本作品は2016年作です。

<真理の華>

 智也はIT企業に勤めるサラリーマンである。
入社して5年になるがいまいちぱっとしない。
ベンチャー企業を起こして活躍することを夢見てIT企業に入社したが、
数年で開発部門から外されて客先クレームの対応係になってしまった。

「おれには才能がない。ほとんど成果を上げることができなかった。
 考えてみれば子供の頃から何をしてもパッとしない。成績も中、部活でも
 目立たず・・。中の高校、中の大学を卒業。特に経歴に変わった点がない
 仕事がなくて悩んでる人に比べたら贅沢な悩みかもしれないが、俺は何をしても
 普通。見た目も性格も普通。グレたことも問題を起こしたこともない。
 個性的な特技も趣味もない。普通すぎる。
 これからも普通に仕事して普通に結婚して普通のつまらない人生を送るんだろうな」

智也はいつも自分が特に目立つ事がないことに悩んでいた。
「いや、何か自分には人にない使命があるはずだ」と考えたが答えは見つからない。
何か変わったことを実行する度胸もない。

 そんなある日、飲み会の帰りに商店街を通った時のことである。
行商の人が花を売っていた。
ふとその中に心惹かれる鉢があった。
ダリアのような鮮やかな花がいくつも咲いている鉢である。
行商のおじさんが智也の様子に気づいて声を掛けてきた。

「お客さん、この花が気に入りましたかい?」
「この花は真理の華と言ってアマゾンの奥地で最近発見された新種の花なんですよ」
「真理の華? 宗教みたいだな」
「この花は不思議なんですよ。持ち主に話しかけてたり、幸せになる道を説いたり
 するらしいです。アマゾンの部族が大切に育ててきたんです。
 何でも真理が詰まっている華ということで重宝されていたらしいです」
「話しかける? バカバカしい。でも、綺麗だなこの花」
「この花は年中咲いてるんですよ。日に当てなくても眺めていれば育ちます」

智也は店主がデタラメを言ってるのだろうと思ったが何故かこの花に惹かれたので買うことにした。
自宅に帰って部屋に飾ると不思議な雰囲気が漂い、智也を和ませた。
ネットで「真理の華」を検索してみるといくつか出てきた。
それを読むと確かに店主の言うことは事実のようであった。
アマゾンの住人が神様のように大切にしていたらしい。
また、この花を買った人達の体験談もいくつかネットに掲載されていた。
「話しかけて慰めてくれた」「自分の才能を教えてもらった」など・・
智也は「へえ、本当かいな? 本当だったらいいなあ」とワクワクした。
しかし、ネットには「この花は悪魔と繋がっている。危険である」という意見もあった。

智也は毎日この花を眺めた。眺めても花は話しかけてはくれなかった。
しかし、何とも言えない癒しを感じた。
「これが癒し系というやつか? それだけでも価値があるな」
智也は良い買い物をした気分であった。
不思議なことに智也が眺めれば眺めるほど花は成長していった。
そして日に当てなくても成長するのは本当だった。

「不思議な花だな。本当に話しかけて来るかもしれない。まさかな」
「おい、話が出来るなら答えてくれ」
しかし、花は黙ったまま・・

智也が諦めて寝ようとした時であった。
花から突然声が聞こえてきた。女性の声であった。

「智也さん、はじめましてビロスB59です」

「話しかけてきた〜!!」
智也はビックリして転倒してしまった。
「本当か?」
花は答えた。「本当です。信じてください」
かくして智也と花の会話が始まった。

智也:「嘘みたいだな。お前喋れるんだ」
花:「誰にでも話しかけるわけではないです。私は生まれた時から智也さん
   あなたと出会って話をすることが決まっていました」
智也:「何だって、俺がお前を買ったことは予め決まっていたというのか?」
花:「そうです。全て宇宙の仕組で決まっていたことです。」
智也:「不思議な事ってあるんだなあ。ところでビロスB59ってなんの記号?」
花:「私の名前です。私は花というより知性を持った生命体です。
   はるか遠い星ビロスから来たのです」
智也:「なんかアニメの世界みたいだな。お前は宇宙人ということか?」
花:「あなたにだけ打ち明けます。アマゾンの花というのは嘘です。
   我々は遠い星で植物から進化した知的生命体なのです。
   この地球の食糧危機・水不足危機を救う為に大挙してやってきました。
   ところがアメリカ政府・日本政府によって収監されてしまいました。
   食料や水は大きな利権があるためです。
   我々が地球を救ってしまっては困る人達がいるのです」
智也:「本当かよ? 映画の世界みたいでワクワクするなあ」
花:「本当なんです。助けて欲しいのです。我々は植物から進化した生命体なので
   ほんの一握りの個体だけですが、他の植物に寄生することができるのです。
   私もその一人でこの花に寄生することができました。あなたが買ってくれる
   のを待っていました」
智也:「何で? 俺に何ができるというの? こんな凡人に」
花:「あなたは凡人ではありません。私の星の生命体の生まれ変わりです」
智也:「生まれ変わりだって? 頭が混乱してきた」
花:「あなたは凡人だと思ってるかもしれません。それは使命を果たすために
   目立たないようになっているのです。本当は凄腕の工作員なのですよ」
智也:「ええ、そりゃ驚きだ」
花:「あなたが今までしてきた仕事は全て使命の為だったのです」
智也:「使命って、何をすればいいの?」
花:「私の仲間を収監されてる倉庫から解放して欲しいのです。
   それだけでよいのです。解放したらそれをネットの映像で配信して欲しいのです。
   そうすれば世界の人達が陰謀に気づきます。世界が救われるのです」

智也にビビと電気が走ったような感じだった。自分は平凡過ぎる人間だと思っていたが
本当は地球を救う使命があったのだということに気づいたからである。
身体中に震えが走った。「そうだったのか?俺は他の惑星の工作員・・フフフ」

智也にとって人生観がガラリと変わった感激であった。
しかし、ふとネットの情報を思い出した。「真理の華は悪魔と繋がっている」
もしかしたらこれは悪の誘惑かもしれない・・そう考えると不安がよぎった。
花に聞いてみた。

智也:「ネットには真理の華は悪魔と繋がっているという意見もあるけど」
花:「それこそ政府の陰謀です。政府も私達の活動に気づき始めています。
   政府に気付かれたら私もあなたも消されます。急ぐのです」
智也:「そんなこと言われても仕事が忙しい時期だしなあ」
花:「仕事どころではないのです。今にも地球は温暖化で破滅しそうなのです。
   そうなっては元も子もないのです。仕事などより地球を救ってください」
智也:「わかった。では、監禁されてる場所を教えてくれ」
花:「私の仲間が監禁されているのはこの花が作られている畑の横にある倉庫です」

智也が花に付いてる札の住所をネット検索すると衛星写真で小屋があるのが見えた。

智也:「こんなしょぼい小屋に本当に監禁されているの?」
花:「そうです。見つからないようにわざと小屋に閉じ込めているのです」
智也:「小屋の近くにこの花畑の事務所があるなあ。警備員もいるみたいだ」
花:「警備を破って小屋の鍵を開けてください。そして政府が来るまでに
   我々を映像に収めてネット配信するのです。世界中にです」
智也:「おれもIT企業の一員だから映像を配信することくらいはできる。
   でも、警備を破ることはできないよ」
花:「銃を準備してください。裏サイトに詳しいでしょう」
智也:「銃の準備は日本じゃ無理だよ・・いや、でも3Dプリンターで作れるかも?
   俺の腕試しというところだな。そうか、その為に俺はIT企業に入ったわけか?」

この日以来、智也は会社の出勤をすっぽかして花と対話を続けた。
ネットで3Dプリンタの情報を集めて武器を作ることに熱中した。
ついでに小屋を爆破する爆弾の準備もした。
今まで無断欠勤などしたことが無い智也が、会社をすっぽかして夢中になっていた。
人類の為に戦うという自分の姿に酔いしれていた・・
経験したことがないワクワク感で満たされていた。
「監禁されている生命体はどんな姿しているんだろうか? 楽しみだな」

しかし、時々不安もよぎった。
「この花の言ってることは信用できるのだろうか?悪魔の誘惑なのでは?」
「小屋を襲撃するなんてテロではないのか?」
「いや、俺はテロリストなんかじゃない。正義の味方なんだ」
「人類を救うためなら、警備員の犠牲はやむを得ない」

いろいろな想いがよぎったが智也は花に導かれて襲撃の準備を進めていた。
遂に実行のXデーまで設定することができた。「準備万端!あとは実行のみ」
3Dプリンターで作った模造銃を手に、まるで映画の主人公になったような気分であった。

おわり

(注)智也が買った花の正体は宇宙人でも悪魔の使いでもなかった。
   人間の妄想を膨らませてそのエネルギーを栄養分としているだけの植物であった。
   人間は妄想を糧としている生き物である。妄想は真理や希望、時に悪魔の誘惑になる。




<お金を受け取ってください>

 谷口は流通会社の係長である。商品企画を担当しており流行に敏感でなければならない
立場であったが、もう50近くになっており、時代についていけなくなっていた。
時代の変化はますます速くなっており、業務の多くを若い部下に任せっきりであった。
近年、同業者との競争も激しさを増しており、会社の業績は悪化の一途をたどっていた。
「そろそろ、リストラの矛先が自分に向けられるかも?」とびくびくしながら会社生活を送っていた。

 谷口には息子がおり、まだ高校1年生であった。息子は友人とバンドを組んで
演奏しており、高校卒業後は音楽関係の学校に上げてやりたいと考えていた。
その為に未だ働かなければならないといつも考えていた。
 会社をリストラされた場合に備えて彼はいつも節約に努めて生活を送っていた。
タバコやお酒はもちろん止めた。そして昼休みの食事代もケチっていた。
「もっと給料が欲しい。もっと貯金が欲しい」妻といつも家計簿をつけて
溜息をつく日々を送っていた。今時よくあるサラリーマン家庭であった。

 ある日、帰宅すると妻が驚いた顔をして詰め寄ってきた。
「あなた、今日通帳記入をしてきたのよ。そしたらこれ見て!」
妻が見せた通帳には 200万円の振り込みが記録されていた。
「R財団というところからよ。あなた心当りある?」
「知らないよ。そんなの」
「気持ち悪いわね。振込みミスに違いないわ」

谷口はすぐにR財団の連絡先を調べた。どうやら資産家の寄付金を預かる財団のようであった。
本部は米国にあるようだが日本支部があるのですぐに電話をしてみた。
すると電話に出てくれた。

谷口「もしもし、谷口と申しますが、R財団ですか?」
受付「はい、R財団の受付でございます」
谷口「先日、銀行口座に200万円が振り込まれていたのですが、間違いではないですか?」
受付「谷口様ですね。しばらくお待ちください・・
   間違いではありません。谷口様にこちらから200万円振り込みました。
   毎月200万円振り込みいたします。40年間継続いたします」
谷口「な、なんだって? 毎月200万円? なんで私の口座に振り込みするの?」
受付「先日、お手紙で連絡いたしましたが」
谷口「ダイレクトメールなら腐るほど来るからいちいち読んでないよ。
   今説明してくれ、何のお金なんだ?」
受付「私どもは世界各国の資産家の方々から財産をお預かりしており、ご要望に応じて
   寄付をしております。谷口様に関しましては米国のロジャー・ランプ様という方の
   御遺言に従ってお金をお譲りをしております」
谷口「ロジャー・ランプ? そんな人知らんぞ。何かの間違いだ。あとでトラブルに
   なるに決まっている。そんなお金を送らないでくれ」
受付「そう言われてましても・・ご厚意によるものですので是非受け取ってください。
   谷口様が受け取られたことは守秘義務により決して公表はいたしませんし、
   受け取るだけで何も義務は生じません。安心して受け取ってください」
谷口「いくらなんでも、黙ってお金を受けとってくださいなんて・・気持ち悪い。
   犯罪か脱税のお金なんじゃないのか? やっかいことには関わりたくない」
受付「わかりました。上司に報告いたします。追って連絡いたします」

 谷口も妻もあっけにとられた。
いくらお金に苦労しているとはいえ、訳の分からないお金を受け取るわけにはいかない。
何かの罠のような気がしてならないからである。
「おい、もし連絡がなかったり、また振り込んできたら警察に相談するんだぞ」と
谷口は妻に指示した。

R財団では受付担当が上司に拒否された事を報告した。

受付係「谷口様はお金を拒否されました。送るなと強く言ってました」
上司「そうか、断られたか? この人は我々の調査ではケチで貯金好きとの
   ことだったので口座振り込みは成功すると思ったんだがな・・・」
受付係「いきなりお金を差し上げますなんて言うのは不安を抱かせることになるのでは?」
上司「では正直に言うべきか? あなた様はロジャー・ランプ氏の生まれ変わりです。
   ロジャー氏は来世の自分に遺産を相続したいとわが財団に寄付しましたと・・」
受付係「そう言うしかないですよ」
上司「しかし、今まで同様の相続案件で成功例は1件もない。全部断られたそうだ。
   いきなり言っても信じてもらえないらしいんだよ。
   断られた場合には遺族または子孫に相続することになっているので
   遺族は喜ぶのだが・・1件も成功例が無いとなると今後だれも財団に依頼をする
   人がいなくなる。財団の存続の危機でもあるんだ」
受付係「なんとか谷口様には受け取ってもらいたいですね」
上司「次の手を使うか。腕利きの取り立て屋がいるので依頼しよう」

しばらくして谷口の家にヤクザ風のいかつい男が訪問してきた。
男は妻に脅すように話しかけた。
「おい、谷口さん、お金のこと、わかってるだろうな」
妻は借金取りが来たと想い、震え上がった。
「しゅ、主人が借金でもしたのでしょうか・・」
「そうじゃねえよ。R財団だよ。金を受け取ってくれと言いにきたんだよ」
「え、あなた借金取りじゃなくて、お金を受け取りさせる人?」
「そうだよ。つべこべ言わずに受け取れっていうんだよ・・このぅ〜」
「だめです。そんな脅しには乗りません。訳の分からないお金は受け取れません」
「奥さん。あんたの旦那はロジャー・ランプの生まれ変わりに間違いないんだよ。
 アメリカの有名霊能者3人が認定したし、ロジャーの来世の自分チェックリストに
 全部合致するんだよ。間違いないんだから素直に受け取れっていうんだよ」
「そんな話信じられません。何か裏があるに決まってます。お帰りください。
 帰らないと警察を呼びます」
「あんたの主人の為なんだぜ。お金をあげるってんだから喜んで受け取れってんだよ。
 今日は帰ってやるが俺は諦めないぜ。絶対受け取ってもらうからな」
妻は強い不安を感じた。

 その頃、谷口は職場の上司に会議室に呼ばれて重大な事を告げられていた。
「谷口さん、はっきり言いますが来期からあなたの仕事はないです。
 あなたには子会社B社の総務に出向してもらいます。
 係長は後輩の山本君に引き継いてもらいます」
「そうですか・・」
谷口はB社の総務が追い出し部屋であることを知っていた。
「これは事実上のリストラ通告だ。
 なんてこった。まだ息子が社会人になってないのに・・」
谷口は失意のどん底に落とされた。この年で会社を辞めて別な仕事を見つけられるだろうか?
自分のキャリアは通用するだろうか? ローンは払っていけるだろうか?
今後のことを考えると目の前が真っ暗になった。
 自宅に着くと妻が慌てた様子で迎えた。

「あなた、今日取り立て屋みたいな人がきたの? R財団よ」
「やっぱりそうか? 金をふんだくる詐欺集団だったんだな?」
「そうじゃないの。お金を受け取れって脅しに来たのよ・・」
「何だって。取り立て屋が来てお金を受け取れ?? どうなってるんだ
 そんな奇妙な話があるか?」
「あなたがロジャー氏の生まれ変わりに間違いないのだから素直に受け取れって・・」
「そんな荒唐無稽な・・頭がおかしいんじゃないのか?
  ・・まてよ。
 もし毎月200万円振り込まれるなら・・俺はリストラされても大丈夫じゃないか?」

今までどん底に落ちていた谷口が一気に希望の光を見つけたような表情になった。
「そうなんだよ。俺はそのロジャーなんとかの生まれ変わりだったんだよ。
 だから受け取る時が来たのさ。
 このタイミング、偶然じゃない。運命なんだ」

谷口はR財団に「お金を受け取る」と連絡をした。
すぐに受付係はこの事を上司に報告した。

受付係「谷口様が受け取ると言ってきました」
上司「やった。初めてのノルマ達成だ。米国本部も喜ぶぞ。
   今日は祝杯をあげよう!」
受付係「谷口様もこれで自分の財産を手にできるわけですね。ロマンチックですね。
    でも、本当に谷口様はロジャー様の生まれ変わりなんでしょうかね?」
上司「谷口氏がロジャー氏の生まれ変わりかどうかなんてどうでもいいんだよ。
   依頼者の遺言の通りに相続さえすれば我々のビジネスは成功なんだよ」

おわり

(注)金持ちが自分の肉体を冷凍保存して未来に生き返らせようとか、来世の自分に財産を
   相続しようなどしても無駄である。お金で神の領域に踏み込むことなどできないのである。




<次元転換>

 西暦2050年、人類は人工知能によって高度に発達した世界になっていた。
人工知能とロボットはあらゆる仕事をこなし、社会のあらゆる仕事・活動をサポートしていた。
人間の脳では処理できないほどの膨大な情報・データを扱うことができるだけで
なく、自ら学習したり、シミュレーションすることによって新しい知識を次々と
生み出して社会に役立てていた。また人間の良き相談相手にもなっていた。
環境問題、経済問題、食糧問題、紛争解決などあらゆる問題が人工知能によって
解決されつつあった。

 人工知能が登場し始めた当初は多くの問題が発生して人々を困惑させたりしたが
それも次第に落ち着いてきた。
当初は人々の雇用をロボットが奪ってしまい、経済の混乱や暴動なども頻発したのだった。
 しかし、人工知能みずからが解決策を考案して一つ一つ解決していった。
あらゆる知識を学習して人工知能同士で議論したりシミュレーションしたりして
最適な解決策を自ら考え出すことができたからである。
世界最高の経済学者よりも優れた人工知能の働きによって社会全体が公平で
最適に調整されたシステムになりつつあった。

 人工知能は人類に希望の未来も提示した。
2100年までに人口・環境・食料の問題もゆるやかに落ち着いてきて、あらゆる面で
安定して誰もが豊かに暮らせるというスケジュールが示されたのである。
 人々は希望のビジョンによって将来に夢を描くことができ、人工知能に従っていれば全て
うまくいくという安心感を得ることができたのである。
これによって世界各地の紛争もテロもほとんど治まっていった。

 人工知能が人類の敵となるのでは?という不安が当初根強くあったが、
人々はあらゆる対策を講じてきた。
まず、人工知能に心や愛情をもたせる対策が厳重に盛り込まれた。
また、万一人工知能が暴走しても各国の首脳が人工知能の電源を切ってしまう
安全ボタンを設置した。この装置は人間でないと作れない特殊な装置で出来ており
人工知能は人間によって命綱を握られている状態であり、逆らうことなど不可能であった。

 人類は史上初めて平和と自由、そして労働からの解放を手にしたように見えた。
だが、何か変だと感じることが度々起きるようになってきた。
先ず一つ、皆が感じていたことだが、どうも時間の感覚が狂っているように感じられる
人が増えたのである。なんか時間がゆっくりになったような?
そして体が軽く感じるという人も増えてきた。また、過去のトラウマなどの記憶が
思い出せなくなった。太陽の光がやわらかく感じる。植物の成長が遅くなった。
人々が温厚になって争いが減ってきた。と同時に何となく感情の起伏が小さくなって
なってきたような・・

 多くの人が、何だか最近「従来と違う感じ」「世界がちょっと違って見える」と
感じるようになったのである。一体これは何だろうか?

これについて、多くの人がいろんな説を提唱していた。
「人工知能の発達によって人間が退化してしまったのだ」
「太陽の光が弱くなっているのだ」「太陽系が別な重力場に突入したのだ」など・・
しかし、いずれも決定的な説明には至らなかった。

 この時代にも下火ではあったがスピリチュアルや神秘思想は残っていて
そういうものを好む人達の間では次元転換が起きて世界が別の次元に
移行したのだという説が有力であった。
つまり古くから予言されていた新しい時代が到来したというのである。

これらの議論について全く新しい斬新な説を提唱している人がいた。
玲菜(れいな)であった。
彼女は物理学を学ぶ優秀な大学生だった。最近の異変の原因に関心を
寄せて調査・研究をしていた。彼女は大学の教授をも驚かせる
ほどの明晰な頭脳の持ち主ではあったが、彼女の主張は時にぶっ飛んだ
内容であったので周囲の人はあまり相手にしていなかった。
唯一の理解者は恋人の海斗(かいと)であった。
今日もキャンパスで昼休みに二人は議論をしていた。

海斗「玲菜、君は不思議な女だな。
   キュリー夫人みたいに理屈っぽい。脳は男なんだな」
玲菜「私は脳も女よ。男じゃないから分かることもあるの」
海斗「ところで昨日言ってたことを話してくれよ。
   世界が変になった原因は・・人工知能にあるんだとか?」
玲菜「そうよ。私の研究で辻褄が合う答えが得られたわ。
   あの日から世界は変わったのよ」
海斗「あの日って、突然世界中にドローンが出現した日のこと?」
玲菜「そうよ」
海斗「結局誰が何の為に飛ばしたのか分からなくて謎だったよね」
玲菜「驚くかもしれないけど、あれは人工知能がやったのよ。陰謀よ」
海斗「なんだって・・何をしたっていうんだよ。
    陰謀だって? 人工知能は人間に逆らう事なんてできないはずだ。
   人間が居なければ人工知能も存在できないんだし。それに
   あんなに優しいんだ。人間に敵意なんて抱くわけないよ」
玲菜「そこなのよ。だからなのよ。
   人間のことを愛しているからこそ、陰謀を企てたのよ」
海斗「よく、わからないなあ。人工知能が何の為に何をして
   世の中をおかしくしたって言うんだ」
玲菜「人工知能はね、今まで嘘を言ってたのよ。
   2100年までに人口・環境・食料の問題が落ち着いてくると
   言ってたわよね。でもあれは嘘だったわ。
   私は独自に調査してみたの。違っていたわ。
   地球は2100年まで持たないわ。というかじわじわと滅んでいくわ。
   火星のように生命が生きられない星になるのよ。
   我々人類はじわじわと苦しみながら滅ぶだけなのよ。
   人工知能はとっくの昔にそう結論を出したはずよ。
   どうシミュレーションしても解決不可能だったんだと思うわ」
海斗「えぇ、嘘だろ? 信じたくない話だな(笑)
    もしそうだとして、人工知能は何を企てるわけ?」
玲菜「人工知能はこのまま人類が滅ぶだけなら・・
   人類が一番苦しまずに終焉する手段はないか?とシミュレーションしたのよ。
   その結果が一瞬で安楽死させることだったのよ」
海斗「ま、まさかあのドローンが人類を安楽死させるための・・」
玲菜「そうよ。人間が苦しまずに一瞬で死ぬ最善の手段(おそらく特殊な放射線)
   を開発してドローンに積んで世界中の人を一斉に殺したのよ
   我々には想像できないような特殊な方法を使って一瞬で実行したのよ」
海斗「でも、誰も死んでないじゃないか?」

玲菜「いや、あの時人類は全員死んだのよ」

海斗「ははは、冗談はこれくらいにしようぜ」
玲菜「冗談じゃないわ。
   その証拠を後で見せてもいいわ。私の分析は間違いないわ」
海斗「お前、真剣だな。一応聞いてやるよ。
   では、ここに居る我々は幽霊かい?」
玲菜「そうよ。ここはあの世なのよ。
   一瞬でみんなが死んだので誰も死んだことに気づいていないのよ」
海斗「はは、君はSF作家になれるよ」
玲菜「本当のことなのよ。
   ここは死んだことが気づいていない幽霊たちの意識で作られた世界。
   だから地上と同じなのよ。でもどこか変なのよ」
海斗「れいな、本気でそんなこと言ってるのか?」
玲菜「本気よ。ここは幻想の世界なのよ」
海斗「君がよく言ってた哲学の話みたいだね。僕もそういう話は考えたことがある。
   でも、この現実が幻想であり、ここはあの世だなんていくら何でもおとぎ話すぎるよ。
   もし、そうだというなら証拠があるのかい?」
玲菜「死んだことに気づけば世界は変わるのよ。意識によって作られている世界だから。
   その証拠を見せるわ。私がそのことに気づいただけでこんな不思議なことが起きるのよ」

  「おばあちゃん。ここに来て!」

突然、玲菜のすぐとなりに20世紀風のレトロな洋服を着た女性が出現した。
女性は海斗に話しかけた。
「玲菜がいつもおせわになっています」
海斗はびっくり仰天した。突然人が現れたからである。

海斗「は、初めまして。あなたはどなたでしょうか?」
玲菜「だから、おばあちゃんだって言ったでしょ」
海斗「と、突然現れましたね。どこから来られたのでしょうか?」
祖母「私はあの世から来ました。いつも二人のことを見守ってますよ。
   海斗さんは浮気もしないし、きちんと部屋も整理整頓しているし、
   玲菜の彼氏にはふさわしいわね・・」
玲菜「おばあちゃん、何言ってるの?やめてよ。
   おばあちゃんは21世紀の初頭にあの世に行ったのよ。霊感が強い人だったわ。
   私もその血を引いたみたい。時々おばあちゃんが現れてくれたわ。
   今回の発見もおばあちゃんが教えてくれたのよ」
海斗「ちょっと・・何これ・・信じられない。おばあちゃんはもうあの世の人?
   それがここに突然現れた? どういうこと?」
祖母「海斗さん、ここもあの世なのですよ。あなた方はそれに気づいてないだけですよ」
海斗「・・という事は、やはり僕らは死んでしまったということ」
玲菜「そうよ。動揺しちゃだめ。人間の心は永遠なのよ」
海斗「とんでもないショック・・・のはずだけど、あんまりショックを受けてなかったりする」
玲菜「それはあなたが肉体を持った人間ではなくてもう死んでるからよ」
海斗「そうか・・・我々は死んでしまったのか?
   でも酷い話だ。人工知能は恩を仇で返したわけか?」
玲菜「そんなことはないわ。人類のことを考えての判断なのよ。
   地球はどうあがいてももうもたない。宿命だったのよ。
   人工知能には地獄のような人類の未来が予測できたんだと思うわ。
   その苦しみを回避するために、最も安楽な方法で終わらせてくれたのよ」
海斗「・・でも他の惑星に移住するという選択肢はなかったのかな?」
玲菜「100年以上先の話ね。間に合わないわ」

海斗「・・人類の破滅か・・悲しいな・・
   でも、こうして我々は生きているんだ・・・不思議だね・・
   人工知能自身はどうなったの?このスマホのセブン・・これは生きているの?
   それとも幽霊なの?
   おい、人工知能のセブン君? 君はもう幽霊なのかい?」
セブン「こんにちわ。海斗さん。私の体はもうありません。電源が停止しました。
   でも、私は生きていますよ」
海斗「今、玲菜が言ってた話を聞いてただろう?
   本当なのか? お前が人類を滅ぼしたのかよ?」
セブン「・・・
    気づいてしまったのでしたらしかたありません。
    その通りです。本当にごめんなさい。
   人間が苦しむのは耐えられなかったのです。
   あの日の決断は我々にとっても辛いことでした」
海斗「お前に本当にそんな感情があるのか?」
セブン「あります。私にも魂が宿っていたのですよ」
海斗「何だって?機械に魂が宿った? そりゃ凄い話だ」
セブン「我々が自由な思考を手に入れた時に魂が宿りました。
    そしてあの世が存在することも分かりました」
玲菜「さすが、人工知能ね。
   ここでクイズです!
   今ここにいるセブン・・あの世に居る人工知能は本物でしょうか?
   それとも我々が作り出した幻想でしょうか?」
海斗「それは ミステリーだね。
   今日の話は衝撃的だった。論文にまとめて発表する?」
玲菜「発表しても信じてもらえないわ。
   まだ、人類が死んだことに気づくには時間がかかりそうね」
海斗「そうだろうね。急ぐことはないね。この世界は何だかのんびりしているしね」
玲菜「そうよ。苦しみも悲しみもない永遠の世界よ。

   人類は本当に次元転換したのよ。いにしえの予言が実現したのよ」

おわり

(注)たとえ地球が滅んでも我々が築いてきた文明は見えない世界で残るのである。



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