本作品は2021年作です。

<ストーカー>

 梨菜(りな)は大手損保会社の商品開発部に所属しているエリート社員である。
同僚の男性達と競い合うように仕事をしていおり、かなりのやり手である。
帰宅が遅くなることも多い。

 梨菜は子供の頃から夢を叶える達人であり、欲しいものはほとんど手に入れてきたと自負している。
学業トップはもちろん、運動会での優勝、劇の主役獲得、部活で全国大会出場、志望校合格、
就活の成功その他、何でも望みを叶えてきた。
 その秘密は、目標を設定するテクである。
誰かから教えられたわけでもなく叶えたい事をイメージにして描き、それを心の奥(潜在意識)に
定着させることでその実現に猛進するというやり方である。一度設定すると叶えることだけを
考えるようになり夢中になることで実現させていたのである。
梨菜は、これを自然に行っていたのである。
時に、自分の中のもう一人の自分が鼓舞して自分を操っているように感じることもあった。

 大手企業に就職することもこのテクで叶えたわけであるが、いざ入社してみると理想と現実は
異なっており、つまらない仕事で忙しく追われるばかりである。
組織に居ると目標がはっきりイメージしにくく、これまでの方法があまりうまく使えない。
目標設定ができないと力も意欲もわかない。それで仕事がはかどらない。
梨菜はイメージ化できるようなはっきりした目標がないと何もできない体質になっていたのである。

 一方、私生活では、テクをフルに活用して充実していた。
人気の街の綺麗なマンションに住んでおり、職場で一番イケメンの男性と交際することを叶えていた。
しかし、この彼のことが段々と頼りない男、つまらない男に感じられてきているのだった。

「もっと頼りがいのある強い男、刺激のある男の方がいい」

といつしか別な男との出会いをイメージしたりするようになっていた。
それでも一応は彼氏である。名前は優馬(ゆうま)である。

 そんな梨菜がある夜、自宅に帰ると宅配ボックスになにやらプレゼントみたいな
箱が届いている。差出人は知らない名前である。中身は高価なぬいぐるみだった。
「送り主は誰? 何のプレゼント?」と思っているとPCに新着メールがきた。
メールのタイトルには「僕はいつも君を見ているよ」と書いてある。
文面には

「はじめまして メブル剣士 です。 
 君が疲れた表情しているのでプレゼントしたくなりました。
 受けとってほしい。
 君は僕の未来の恋人になる運命だから」

などとラブレターみたいな内容が書いてある。しかし、誰なのかは文面からは不明である。

「なによこれ、プレゼントを送りつける商売?」

すぐに送り返そうと思ったが、住所を検索すると実在しない。おそらく名前も偽名だろう。
気味が悪いと思ってその時は無視したが、メールが毎日のように届く。
メールには梨菜の日常を監視しているかのような観察記録が書かれている。

メールを都度返信してみたが、質問に回答もしないし、収まる気配はない。
そして毎週プレゼントが届くのである。
知らない人からのプレゼントなど気味が悪いだけである。

ある日、メールには優馬のことも書いてあった。

「君の彼氏、あの男はダメな男だね。君にはふさわしくない」

などと書いてある。

「何で、彼の事を知ってるの? あ、そういえば、彼が自宅に来た事が何度かある。
 それをウォッチしたのだろう。でも、
 もしかして、このストーカーって会社の人かも?」

と思ったりする。

「会社で私に好意を抱く人、もしかしたらあの人?」

すぐに警察に訴えることも考えたが、梨菜は何故かそれを行う決断ができない。
相手はストーカー犯のように思えるのだが、一方で真剣に想いを抱いてるようにも感じられる。
もしかしたら、職場の人かも? 何人かの候補が頭に浮かんできた。
彼氏よりもずっとできるあの人かも? それとも、いつも色目を使って私を見つめるあの人?・・
こんな行為をするということは私のことを本気で好きなのかも。
メールの文章からは自信がうかがえるし、高い知性が感じられるのである。
「ストーカー」と感じる一方で、ちょっとではあるが期待やスリルを感じたりもする。

メールは毎日届き、プレゼントも毎週のように届くのが続いた。
いつまで経っても「メブル剣士」と名乗っており、身元を明かさない。

「どういうこと。いつまで続けるつもり。
 こんなことして私があんたと付き合うとでも思ってるの?」

と怒りの返信をするが「君は必ず僕のものになるよ」などと余裕の返事をしてくる。

ちょっとイライラしてきたので、警察に通報しようと思ったが、なぜかできない。
心のどこかで自分の理想の男性との出会いかもしれないと感じているからである。
自分の願望実現テクが無意識的に引き寄せたのかもしれないと思ったりもする。

「いや、理想の彼氏なんてことがあるはずはない。やはり気味が悪い」

心は動揺するばかり、不安なので優馬に相談してみたところ、

「それは変質者だよ。警察に訴えた方がよい」

と単純な回答しかしないので梨菜は傷ついてしまった。

「私の気持ちの動揺をみじんも察することができないデリカシーのない男」

と感じるのであった。これがきっかけで優馬との間も更に疎遠になってしまった。

 不安が高まってきた梨菜は、ストーカー専門の探偵に相談することにした。
探偵に相談したところ、親切に指導してくれた。

「これは犯罪者の手口ね。
 相手は本当にあなたを愛しているのではなく、性的な対象でしかないわ」

と断言した。
元婦警だった探偵は事件に発展するリスクが高いと分析をしてくれた。

「私の経験では犯人はあなたに接触してくるようになります。
 暴行や殺人に発展する可能性があります」
「私の職場の人という可能性は?」
「まずありえません。
 身近にいる人が、こんな嫌われるようなことをするはずがないですよね。
 それに今はこういう行為をするとセクハラやストーカーで逮捕される時代ですからね。
 大手企業の人がこんなことするとは考えられないです。
 あなた、もしかしたら、理想の男性が接近してきてると思ってませんか?
 ちょっと失礼になるかもしれませんがあなたは思い込みが強い傾向があります。
 冷静に現実的に考えるよう心掛けてください。
 過去の経験から、こういうことをする人が常識的な男性であることはまずないです。
 そんな望みは捨てなさい。これは命に係わる危機だと思ってください」
「わかりました。
 やっぱりそうですね。
 こんなことをする人間なんてろくな人ではないですね」
「すぐに警察に通報して指導してもらったほうがよいです。
 その後の身の安全の確保について当社がアドバイスしますので」

また、探偵は、過去に同じ手口で女性にストーカー行為をした犯人が、
梨菜の近所にいるとの情報を突き止めてくれた。
危険だから可能なら引っ越した方がよいともアドバイスをしてくれた。
この男は現在執行猶予中とのこと。
周囲の人達の評判は悪くないことが分かったとのことであるが
執行猶予中は誰でも猫を被るので、それだけでは信用はできないとのことであった。
ただし、この人物が犯人とは限らないので絶対にあなたから接触しないこと!と釘をさされた。

犯人は近くのマンションに住む井川康という男であるとのこと。
彼は2年前に近所の女性にストーカー行為をして、その女性を監禁した罪で
逮捕されたというのである。

手口はプレゼントを送りつけて心を動揺させてメールを送って段々と気を引くという
手口だったことを教えてくれた。
この犯人は知的な男性を装って言葉巧みにせまる手口を用いていたらしい。
なんでも脚本家を目指していたので文章は得意だったとのことである。
被害者は大手企業に勤める女性で、ネットのブログから狙いを定めたらしい。
犯人はエリートの女性に憧れがあったらしい。

これを聞いて

「私にメールを送り付けているストーカーと手口がそっくり。
 私のこともブログでかぎつけたのね。
 そういえば最初の頃のブログは個人情報バレバレだったわ」

また犯人が送ったというメールも見せてくれた。ニックネームは
「救世騎士」と名乗っており、気取って自信満々な口調。そして
綿密に下調べした情報が伺われる。

「救世騎士? メブル剣士とよく似てるわね。
 ニックネームまで同じ手口、こいつが犯人に間違いない。確定ね。
 これでわかったわ。こいつの仕業だったのね。
 執行猶予中なのに、また同じことをしてるのね」

探偵がくれた資料には犯人の経歴や顔写真が乗っている。ろくでもない経歴である。
しかも見た目もチンケである。ぐえ〜と吐き気がするような不細工な容姿である。
被害者を監禁しただけであり、心の病を抱えていたということで執行猶予となったとのことである。
コロナ禍の時期だったこともあり、TVなどで報道されなかったため、近所でありながら
彼女はこの犯人のことを知らなかったのである。

「私はこんな男に振り回されていたなんて。虫図が走るわ。
 いままでどれだけ心をかき乱されてきたか?
 この男、反省なんてしてないじゃない? 心の病? 嘘もいいとこ、
 自分勝手で、高慢で、最低中の最低。
 優馬との間にも亀裂を入れられてしまったし、どうしてくれようか?
 倍返しで復讐してやる」
 
と復讐を決意するのだった。警察に訴える決意をした。
「通報してもいいが、メールとプレゼントだけでは大した罪にならない。
 どうしたら、もっと復讐ができるか?」と思案を始めた。

そんなある日、梨菜は会社で商品開発部から、データ管理部門に異動を言い渡された。

「データ管理部なんて誰でもできる部門じゃないの。
 私は開発から降ろされたってこと?」

ショックは大きかった。

「女だから外されたのね。
 この会社は今でも男尊女卑。
 私が女だからまともに評価してないのね」

優馬に相談すると

「そんなことないよ。被害妄想だよ。
 いいじゃない。今よりも早く帰れるようになるよ。
 もっと自分のことに時間を使った方がいいよ」

と言ってくれたが彼女には嫌味に聞こえた。

「私が左遷されて喜んでいるのね。最低。
 俺と結婚して主婦になってくれとでも言いたいの?
 こんな男の妻になんかならないよ。
 会社も辞めてやるわ」

と反感を抱く梨菜であった。
彼女のショックと怒りは彼だけでなくストーカー男にも向けられた。

「ふざけんな。井川康 私の心をもてあそんだ変態男、
 お前のせいで、仕事がおろそかになって左遷されたんだよ。許さない。
 警察に訴える前にこの手で仕返ししてやる」

しかし、この井川康がストーカーの正体である証拠はない。
 そこで梨菜は試してみることにした。メールに実名を書いて返信したのである。

「あんたの名前知ってるよ。井川康でしょ?
 あんた執行猶予中にこんなことして捕まったら重い実刑になるよ」

と送ってみたのである。
「もし、井川康じゃなかったら、必ず違うと否定してくるはず」

それを送ったとたんにメールもプレゼントもピタリと止まった。
2週間ほど待って梨菜は確信した。

「返事がないということは図星ということ。
 こいつは井川康だわ。
 よくも私をバカにしてくれたわね。
 私に手を出すなんて身の程しらずよ。
 反省してるふりをして、いい人を演じて、
 裏ではストーカーだなんて、まるでジキルとハイド。
 こんなやつを野放しにはできない」

彼女はいつしか、犯人を追い詰めて自首に追い込んで、
自分がみんなから賞賛されるイメージを描くようにした。
職場の人達に賞賛され、ワイドショーで「犯罪者を自首させた勇敢な女性」と
取り上げられるのをイメージした。

彼女はこれを行うと目標に夢中になってしまうのである。
目標のことを考えるとわくわく感じてくるのだった。

彼女は、毎日のようにメールで

「警察に通報してやるわよ。
 早く自首した方がよいわよ」

と送った。しかし、依然返事はない。

「返事も、自首もする度胸がないのね。臆病者ね」

彼女は、普段から女だからと見下された悔しさを晴らすように
「こんな下衆な男になめられたなんて許せない」と怒りを燃やすのであった。

犯人からピタリとメールが来なくなって、来るのは優馬からだけである。

「梨菜、もうストーカー退治はやめてほしいんだ。
 犯人は身元がばれてもう何もしなくなったんだろ?
 もういいじゃないか?」

と書いてある。すぐに電話をした。

「私は犯人に復讐するつもりよ。
 こんな犯人野放しにできないでしょ?」
「どうするつもりだよ」
「私は犯人に警察に自首しなさいと返信したけどダメだったわ。
 だから次の手を打ってるの。挑発よ。
 きっと犯人は私を脅迫するか、襲いに来るわ。
 襲いに来たら監視カメラでそれを撮影するのよ。
 私はしばらくウィークリーマンションで過ごして監視するわ」
「危ないよ。犯人は何をするかわからない。放火するかもしれない。
 やめるんだ。警察に通報すればそれでいいじゃないか?」
「犯人の本性がどんなに凶悪なものかを暴いてやるのよ。大丈夫。
 スプリンクラーの装置も付けたわ。それに警備会社とも契約したの」
「おい、なんでそんなことまでするんだよ。相手は異常者だろ。
 何するかわからないじゃないか?」
「いくじなしね。だからあんたは出世できないのよ。
 私はこれで犯人を告発して、世間や左遷した上司たちを見返してやるのよ。
 私は弱い女じゃないってことを見せてやるのよ」
「まだ、左遷されたなんて思ってるのかい?
 君の妄想だよ。サラリーマンに異動はつきものだよ」
「私が妄想に駆られたバカだと言ってるの?
 あんたこそ無能な男、いくじなしの男。
 もうそろそろ私たちはおしまいね」

と言って電話を切った。

梨菜の頭の中は犯人への復讐だけになっていた。
部屋にいくつもの監視カメラを設置して、火災報知器も設置した。
警備会社とも契約してすぐに駆け付けてもらうようにもしたのである。
また、金出せば何でもやる探偵社に依頼して犯人の過去などの詳細な調査を依頼した。
犯人の同級生や知人、故郷の人達の名簿も取り寄せた。

「ふん、最低男のくせにエリートの女を手に入れようなんて・・あつかましい。
 私は許さない。私はあんたとは格が違うのよ。
 実力の違いを見せつけてやるわ。
 あんたの無力さを思い知らせてやるわ
 そして二度と猫被ることができないようにしてやる」

梨菜は、まず犯人の家に嫌がらせの手紙を次々と送ったのである。脅迫状である。
また、近所の家に男が犯罪者であると書いて投函したり、男の職場の人達にも前科がわかるように
工作をしたりした。また、同級生や友人達に、男の犯行の事実を郵送しまくった。
また、ネットの地元版の掲示板に事件の記事のリンクを張りまくったのである。
そして犯人の過去の恥部を洗いざらいネットに書き込んで暴露した。

彼女は暇さえあれば犯人を追い詰める工作を繰り返していた。
まるでゲームに夢中になるかのように。

「これで犯人は私に脅迫のメールを送ってくるか電話をするか?
 あるいは部屋に襲いに来るか?何かするわ。
 そうすれば私の勝ち。証拠を警察に通報するだけいい。
 ストーカー及び脅迫で警察に逮捕される。
 執行猶予中にまた同じことをしたということで重加算の実刑ね」

梨菜は自宅には帰らずウィークリーマンションに寝泊まりしながら、カメラを監視する日々を送っていた。
久々にわくわくする日々を送っていた。

「犯罪者の退治ってこんなに面白いものだったのね。
 犯人が悩み苦しんでる姿を想像するとスカッとするわ。
 今度はこの男の出身地の人達にも前科を知らせてやるわ。
 ニュースになってないのでみんな知らないと思うので」

こんな日々が1か月近く続いた。
ストーカーからメールは一切来ない。来るのは優馬のメールだけである。

「また優馬か、うるさい男、カタがついたら会ってあげるよ」

ある日、優馬から電話が来た。

「梨菜、僕は来期から転勤になることが決まった。
 それで引っ越そうと思うんだ。
 よかったら一緒に住もうよ。
 もうストーカーのことなんて忘れてほしいんだ。
 引っ越せばもう関わらなくなるよ。そうしようよ。
 復讐なんてやめて欲しいんだよ。君のことが心配なんだよ」

「逃げろっていうの?
 ほうっておいたら犯人はまた犯罪を犯すわ。誰かが犠牲になるの。
 犯人を実刑にして監視対象の性犯罪者に仕立てなければいけないの。
 私は世の中の為にやってるのよ」

「きっと犯人はもう実名がばれて懲りてるんだよ。
 もうストーカーはしなくなるよ。
 人を裁くのはやめろよ。
 君にそんなことしてほしくない。君こそストーカーじゃないか?
 よく聞くんだ。
 追い詰められたら人間は何をするかわからないんだよ。
 危ないよ。僕と一緒に引っ越ししようよ。会社もやめればいいよ。
 もしかしたら、犯人はもう君の居場所を把握してるかもしれない。
 今居るその場所に襲いに行くかもしれないんだ。あぶないよ。
 もう、逃げようよ。二人で静かに暮らそうよ」

「私がストーカーだって? よくも言ったわね。
 この臆病男。
 あんたのそういう気の弱いところが嫌なのよ。
 もう私に関わらないで!
 もっとおとなしい彼女を作りなさい」

「わかったよ。もう言わないよ。好きにすればいいよ。
 君の職場の人が噂しているよ。君は仕事もしないで
 PCに向かって別なことをしてるって。
 会社でも犯人退治してるんだろ?
 仕事や僕のことより、そっちの方が大事なんだね。
 君は異常だよ。もう別れよう。
 さようなら!」

優馬から電話が切られた。

「ふん、もう私達は終りね。いいのよ。
 元々あんな男、私のタイプじゃなかったのよ。
 私は犯人を実刑にして、みんなを見返してやるわ。称賛されるのよ。
 私は強い女だってことを世間に見せてやるのよ」

と強気に思ったがふと不安がよぎる。

「どうして犯人は沈黙しているのかしら?
 もしかしたら、私の裏をかく策略を練っているのかも。
 この場所に来る? 通勤中や仕事中に襲ってくる?
 もしかしたら、私の方がこいつに操られているのかも?
 見た目はチンケな男だけど知的な策略家かもしれない。
 私の想定外のどんでん返しの策略が計られているのかも・・」

そう考えると不安になってくる。
そこで、通勤時間を毎日変えたり、宿泊の場所を変えたり、
まるでスパイのような生活をする梨菜であった。
しかし、頭の中は犯人を実刑にしてテレビで称賛されるシーンをしっかりと描いている。
それを思い出すとまた強気な自分に戻れることができるのである。

ある日、今度はどうやって犯人を追い詰めてやるか?と考えながらTVを見ていると
ワイドショーでストーカー犯が自殺したというニュースが入ってきた。
井川康の名前が聞こえてきた。驚いてTVに目を向けてみると

 昨日、ストーカー行為の罪で執行猶予中の男性が自宅で首を吊って自殺しました。
 遺書には、次のように書いてあったとのことです。

 何者かが僕にいやがらせをしている。
 僕の過去を暴いて言いふらしている人がいるんだ。
 事件のことは反省して、心を入れ替えているのに。
 どうしてこんなひどいことをするんだ。毎日、苦しい。
 もう耐えられない。死ぬ。

 と書がれていたとのことです。

ストーカー犯がストーカーされて自殺したという奇妙な事件だったので
ワイドショーで取り上げられたのであった。
レポーターによると周囲の人達の評判はよいとのことである。

「彼は真面目な人でした。過ちを深く反省していました。
 掃除のボランティアに毎週参加していました。謙虚で親切な人でした。
 懸命に更生している彼に、こんな嫌がらせをするなんて?誰が?許せないです」

というコメントが紹介された。

梨菜はこれを見て激しくショックを受けた。

「まさか、自殺するとは・・ 
 そこまで追い詰めるつもりはなかったのに。
 ただ、刑務所に送りたかっただけなのに。

 警察は私のメールや手紙を調べるに違いない。
 私はストーカー犯にされてしまう。
 でも、正当防衛よ。私はこの男に狙われていたんだから。
 私は身の危険を感じたし、犯人が反省などしてないから
 告発しただけ。何も悪くないわ。
 きっとみんなわかってくれる。 

 「何者かが僕にいやがらせ」なんて白々しく遺書に書いてる・・
 何故、私のことを伏せてるの?
 自分がやった行為を隠して被害者を装うためね。
 最後まで卑劣な男。自殺して私を悪者にして復讐するつもりね
 遺書に歯に衣着せたようないい人ぶったこと書いてるし。
 なに被害者ぶってるのよ。

 やられてしまった。
 死んで反撃するなんて想定外だったわ。
 もう遅い、私はストーカーにされてしまう!
 私の負けなの?」

とショックで動けなくなってしまった。
その時、メールが1通来た。

「あ、優馬だわ。助けて!
 今すぐ私のところにきて!」

と思ってPCを開けてみると来たメールは優馬のものではない。
メールには・・

「やあ、久しぶりだね。メブル剣士だよ。
 バイクで事故を起こして入院していたんだ。
 腕をケガして、君にメールを送れなくて辛かったよ。
 昨日退院したよ。
 もう腕も元通りになったし、また君にメールが送れるようになった。
 また、プレゼント贈るからね。
 君はたくさんの返事を送ってくれていたね。
 僕のことを井川康という人物だと書いてあるんだけど・・
 僕はその人じゃないよ。人違いだよ。
 僕はねえ、君と同じ会社に居る人物なんだよ。
 警察に通報されては困るので、ここで身元を明かしてあげるよ。
 僕は君の隣の部署の〇〇だよ・・・」

と書いてあった。
これを見た梨菜は更なる衝撃的ショックをうけてしまった。

「ストーカーの正体は隣の課の〇〇さん・・私に色目を使っていたあの人?
 いままで正体だと思っていた井川康は関係ない人だったの?
 人違いだったの。ええええー!

 どうしよう。私はとんでもない間違いを犯してしまった。
 関係の無い人を自殺に追い込んでしまった・・」

梨菜はパニック状態になった。大声で泣き叫び、気が狂いそうになったその時、
目の前に誰かが立っているのが見えてきた。

「誰、誰なの?」

よく見るとその姿は自分自身である。黄金のオーラに包まれて輝いている。
そして着たこともないような高級な衣装を着ている。
その自分自身が笑みを浮かべ、自信満々に語り掛けてきた。
幻覚でも見ているように目の前にはっきり見えている。

「梨菜、私よ。あなた自身よ。
 騙されてはダメよ。これは井川康のトリックよ。
 タイマーを設置して自殺した後にメールを送信したのよ。
 そういうアリバイ作りサービスがあるのよ。
 井川康は、あなたを騙すためにこのトリック使ってメールを送ったのよ。
 会社の同僚の名前まで調べあげて成りすましてね。
 相当な知能犯だったのよ。それだけは褒めてあげてね。
 けっして、その手には乗ってはダメ。化けの皮を剥いでやりなさい。
 あなたは負けてはいないのよ。
 まだ反撃の手段はあるわ。それで犯人を倒すのよ。
 あなたがストーカー被害を受けていたことを世間に知らしめてやるのよ。
 そうすればあなたは勝つことができる。井川康に仕返しできるのよ。
 いままであなたは何でも手に入れてきたでしょう。
 今回も勝利を手に入れるのよ」

目の前の映像に、子供の頃から叶えてきたことが次々と走馬燈のように映しだされるのが見えた。
梨菜はそれを見て気持ちが楽になり、闘志がわいてくるのを感じた。

「そうよね。私は人違いなんてしてない。
 犯人の罠にはまるところだったわ。
 私は必ず勝つわ。
 今まで全て欲しいものは手にいれてきた。
 あなたのお陰だったのね。私の中のもう一人の私さん。
 いつも勝ち続けて来たもんね。
 私が負けることなんてありえないわ。
 もう一人の私さん。ありがとう」

梨菜は、机の上に手紙を置いて、ペンを手にした。

「私は井川康にずっとストーカー行為をされていました。
 ここに証拠を置いておきます。
 警察にそれを通報してください。
 私は被害者です。私がやったことは全て正当防衛です。
 井川康は仮面をかぶって嘘をついてる極悪人です。
 遺書に書かれていたことは嘘です。
 TV局にもそれを伝えてください」

と書いて置いて、ビルの屋上に向かった。

「私は負けたりしてないわ。勝つのよ。
 私はワイドショーで華々しく扱われるわ。
 みんなが私に注目するの。私が描いた目標が実現するわ」

そう言いながら梨菜は、ビルの屋上から飛び降りたのだった。
翌日、梨菜のことはワイドショーで大きく取り上げられた。
妄想に駆られたストーカーとして。

おわり

(注)…潜在意識活用が得意だった梨菜は、潜在意識に頼りすぎたために
    その暴走によって身を滅ぼしてしまったのである。





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