本作品は2019年作です。ホラーです。

<ヤドカリ>

 今石 彰生(いまいし あきお)は動画を再生して見ていた。
モニタではなく、脳裏のスクリーンに以前見た動画を再生するように見ていた。

 彰生(あきお)は脳内で動画を再生して観る特技を持っている。
今日見ている動画は、スピリチュアル団体「ワンネス・ヤドカリの里」なる団体の動画である。
代表の男が演壇に立って説法をしている動画であった。

「皆さん、心の法則をご存じだと思います。人生は100%自分の心が作っているのです。
 なぜ、そうなのかを説明します。その理由は、人間とはヤドカリだからなのです。
 ヤドカリは自分に合った家(貝)を探してそれを住処とします。人間もそうなのです。
 ヤドカリは魂であり、貝は肉体です。ヤドカリはこの世に生を受ける時に
 使命や目的を持っています。それにふさわしい肉体を見つけて生まれてくるわけですが
 残念ながらほとんどの人はそれを忘れてしまい、貝が自分だと勘違いしてしまいます。
 貝はこの世のものですから汚れているのです。

  ヤドカリそのものは神、仏性、大いなる存在と言われる聖なる精髄です。
 聖なる精髄ですから愛と幸福に満ちていて汚れは全く無いのです。
 ですから本来、誰でも思った通りに幸せに人生を生きることができるはずなのです。
 誰もが幸せで、世の中が理想の世界になるはずなのです。これが心の法則(ワンネス)です。

 ところが、多くの人は、自分がヤドカリであることを忘れてしまい、貝が自分自身だと
 勘違いしてしまっているのです。汚れた貝に染まって間違った心の使い方をしてるのです。
 恐れ、怠惰、怒り、私欲、嫉妬、マイナス思考などは貝の毒によるものなのです。
 それが全ての不幸の原因なのです。
 この会では、まず皆さんが高貴なヤドカリであることを思い起こします。そして、
 貝の汚れを取る高度なヒーリングを実施します。

 近年、マサチューセッツ工科大学の量子物理学でも同様の論文が発表されました。
 アメリカではヤドカリとは呼んでないですけどね。
 私どもの会にはマサチューセッツ工科大学を日本人で初めて首席で卒業した人物がいるんです。
 この会場にいますよ。現在は東大の大学院に勤めてます。白田くんという人です。
 本人は大学より我々の研究所の方に遣り甲斐を感じると言ってます。人を幸せにする研究ですから。
 後ほどその人物を紹介しますよ。私の右腕とでもいう人物ですから。
 彼はほんと頭がいい。将棋やオセロをよくやりますが、私が勝てたことは1度もないんですよ。
 でも、ゴルフやスキーでは決して私は負けないですけどね。
 当研究所では、彼が提唱した世界最先端の技術を使って貝の汚れを浄化する様々な
 ヒーリングや商品を提供しています。その効果は世界中で話題になっています。
 昨年、イギリスの権威ある科学雑誌にも載ったんですよ。
 この会員の皆様だけがこの技術の恩恵を得ることができるのです。
 これによって、どなたでも望み通りの幸せな人生を送れるのです。
 当研究所の実績では成功率99.9%です。今度、この実績は学会で発表しますよ。
 会員の皆様は、誰もが幸せになれるのです。それをここでお約束いたします」

代表の男が説法をした後、会員の人達の体験発表が次々と披露された。
感動の体験談ばかりである。会場には涙する人達もいた。

 彰生(あきお)は険しい表情でこれを見ながら、つぶやくのだった。

「なにが、ヤドカリだ。金儲け集団が。母を騙して搾り取った挙句に
 命を奪った憎き詐欺集団。必ず、復讐してやる。もうすぐだ。
 人間の魂は高貴な精髄の一部だと? 笑わせるぜ。
 俺はダークサイドから来た悪の魂なんだよ。お前らだって同じムジナさ。
 ヤドカリ理論なんて真っ赤な嘘であることを世間に見せてやるさ」

続いて動画の中で、会長の秘書みたいな女性が出てきて涙ながらに自分の体験を語りだした。
モデルみたいに綺麗な女性である。

「恐縮ですが、私自身の体験を語らせて頂きます。私は貧乏な家の子供でした。
 それでも何とか生きていました。ある日のことですが、私の母が暴走族の
 バイクに引かれて死亡してしまいました。暴走族は信号無視して飛び込んできたのです。
 母はそのバイクの主と一緒に死んでしまったのです。
 そいつは町の暴走族のメンバーでした。私は暴走族が許せませんでした。
 無謀にも、私はその暴走族のリーダーに復讐しようとナイフを持って襲いに行ったのです。
 すると、リーダーは土下座して私に謝ってくれたのです。
 「本当に申し訳ない。私は間違っていた。族を解散して君に償いをする」と約束してくれたのです。
 実はその時のリーダーがこの会の会長さんなのです。
 当時、私の地元では知らない人がいないほどの大物でした。きっと怖い人だろうと想像してました。
 でも、私の怒りと悲しみの訴えを聞いて、深くショックを受けたようでした。
 とても純粋な人だったんです。
 会長さんはこの時、「これからは心を入れ替えて世の中の為に生きる」
 と私に誓ってくれたのです。その言葉に偽りはありませんでした。本当に族を辞めたのです。
 暴走族の仲間達もみんな、彼に従って辞めたのです。それだけ慕われていた人だったのです。
 会長さんはそれ以来ずっと人救いのために人生を捧げているのです。
 私もこの人の潔さに感動して一緒に人救いの人生を生きることにしました」

などと言って会場は感動の涙に包まれてた。彰生(あきお)は笑いながらつぶやいた。

「よくもここまで嘘を並べることができるものだ。マサチューセッツだの暴走族のリーダーだの。
 この男が暴走族に居たことなどない。もうネットで素性が暴かれている。
 子供の頃から嘘つきで、問題ばかり起こして学校も職場も転々としてきたフラツキだ。
 何度も詐欺や恐喝で逮捕されている。
 この女も美人だから雇われてるだけのサクラだ。金の為なら何でもする最低の女だ」
 
ここで彰生(あきお)は自分の過去を思い出した。スクリーンには過去の出来事が
映画のようにはっきりと映し出された。これも彰生の特技である。

「思い出すだけでも震えがする。
 母は父と離婚してからというもの、心を病んでしまった。
 そんな母にしのび寄ったのがこのヤドカリの会だ。母は救われたいとすがったのだが・・
 その正体は詐欺集団だった。母に次々と変な食品やクスリを売りつけた。
 スーパーで売ってる物の10倍くらい値段が高いものを。これで肉体が浄化されるとか?
 パワーが入ってるという生活用品なども大量に買わせた。

 その上、母はこのインチキ商品のセールスもやらされた。
 友人、近所、親戚に片っ端から売りつけようとした。
 その結果、近所や親せきから総スカンを食らって孤立してしまった。
 母はそれでも団体の活動に夢中になり、入りびたりだった。俺を放ったらかしにして。
 思い出しても吐き気がするのが、年に2回の合宿だ。
 俺は母に連れられて参加させられた。合宿所は汚い場所だった。
 20万も払っているのにメシは最低の弁当1個だけ。合宿の内容ときたら、
 くだらない説法や体験発表、綺麗事の討論会、そして心の修行と称して感謝の言葉を
 何万回も唱えさせられたり、「私は幸せです」などの言葉を紙に何千回も書かされた。

 母は「これで幸せになれる」と言っていたが、母は何一つ幸せになどなっていない。
 母はしまいにはガンになってしまった。ガンになっても病院に行くなと言われて
 怪しげな民間療法をさせられて死んでしまった。母は殺されたんだ。
 馬鹿な母の死など恨んでないが、俺の人生を台無しにした恨みは決して忘れない」

 彰生(あきお)はいつものように目をつむって映画や過去を回想して観て時間を過ごしていた。
目をつむると目の前にスクリーンが現れて過去の出来事や見た映像や音声がありありと
再生できるのである。TVを見ているように詳細まではっきりと見ることができる。
一度でも見た映画やドラマなどはレコーダーを再生するように見ることができるのだ。
毎日、何時間でも、棚からDVDを取ってきて再生するかのように脳裏で観たい映画やドラマなどを
見て楽しんだ。
そればかりか、見たいと思う映像などを自分で創作して観ることもできた。
理想のアイドルやキャラクター、怪物、ロボットなども自由にデザインして
スクリーンに映し出すとができた。いわば、脳の中で自由にクリエイトして
楽しんでいたのである。「TVやアニメよりも自分の想像の方が面白い」と思うこともあった。

 だから、彰生はいつも一人で部屋に篭って目をつむってスクリーンを観ていたのである。
他人には、ずっと寝ているように見えるため、引きこもりと思われていた。
だが、彰生は目をつむって脳内で動画の再生や創作をしていたのである。
彰生は当初、誰でも同じことができると思っていたが他の人は同じことができないことを
知ってしまった時はショックを受けた。「自分は人と違うの?異常なの?」と。
でも、最近ではこれは人にはない特殊な特技かもしれない?と肯定的に思ったりする。

「これはサヴァン症候群というのだろうか?
 脳の障害がある人に同じことができる人がいるとネットで見たことがある。
 ということは俺は脳の障害があるのだろうか?
 でも、珍しい能力なら、これを活用できないだろうか?」

 この特技は彰生を苦しめることもあった。過去の出来事をいつでもありありと
再生して見ることができるのだから、嫌な事を忘れ去ることができないのだ。
 彰生の過去は思い出したくもないことばかりであった。
彰生の家庭は惨憺たるものだった。いつも喧嘩ばかりしていた両親、貧乏な生活、
下衆で意地が悪い親戚達、近所とのトラブル、彰生の周りはいつも修羅場だった。
修羅場から逃避するため、彰生は殻にこもるようになった。いつも暗い顔をしているので、
小学校でも無視されたり、いじめられたので、学校に行かなくなった。しかも、
母はヤドカリの会にのめり込んでいたので彰生はいつも一人だった。
そんな状況だったから、いつも一人で眼をつむり、ドラマやアニメを再生したり、
自分で物語を作って観たりして辛さを紛らわすようになったのである。だから、
脳内スクリーンを描く能力が身についてしまったのかもしれない。

「俺は不幸の星に生まれたんだ。ダークサイドから来たんだ。
 そしてこの世での使命は一つ・・殺人だ。
 ヤドカリの会のやつらをみんな惨殺して世間を戦慄させることなんだ」

最近はそんなことばかり考えるようになった。そして自分が殺人事件を起こすことを
脳内スクリーンで観て楽しむようにもなっていた。

そんなある日、スクリーンに祖母の映像が割り込んできた。
「おばあちゃん・・」

彰生のスクリーンにはたまに外から割り込みの映像が入ってくることがある。
ほとんどどこからの割り込みか分からないが、おばあちゃんからの割り込みだけは
すぐに分かる。
「おばあちゃんがあの世からメッセージを伝えているんだ」
あの世でも自分のことを心配してくれていることにうれしさを感じる彰生であった。

祖母は信仰深い人でいつも仏壇にお経をあげていた。
そして彰生を可愛がってくれた唯一の人だったのだ。
学校に行かないで一人で過ごしている彰生に絵本を読ませてくれた。
時々、図書館にも連れて行ってくれた。

「今思うとおばあちゃんは俺に学校に行かなくても読み書きだけはできるように
 と手を差し伸べてくれたのだと思う。
 そのお陰で俺は文章だけは書ける。感謝している。
 おばあちゃん。ありがとう」

祖母を思い出すと涙が出てくるのだった。
すると不思議なことに、脳裏のスクリーンに母子手帳が見えてくる。

「おばあちゃんはきっと、俺のこの悪魔の宿命に”対抗しなさい”と言いたいんだろう。
 おばあちゃんの気持ちはありがたい。俺を思ってくれてありがとう。
 でも、俺は悪魔の人生を送る宿命なんだ。
 俺が悪魔の魂であることは、生まれた日時に書かれている。これは動かぬ証拠なんだ。
 宿命は変えることができないんだ。おばあちゃん、すまない」

その日、彰生(あきお)は100円ショップに行き、いくつかの雑貨を買ってきた。
その中に包丁が1本あった。

「ようし、これが武器第1号さ。まとめて買ったら怪しまれるから、
 こうやって1本づつ買って武装するのさ。
 俺の一世一代の晴れ舞台がもうすぐ幕を開ける。
 こんな俺でも日本中の注目を集めることができる。スターになれる」

それを思うと体中に震えが起きて熱くなってくる。

「このほとばしるエネルギー、これは悪魔が俺を鼓舞している証拠なのさ。
 こんな能無しの俺でもスターになれる。日本中、いや世界中が俺に注目するんだ。
 ヤドカリの会のやつらを惨殺するショーがこれから始まる。
 惨殺ショーは歴史に残るんだ・・」

彰生は再び目をつむり、自分が行おうとしている犯行を思い描いてスクリーンに表示させた。

「ヤドカリの会は合宿が終わった後、いつも会長やスタッフで打ち上げパーティーをする。
 酒や料理を頼んで夜中までどんちゃん騒ぎをするのだ。その朝方を狙うのさ。
 現代の討ち入りさ。この会の幹部どもを全員惨殺してやるのさ。
 惨殺した後、会長の首を斬って手に持って警察に自首してやる。俺は大石内蔵助さ。
 警察に動機を聞かれたら”太陽のせいだ”と言ってやるのさ。
 俺のこの討ち入りは世界中に報道される。ワイドショーも俺の話題一色になる。
 こんな俺が世界中の注目を集めることができるんだ。これこそ生きてきた甲斐というものさ」

彰生は脳裏のスクリーンに自分の犯行計画を映像化すると体中に震えが起きるのを感じた。
体中にどこかからかエネルギーが注がれてくるのを感じるのである。

「やっぱり俺はダークサイドからきた魂なんだ」と確信するのであった。

「俺がダークサイドの魂である動かぬ証拠をもう一度、確認する」
と独り言を言いながら、手にしたのは占いの本であった。
「七星算命理爻占術」という今日本中で大ブームになっている占いの本であった。
この占いは四柱推命・九星気学の研究家がAIのビッグデータを分析して
占術の誤りを訂正して確度を99.9999%まで高めたという占術史上最高の占いであった。
日本中で「当たる」と評判になって、大ブームになっていたのだった。
その中で宿命大殺星があり、更にその中に地獄大凶星が5つあり、その5つ全てが
揃う人が10万人に一人いるというのである。
彰生はその最悪宿命の時間帯に生まれていたのである。
同じ宿命に生まれていた人に、日本中を震撼させた連続幼児殺人事件の
犯人がいたのである。

「俺はこの犯人と同じ星の下に生まれているんだ。
 俺は殺人を想像すると震えるほどに快楽を感じるんだ。
 間違いなく、俺はこの犯人と同じ世界から来た魂なんだ」

 自分の宿命を知ったのは数年前である。占いをしてもらって初めて知らされたのである。
その時の様子をまた、スクリーンに映し出して思い出した。
ある占い師に相談した時のことである。姓名判断、生年月日で将来を占ってもらったのだ。
すると占い師は真っ蒼になったのを覚えている。

「今石 彰生 という名前は天格9画、人格19画、地格19画、外格9画、総格28画・・
 人格が五行の水、天格も地格も水・・」などと占い師は小声で言いながら絶句してしまった。

「ごめんなさい。こんなに悪い画数の名前を見たことはありません。
 でも、芸術とかの才能があるはずです。もしかしたら天才かもしれません。
 9,19画は天才の画数なんです。
 松任谷由実さんや小室哲哉さんも19画がある人です」

などと繕っていたが、最悪運勢の画数であることは占い師の表情からわかった。
続いて生年月日を調べ始めた。今最も当たると言われている
「七星算命理爻占術」を用いて占うとのことだった。
彰生が生年月日と生まれた時刻を伝えると星を算出し始めた。
すると占い師は再び絶句してしまった。

「あ、あなた地獄大凶星が5つあります。はじめてです。こんな星・・
 すいません。料金はいりませんのでここまでで、お引き取りください」

と震えるような態度を示して追い出されてしまったのである。
最初は何のことかよくわからなかったが後で調べてわかってしまったのである。
自分は最悪の星の下に生まれていたのである。占いの本によると
凶悪犯罪者がこの星から出る確率が極めて高いとされているのである。

彰生はこの時、自分は親や環境のせいで不幸になったのではなく、
生まれた時から不幸と邪悪に染まった宿命であると知ってしまったわけである。
以来自分の使命は殺人など凶悪犯罪をすることだと確信するに至ったわけである。

「そうだ。俺は最悪の名前と宿命を持っていたのだ。
 だから、幸せなんてなることはできない。
 もう何もかも諦めた。
 もう仕事をさがす気力もない。貯金も底をついた。
 遂に、使命を果たす時が来たんだ。決行は今月の最終日だ。
 雪が降ってくれたら、まさに討ち入りになるな」

と決意を新たにしたときであった。
脳裏のスクリーンにまた、割り込みの映像が映し出された。
また、母子手帳が映し出されている。今度は一緒に家計簿も見える。

「ああ、またおばあちゃんか。”宿命に逆いなさい”と言ってるんだな。
 辛いけど、ゆるしてくれ。宿命は変えられないんだ。
 僕は悪魔の魂なんだ。どうしようもないんだ」

すると今度はスクリーンが激しく乱れ始めた。
「なんだ、どうしたんだ」と思っていると今度は突然、
明治時代の頃みたいな格好の男の人がスクリーンに登場してきた。
彰生にはコントロールできない外からの割り込み映像である。

「これは外から送られている映像だ。誰かが送りつけてるんだ」

と彰生はびびっていると、映像に写った男が話しかけてきた。

「彰生、早まってはいけない。よく聞くんだ。
 私はお前の4代前の先祖だ。今石胎蔵というんだ。
 お前は悪魔の魂なんかじゃない」

これを聞き、彰生はこの男と対話することにした。

「あなたは私のご先祖様?どうしてここに出てきたののですか?
 守護霊様?もしかして、おばあちゃんに頼まれたの?」
「まあ、そんなところだ。わしはお前の先祖だ。
 お前が事件を起こすと決意して黙ってられなくなったんだ」
「きっとおばあちゃんもそう思っているんだろうな。
 ご先祖様には申し訳ないけど、僕にはもう生きる希望なんてないんだ。
 事件を起こせば一躍スターになれるんだ。
 許して欲しい。僕は花火のように散ってこの人生を終えたいんだ」
「何言ってんだ。今石家の家系に泥を塗る気か?
 お前も死刑になるんだぞ」
「どうせ死ぬんです。その前にスポットライトを浴びたいんです。
 それにヤドカリの奴らを許せないんです」
「あんな奴らはいずれ破滅する。もうあちこちで糾弾されてるんだろ?
 お前が手を下すまでもない。ほおっておけばいい。
 お前の人生はまだこれからだよ。
 よく聞くんだ。お前は他人に操られているだけなんだ」
「え? 誰に?」
「生年月日の呪縛に操られているだけなんだ」
「よくわからないです?」
「祖母がいつも母子手帳のことを伝えていただろう?
 お前の生年月日について、本当のことを伝えたいからなんだ。
 祖母のメッセージが伝わらなかったようなのでこの私が代わりに説明してやる」
「母子手帳がどうしたというのですか?」
「お前が生まれた時刻は15:30と書いてあっただろう?
 でも、それは間違いなんだ。その時の家計簿が残ってるはずだ。
 そこにメモがあるはずだ。看護士が間違えて時刻を書いてしまったとメモがある。
 看護士に訂正を依頼したが「時刻くらい違ってもいいでしょ?」と訂正して
 くれなかったと記載があるはずだ。
 お前が生まれた本当の時刻は 13:30だったんだ」
「ええ、ということは、僕は地獄大凶星の星の下に生まれたわけじゃないんだ。
 ということは・・」
「そう、お前は悪魔の魂なんかじゃないんだ」
「でも、僕は殺人を考えるとゾクゾクする。悪魔の魂である証拠だよ」
「違う、お前は操られているんだ」
「悪魔に?」
「ちがう、悪魔じゃない。占いを信じる人達の心にだ」
「どういうことですか?」
「よく聞くんだ。地獄大凶星なんて、占いを作った人が勝手に設定した
 だけなんだ。何の根拠もない。連続幼児殺人事件の犯人の生まれ時刻に
 合わせて後から設定しただけに過ぎない。
 何の根拠もないデタラメなのだが、信じてる人達にとっては重要なんだ。
 占いを信じてる人達は何百万人もいる。信じてる人達は占いが
 当たっていて欲しいと願っている。占い師達は「当たってくれなければ困る」と
 強く思っている。その強い念が犯罪者を生み出そうとしているんだ。
 地獄大凶星の下に生まれた人は全国で1000人くらいいる。
 そこから凶悪犯罪者が誕生してくれないと占いが外れたことになって困るんだ。
 その1000人の中で一番犯罪者になりやすい状況なのがお前なんだ。
 占いが当たっていて欲しいという念は、結集してヤドカリのように最適な人間を
 探し出して犯罪者を仕立てようとしている。
 お前が一番それにふさわしい、操りやすい人間だから狙われた、それだけさ」
「ええ、そんなこと。僕はそんな他人の勝手な都合のために
 犯罪者にされようとしていたってこと?」
「そうだ。それが人間の心の力というものさ。
 人間の心は目的を果たすためなら手段を選ばない。
 他人の足を引っ張ってでも果たそうとする。
 人間の心が未来を作るというのが真実だとしたら、
 みんな自分が一番大事だから、
 足の引っ張り合いになるのは当然だろ?
 それが「心の法則(ワンネス)」の真相さ。ヤドカリの本性さ」
「そんな、僕は他人に利用されていたの?」
「そうだよ。
 それだけじゃない。世の中にはそういうことが一杯あるよ。
 例えば、お前が勤めていた食品工場が倒産しただろ?」
「僕が勤めていた会社のこと?去年潰れてしまったよ」
「何故潰れたか?教えてあげよう。元々経営難だったことは確かだが、
 それだけが原因じゃないんだ。
 ある新興宗教が遺伝子操作の食品工場だと非難してたの知ってるかい?」
「ああ、知ってるよ。会社の人が噂してた」
「その宗教団体では遺伝子操作の食品のことを酷く嫌っていて
 いずれ天罰が下ると予言していたんだ。
 となると本当に天罰が下らないと教団のメンツが立たないんだ。
 信者達も必ず天罰が落ちるはずと信じていた。
 というか「天罰が起きなければならない」と念じていたんだ。
 そこで君が勤めていた会社がターゲットにされて潰れたわけだ。
 信者達は「ほらみろ、天罰が下った。教えの通りになった」と喜んだわけだ。
 本当は天罰ではなく宗教団体の力が工場を倒産させたのさ。
 信者達の強い念が結集して、最も経営が苦しかったお前の工場を狙って
 足を引っ張ったのさ。それで教団のメンツを守ったのさ」
「そんな、酷いじゃないか?
 僕が苦労して就職した工場だったのに・・
 宗教のメンツのために潰されたなんて」
「人間の心の力なんてそんなものさ。
 もちろん、悪いことだけではないよ。逆にスターを生み出すこともあるんだよ
 優れた才能を持つ人を持ち上げて成功させることもよくある」
「いったい、僕はどうしたらいいの?」
「祖母は家計簿のメモを母子手帳に張り付けて、母子手帳の生まれた時刻を
 訂正すればいいと伝えていたんだ。そうすれば地獄大凶星の影響はなくなると」
「ええ、どうして?
 何で母子手帳の記載や登録を訂正すれば変わるの? 
 生まれた時刻は変えられないはずでは?」
「人間の運勢は実際の生まれた時刻で決まるわけではない。
 記録や登録した日時で決まるんだよ。間違っていても登録が正になるんだ」
「どうして?
 実際の生まれた時の星の位置が正なんじゃないの?」
「はっきり言っておこう。
 実際の生まれ日や時刻なんて関係ない。生まれた時の星の位置も関係ない。
 占いは人が信じてるからその通りの運命が作り出されているだけなんだ。
 自然界に占いの法則があるんじゃないんだ。
 星占いも姓名判断も人が根拠もない理論を信じることで出来上がってしまったもの。
 結果、占いによって人々は運勢を左右されてしまっている。
 星占いは星の位置に関係などない。
 登録された生年月日と、紙に書かれた計算式で運勢が決まる!
 カリスマ占い師が言ったことが真実になるのであって、
 登録日が実際と違っていようが、カリスマがデタラメを言っていようが
 大勢の人が信じてる限り、その通りになる。ただそれだけ。
 宗教もマジナイも同様。それらに根拠も、理論も、真実も本物も偽物もないんだよ。
 唯一の真実は人間の心には力があるということだけ。
 信じる心が真実を作り上げるということだけ」
「なんだかよくわからないけど。
 僕はダークサイドから来たわけではないんだね?
 じゃあ、母子手帳の時刻を訂正するよ。
 それで呪縛から解放されるんだね。
 でも、呪縛がなくなっても、僕にはもう何も生きる希望はないよ。
 それは何も変わらない」
「希望はあるぞ。
 時刻を訂正しなくてもいいんだ。逆に利用するんだ。
 ヤドカリどもの力を利用するんだ。
 君の星は犯罪者になるか? それとも天才として成功するか?
 どちらかだったはずだ。よく読み返してみな。
 犯罪者にならずに、悪運を逆手にとって成功する人もいると書いてあるはずだ。
 だから、君はクリエータや作家として成功すればいいんだよ。
 ミステリー関係のクリエーターか作家がいい。
 成功したら、占いが当たっていたと公言すると奴らに宣言すればいいんだ。
 そうすれば、何百万人のヤドカリども心の力が成功を支援してくれるはずさ。
 君が成功すれば占いは当たったことになるからね。
 悪魔の宿命を転換して成功した実例になるんだ」
「成功って?何をすれば?」
「君は卓抜した想像力がある。いつもキャラクターや物語を描いていただろう?
 それを作品にすればいいんだ。君は絶対成功するよ。
 君は気づいてないかもしれないが、極めて稀な才能なんだよ。
 それを無駄にしたらもったいない。
 実を言うと、私は生きてた時に作家だったんだ。
 時代が悪くて作家として成功することはできなかったけどね。
 だから、君に指導してあげるよ。私の持ってる知恵を授けるよ」

 先祖が脳裏に登場し、驚くべき真実を彰生に伝えてくれたのであった。
彰生の人生観はこの時からガラリと変わった。
それから毎日、脳裏の先祖と対話を繰り返して、妖怪や魔物のキャラクターをデザインすることを
始めた。彰生は脳裏でありありと想像することができたので、次々と斬新なキャラを作り出すことが
できた。先祖はストーリーについていろいろ指導してくれた。
彰生が脳裏に組み立てたデザインや物語をPCで再現して、それをネットの投稿サイトに出品してみた
ところ、あちこちから絶賛の声が来るようになった。「天才だ」との声も。
「是非、うちに来て働いて欲しい」とあちこちからお呼びがかかるようになった。

「よかった。ご先祖様が助けてくれた。
 僕は犯罪者になるところだった。よかった。希望が見えてきた。
 これもおばあちゃんが信心してくれた徳かもしれないな。
 よし、今日もご先祖様と話をするぞ」

と彰生が目をつむってスクリーンを見つめていると・・・
いつもと様子が違う。スクリーンが中々映らない。しばらくすると
スクリーンに祖母が映し出された。

「ああ、おばあちゃんだ。
 ありがとう。おばあちゃんがご先祖様に会わせてくれたんだね」

と言うと祖母はけげんな顔をしてスクリーン上でつぶやいた。

「彰生、お前が先祖だと思ってる胎蔵という男は・・・
 いいかい、よく聞くんだよ・・
 胎蔵という男は・・・実は先祖じゃないよ。
 今石の家系とは全く関係ない男なんだよ。
 その男は・・・
 作家を目指していたんだよ。
 でも、認められなくて飛び降り自殺した男なんだよ。
 お前を利用しようとしてるだけだよ。信じてはいけないよ」

これを聞いた彰生は絶句してしまった。「え、うそだろ」

しばらく考え込んだ後、なんとか気持ちを取り戻した。

「おばあちゃん、ありがとう。いいんだよ。ご先祖様でなくても
 僕を助けてくれた人なんだから。
 僕の方があの人を利用してやるよ。だからいいんだよ」

その時・・・
彰生の背後には先祖だと名乗っていた男が立っていた。頭から血を流している。
彰生を見つめながらつぶやいていた。

「彰生、それでいい。
 お前は俺が苦労してやっとみつけたヤドカリの宿だ。
 俺の夢を実現するための格好の宿だ。絶対に手放さない。
 お前を使って作家の夢を果たしてやるんだ」


おわり



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