響を及ぼすので真実は
観測できないということで決着していたんです。
しかし、それでも説明できない事象が次々出てきました。
そこで次の仮説は、観測者の意識が事象に及ぼすという考え方が生まれたんです。
その考え方はスピリチャルでももてはやらされました。意識が現実に影響を
及ぼすということです。意識が水の結晶を変えるとか、思考が実現するとか、
引き寄せの法則とかですね。
しかし、それももう昔の話なんです。
現代はもっと仮説が進んでいるんです。意識が影響を及ぼすどころではなく、
意識してることだけしか存在していないという説が科学者の間でも広まっているんです。
つまり、観測者に見えている範囲しか実在していない。見えない範囲は存在もしてない
ということなんです」
「すまん、君の言ってる事がよくわかない」
「わかりにくいですよね。でも、これってゲームだとしたらイメージできますよね?
ゲームの中の世界は見えている範囲だけしか存在してません。それ以外の世界は
データ上でも省略されているんです。いや見えている範囲ですら仮想現実なんです。
つまり、この世はプログラムで作られたゲームだってことですよ。
だとしたら、そのプログラムにバグ、つまりミスがあってもおかしくないですよね。
私の場合は時間の設定かロジックにミスがあると言えるんですよ」
「どうも雲をつかむような話でよく理解できない。
この世がプログラムだとして一体だれがそのソフトを作ったというのか?
もし、そうだとして、そんな天才が君の人生にだけプログラムミスを犯したというわけか。
では、プログラムを作ったそいつは実在しているのか? 創造主というわけか?
ならば、創造主は誰が作ったのか? 永遠の過去から存在していたのか?
だったら、何で今になってこの世を創ったのか? 暇つぶしにか?
それとも、この世はどこかの進歩した文明人が売り出したRPGソフトの一つか?
誰かがゲームとしてこの世界を作って楽しんでいるというわけか?
持ち主が飽きたり、失敗だと思ったらリセットボタンを押して消してしまうかもしれないな。
そんな絵空事を議論して何の意味がある?
俺はそういう禅問答みたいなのが嫌いなんだ。
そんな理屈、10年後には別な説にとって代わられる程度のものでしかない。
頭で考えて分かった気になったところで、気休めでしかない。
解決できなければ意味はないんだ」
「宮魔さん、毎年、理解が早くなってますね。
誰が作ったのか? 何の為のソフトなのか? それはわかりません。
我々はそこで生きる以外には選択肢はありません。
ただ、作り主にミスを直してもらいたいだけです」
「すまないが俺は何もできないよ」
「いや、あなたなら、解決できます。
この世界を作った人に「ミスを直してくれ」と伝えることがあなたならできる」
「おいおい、そんな途方もないこと要求しないでくれよ」
宮魔はこの時、ふと思いついた。
「まてよ、もし、大晦日の年越しの瞬間になにかバグによる不都合が起きているなら、
その時間の切り替えの瞬間があるはずだ。その瞬間の隙間に意識を挿入させれば
この世界を操ってる、あるいは作った奴の世界に入り込めるかもしれない。
もし、作った奴に刺激を与えることができれば、バグに気づいてくれるかもしれない。
気付けば、きっと直してくれるはずだ。
これはちょっと面白いな。この男が精神異常者かどうかを確かめることもできる」
宮魔はヒロシに提案した。
「君、大晦日の日に私の所に来なさい。
一緒に紅白歌合戦でも見て、年越しそばを食べよう。
俺は年越しの瞬間にこの世界を作った奴を突っついてバグを直させる。
成功したら、年を越すことができるかもしれん」
「その言葉待ってました。
10回目でやっと宮魔さん、協力してくれましたね」
「俺は10回も記憶にないが・・」
やがて大晦日がやってきた。
宮魔の自宅に、ヒロシがやってきて、二人でスキ焼をして過ごした。
TVを見ていると11:45頃にゆく年くる年が始まり、そろそろ2018年という時になった。
するとヒロシはうとうと眠り始めた。
「ダメだ。眠ってはいけない」
宮魔が起こしたが眠気は消えないらしい。何度も、うとうとしているうちに眠ってしまった。
やがて、12:00になった。その瞬間、宮魔が意識を向けていると
思った通り、時間の切り替えによる歪みが見えてきた。歪みが
亀裂のように開いて未知の世界が垣間見えた。
宮魔はその一瞬を見逃さなかった。
「今だ、その世界に入り込むぞ」
宮魔は意識を飛ばす術を駆使した。懸命に意識を集中して中に入り込んだ。
すると不思議な幾何学模様が流れるように見えてきた。
「これが時空を超えた世界か・・」
と思っていると強い力が宮魔を襲った。
「どこかから強い力が働いてる。そうか、これは霊術だ。
何か霊的な存在が力を掛けているんだ。そいつが創造主か?
俺に気づいてくれたんだな」
宮魔はその力に意識を向けて、その正体を追いかけた。
すると霊眼の中で見えてきた。黒い人影が・・うっすらと。
「こいつが創造主か?それともゲームのプレイヤーか?
それとも人工知能か? バグに気づいてくれよ」
黒い人影が座っているのが見える。後ろ姿だ。
「見えてきた。人だ・・なんか地球人とよく似ているなあ・・」
そしてその人がこちらを振り向いた。
「うわ、こっちを向いた。よし、訴えるぞ。バグ直せって!」
そして顔が見えた。その顔は・・なんと宮魔自身だった。
「おまえは俺、創造主は俺だったのか?」
その顔は無表情でうなづいた。
「わかった」と・・
宮魔が意識を元に戻した。そして気づいたのだった。
ヒロシが言ってる説は半分正しかった。確かにこの世はソフトだった。
でも、ソフトを作った奴が他に居る訳ではなく、ソフトは自分自身が
作っている自作自演の世界だったのである。
そして、自分以外は何も存在していないことに気づいたのだった。
「この世の中には自分以外に何も存在していない。他人も霊も存在していない。
全てはゲームソフトの中のような仮想現実だったのだ。
これがこの世の現実だったのだ。お釈迦様が悟った天上天下唯我独尊とは
このことだったのだ。この宇宙には自分一人だけしかいない。全ては幻想。
世界が存在するということも自分以外の人や存在が居るというのも幻想
これが宇宙の真理だったのか?
では、何故、この自分は存在するのか?
もしかして自分が存在しているということも幻想?
いやいや・・こんな真理なんて知っても意味が無い、知らない方がいい」
目を開いて我に戻ると元旦になっていた。
「あけましておめでとうございます」というTVのアナウンサーが
聞こえてきた。
「そうだ、ヒロシはどうした」と部屋を見回したがヒロシはいない。
「あれ、ヒロシは何処へ行ったんだ?
俺はきちんとバグを伝えたぞ。
やっぱり、あいつは2017年の正月に戻ってしまったのか?
ダメだったか・・・」
と落胆しているとTVのアナウンサーが元気に喋りだした。
「さあ、2017年が明けましたね・・」
宮魔は耳を疑った。
「2017年?」
宮魔は言い間違いだろうと思ってチャンネルを変えてみた。
するとどこの番組も2017年明けましたと言っているのだった。
「な、なんてことだ。2017年に戻ってしまった。
ヒロシと同じじゃないか?
ヒロシが居ないということは、あいつは2018年に年越ししたってことか?」
「おい、もしかして今度は俺が2017年を繰り返すのか?
毎年同じ年を繰り返すのか?
もしかして永遠に・・」
「冗談じゃない。毎年同じ1年を繰り返す不老不死なんて
たまったものじゃない。ふざけんじゃない。俺は絶対に2018年に行くぞ。
バグを直してもらうからな」
ふと宮魔は思い出した。
「そう言えば、以前予知能力がある青年が予知してくれたな。
俺は2018年に殺されるって。
もし、このまま2017年を繰り返していれば殺されることはないわけだな。
では、このままでいいのでは・・いくらでも修行に励むことができる。
俺には丁度よいかもな・・いや、ダメだ。俺は2018年に行く、必ず行くからな。
創造主!これはお前の意志か? バグなら直せ!」
2018年の元旦、ヒロシが目を覚ますと部屋には宮魔はいなかった。
「宮魔さん、せっかく私を年越しさせてくれたっていうのに。
どこに行ったんでしょうか?」
ヒロシは度々宮魔の部屋を訪れたが宮魔は戻って来なかったので
警察に失踪届をだした。近所の人も心配してくれた。
「宮魔さん、どうしたんでしょうか?
突然予告もなく失踪してしまったみたいですね。
どこかで修行でもしているんでしょうか?」
第一幕おわり 第二幕があります。
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