本作品は2022年作です。

●霊界のお仕事人(アフター・ライフ・ワーカー) シリーズ●

<第四話 初恋の人を救いたい>

 今日も勇樹はオフィスに来て、次の仕事はどうしようかと考えていると
例のゴロツキ男が恋に溺れて別人のように変わってしまったのを思い出し、
恋の持つ力が凄いことに考えを巡らせていた。
 恋で思い出したのが自分の初恋の甘い思い出である。
小学校の時、可憐でやさしい女の子に恋をしたのだ。
好きだけど、恥ずかしくて好きなことを言えなかった。
いつもその子のことを見つめてしまう。友達から悟られそうに
なったので、わざとその子の悪口を言ったり、いじわるしたりしてしまう。
そんな子供の頃の思い出に浸っていた。夢心地である。
するとシンリがそれを感じ取ったのか、にやにやしながら話しかけてきた。

「勇樹、お前まだ煩悩が抜けてないようだな」
「いや、子供の頃のことを思い出してただけだよ」
「初恋か? 私も現世に居たころはそんなこともあったかな。
 所詮、私のようなオタクは恋しても実るわけもなし、
 必死にその気持ちを押し殺してしまったよ」
「へえ、真面目なんだね。
 あの世では恋愛はあるの?」
「あることはある。これも食事と同じで現世の習慣でね。
 でも、霊にとっては恋愛なんてつまらないもの。
 現世と違ってマッチングは簡単にできる。
 すぐに相応しい相手を見つけることができる。
 そうなると運命も感じないし、面白くもないだろ?
 肉体を持ってた時みたいな快楽が得られることもない。
 求めても満足なんて得られない。その内、飽きてしまうんだ」
「なるほど」
「でも、現世に居た時にそれだけが生き甲斐だった人はその癖が
 染みついてしまってあの世に行っても愛の満足を求め続ける」
「地獄界にそういう世界があるわけか?」
「地獄以外でもあるよ。
 アイドルや有名人ばっかり守ろうとするチームや霊達がいる。
 必要以上にいる。あの世で「おっかけ住人」と呼ばれている。
 現世に貢献したい気持ちがある善霊なんだが、有名人や
 美男美女、スター、ヒーロー、ヒロインばっかり守護したがる」
「やっぱ、そうだったんだ。
 傑出した人って何か守られているって感じるもんな」
「守護される方も可哀そうなんだ。
 輝いてる時は大勢の追っかけ霊が守護してくれるんだが、
 人気が落ちたり、老けてしまったりしたら、さっと霊達が消えてしまう。
 勝手なもんだよ。
 みんなで持ち上げておいて、魅力がなくなったら、即座にさようならさ。
 その人は輝きが一気に失われて運気も悪くなってしまう。
 人気が落ちたスターが崖から落ちるように転落することがあるだろ?
 それは追っかけ達が見捨てたからなのさ」
「そういうことか?
 ファンなんて勝手なものだね。それ以前に
 死んでもアイドルの追っかけやってるなんて情けないね」
「馬鹿は死んでも治らないってこと。
 いずれ、その煩悩から目覚めるんだけどね」
「いずれは愛の気持ちもなくなるってこと?」
「そうだよ。霊には男女の愛なんて必要ない。
 もっと広い愛の方が目覚めるようになるんだ。個人差があるがな。
 現世では、誰しも愛欲に惑わされている。
 それは本能だからしかたない。
 食欲と同じで生きるために必要なことだからね。
 男は女を外観や若さで好きになる。女は男の権力や能力に惹かれる。
 猿が猿山を作るのと同じだ。そこには平等などなく、
 格差と闘争、嫉妬がうずまく。これが現世の一面だ。しかし、
 人間は猿とは違い、魂の人格もある。
 愛欲にまみれながらも、それを文化的な方向に転換することができる。
 例えば見た目や力ではなく、人格や生き方、心が通い合うかなどを
 愛する基準としたり、愛欲を芸術やエンタメの世界に昇華させたり、
 現実と趣味の世界とで上手に切り替えたりする。
 ほとんどの人はうまく両立してるから、死後、あの世で愛欲に
 惑わされることはなくなる。やがて愛欲は消える。
 あの世の霊には元来、愛欲も食欲もないんだ。
 あると感じるのは現世での習慣でしかないんだ。
 だから執着が無くなれば、自然になくなっていくよ」
「そうなんだ。
 自然に消えるんだ。寂しいけど」
「ただし、さっき言ったように
 現世で本能のままに愛欲だけに染まって生きた人間は
 こっちに来ても愛欲のままに生きることになりやすい。
 地獄で愛欲を追い求めて戦ってる霊達がいっぱいいる。
 ひどいのになると現世で色情霊として悪さしてる霊までいる。
 いつまでも迷いから覚めないでいると、
 いずれ完全に地獄に封じ込められるようになるだろうね」
「現世での生き方であの世の生きざまも決まってしまうわけね」
「そう。だから、私はもう愛なんて迷いは断ち切っている」
「本当かよ?
 みんなもそうなのかな?
 モグロさんは見るまでもない。アイドルオタクだったに違いない。
 そして今もそうだろう。聞きたくもない。
 気になるのはお局さんだね」

勇樹は、お局さんに声を掛けてみた。

「あのう、先日は助けて頂きありがとうございました。
 凄い実力ですね。
 いつもあんな風にお仕事されてるのですか?」
「あら、ありがとう。
 私は現世に居た頃から、魔術をしてたのよ。
 それがこっちで役に立ってる、それだけよ」
「はあ、そうだったのですか?
 魔術って、呪いを掛けたりしてたの?」
「そんなの魔術じゃないわ。
 呪いなんて誰でもできるじゃない。
 私がやってたのは幸運・不運の入れ替え、運勢の変更
 そういう技を駆使してたのよ。
 もちろん、占いもね」
「凄いことができるんですね(-_-;)
 じゃあ、恋愛も意のままにしたんですか?」
「私にそんなこと聞くなんて、うれしいわね。
 恋愛なんて、子供の世界の話。
 幻と消える蜃気楼よ。
 さっきシンリと話してた恋の思い出聞きたいの?
 聞かせてあげるわよ(笑)
 私は小学6年の時、
 クラスで目立っていた男の子に初恋をしたわ。
 少女マンガみたいな夢をみてね。
 それで勇気を出してラブレターを書いて、その子に渡したの」
「おお、凄いじゃん。やりますねー」
「そしたら、その子は翌日私のラブレターを教室の黒板に貼り付けて
 笑っていたわ。あのキモイ女子からもらったぜって
 学校中に笑い話として広めたわ。
 私はしばらく登校できなくなった」
「ええ、そんな酷いことがあったの(-_-;)」
「次の話にいくわよ。
 中学の時にねえ、不登校になったの。
 イジメられてねえ。
 そしたら、新任の男の先生が家まで来てくれたの。
 イケメンの先生だったので一目ぼれしたわ
 それが2回目の恋ね」
「それはいい話だね(-_-;)」
「でも、その先生は、私を見た瞬間がっかりした表情をしたのよ。
 すぐに帰っていって、二度とこなかったわ。
 きっと不登校の美少女を助けてあげる熱血ドラマをイメージして
 情熱が沸いたのね。私を見てがっかりしたわけ(笑)
 後で知ったんだけど
 その先生は別の不登校の美少女の復帰に情熱を燃やしたの。
 評判のかわいい子だったから、男子はもちろん女子まで
 参加してファンクラブみたいの作って、みんなで復帰させたみたい。
 その物語が地元では感動の友情ドラマになってたわ。
 映画にもなったとか?笑っちゃうわね。
 私のところには来てくれなかったのにねー
 でも、一度だけでも来てくれたその先生のことは好きになったわよ。
 これが私の恋の物語よ。どう?」
「う、うん、大変でしたね(-_-;)」
「話を聞いてくれてありがとね。
 そうそう、言い忘れてた。
 あたしはねえ、絶対負け犬にはなりたくない
 と思って占いと魔術を勉強してたの。
 シンリは超能力者に憧れてたみたいだけど、
 あたしは運勢を支配し、未来を変えようとしたのよ。
 シンリよりも知性のレベルが上、それを覚えておいてね。
 あ〜あ、今日はなんだか気が乗らないわ。早退するね。
 私の家にはコレクションルームがあるの。
 そこが私の楽園。誰にも入れさせないからね。
 それが私にとっての愛や恋の世界なのよ」
「コレクションルーム?
 何をコレクションしてるのですか?」
「ふふふ、あんたには価値が分からない品物ばっかりよ」

お局が帰った後、勇樹はモグロにお局さんのことを聞いてみた。

「モグロさん、
 お局さんはコレクションしてるって言ってたけど
 何をコレクションしてるのですか?」
「ブランド品だよ。バッグ、時計、宝飾品、人形、ぬいぐるみ、
 など。びっしり部屋に置いてるよ。
 ちょっと覗かせてもらったことがあるが、気持ちが悪いよ」
「へえ、そんな趣味があったんですね。
 でも、あの世ではいつでも欲しい物が手に入るから
 コレクションなんてしなくいいのに」
「確かに、
 こちらの世界では衣装や宝飾品など現世にあるものは
 全て簡単に手に入る。そういうお店を開いてる人も
 一杯いて、無料で配ってる。心が作りだしたものだから、
 いくらでも同じ物が複製できるんだ」
「俺もスーツを作ってもらった。
 コレクションなんてしなくてもいいのに」
「現世時代の癖なんだよ。コレクターだったからね」
「懲りない人はこっちでも懲りないんだね」
「しかも、まだ満足できないらしい。
 お局さんによると、自分の徳のポイントに応じた品質の物
 だけしか手に入れることができないらしい。
 徳を積んだ人達の世界の物はもっと品がいいみたいなんだ。
 彼女はもっと高品質な物が欲しいらしいんだ。
 だから、ポイント稼ぎをしてるとか言ってたよ」
「ええ? 徳がないと買えないものもあるの?
 現世と同じじゃん」
「きっと我々の世界の神様はそうやって善行に
 導いてるんだと思うよ」
「なるほど、神様は上手に我々を導いてるということね。
 でも、お局さんの生き方は、現世時代の執着そのものじゃないの?
 モグロさん、どうしてあの人をここに呼んだの?」
「引き抜いたのさ。あの人は優れた能力がある。
 それに決して表には見せないが、
 性根はいい人なんだと私は見ている。
 未だ彼女の人生を覗いてないのか?」
「覗いたら呪いを掛けられそうで・・・」
「大丈夫だよ。
 じゃあ、教えてあげよう。
 彼女は赤木なおみ と言ってね、
 あの世では赤の局と呼ばれている。
 彼女の人生も悲惨だった。
 会社の経理を担当していたんだ。
 そして会社のお金をピンハネしてブランド物を買いあさり、
 ホストクラブにも通ったりしていたんだ」
「それじゃ、詐欺師じゃないか?」
「詐欺じゃなくて着服って罪だよ。
 でも彼女の言い分にも理がある。
 彼女が経理担当になってから
 会社は右肩上がりの成長をしたんだ。幸運続きで。
 彼女はその利益の一部を着服していただけなんだ。
 彼女曰く、会社に利益をもたらしたのは自分だ、その一部を
 もらって何が悪いって言ってるんだ。
 どうやら、会社の業績をよくする術が使えたらしい。
 しかし、ある時、税務署の監査で不正が発覚してしまったのさ」
「当然でしょうね。天罰ですよ」
「彼女は”何も悪い事はしてない。
 私の実力で会社を儲けさせたんだ。その一部をもらって何が悪い。
 不細工に生まれていい想いなんてしたことがない自分がこれくらいの
 ご褒美をもらってもいいだろう。罪ではない”と今でも言ってるんだ。
 ばれるわけがないのに罠にはめられた。
 何者かが自分に術を掛けて陥れたんだと言ったりもしている」
「そりゃ、妄想でしょう」
「そう思うんだが、今でも彼女はその相手を探しているんだ。
 あの世のどこかに自分を陥れたツワモノがいるはずだって探してるよ」
「見つけて魔術で復讐するつもりなの?
 怖いですね、近づきたくない(-_-;)」
「そう言うな。
 困った時には頼りになる人だよ。
 仲良くしておけよ」

勇樹が机に戻って仕事をしようとしたら、画面に新着メールが届いた。
差出人は赤の局と書いてある。どうやらモグロとの会話を聞かれて
しまったらしい。

「やばい」と勇樹がびびりながらメールを開くと

「勇樹さん、いい事を教えてあげる。
 あんたが事故で死んだ時の真相を。
 私にはわかるよ。事故なんかじゃない。
 術を掛けられたんだよ。
 シンリには見抜けなかったようね。
 私にはわかるわよ」

勇樹はびっくりしてすぐさま返信した。

「一体だれが、この俺を殺したんだ」

すると局から返信があった。

「ふふふ、殺したわけじゃないの。
 あなたの幸福を盗んだ奴がいるの。
 トランプのジョーカーみたいな奴がね。
 あなたに恨みがあったわけじゃないの。
 他人の幸福を盗み取って生きてる奴がいるのよ」
「なんだと、それはどこのどいつだ」
「その内、わかるわ。現世を操ろうとする
 集団がいるの。神々の守護から離れて独自の
 考えで世の中を操ろうと企む魔術集団みたいのがね」
「なんだって。本当なの?」

勇樹が熱くなっているとモグロがそっと近づいてきて

「お局さんは時々変なことを言う。
 真に受けるな!」

と耳打ちしてくれた。それを聞いて勇樹は落ち着きを取り戻した。

「冗談だったのか?
 冗談でも言っていいことと悪いことがある」
「まあまあ、冗談じゃなくて妄想だから許してやれ」
「うん(-_-)」

気を取り戻した勇樹は、気になっていた初恋の人について調べてみた。
その人のことを知ろうと思うだけでモニタに様々な情報が表示される。
あの世は便利な世界である。初恋の女性は葉子という人である。
モニタには葉子の今までの人生が映画の予告編のように流れて表示された。

葉子は高校卒業後、その愛嬌の良さを買われて百貨店の店員になり、
IT企業の男性とめでたく結婚して専業主婦になった。
そこまでは良かったのだが、夫は仕事が忙しくいつも帰宅が遅い。
それで、暇を持て余すようになる。

そこではまってしまったのが、スピリチュアル団体である。
最初は不食を唄う団体であった。
心の持ち方によって食事をしなくても生きることができると主張する団体である。
主催者達は一切食事をしないで元気に過ごしていると主張しており
葉子もそれを信じてしまったのである。
この団体が世界の食糧問題を解決する救世主であると信じ、貯金を下ろして
高額の寄付を繰り返すようになってしまった。
しまいには団体の言う通りに不食に挑戦し、幼い子供にも食事制限を
するようになってしまった。当然葉子や子供の体に異変が起きてくる。

夫や周囲の人が異変に気付き、必死にその団体がインチキ団体である
ことを葉子に諭し、葉子も疑いを抱いてようやく脱会することができた。
不食団体の主張は全てトリックであり、食事をしないで元気に
生活している人など実際には、一人もいなかったのである。

 それもつかの間、次に葉子は空中浮揚ができるというヨガの瞑想団体
に入ってしまった。そこの団体の300万の高額コースを受講すると誰もが
瞑想で空中浮揚ができるようになり、心身の健康と高次元の自我の目覚めが
得られるというものであった。
 葉子は夫に内緒でこの団体の高額コースの合宿を受けたのである。
しかし、空中浮揚などできるようにならなかった。指導者によると
受講してもクンダリーニ覚醒まで時間が掛かり、できるようになるまで
には個人差があるとのこと。なかなかできない場合には補習コースもあると
指導された。
 こんな団体に300万も使ってしまったことが夫にバレて夫に激しく叱責される。

「そんなインチキ何で信じるんだ?
 一度でも空中浮揚した人を見たのか?
 合宿で実演してくれたのか?
 見てないだろ。インチキなんだよ」

実際、その団体で空中浮揚ができる人など一人もおらず、トリックで作った
写真だけが証拠になっていたのだった。葉子は夫に厳しく責められて、
やっと騙されていたことに気づき、脱会することができた。

 しかし、最近また葉子が別のスピリチュアル団体に入ったことが
モニタに表示された。
 何でも南米の不毛地帯、いくら頑張っても農作物が育たない場所を
妖精たちが奇跡を起こして開拓したという自然農園の団体である。
無農薬で不思議なパワーがある農作物を販売しており、これを食べると健康になり、
あらゆる悩みから解放されるというのである。
この農法が広まれば世界の砂漠を緑化して地球環境の問題も解決するという
ことである。
 葉子はこの団体に入り、ここから食品を購入することを始めてしまった。
通常の5倍くらいする値段の食品ばかりである。
しかも、世界を救う運動として周囲の人にも広めることが義務となっている
のだった。

勇樹はこれを見てショックを受けてしまった。

「おい、どうして、あの葉子ちゃんがこんな人生を送ってるんだよ。
 夫と生活リズムが合わなかったのかな?
 可哀そうに。寂しかったのかな。
 未だ懲りずに変な団体に入ってるのかよ?
 妖精の農場なんてほんとかよ」

勇樹がモニタで「この団体が本物なのか?誰か教えて」とツイートすると
すぐさま、あちこちから回答が返ってきた。

「そこの団体はインチキです。
 妖精が不毛地帯を開拓したというのはトリックです。
 現地の自治体もグルになって虚偽の発表をしてます。
 しかも、マルチ商法をしていて被害者が多数います」
「我々カルト監視チームの分析では、評価は最低ランクです。
 商品の品質も悪いです。被害者が多数います。
 関わってはいけません。経営者は現地のマフィアのメンバーです」

あの世でカルトをウォッチしているチームや集団がたくさんあり、
即座に警告をしてくれたのである。

勇樹ががっくりしているとシンリが声を掛けてくれた。

「勇樹、初恋の人がはまってる団体は危険だよ。
 すぐにわかるよ。
 あの世の住人にはインチキ、詐欺、ブラックが丸見えなんだ」
「何でこんなのにひっかかってしまうんだよ」
「現世とはそういうもの。
 我々あの世の住人が常に注意を喚起しているんだけどね。
 現世の人は直感より、権威者のお墨付きや宣伝、口コミの方を信じてしまうんだ。
 この俺もそうだったけど。現世の人間は真実が見えないんだよ」
「どうしたらいいんだ」
「彼女にこの団体がインチキだと悟らせればいい。
 俺に任せてくれ、彼女が誤ってスマホの検索で
 被害情報を目にしてしまうように誘導する。
 また、問合せしたときに団体でもっとも対応が悪い人に
 当たって不信感を抱くようにも誘導する。
 勇樹は、この子にひたすらインチキであることを伝えるんだ。
 気持ちが揺らいでくるまでね」
「シンリさん、ありがとう。
 やってみるよ」

シンリと勇樹の必死の脱会説得工作が数日続けられた。
葉子は何だか得体のしれない不安と疑いを感じるようになり、
スマホを検索したところ、被害者の会のサイトがあることに
気づき、そこを開いたところ次々と被害報告が表示されてきた。
葉子はこれを見て不安になってきて、団体に電話して聞いてみた。

「被害者の会があるんですが、本当なんですか?」

と電話で聞いたところ、受付担当者は

「そんなのデマだよ。信じるなよアホ。
 そんなの信じて止めたりすると地獄に落ちるぞ!」

と激しく怒鳴って電話を切ってしまった。
受付担当の中でも最も口が悪い人に当たってしまったのである。
それを聞いて葉子は決断する。

「やっぱり、ここはおかしい。止めよう」

葉子は、ようやく団体に違和感を感じて脱会した。
勇樹は「成功した」とほっと胸をなでおろしたのだった。

「シンリさん、ありがとう。
 インチキ団体から初恋の人を守ることができた。
 どうして、こんなうさん臭い団体に入ってしまう人が
 いるんでしょうかね? どう見ても臭いのに」
「実はね。インチキだろうと、そこには神や霊がいるからなんだ。
 人を引き付ける魔力みたいなのがあるんだ。
 カルトというのは、地獄界と繋がっている場合が多いし、
 あの世の変なチーム、世界と繋がっている場合もある。
 たとえインチキで作られた宗教であっても、それを利用しようとする
 変な集団がマッチングして、そこに降臨する。
 オーラがあるし、奇跡は起きる、パワーもあったりする。
 だが、こちらの世界からは全てが丸見えだけどね」
「そうですよね。カルトウォッチして警告してる霊もいるのにね。
 なのに現世の人にはそれが伝わらない」
「現世ではタレント、宣伝、権威者を使って信用を作り出すことができる。
 そっちの方が威力があったりする」
「悲しいですね」
「しかも、現世の人は、あの世や神仏を誤解していたりする。
 現世では本物、偽物とかを文献やら鑑定やらで判断して
 我こそが本流・本家で本物であり、神仏と繋がっているとか
 霊験があるとか主張し合っているんだ。
 実際には、あの世はそんなことはあまり重要ではない。
 現世の需要に応じて、それにふさわしいあの世のチームや集団が
 マッチングするだけだからである。
 文献的・文化的に本物であっても卑しい目的をもった組織には
 あの世の卑しい集団がマッチングする。
 その逆もしかり。本物でなくても目的が高貴であれば良い世界とつながる。
 どうも現世の人はそれがわからないみたい。
 文献的権威、本家本流、血筋、系統そんなものにこだわる」
「シンリさんって頭がいいなあ。俺にはよく理解できないよ」

それからしばらく月日が流れた。
勇樹が一仕事が終わって気分転換をしているとふと初恋の人のことが
気になった。

「葉子ちゃんは幸せに過ごしてるのかな?」

勇樹がそう考えたところモニタに葉子の近況が表示された。
どうやら夫との関係はうまくいかないらしい。
自分に非があるのか? 因縁のせいか?など葉子は悩んでいる。
そして、スマホを検索していたところ、あるサイトに
たどり着いた姿がモニタに映し出された。

「ラスト呪術師 橋森克明があなたのお悩みを解決いたします」

というものであった。葉子はサイトの綺麗なデザイン、陰陽師の格好をした
呪術師の美しい姿に心ひかれた。

「ここに相談してみようかしら」

勇樹は「また病気だ。ここは大丈夫なのか?」とモニタにつぶやくと

「カルトウォッチャーです。ここは特に問題はありませんが、
 人生相談が目的の団体ではなく、営利企業です。
 入会すると次々と商品を買わされるでしょう」
「この葉子さんという方のケースではおそらく夫との関係が
 改善することはないでしょう。悪化する可能性が高いです。
 入会はお勧めできません」
「しかし、詐欺やカルトとは判断できません。
 自由な信仰の範囲内です」

勇樹は頭に血が上った。

「葉子ちゃんどうして、懲りないんだ。
 シンリさん、入会しないように阻止しよう」

と言ったところ、モニタにどこかからメッセージが入ってきた。

「人の信仰の自由は妨げてはいけません」
「スピリチュアルに頼らないように指導するだけにとどめてください」

シンリも

「今回は、この人の自由だから干渉しない方がいいよ」

と答えるのだった。しかし、勇樹は納得しない。

「葉子ちゃんがこんなの入ったら、夫と喧嘩になるに決まってる。
 見てられない」

と必死に「入会は止めろ、それはインチキだ!」と念じ続けた。
それが伝わったようで葉子の気持ちが揺らぐのを見てとれた。

「なんとか引き留めたかな」

と思っていた頃、再び、モニタに葉子の姿が表示された。

「悩んだけど、やっぱり、この人に相談することにしよう。
 だって、こんなにイケメンの人が悪い人のはずないもん。
 直接会って相談を受けたいわ。
 これできっと私は幸せになれる!」

そう言って入会手続きをしてしまった。
入会後、すぐに数十万円の直接鑑定にも申し込んでしまった。
勇樹はこれを見てがっくりとうなだれてしまった。

「まったく、俺の初恋の人は
 可愛い顔してアホだったんだ。
 現実を知らない方がよかった。
 もう初恋の夢なんてどこかへ消えてしまったぜ」

するとシンリが勇樹に向って言った。

「一つ、煩悩が消えたな。
 あの世に来た霊はそうやって煩悩が消えていくんだよ。
 愛だの恋だのは現世の蜃気楼だったのさ」

それを見ていた赤の局がニヤリとほほ笑むのだった。

つづく



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