本作品は2020年作です。

●宮魔大師 シリーズ●

<第10話 夫の居るところに行きたくない>

 宮魔は宝くじ1等を当てた藤田をアジアのある小さな村に案内した。
そこは自然の恵みが豊かで食べ物がおいしいと評判の場所である。
日本からも老後の住処として移住する人がいる人気の場所である。
そこで藤田と3カ月ほど過ごしたのである。

藤田は現地の言葉を少しづつ覚えて、村の人達とも溶け込んでいった。
日本から移住してきた他の人とも友達になり、すっかり慣れたようである。
それを確認した宮魔は藤田に別れを告げた。
「そろそろ日本に帰る」と
藤田は「ここでずっと暮らしましょうよ」と引き留めたが、
「私は日本でやらなければならないことがある」
と振り切って帰国したのだった。

 日本への飛行機の中で宮魔は今年やらねばならないことについて
考えていた。心の中でつぶやくのだった。

「俺は、2017年を繰り返して修行しているうちに今年起きることが
 予知できるようになった。あの予知ができる青年が言っていた未来が見えるようになった。
 今年の11月、俺に恨みを持つ男が俺を殺しにくるのが見えるんだ。
 俺はそれを避けるため、去年(いや1回前の今年)、藤田と南米に逃げた。
 それで殺されるのを回避できると思ったのだが・・なんと年を越せなかった。
 大晦日が過ぎたら、また2018年元旦に戻ってしまった。
 逃げたらダメということなのだろうか? 
 今回は逃げずに立ち向かわねばならない。それが創造主の意思だろう」

やがて飛行機は日本に到着し、宮魔は霊能者の仕事を再開した。

 霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
「何でも請け負う」という噂が広まっており、宮魔のところにはいわくつきの
お客が多く訪れるようになっていた。

 ある日、宮魔の元に高齢の女性が訪れてきた。その人の話によると、
友人の女性が病院で死期を迎えており、是非宮魔さんに相談したいことがある
とのことであった。

「私の長年の友人、靖子さんについての相談です。彼女は立派な女性でした。
 そして立派な母親でした。
 名士である家に嫁ぎ、立派に4人の子供を育てたのです。夫に先立たれて
 彼女も死期を迎えつつあります。その彼女がどうしても宮魔さんに相談したいと
 言っています。これから病院に行き、面会して頂けないでしょうか?」
「どういったことでしょうか? 何かお悩みでも?」
「靖子さんは音信不通になった息子さんのことが気になるようなのです。
 夫と考えが合わず、出て行ったきり、もう連絡もつかないそうなのです。
 その息子さんのことが気がかりなようです」
「なるほど、では面会に伺いましょう」
 
すぐにタクシーで女性は宮魔を病院に連れていった。靖子は個室で寝ており、
上流家庭の女性であることがわかった。病室に就くまでの間、友人の女性が
靖子のことをいろいろと教えてくれた。江戸時代から地元の名士である家に嫁いだ
靖子はいろいろと苦労をしたらしい。靖子自身は一般の家庭の出身だったからである。
特に、子供の教育には苦労したらしい。父親は家系に相応しい一流大学に進学させ
なければならないと厳しい教育をしたらしいのである。
 しかし、4人の内の末息子だけはそういう家柄や学歴などに反発して、自由を
求めるタイプだったのである。父親とはいつも喧嘩していたという。
大学進学はせずにミュージシャンになると言い出して父親から怒りを買って
家を追い出されてしまった。
それ以来、連絡が付かなかったのである。

病室に着くと靖子がベッドに寝ていた。
意識があり、話もできるようである。
病床にあっても落ち着いた雰囲気がある。
宮魔はこの人に話しかけた

「宮魔です。靖子さんですね。お話は伺いました。
 ご相談は息子さんのことですね」
「はい、息子の京吾のことなんです。もう30年も会っていないんです。
 連絡も付かないです。どこで何をしているのやら?」
「今、どうしてるのかを霊視して欲しいということですね?」
「はい、そうです」
「息子さんは・・ううん・・・」
「京吾はもうこの世にはいないんですよね? 何となくわかります。
 それでもいいです。はっきり言ってください」
「ちょっとわかりにくいのですが、この世に居るようには見えないです」
「ということは死んでいるということですね。覚悟してました。
 京吾は持病があり、医者から長生きできないと言われてましたから。
 では、京吾が今、あの世でどのように過ごしているか?を教えてください。
 それともう一つ相談したいことがあります。
 私のことなんです。
 私はずっと本音を殺して生きてきました。
 ずっと耐えて頑張ってきました。
 だから、死んだら自由になりたいんです」
「どういうことでしょうか?」
「死んだら夫や先祖が居る世界には行きたくないんです。
 京吾と一緒に過ごしたいんです。
 京吾は私の本音を形にしたような息子でした。
 私も京吾のように生きたかったのです」
「そうだったんですか?」
「私の人生は自分を押し殺して犠牲にするものだったのです。
 娘だった頃、私は夫にプロポーズされました。
 本当は格式のある家に嫁ぐなんて嫌だったです。
 でも、断れなかったんです。
 もし、断ったら地元で生きていくことができなくなるかもしれない。
 夫の家はそれくらい力があったんです。
 借金苦にあえいでいた両親を助けるためにも嫁ぐしかないと決断したのです。
 後悔してます。
 夫は私のことを好きではなかったことに気付きました。
 当時、私は大勢の方からプロポーズを頂きました。
 そんな私を手に入れて勝ち誇ることが本当の目的だったんです。
 自慢できる嫁を手に入れることが家系の男達の独立の条件だったのです。
 愛情なんて二の次です。変な家系でしょ?
 夫には他に好きな女がいたのです。その女と結婚すればいいのに。
 好きでもない私を選んだのです。お飾りとして。
 夫は隠れて好きだった女を愛人にしていました。
 何度離婚したいと思ったことか。
 私は名家の飾り物にされて、人生を奪われてしまったのです。
 本当は私も京吾と同じように歌手になりたかったのです。
 歌の世界のように自由に、情熱的に生きたかったんです」
「そうだったのですか、大変でしたね」
「夫はやれ家柄だ、学歴だのにこだわっていつも世間の人達を馬鹿にしてました。
 自分は身分も学歴も高いから一般人とは質が違う人間なんだと自慢してました。
 子供達に一流大学進学以外は認めないと厳しく言ってました。
 私は子供達にそんな教育をするのが辛かったです。
 私は子供達を自由に育てたかったです。心の広い人間に育てたかったのです。
 でも、夫はいつも、周りの人達を下層民とか低能どもとか言って馬鹿にしてました。
 自分はたいした能力もないのにプライドだけは高くて、心の狭い人間でした。
 他人の悪口ばっかり言っていて、見栄っ張りで人の意見は一切きかない器の小さい男でした。
 子供達にも「三流以下の人間とは付き合うな」といつも言っていたのです。

 口癖は「やっぱり人間は家柄と学歴だな。育ちの悪い奴と学歴の無い奴は本当にダメだ。
 何をやってもダメなんだ。いろんな人間を見てきてたが本当にその通りだった。
 例外なんて1つもありはしない」でした。

 そんな話を毎日聞かされるのが本当に辛かったです。
 夫の親族もみんな心の狭い人達ばかりです。
 先祖の栄光を心の支えにして、伝統にしがみ付いてるだけの
 つまらない人間達にしか見えません。
 ドラマによく登場する嫌われ役そのものです。
 私はそんな身内たちに調子を合わせることが嫌でたまらなかったのです。
 息子もそういうのを嫌っていて、いつも夫に反抗していました。
 だからでしょう。夫も息子を嫌っていました。そして私にこう言ったのです。

 ”あんなダメ息子が生まれたのはお前の家系の血筋のせいだ。
 我が家の血筋からあんな出来損ないが生まれるはずはない。
 やっぱり家柄で相手を選ぶべきだったな”
 と何度も嫌味を言われました。

 私はその言葉を忘れることができません。
 私は、死んだ後まで夫に仕えるのはいやなんです」
「なるほど」
「京吾はあの世でどのように過ごしているのでしょうか?」
「京吾さんを見ると、ステージで歌ってるのが見えます。
 たくさんの女性達がこの人のファンになっているようですね。
 まるでスターですね。楽しそうです」
「そうですか、良かったです。
 自由に歌を歌っているんですね?」
「そうですね。自由そのものですね」
「やはり、そうですか。京吾らしいです。
 あの子はやさしい純粋な子でした。
 誰にでも思いやりの心を持って接する天使みたいな子だったんです。
 私は死んだら京吾と一緒に過ごしたいです。
 夫やその親族の居る世界なんて行きたくありません。
 夫の墓に入ったらやはり夫と一緒に過ごさなければならないのでしょうか?」
「いや、そんなことはないですよ。
 昔はなんかそういう縛りがあったみたいですが、
 今は時代が変わりましたからね。死後の世界も変わっています。
 個人の自由が尊重されてますよ」
「本当ですか?
 夫の身内として葬式や納骨をしても自由になれますか?
 京吾の居るところに行けますか?」
「大丈夫ですよ。行けますよ。葬式やお墓なんて形だけのものです。
 あの世はそんなものに縛られているわけではないです。
 私がサポートしてあげます。
 葬儀に私を呼んでください。しっかり誘導してあげますよ」
「心強いです。
 宮魔さんを葬式にお呼びしますのでよろしくお願いいたします」

そう言いながら靖子は涙を流し出した。

「本当にこんな情けない相談で申し訳ありません。
 私は本当にわがままでダメな女です」
「いや、そんなことはありません。あなたは夫に尽くし、母親として
 立派な仕事をしたのです。並々ならぬ努力をして立派に生きたのです。
 誇りに思ってください。
 だから、死後は好きな所に行って自由になってもいいのです」
「ありがとうございます。そう言って頂けるとうれしいです」

それから数週間後、靖子は永眠した。
宮魔に訃報の電話がかかってきて宮魔は靖子の葬儀に参列した。
会場には大きな祭壇が飾ってあり、大勢の参列者がいるのが見える。
やはり上流家庭であると実感したのであった。
 宮魔は線香を上げるときに靖子の霊に
「葬儀の後、納骨の前に京吾さんの所に案内します」と伝えた。

 靖子は息を引き取ったあと、臨死体験で言われていたような川や花畑などを
見た後、遠くまで広がる田園地帯のような場所に一人いることに気付いた。

「私は死んだんだわ。死んでもやっぱり今まで通り意識がある。
 私はこれからどこへ行くの? 夫の居る所へ行くの?
 いや、宮魔さんに頼んだのだから、京吾がいる世界に行けるはずよ」

そう思っていると突然、アーケードのようなものが靖子を包んだ。
大きなトンネルという感じである。その先に光が見える。

「何これ?
 きっと宮魔さんが道を作ってくれたんだわ。
 このトンネルの先に光が・・きっと京吾がいるんだわ」

靖子はトンネルに沿って歩いていった。出口の光が近づいてくる。
人がいるのが見える。男性である。そして歌っている。

「京吾、京吾なのね?」

靖子は早歩きでトンネルを歩いていくと段々と見えてきた。

「歌手のような男性がいる。あれは京吾だわ」

歩いていると突然、目の前に靖子が大事にしていた和服が目の前に出現した。

「あ、これは私が一番大事にしてる着物だわ」

靖子はこれを着て子供達の結婚式に参列したことを思い出した。
この着物を着て歌を披露した時、会場の人達が絶賛してくれたことがある。
靖子にとって忘れられない思い出である。

「この着物を着たい」と思ったところ、一瞬で靖子の白装束が着物に変わった。

「ああ、うれしい。この晴れ姿で京吾に会いたいわ」

そう叫ぶのであった。靖子は足早に歩き続けた。

「あの先に京吾がいる、すぐにでも会いたい」

そして靖子はついにその男性の居る場所に到着した。
そこはステージであった。京吾が歌っている。
舞台衣装を着た美しい男性である。間違いなく京吾だとわかった。
そしてたくさんの女性ファンが歌を聞いている。

「京吾、京吾なのね」

とステージの上で声を掛けてしまった。
すると京吾はそれに気づいた。

「お、お母さん、どうして?
 そうか、こっちの世界に来たんだね」

京吾は歌を中断して、会場に向かって叫んだ。

「皆さん、僕のお母さんが来てくれました」

すると会場は盛大に靖子を歓迎した。

「京吾、歌手の夢を実現したんだね。立派になったね。
 私も歌手になりたかったんだよ」

「わかっていたよ。母さん。
 僕と同じ夢を抱いていたんだよね。当然だよ、
 お母さんは僕よりも、誰よりも、歌が上手いんだから。
 いつか僕はお母さんを救い出してあげようと思っていたんだ。
 でも、できなかったね。ごめんね。
 だから・・ここで一緒に歌を歌おうよ」

コンサートはいつまでも続いた・・

ある町でのこと、町はずれに小さな平屋の家がある。
家の近くで、近所の主婦達がひそひそしゃべっていた。

「あそこの家に住む男の人、ちょっと変わっているらしいの、知ってる?
 あの空き家みたいに汚い家に一人で住んでるのよ」
「京吾さんという人のことね?
 聞いたわよ。あの人、昔は奥さん、子供が居たらしいの。
 越して来た当初は、いい人だったって話よ。
 でも、息子さんを事故で失くしてしまったんですって、
 それでおかしくなってしまったらしいの。
 奥さんも出て行ってしまったらしいの。
 それから家に引きこもって生活保護で暮してるらしいの。
 毎日、一人で歌を歌っているらしいの。
 しかも、ステージにいるみたいに観客に話しかけてるらしいの
 誰もいないのに一人で喋ってるらしいの」
「頭がおかしくなってしまったのね。
 変な事件を起こさなければいいわね、怖いわね」

 一方、宮魔は靖子を京吾の元に届けると「これで一件落着」と肩を降ろした。
しかし、ちょっと気になることがあるようであった。

「靖子さんを息子さんがいるあの世に送った実感はあるけど、
 なんかちょっと変だ。
 息子さんは本当に死んでるのだろうか? なんか違うような・・
 もしかしたら息子さんは未だ生きてるのでは? そんな馬鹿な」

おわり




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