本作品は2019年作です。

<第9話 人間不信>

●宮魔大師 シリーズ●

 霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
「何でも請け負う」という噂が広まっており、宮魔のところにはいわくつきの
お客が多く訪れるようになっていた。

 1月のある日、宮魔のところにやけを起こしたような男が訪れてきた。
宮魔に対してぶっきらぼうに相談を持ち掛けてきた。

「あんた、金の為なら何でもするって噂の人だよな?」
「そうですよ。何か相談事でも」
「俺は世の中が嫌になった。誰も信じられない。どいつもこいつも・・
 表と裏がある。もううんざりだ。
 いっそはっきり裏だけの人間の方が信じられる」
「まあ、まあ、落ち着いて、詳しくお悩みを教えてください」
「じゃ、言うよ。俺はな、実を言うと宝くじ1等が当たったんだ。
 7億だぜ、7億」
「それはおめでとうございます。羨ましい限りです」
「あんた、目の色一つ変えなかったな。7億と聞いても」
「私は普通の人間じゃありませんからね」
「そうかもしれないな。
 ちょっとは信用してやるぜ。あんたを。
 俺は1年ほど前にジャンボ宝くじを買ったんだ。
 おっと、申し遅れました。俺は藤田文夫と言います。
 どうせ当たらないと思っていましたがなんと1等が当たったんです。
 でも、その後、とんでもないことが起きたんです」
「当たったことを言いふらしたんでしょ?
 そしたらいろんな人がたかりに来た・・よくある話です」
「俺はいいふらしてはいない。俺も馬鹿じゃない。
 ちゃんと渡された注意書きを読んで守ったよ。
 信頼できる人以外には教えないと注意書きに書いてあった。
 おれは黙っていた。
 ただ一人、親友の板垣にだけ教えたんだ」
「その人が言いふらしたんですね」
「そうだ。
 板垣と俺は学生時代からの親友だった。乗り鉄仲間だった。
 いつか一緒に寝台列車の旅行に行こうって言ってたんだ。
 俺は宝くじが当たったから最高級の寝台列車に乗ろうって誘ったんだ。
 そしたら、奴はネットに俺が1等に当たったことを書きやがった」
「何故? 嫉妬?」
「そう。俺に嫉妬したのさ。
 俺はFBやってたから、いつの間にか個人情報が晒しだされて
 ネット中に拡散された。7億当てた奴はこいつだって
 あっと言う間に友人・知人、近所にも知れ渡ってしまった。
 もう大変だ。毎日脅迫のメールや電話がじゃんじゃんかかってくるわ。
 家に毎日のように変な人達が寄付してくれと押し寄せてくるわ・・
 まるで芸能レポーターに追っかけられるタレントみたいだった。
 職場にも押しかけるし、会社内でも大騒ぎよ。
 同僚からいじめられるわ、嫌味言われるわ、もう仕事にならない。
 だから、会社も辞めてやった」
「そりゃ、大変でしたね。
 どこかに、隠れて暮せばいいじゃないですか?」
「先ず妹の所に隠れた。そしたら妹夫婦は最初、親切にしてくれたが
 そのうち、お金をねだってくるようになった。おれが断ったら
 怒り狂った。俺は妹が金をせびるとは思ってもいなかったんだ。
 そんなこと認めたくないから断ったんだ。そしたら妹は別人のように
 豹変して”7億も濡れ手に粟で手に入れたのに、妹に分けてやるくらいのことが
 どうしてできないの?ドケチ、強欲、最低の兄だわ”と罵って俺を追い出した。

 次に友達のところに行った。信頼している友達だったが、やはりそいつも
 ”お金を少しでいいので融通して欲しい”って言ってきた。
 俺は一度でもそれを許したらずるずると剥ぎ取られると不安を感じた
 会社を辞めた俺にはもうこの金以外に生きるすべがないんだから。
 だから断った。そしたらその友達も態度がガラリと変わって
 ”お前は友達じゃない。冷たい奴、助けてやったのに”と俺を追い出した」
「兄妹や友達がどうして?」
「ショックだったぜ。兄妹も親せきも友達もみんなそうさ。
 1千万や2千万だったら俺を助けてくれただろうな。
 でも7億となるとみんな狂ってしまうんだ。
 みんな優しい顔で近づいてくるが、結局、最後は
 助てくれ、困っているんだなんて泣き落としで金をせびってくるんだ。
 会ったこともない遠い親戚までが俺に近づいてくるようになった。金目当てに。
 それもしつこく付け回してくるんだ。
 そして断るといつも”薄情者、金の亡者”って罵られるんだ。俺はいつも悪者扱いさ。
 何で俺が悪い人間みたいに言われなければならないだ。
 友達もみんな失ってしまった。幼なじみまでも。
 幼なじみが、子供の頃の出来事をばらすと口止め料を要求してきたこともあった。
 俺には安らぐ暇もなくなってしまった。いつも隠れていなけばならない。
 いきなり知らない人から怒鳴られたリ殴られたリすることもある。
 俺の命を狙っている奴までいるんだ。何度も脅迫されたし、誘拐されそうになったこともある。
 もし俺に子供でもいたら、誘拐されて身代金を要求されてただろう。
 もう、誰も信用できない。人間なんてみんな金のことしか頭にないんだ。
 会う人全てが俺の金を狙っているドロボーか詐欺師に見える」
「ううん、災難でしたね。
 ネットに書いた友人を訴えたらどうですか?」
「今でも脅迫状が毎日来る状況なんだ。訴訟なんて起こしたら、
 袋叩きにされちまうよ。もう疲れたよ。人間なんて信じられない」
「で、私に何をして欲しいのですか?」
「俺を裏切った板垣を殺してほしい。呪いで」
「そんな物騒な」
「お金はやるよ。1億でも2億でも」
「あなた、死ぬ気だね」
「そうさ、もう人間が信用できなくなった。
 もう生きる気力がなくなった。こんな世の中くそくらえだ。
 この金で思いっきり遊んでやる。金が尽きたらこの世を去るさ。
 だが、板垣も道連れにしてやる。
 あんたに殺して欲しいんだよ」
「わかりました。殺すことはできませんが、
 あなたの無念は晴らしてあげますよ」
「本当か? いくら欲しい?」
「成功報酬でいいですよ。まずは私が仕返ししてあげます。
 あなたと同じ苦しみを味あわせてあげます。
 その結果であなたが納得する金額を払ってくれればいいです」
「え? それでいいの?」
「それでいいですよ。
 藤田さん、余計なお世話ですが、死ぬのはやめなさい。
 お金があるんだから海外に逃げなさい」
「俺は海外なんて行った事もない。日本語しか喋れない。
 海外に行ってもロクでもない人間の餌食にされるだけさ」
「じゃあ、私と行きませんか?
 あなたが暮らせる場所を紹介しますよ。
 5年くらい海外に行ってれば人は忘れますよ。
 その間に養子縁組にして名字を変えればいい。
 名字を変える段取りしてくる業者も紹介しますよ」
「本当か?あんたも行ってくれるのか?」
「そろそろ海外に行きたかったんですよ。
 でも金がなくてね」
「宮魔さん、海外のこと詳しいの?」
「うん、あちこち行ったからね」
「どうして? 霊能者が何で海外に?」
「実は昔、仕事であちこち飛び回っていたんだよ」
「あんた、もしかしてエリートだった? 
 商社マンとか外交官とか?
 そういや、風格がある」
「いや、海外が好きでね。
 海外に行ける仕事を選んだだけだよ」
「どうして、霊能者になったの?
 エリートの仕事をどうして捨てたの?」
「まあ、いろいろあってね。
 思い出したくないことがいろいろね」
「すまん。余計なことを聞いてしまって
 もし、あんたが行ってくれるなら金をだす。
 でも、やっぱり人間を信じることができない。
 あんたはいい人だと思うけど。
 でもどうしても信じることができないんだ」
「いいよ。信じなくても。
 あなたの復讐を成功させたら、
 きっとあなたは私を信じることができる。
 まずは復讐してあげますよ。
 信じるのはそれからでいいですよ」
「あんた、不思議な人だ。
 こんな交渉初めてだ。
 どいつもこいつも先ずは金を出せって言ってきた。
 しかも、少しでも吊り上げようとあの手この手を使う。
 でも、あんたは違うな」
「憎い相手が地獄に落ちるのを待っていてください。
 一週間以内に裁きますよ。ニュースを見ていてください
 契約はそれからでいいです」
「ニュース? 地獄? どんな復讐するつもり?
 あんたは怖い人だ」
「私は金の為なら何でもやる人間です。
 そう言ったでしょ?」
「いや、あんたはそんな人じゃない。守銭奴なんかじゃない。
 口ではそう言ってるが、本当はそんな人じゃない。
 俺は守銭奴に追いかけられてうんざりしてる人間だ。
 だからわかる。あんたは金の亡者じゃない」
「褒めてくれてるのかな?
 まあ、いい、しばらく結果を待ってください。
 板垣という男は化粧品メーカーの社員でしたよね。
 それにふさわしい復讐をしてあげますよ」

それから4日後、世間を騒然とさせるニュースがTVで報じられた。
化粧品メーカーの社員板垣が、電車の中で女性に痴漢をして捕まったのだ。
しかも駅職員をなぐって逃走。高架橋の窓に立ち、飛び降りるぞと言って立てこもったのだ。
錯乱した板垣は何かに憑りつかれたように、とんでもないことを大声で叫んだ。
それがTVで全国に中継されてしまった。

「痴漢をして何が悪い、痴漢して欲しいって格好してる女の方が悪いんだ。
 女は美人でもないし、文句言う資格ないぞ。
 うちの商品使って美人に化けろよ。うちの商品はインチキだけどな、ハハハ」

数時間後に警察に逮捕されたが板垣のこの言動が日本中に衝撃をもたらした。
この報道で化粧品メーカーのイメージが悪くなり、株価が大幅に暴落した。

メーカーは緊急声明を発表した。

「この度は弊社社員が起こしてはならない不祥事を起こしたことを深くお詫びいたします。
 女性の皆様に選んでいただける商品を提供することをモットーにしている弊社の社員が
 このようなことを起こしてしまったことは遺憾の極みです。
 この社員を懲戒解雇すると共に、弊社のブランドに対する損害の賠償をこの社員に請求する所存です。
 賠償で確保したお金はお客様へのサービス(値引きなど)に還元いたします。
 事件を起こした社員から、全財産、家屋などを全て没収するべく徹底的に責任追及する所存です」

この翌日、藤田が宮魔の下に訪れた。

「宮魔さん、ニュースを見ました。
 すっきりしました。よくやってくれました。完璧な復讐です。
 あなたを信頼します。お金を払いますよ。
 一緒に海外に行ってくれますね」
「行きましょう。ある国にかつて私を面倒みてくれた給仕がいるんですよ。
 日本語ができる人ですよ。その人にあなたの面倒を見てもらいますよ。
 向こうは物価が安いですから天国のような生活ができますよ。
 お酒も食べ物もおいしいですよ」
「本当ですか? 助かります。宮魔さんに相談してよかった。
 信用できるのはあなただけです。一緒に暮らしましょう」
「あなたが慣れたら日本に戻りますよ。仕事があるから」
「俺と一緒なら、仕事しなくても遊んでくらせるじゃないですか?」
「いやあ、私は仕事がしたくてねえ。日本に戻らせてください。
 心配ないですよ。向こうには優しい人達がたくさんいますよ。
 すぐに話し相手ができますよ」
「宮魔さん、本当にあなたは不思議な人だ」
「お礼を言うのは私の方です。今回は日本に帰らせて頂きます」
「今回? まるで前回や次回があるみたいな言い方ですね」
「あ、いや、なんでもない。気にしないでください」

宮魔は気まづくなって言葉を濁した。

「しまった。うっかり口にしてしまった。
 前回はこの男と一緒に南米に住んだけど、今回は海外に逃げるのはやめて
 日本に居ることにしよう。
 今年こそは、あの問題を決着させなければならない・・
 奴が俺を殺しに来るのは10カ月後だ。それに立ち向かわなければ・・」

と宮魔は謎めいた独り言を言うのであった。

おわり




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