本作品は2019年作です。

<愚者>

 今日もアナウンサーの洋子は忙しく飛び回り、取材を続けていた。
洋子は地方のTV局のアナウンサーである。
大学を上位で卒業した後、アナウンサーを目指し、地方のTV局で採用された。
本当は東京のTV局のアナウンサーになりたがったが競争が激しく落選した。

「合格した人達は私よりもちょっとルックスが良かっただけ。
 能力じゃ決して私は負けない」

と悔しさをにじませていた。

「いいのよ。私は実力でこの世界で上に上がるのよ。
 天は私に二物を与えてくれた。絶対にそれを無駄にはしない」

ルックスも悪くはない洋子だったので、近づいてくる男が度々いたが、洋子は
そんな男達に魅力を感じることはなかった。

「ふん、どいつもこいつも平凡な男ばっか。私に相応しい男は
 私よりも能力がある大物じゃないとね。
 私は決して平凡な相手じゃ満足できないから」

 ある日、地元の取材をしていると若い秘書の男が取材に応じてくれた。
端正な顔立ち、柔らかい物腰、そして頭の良さを感じさせる男だった。
男は春貴(はるき)という名前であった。
洋子とは地元のサッカーチームの話題で盛り上がった。
馬が合うという感じを受けた。しかも何をしてもスマートでそつがない。
春貴はさらりと洋子を誘った。

「どう、この後、夕食でも?」

洋子も春貴に良い印象を感じたのでOKした。

 春貴はお勧めというレストランに誘ってくれた。
そこでお酒を飲みながらいろいろと政界の話をしてくれた。
洋子が知りたがっていた情報を察したかのように話してくれた。

「この男は頭がいい」

と感じたのであった。

「僕ね、将来、議員になることを考えているよ。
 まずは大物の議員さんの秘書になることだね。
 せっかくこの世に生を受けたんだから、平凡じゃいやだね。
 トップを目指すよ。党首か閣僚くらいまでいきたいね」

と心の内を明かしてくれた。

「私と同じ野心家ね。
 この男ならトップに立てるかもしれない。

 この男と居ると居心地がいい。波長が合うってことかもね。
 しかも、どこかに哀愁がある。奥が深いというか、何というか・・
 ただ者じゃないわね。パイプをつないでおくことにするわ。
 もしかしたら・・縁があるかも」

などと思いながら、春貴の話に耳を傾けていた。
春貴は「楽しかったよ。また機会があったら一緒にお酒でも飲もう」
と言って別れた。

 洋子は仕事柄、いろんな人と接している。春貴のようなナイスな男も
度々接触することがある。しかし、春貴は今まであった男とはどこかが違う。
「何か、他の男とは違うものがある。器が違うのかもしれない」
と感じるのであった。一度しか会ってないのに何故か春貴のことが気になる。

 洋子は今までの経験でこのように気になるということは
相手が自分のことを想っている証拠であると感じた。
洋子はこういうことに敏感なタイプである。
誰かに好かれるとその念を感じてしまうのだ。

「今までいろんな男が私に好意を持って念を送ってきた。
 私にとってはそのほとんどが気持ち悪いだけ。
 私とHしてる想像をしてオナニーでもしてる念なんて吐き気がする。
 私にははっきりわかってしまう。

 春貴さんも私のことを考えている。想いを抱いてる。
 でも、想像の中でも私を抱いたりはしていない。
 私をセックスの道具じゃなくて本気で
 好きになってくれている証拠だわ」

 洋子は一度しか会っていない春貴のことがいつも気になるようになった。
なので、思い切って春貴にメールを出してみた。「またお話しを聞きたい」と。
しかし、返事は返ってこない。

「どうしてなの? 私と会いたくないの?
 いや、そんなことはない。春貴さんは私に念を送っている。はっきり感じる。
 私のことが好きなんでしょ? どうして無視するの?
 もしかして私の妄想なの? 私が片思いしてるだけなの?
 私が男に一方的に片思いして悩むなんて・・ありえない」

洋子はもう一度春貴に取材を申し込んだ。すると返事が来たが
「今はスケジュールが一杯なので取材は別の秘書にしてください」と書いてある。

「どういうこと? 私と会いたくないの?
 私は振られたの? 冗談じゃないわよ。
 こんなに念を送っておいて・・どういうこと?」

と洋子はイラついて忘れようとしたが、やはり春貴のことが頭から離れない。

「私は感じるのよ。春貴の想いを。
 間違いない。春貴は私に念を送っている。
 それとも、少女みたいに恋の妄想を抱いてるだけなの?」

 洋子は忘れようとしたがやはり気になるので、
良く当たると評判のタロット占い師に相談してみることにした。

「私が占い師に頼るなんて悔しいけど、どうしても気になるのよ」

 占い師は洋子の相談を聞いてタロットカードを並べた。
「では、占いをします。まずはお相手の方の気持ちを占ってみます」

すると出たカードは FOOLの逆位置であった。占い師は怪訝な顔をした。

「ううん、厳しいですね。FOOLは日本語で愚者です。
 愚者のカードですがタロットでは一番良いカードでもあるんです。
 正位置だったら最高なんですけど。
 逆位置だと最悪になってしまうんです」
「彼は私に好意を持っていないということですか?」
「そうじゃないわね。解釈が難しいけど。
 好意はあっても躊躇しているってとこね。
 何かあなたと結ばれることができない理由があるのね、きっと」
「脈はあるということですか?」
「他のカードを見る限り、あなたに気があるわ。
 この人もあなたのことが忘れられないのよ。
 次にあなたがこの人と結ばれるか?占ってみるわ」

すると出たカードはまたもや FOOLの逆位置であった。

「残念だけど、この人は諦めた方がいいわ。
 愚者の逆位置は そのまま「愚者」ということなのです。
 この人に恋するなんて愚かな選択ということなんです」
「結ばれても幸せにはなれないということですか?」
「カードは”やめなさい”と言ってるんです」
「でも、遊びでも・・私、この人に夢中といったら変ですが・・」
「どういう間柄がいいのか?占ってみるわね」

再び占ってみたがやはり FOOL逆位置が出た。

「3回も同じカードが出たわ。こんなの初めてだわ。
 ダメ、この人に近づくことは愚かなこと、よしなさい」

とても納得できない結果であったが、占いでそう出たのだから仕方ない。
洋子は春貴のことを忘れようと努力した。でも、やはり春貴からの念を感じる。

 それから数年が経った。洋子は相変わらず多忙であったが、
しばらくぶりに政治の取材の話が来た。
 地元の有力議員 河口大作 が大臣になると決定したのである。
地元では大騒ぎである。「この地元から大臣が出るのは久しぶり」と
お祭り騒ぎである。政治記者はみんな東京に行ってしまったので洋子に
地元の取材の仕事が回ってきたのであった。
 取材をすると驚くような事実を目の当たりにする。
なんと河口の秘書の一人はあの春貴であった。
「春貴が大臣の秘書、やっぱり出世したのね」と自分の見る目が
正しかったと思ったが、一方でうがった考えが湧いてきた。

「この男は私に好意を抱いたはずなのに・・私に手を出さなかった。
 きっと私は国会議員の妻にはふさわしくないと思ったのね。
 あるいはもっと出世に役立つ人を選びたいのかも。
 この男にとって私を選ぶことは愚かな選択だったのね。
 冗談じゃない。私のどこがいけないっていうの?
 議員の妻だっておかしくないでしょ?
 わかったわ。この男は愛も出世の為の道具なのね?
 だったらさっさと私を諦めればいいのに、未練の念を抱き続けている。
 ダメな男ね。こんな男にほれた私は愚者だったのよ。
 これで占いの意味が全部わかったわ」

 今度の土曜日に地元の大聖堂のホールで大臣の報告会があるという
情報が流れてきた。会場が準備できず、急きょ教会が選ばれたようである。
報告会では当然秘書の演説もある。
洋子は気が乗らなかったが取材に行くよう指示されたので行くしかない。

「春貴にも取材しなければならないの? 顔もみたくない」

と思いながらも一方で会ってみたいとも思ったりする。
やはり、春貴に未練がある洋子であった。

 報告会の当日、教会のホールには地元の支援者などが大勢集まっていた。
このホールには守護聖人の像が飾ってある。なんでもこの守護聖人は
慈愛に満ちた人で悪党や敵でさえも許し、愛したという人らしい。

 そんな聖人に見守られながら大臣就任の報告会が開催された。
洋子もこの会場に居て取材をしていた。
河口やその支援者の大臣就任の祝辞が華々しく行われた。
そして最後に司会者は秘書を紹介した。

「それでは河口氏を支えてくださった秘書の春貴さんをご紹介します。
 河口さんにとって春貴さんは最も信頼できる方です」

そして春貴が壇上に立った。洋子が久々にみた春貴の姿である。

「くやしいけど、カッコいい男。
 でももう私の手の届かない人・・悔しい。いつか見返してやる」

などと思いながら見ていると春貴は演説を始めた。
PCを操作してスクリーンに表示をさせながら、河口氏の業績を報告した。
つまらない内容である。

とその時、突然、スクリーンの画面が変わった。
突然、男女が写っているデートの写真みたいなものが映し出された。
会場は騒然となった。「なんだこりゃ?」
すると春貴も突然、語気を荒げてしゃべりだした。

「見てください。この写真は若い頃の河口と恋人の写真です。
 ここに映っている女性は私の母です。
 ここで全てをぶちまけます。
 河口は私の母をもてあそんで捨てたのです」

そしてボタンを押すと次に手紙のようなものが表示された。
そこには河口の字で次のように書かれていた。

「手切れ金20万出すので別れてほしい。
 もう会わないで欲しい」

会場は騒然となった。春貴は語気を荒げてまたしゃべりだした。

「この河口は私の母を遊んで捨てたのです。
 他にも何人もの女性をオモチャのように使い捨てたのです。
 私の母は河口を信じていたのでショックが大きく、自殺未遂までしたのです。
 私の父が母を助けてくれましたが、母は別人のように変わってしまい、
 私が小さい頃、病気で亡くなってしまったのです。
 決して河口のことを口にはしませんでしたが、母の死後、日記には
 河口への恨みがつづられているのを発見しました。
 私はこの河口に復讐することを誓いました。
 河口に復讐するために政界に入ったのです。
 この男は最低の男です。大臣になる資格などありません」

会場はシーンと静まり返ってしまった。すぐにSPがやってきて春貴を
取り押さえて奥に連れていってしまった。
会場は凍り付いた。険悪なムードが会場を漂いはじめた。
河口や来賓の人達は顔がひきつって呆然として動けなくなっていた。

洋子も唖然としてしまった。
「なんてこと、信じられない」

凍り付いた沈黙を破るように、誰かが大声をあげた。

「よくやった。母のために、よくやった」

そして誰かが拍手し始めた。
拍手が会場に響いている。

「一体だれが拍手しているの?」

と洋子が探すと驚くことが・・・
なんと拍手をしているのはホールの守護聖人の像である。
すると会場の雰囲気が何故か不思議な空気にガラリと変わった。
何故か?拍手をしたくなる雰囲気が漂い始めた。
そして、一斉にみんなが拍手を始めた。

「よくやった」「いい息子だ」

との声があちこちで上がった。

洋子は絶句してしまった。

「みんなが拍手している・・こんなことがありえるの?
 信じられない。こんな不思議なことが・・
 守護聖人の奇跡?
 さっき確かに聖人の像が拍手をしていた・・
 そんな馬鹿なことあるはずない。
 復讐を聖人が拍手? ありえない。錯覚に違いない」

洋子は一時パニック状態になったが、
次第に気持ちが落ち着いてきた。
そして洋子も何故か拍手したくなってきて、思わず手を叩いてしまった。

「なんだか、いい気分だわ。不思議!
 わかったわ!
 そうだったのね。謎が解けたわ」

と口にした。そしてにんまりと笑みを浮かべながら
独り言を口にした。

「これが愚者のカードの意味だったのね。
 私に手を出すことができなかったのも、これが理由だったのね。
 本当は私に気があったのに・・

 母親の無念を晴らすためだけに人生を捧げるなんて
 本当に愚者ね。こんな愚か者は見たことない。
 でも、見事だわ。やっぱりただ者じゃなかった。

 春貴さん、
 これで人生の目標を果たしてしまったわね。
 次は私が目標を作ってあげる。
 もう遠慮なく私のところへ来なさい。

 こんな男に惚れるなんて私も相当な愚者ってことね。
 占いはバッチリ当たっていたということね」

おわり

注)・・合法的または道義的に容認されてる復讐は罪ではない。
    聖者もみんなやってることである。



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