本作品は2022年作です。
●霊界のお仕事人(アフター・ライフ・ワーカー) シリーズ●
<第三話 腐った生徒会長>
勇樹は、今日もオフィスに出社して「今日は何の仕事をしようか?」と
思案したがあんまりその気になれない。
あの世の仕事は気分が乗らない時はしなくてもよいのだ。
無理やり嫌なことをしても、うまくいかないのである。
心の世界だからである。
「今日は美味しい物でも食べに行くか?
シンリさん、一緒に行かない? 何が好き?」
とシンリに聞いたところ、
「私は何も食べないよ。
あの世では食べなくても生きていけるんだ。
あの世の食事は気休めなんだ。
現世の習慣で食べているだけなんだ。
私はそんな執着はもう断った」
「ええ、食べないの?
食べなくても生きていけるんだ」
「そうだよ。
でも、現世のリアルな食べ物は重厚なエネルギーが
あるので食べるとかなりパワーアップできる。供物だね。
実際には気を吸うだけなんだけど。
現世の人がお供えしてくれたら、喜んで頂くよ。
でも、よその供物や普通の現世の食べ物をあさったりはしない。
それは卑しい霊達がする恥ずべき行為」
勇樹は「ちぇ、つまんない人だな」と思い、町に繰り出した。
町には現世と同じように店がたくさんある。
どの店も主人が趣味で経営してるような感じで、
行くと豪華におもてなししてくれる。
お金も代償も何も要らない。
経営者はお客に食べてもらることを楽しんでるようだ。
それがこの人達の仕事らしい。新しい料理を開発したら、
現世の人にひらめきとして伝える仕事もしているらしい。
あの世とはそういう世界みたいである。
少なくとも、勇樹が居る世界では、こんな感じである。
食事から戻ってきた勇樹は席に座ってくつろいだ。
「あの世って楽しいところだな。誰もが自由だし、苦労がないんだね」
と独り言を言っているとモグロが声を掛けてきた。
「勇樹、我々は恵まれているから、そう思うんだよ。
そうでない霊達もいる」
「恵まれてない霊って地獄の霊?」
「地獄じゃなくてもいっぱいいるよ。
自殺者、過去をくよくよしてるだけの霊、現世にとどまっている執着霊・・・
そんなのが、一杯いるんだ。
彼らを助けようとするチームもたくさんいて説得してるんだが、
頑固な霊も多くてね。いつまでも迷ってる霊がいるんだ。
現世の思考や意志判断の癖は魂に染み付いてしまってなかなか取れないんだ」
「あの世は、現世の生き方で決まるってこと?」
「そうなんだ。
前向きに生きようといつも心の持ち方に注意を払ってきた人は
死後もスムーズにあの世に適応できるんだ。
宗教や信仰は、現世では気休めみたいに思われているが、
実は心の修練だったんだ。
こっちに来てそれがわかったよ。
心を鍛えていた人は迷いを断つ力がある。
私もシンリも勇樹も現世で苦しさ、惨めさを耐えながら前向きに生きて来た。
だから、あの世で自由を得られているんだ。
特に勇樹、お前は本当なら現世で恵まれた人生を過ごすはずだったのに、
ドジを踏んで転落してしまった。
だから太陽もみんなもお前には気を掛けてくれているんだ」
「ドジ踏んだんじゃないよ。災難だよ。
ま、俺は自慢じゃないが、希望を捨てなかった。
死にたくなる気持ちをいつも立て直して頑張った。
それがよかったわけか。うれしいな」
「そうだよ。
お前を痴漢と間違えた女性のことを恨まなかったし、
世間を恨んだりもしなかった。
逆に同じ境遇の人達を励ましてきた。
その生き方は太陽も褒めているはずだ」
「そう言ってもらえると救われた気分だな。
現世は能力やら力がある人が幸せになれるけど、
あの世は性格が大事ってことか?
昔話で正直じいさんが報われるみたいな」
「そうなんだが、性格とも限らないんだ。
どんな性格でも長所・短所がある。
良い・悪いで区別できないんだ。
私がいままでに見た面白い話を教えてやろう。
双子の兄弟がいたんだ。
二人共、姿も性格も全く同じだったんだ。
だが、可哀そうに二人とも脳の記憶力に障害があった。
物忘れが極端に激しいんだ。
ホンの数秒前のことも忘れることがある。
だから、人と約束したことを忘れてしまう。聞いた話もすぐ忘れてしまう。
忘れないようにとメモを必死に取るようにしてたが、
メモに書く前に、会話で聞いたことの半分以上を忘れてしまう。
それでいつもトラブルが起きてしまうんだ。
先生や友人から、”どうして約束守らなかったんだ”
といつも叱られる。いつもトンチンカンなことを言ってしまう。
”さっき言っただろ?聞いてなかったのか?”
と相手は怒ってしまう。
先生も級友も”こいつは俺たちの話は聞こうとしない”
と性格が曲がっていると勘違いしてしまうんだ。
こんな感じでトラブルばかり、しまいに誰も相手をしてくれなくなってしまった。
どこへ行っても村八分にされるし、イジメられる。
遂に二人は引きこもってしまったんだ」
「可哀そうにね。
脳の障害ってADHDかLDだよね、
俺の会社にも障碍者枠で働いてた人いたよ」
「ADHDなんだそりゃ?」
「発達障害だよ」
「今はそう言うのか? 後で調べておく。
私の頃はそんな言葉はなかった。
というか障害と認定されなかった。
それで双子は引きこもりになってしまったんだが、兄と弟は違う生き方をした。
兄は”自分は不幸だ、不公平だ”と毎日嘆き続けた。
そして、酒に溺れ、イジメた人に嫌がらせをしたり、銭湯を盗撮をしたり、
インターネットを始めて誹謗中傷にあけくれたりと、自暴自棄に過ごしたんだ。
一方、弟は何とか仕事に就こうとあらゆる努力をしたんだ。
もちろん希望→絶望→希望→絶望の繰り返しだった。
結局、二人共、社会人になれず、不摂生な生活が祟って死んでしまったのさ」
「同じ肉体、同じ性格を持った二人でも
全然生き方が違っていたわけだね」
「二人は今、あの世に居るよ。
兄は地獄にいる。
今でも世の中を恨み、神を恨み、争いに明け暮れている。
私はずっと心入れ替えるようにサポートしてきたんだが、この兄は
今でも私がアドバイスしても耳を傾けてくれないんだ」
「弟さんはどうなったの?」
「モニタを見ろよ。
あの世で楽しそうに働いてるよ。
働く喜びを満喫している。
現世でいつも心を修練してきた結果なんだ」
「へえ、明暗がはっきり分かれたね」
「いいか、現世で染みついてしまった考え方や習慣は
あの世ではなかなか変えられないんだ。
現世の心の持ち方がいかに重要か?死んでからしみじみわかるよ。
まるで青春時代のようだ。
青春時代が夢なんて、後からしみじみ思うもの♪
青春時代の真ん中は道に迷っているばかり♪」
「また、ナツメロの演歌を歌ってる(笑)」
「演歌じゃない。フォークだ」
「ナイフとフォークのフォーク?」
「もう、お前とは音楽の話はしない!」
「ところでモグロさんは現世でどんな生き方してたの?」
「まだ覗き込んでなかったのか?見ようと思えば見えたはずだぞ。
じゃあ、教えてやるとするか。まずこれを見ろ」
と念じるとモグロの現世の人生が映画の予告編のように
勇樹の頭の中に流れてこんできた。
モグロは、ギャンブル依存で自堕落な生活を送っていたのだった。
その映像を見せながら説明した。
「俺はギャンブルが好きだったわけじゃない。
本当はまともに生きたかった。
しかし、言語障害でまともに会話ができないんだ。
だから、いつも人から嫌われるし、馬鹿にされるし、
挙句には村八分にされちまう。
それで心の病気になりギャンブル依存になったんだ。
親の金を盗んでギャンブル三昧。最低だよな。
思い出したくもない過去さ。
ある時、お袋が悲観して自殺未遂をしてしまったんだ。
俺はその時、本当に申し訳ないと反省した。
それで必死に生き方を変えたのさ。
命を賭けて自分の障害と戦った。
結局まともな人生は歩めなかったけどな。
でも、努力する姿勢を見てお袋は喜んでくれた。
とりあえず、日雇い労働でなんとか生きることができた。
お前みたいにな。
それだけでも運命に勝ったと自負している。
死んでからは言語障害も治って、まともになれたんだ。
だから頑張って働くのさ。
まともに働けることが楽しくて仕方ない。
同じような境遇の人をサポートする仕事を志願したのよ」
「やっぱり俺たち、みんな似た者同士だな」
「そうそう、あの世は”類は友を呼ぶ”世界なのさ。
だから、比較も競争もない。楽なのよ。
でも楽な分、現世みたいに
自分を劇的に変えることはできない。
運命のいたずらによって人生逆転とかはまずない。
現世で染みついた心の習性のまんまで過ごすことになる」
「習性のまんま?自由意志が衰退してるってこと?」
「そうさ、だから現世で苦労せず惰性で生きた奴はこちらでは意志の力が弱い。
一方、現世で苦労した人、強烈な試練を乗り越えた人、アスリート、行者、
波乱万丈の人とかは絶えず自分を変える努力をしたから、
あの世でも自分を変える力、自由意志が強いんだ。
まあ、現代人は激しい変化にさらされてるから死んで自由に
生きられる人が多いかもね。お前みたいに切替えが速い」
「そうかもね。
今の現世は変化が速すぎるからね」
「そうなんだろうね。
私はITとかが登場する前の人間だからわからないが。
あのな? 一番ダメなのはな、パーフェクトヒューマンなんだよ?」
「なんで? 優等生だろ?どうしてダメなの?」
「昔からな”器用貧乏”と言って何でもできる奴は真剣に努力しないから
一芸も極めることができないんだよ。
霊力も意志力も育たないんだ。
なのに気位だけは高い。
あの世に行って、みんなから避けられて孤立してしまうことがある。
同類同志でも仲良くできない。
可哀そうなタイプだよ」
「そうなんだ。それは意外だね」
「神様はあえてそういう人達に試練を与えて鍛えることがある。
でも、ちょっとしたつまづきで転落してしまう事もあり、危うい。
あんまり恵まれている人生はよくないんだ。
その内、そういう人を目にできるよ。この仕事してるとね」
「心得ておきます」
「おれはとてもうれしいことがあったんだ。聞いてくれよ。
長年支援してきた いじめられっ子の青年なんだが、
今、現世で工場の熟練工なんだ。
先日、技能選手権の大会で優勝したんだ。
かつては、自殺未遂までした子だったんだが、
みんなで支援した甲斐があったよ」
「ほう、それは良かったですね」
モグロはあの世から支援してきた青年が幸せを掴むことができるように
なったことがうれしくてたまらないようである。
そんな談話をしている時、モグロのモニタにメールが飛び込んできたようである。
「あんたが支援してきた青年が狙われている。
危険が迫っている。守護せよ」
とのメールである。どうやら防犯を専門にしているチームからの
警告らしい。このチームが警告してきたということは、犯罪に
巻き込まれる可能性があるということである。
「この青年に暴力を振ることを企んでいる人間がいる。
事件に遭う可能性は65%。危険である」
とのこと。そして狙っている人物のプロフィールが表示された。
男は某大学6年生の学生である。大学にほとんど登校せず、ふらふらしている。
親のすねかじりである。男の名前は 瀧森耕史 である。
ダンディでおしゃれな男である。あちこちの女を手玉にして日々を過ごす。
夜はいきつけのクラブでバイトをしている。
ハンサムでトークも歌もうまいこの男は夜の世界ではモテモテである。
ホストにならないか?と誘われたこともあるが、プライドが高い耕史は耳を傾けなかった。
はっきり言ってゴロツキ、ジゴロである。性根が腐ったジゴロである。
そんな耕史の姿が映し出された。
耕史は新聞を取り出して地方版の記事を見つめ、憎しみの炎を燃やした。
「絶対に許せない。こいつを絶望の淵に落としてやる!」
と心の中で叫んでいた。
耕史が見ていた記事はモグロが支援していた青年が技能大会で優勝した記事である。
耕史とその青年は小中学時代の同学年である。
モグロは顔が青ざめた。
「なんだよ。こいつ、何で青年を恨んでいるんだよ。
何か過去にあったのかよ」
するとモニタにメッセージが表示された。防犯チームからである。
「モグロさん、我々の調査の結果、この男と青年との接点は
小中学校で同じ学年だったことだけです。友達でもないし、
喧嘩やトラブルがあったわけでもないです」
「じゃあ、なんで恨んでいるんだよ」
「単純な話です。嫉妬です。
技能大会で優勝したことを嫉妬しているんです」
「おい、この女たらしと青年は友達でもなかったんだろ?
ライバルでもないだろ? なんで嫉妬するんだよ」
「そこがこの男の心の闇なんですね。
注意してください。この男は青年に暴力を振って
技能が使えないようにする計画を立ててます。
ハングレ集団を雇うことを考えてます。
この男の家は金持ちなので、ハングレを雇うことができるんです」
「なんてことだよ。冗談じゃない。
青年が何をしたっていうんだよ。
どうしたらいいんだよ。
勇樹、シンリ、助けてくれ。
私が大事に育ててきた青年が理由もなく狙われているんだ。
なんとかしたい。協力してくれ!」
それを聞いた勇樹とシンリは即座にモグロに協力すると手を上げた。
勇樹はモグロに力をこめて答えた。
「モグロさん、協力します!
何の理由もなく青年が事件に巻き込まれるなんて納得できないです」
「ありがとう。助けてくれ。
勇樹くん、この男の心の闇とやらを探ってくれないか?
シンリくん、この男の計画を阻止してくれ」
「わかりました。この男はハングレに頼んで青年が夜道を歩いてる
時に襲い、腕に損傷を与えようとしてますね。それが見えます。
青年が決して夜道を一人で歩かないように誘導すればいいんです」
「シンリさん、でも、この悪い男はそれで諦めますかね?」
「相当な怨念だから。もしかしたらまた狙うかもしれない」
「こいつがどんな人間なのか調べてみますよ」
勇樹はこの男,耕史に意識を向けてみた。すると様々な情報が
モニタに次々と表示されてくるのだった。
「この男は、俺と同じように辛い過去があるのだろうか?
何がこの男を嫉妬に駆り立てているのだろうか?」
モニタにはこの男の今までの人生が映画の予告編のように表示された。
瀧森耕史は、父親が大手製薬会社の役員であり、生まれた時から恵まれた環境で
愛情を受けて育った子供だった。
両親は心の広い人であり、勉強だけでなく、社交的な子供に育てようと
武道やスポーツ、そしてボーイスカウトのような活動などをさせ、
普通の公立学校に上げさせたのである。
幼児の頃から理想的な教育を受けた耕史は小中学校では常に優等生であった。
勉強だけでなく、スポーツや校内活動にも熱心な優等生の中の優等生だったのである。
その上、育ちの良いイケメンであり、いつも女子生徒の憧れの的であったのだ。
小中学校で生徒会長を務め、しかもバスケ部のキャプテンである。
何をしてもそつなくこなすパーフェクトヒューマンだったのである。
県内の有名学校に進学し、いつも、彼を追いかけまわす女子生徒がいること
が目撃されて、地元で有名になるほどであった。
ところが、地元で注目されていた彼だったが、
受験では有名な大学に合格することはできなかったのである。
悪くもないが良くもない地味な大学に入ったのだが、彼には人生最大の挫折であった。
大学生になると、地元で耕史のことを追いかけるファンもいなくなり、
耕史のことは、全く話題にならなくなってしまったのである。
大学に行っても特に彼が目立つことができる場はない。
サークルやコンパでモテるだけである。
今まで注目を集め、憧れの的だった彼が平凡な大学生の一人と
なってしまったのである。
「10で神童15で才子20過ぎればただの人」
ということわざ通りである。
どこにでもある普通の出来事であるが、耕史には耐えられなかった。
いつも心の中で考えていたことは
「人間には、価値のある人間と価値のない人間がいる。
俺は価値のある人間に生まれた。俺は天から祝福された最高カースト。
俺は一生人から崇められ、一生幸せを享受できる宿命。
一方、価値のない人間は社会のお荷物、生きるに値しない。
カーストは生まれた時に全部決まっていること。
カーストの低い人間は何をしてもダメ。幸せにはなれない」
という自分が最高の人間であるという、ただそれだけしかない世界観である。
何をしてもそつなくこなし、何をしてもうまくいく、そして何をしても
トップで目立つ。それが当たり前で育ったのでそういう考え方になったのだ。
しかし、今は誰からも注目されない。ただの平凡な学生の一人。
酒場やコンパに行けば、女達にモテまくるのだが、耕史にとっては
雑草みたいな女達にモテても、うれしくもない。
そんなことは当たり前であって、幸せでもなんでもない。
「満たされない。何かがおかしい」と嘆くようになった。
でも、どうしたらいいか分からない。自分はどう生きればよいか?
悩みは深まるばかり。プライドが高すぎるために何も着手することが
できなくなっている。小説「山月記」に出てくる虎のようである。
「平凡な人生なんてまっぴらだ。平凡な幸せなんてまっぴらだ。
俺は天から選ばれた完璧な男だ。頂点に立つべきなんだ。
人から崇められるべき男なんだ。そうでなければならない。
なのに、なんでなんだ。
一体どうなってるんだ。あんなにうまく行っていたのに何故・・」
学校が平凡な大学に感じられてしまい、行くのが面倒になり、
凡庸な級友達を避けるようになっていった。
やがて学校にもほとんど顔を出さなくなっていった。
毎日、不満を吐き、嘆き、酒や女に溺れるようになり、
いつしか、ゴロツキみたいな夜の生活をするようになったのである。
ある時、耕史は中学時代の友達からSNSでメッセージをもらった。
小中学校で同学年だった人が技能大会で優勝して新聞に載ったというニュースである。
急いで新聞を買って見てみると地方版にでかく掲載されている。
それを見て耕史は怒りに震え、涙がこぼれた。
「あいつだ。思い出した。
あんなやつ。頭は悪いし、トロくて何をしてもダメだった奴。
いつもいじめられて泣いてた情けないやつ。
あいつが優勝だって? ふざけるんじゃない。
確か、最低の工業高校にしか行けなかったあいつが、どうして。
あんなやつ、生きる価値のない人間のはずだ。それがどうして。
俺がこんな状態なのに、なんで、あいつが新聞に載るんだ、
あり得ない、あり得ない。あってはいけないことだ。
絶対に許せない!あるべき姿に戻さねばならない!」
耕史は激しい嫉妬の炎を燃やし始めたのである。
「どんなことをしても、あいつを陥れてやる。
技能の仕事が二度とできないようにしてやる」
と復讐を誓うのであった。
彼は父親に嘘を言ってお金を出してもらい、
それを使ってハングレに依頼することを計画するようになった。
「闇サイトを使ってハングレどもに依頼する。
青年が少女を襲っている痴漢の常連犯だと吹き込めばいい。
天誅を下すと言えば、やってくれるだろう。
二度と痴漢ができなくなるように指をボロボロにする
よう依頼する」
などと計画を練っている姿がモニタに映し出された。
「はて、どうやって身元がバレずに金を渡すか?
そしてあいつをどうやって夜道に誘い出すか?」
などと思案している。
これを見た勇樹とシンリは頭に血が上った。
「この男、なんてやつだ。
俺と同じ不幸な境遇だと思ったら、
そうじゃない。生徒会長じゃないか?
腐ってしまった生徒会長だ。
許せない!」
「私も頭にきた。
計画を阻止しよう。青年を守るんだ」
「犯行を阻止しても、また狙うんじゃないか?
痛い想いをさせないとダメだろ? シンリ」
「そうだな。こうしようか?
最悪のハングレどもに依頼してしまい、逆にハングレ達から
因縁をふっかけられてしまう。
しまいにはこの男はハングレどもにボコボコにされてしまう。
自慢の顔を損傷してジゴロもできなくなるのはどうだ?」
「そりゃ、名案だ。男を奈落に落とすことができる。
己が腐った人間であることを思い知らせてやろう。
でも、シンリさん、そんなことできるの?」
するとモグロが出てきた。
「お二人さん、気持ちはありがたい。
でも、未だ何もしてない人に制裁なんてダメだよ」
「ではどうしたらいいんだ?
犯行を阻止するだけしかできないの?
この男はきっとあの手この手を使うよ。
いつか青年がやられてしまう。
やられてからじゃ遅いんだよ」
「うん、困ったなあ。
太陽様、手を貸してください。
応援をよこしてください」
とモグロは悲嘆に暮れていた。勇樹もシンリも困っていた。
そこへ、登場したのが同じオフィスに居る「お局さん」である。
「あんたら、幼稚だね〜
頭がビーバップハイスクールになってるよ」
「お局さん、手を貸してくれるの?
ビーバップ?それなんですか?」
と勇樹が答えた。
「ヤンマガの世界だってことよ」
「ヤンマガって?」
「ヤングマガジン、コミックの世界だってこと!
つまり、子供だってこと」
「え、は、はい?」
「この男に制裁加えてもいじけるだけ、男は反省もしない。
もっと悪辣な人間になるだけだよ。
何の解決にもならないよ。
大人ならもっと賢い戦略を考えなよ。
あたしの見立てだと、
こいつの運勢は16歳が頂点。
生まれてから高校時代までが絶好調だったのさ。
そういう周期。あとは平凡な運勢が続く。
こいつは運勢の周期を知らないから、勘違いしてるのさ。
自分が天から選ばれた人間で、幸運が一生続くはずと勘違いしてる。
まあ、恵まれて育った奴には、よくあることよ。
その勘違いから目覚めさせればいいの。
勘違いを目覚めさせるのにいい方法がある。
ハニートラップがいいよ」
「は、ハニートラップって?どうするの?」
「女だよ。
この男のハートを奪うベストな女を送り込むのさ。
そうして、人生観をガラリと変えさせる。
男ってのは、あんたらと同じ馬鹿な生き物。
女に夢中になるだけでガラリと別人に変わるよ。
信仰心のある女がいいだろう。説教がうまい女だね。
好きな女から説教されたら、男は人生観がガラリと変わる。
それが現世の男ってもんだよ。
犯罪のことなんか忘れちまうから見てなよ」
「でも、そんな都合のいい女なんてどうやって見つけるの?」
「あたいに任せなよ。
あたいは占い師だよ。
この男のハートを100%虜にする女を
マッチングで探すなんてお手のもんさ。
そして、恋愛運、出会い運のタイミング設定をする。
占いチームに頼んでおくよ。
未来の計画表もいじっておく。そうすれば間違いなく
女と出会い、結ばれる。運命の出会いみたいにね(笑)
運命の出会いってのはあの世が仕組んでるの。
あたいらみたいな霊達がね。
この男が女に夢中になっている間に、あんたらは
男の心の中から襲う計画を消し去るんだよ。きれいに。
シンリと勇樹、あんたらならできるだろ?」
「は、はい、やります」
お局さんに任せたところ、翌日にも男は酒場で
理想の女性と出会った。運命の出会いである。
男が望んでいた美貌、好みのタイプとピッタリ。
神秘性すら感じるシチュエーション。
「こんなに惹かれた人は初めだ。
人生最大の運命の出会いが訪れたんだ。
絶対にこの祝福を逃さない!」
男は一目ぼれしてしまい、ぞっこんになってしまった。
その日から、男の頭の中は女のことだけに染まり、
女性のハートをつかむことだけを考えるようになった。
青年のことなんてすっかり忘れている。”恋は盲目”の言葉通り。
そして男は女を手に入れるために、生き方を変えようと
決意したのである。
「もっと誇りを持った生き方をしよう!
俺は彼女に愛される男になるんだ!
こんな夜の生活はやめて、まともな人生を歩むんだ。
全てを変えよう、彼女と一緒に生きるんだ。
俺に人生逆転の時が訪れたんだ」
数日後、モグロの元に防犯チームからメッセージが届いた。
「青年への犯罪リスクは0%になりました。ご安心ください」
とのことであった。モグロはほっと肩をなでおろした。
「みんな、ありがとう。青年を守護することができた。
感謝するよ」
「いや、これはお局さんのお手柄ですよ。
お局さんって優しい人だったんだなあ。
見直しましたよ」
と勇樹が褒めたたえると、お局は笑いながら返事をした。
「ふふふ、ありがとね。
実はね、ポイント稼ぎなのよ。
この男に制裁を加えて犯罪予防しただけだとポイントは 10点
この男を立派な人に更生したらポイントは 1000点だよ。
こりゃ、いい仕事だと思ったから手を貸したの。
このポイントは私がもらうからね。
そうそう、もう一つ理由があったわ。
男の馬鹿さを笑ってやりたかったの。面白かったわ」
これを聞いて勇樹は
「ええ?そんな理由で・・・」
と震え上がったのだった。
やはりお局さんは得体の知れない人だったと感じる勇樹だった。
勇樹が一人で考え込んでいるとモグロがやってきて
語り掛けてきた。
「勇樹、言っただろ。
この耕史という男もパーフェクトヒューマンだったのさ
生まれ持った肉体も環境も全て恵まれていたのさ。
だから、ただの人になってしまったのさ。
器用貧乏の言葉通りさ」
「なるほど、じゃあ現世では不幸な方がいいのかな?」
「さあね。難しい議論はシンリに振ってくれ。
ところで、もし制裁を加えていたら、
また、警告ものだったぞ。
もう、そんなことを考えるなよ。
我々は必殺仕事人じゃないんだから」
「仕事人か? かっこいいじゃないですか?
東山紀之の同心役にしびれるよ」
「同心役は藤田まことだろ?
今は違うのか? 東山って少年隊のか?
ま、そんなことはどうでもいい。
私が叱られるようなことは絶対するなよ」
また、何事もなく日々が過ぎた。
技能大会で優勝した青年の幸せな日常、および、
運命の女性と出会い、心機一転の決意をしたゴロツキ男のドラマの
背後で、このオフィスの霊達が懸命に画策していたことは、
現世では誰一人気づくことはなかった。
想像すらする者はいなかったのである。
つづく
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