本作品は2021年作です。

<ゴーストライター>

 秀人(ひでと)は、台所で夕食を準備していた。いつものメニューである。
カップ焼きそばに半額で買ってきた売れ残りの総菜を入れる。
晩酌のお酒は一番割安の焼酎を水割りしたものである。

「今日はどんな味にしようか?
 工夫次第でうまくなる」

などといろいろ研究していたりする。

「ああ、たまにはもっと美味しい料理を食べてみたいものだ。
 お酒もワインとか人気の高級ビールなどを飲みたいなあ。
 加藤は今日もうまいもの食べてるんだろうな?
 僕もサラリーマンになっていたら、そういう生活ができたかも」

 秀人(ひでと)はフリーターである。サラリーマンにはならなかった。
夢があったからである。その夢とは、心霊研究家になるというものである。
彼は何よりも霊や怖い話が好き。心霊関係の本や漫画をいつも読み漁っている
心霊オタクである。そして自称心霊研究家である。

 将来は心霊研究家として有名になるという夢を抱いていたのである。
心霊のことを教えてくれる専門学校や大学はないので、
進学もせずに独学で研究していたのである。

 彼は心霊以外には興味を持つ分野はほとんどない。
そういう偏った趣味の持ち主だった為か、友達は少ない。
趣味が心霊研究だなんて人に言うことはできない。
自己紹介で趣味のことを語るとき、いつもアニメですなどと言うのだが、
アニメでも心霊物しか興味がないので、一般のアニメ好きの人と話が合わないことが多い。
また、心霊マニアであることを打ち明けた途端、疎遠になった友人が何人かいる。
それがトラウマになって、霊のことは人前で口にできなくなった。
ネットで同じような心霊オタクと仲良くなることができるが、
みんな遠方に住んでる人だったり、世代が違ったりして会うことはほとんどない。
リアルな友達は作りにくいのである。それも悩みであった。

 リアルでの親友は、同じくホラーが好きだった同級生の加藤だけである。
加藤は秀人と同様にホラーや心霊物が好きなのだが、本当にそれが存在するかどうか
には関心がない。作られた物語に興味があるだけである。
親友でありながら、そこがアンマッチなのであり、時々話が食い違うことがある。
そして、加藤とは、もう一つ違う点があった。彼はサラリーマンの道を選んだことである。

 サラリーマンは時間に縛られ忙しいが、その代わりに安定した収入が得られる。
そして年金など社会保障が整備されている。年金も払ってない秀人は、時に
加藤がうらやましく感じることがあるのだ。
加藤の話を聞いていて憂鬱に感じてしまうこともあるのだ。

「僕もサラリーマンになるべきだったのでは?」

と思ったりする。もうすぐ30代になる年であるが、胸を張って自分の
職業を他人に言うことができないのだ。
サラリーマンだったらこんな苦労はないのになあと思うことがある。

「いや、サラリーマンは好きでもない仕事を
 ずっと我慢して行わなければならない。まっぴらごめんだ。
 僕は大好きな仕事をして楽しい人生を送るんだ」

と言い聞かせるのだった。
秀人にとって大好きな仕事というのは霊の世界を探求することである。

「将来は、心霊研究の第一人者になるんだ。
 たくさんの本を世に出すんだ」

 秀人はこの夢に向かって心霊本やネットの情報を読み、研究を続けた。
好きこそものの上手なり と言われるように彼はありとあらゆる心霊体験や怖い話を熟知して
おり、霊に関しては専門家と言えるほどの博識ぶりである。
 ネットでその博識ぶりを披露して心霊マニアの間から一目置かれていたりする。
ファンやフォロワーも大勢いる。誇れるほどなのだが、リアルでは自慢できないし、
収入にも結び付いてはいない。

 なんとか収入に結び付けようと、この特技を使って怖い話のネタを作るアルバイトを始めていた。
彼の博識ぶりに目をつけてくれた人から、心霊ネタを考えてほしいと頼まれたことがきっかけである。
少女漫画の心霊話のネタ、怪談の講釈師のネタなどを頼まれて相手の要望に応えて考案したり
しているうち、口コミで評判になり、作家やTV関係者から依頼が来たこともある。

 驚いたことだが、心霊物の漫画家やら講釈師などの中には心霊のことをあまり知らない人もいる。
秀人はそういう人達の相談に乗るようになったのである。そしてネタを提供したり、怖い体験談の
ゴーストライターのアルバイトをしたりすることもあるのだった。
ゴーストライターとは、書籍や記事、脚本などの代作を生業とする著作家のことである。
つまり、誰かの代わりに書いてあげる陰の作者のことである。

大学生が卒業論文を他人に書かせたり、作家や作曲家が他人に作品を作らせて、あたかも自分が
作ったかのように見せかけてインチキをすることがある。
その代作を請け負うのがゴーストライターなのである。
しかも、秀人は、心霊物(ゴースト物)の代作を請け負うのだから言葉通りゴーストライターである。

 秀人は文章の腕を磨く目的で、進んでこのアルバイトをしていたのである。
いわば心霊研究家になるための修行である。
ネットにも匿名で心霊体験を創作して投稿することもある。腕試しである。
何度かネットで秀人が作った「怖い話」が評判になり伝説の怪談になったことがある。
また、雑誌の実話体験コーナーに投稿したこともある。
この場合には、あまり怖い話ではなく、さも実際にありそうな体験談を書くと信憑性が高まる。
そういうコツも身についていた。

 ある日、雑誌に投稿が採用された通知が来て、謝礼1万円が書留で送られてきた。

「やった、これでしばらくごちそうが食べられる」と喜んだりしていた。

しかし、こんなことでは生活は安定しない。
毎日仕事が来るわけではない。

「このままではダメだ。
 研究家として本を出せるくらいの研究成果を出さないと。
 本当に夢は実現できるのだろうか?」

 秀人には心霊研究家で食っていけるのか?という不安がいつもくすぶっているのだが、
もう一つの不安もよぎるようになってきている。それは霊に対する疑いである。
子供の頃は心霊にどっぷりつかって霊のことを疑うことなど微塵もなかったのだが、
大人になって世の中の現実を見ているうちに、段々と霊に対する疑いが沸いてきてしまうのである。

「もしかして・・・霊の話は全部嘘なのかもしれない。
 だって、この僕も嘘の体験談を投稿しているんだから。
 心霊話や体験談は全部、僕みたいなライターの創作だったりするのでは?」

この不安は将来の不安よりももっと深刻である。
今日もネットの心霊動画を見たのだが、全て創作であることがわかった。

「よく、ここまで手の込んだ物作る人がいるもんだ」

と感心する一方で

「ということは心霊現象の全てが創作では?
 創作でなかったとしても幻覚、幻聴では?
 高齢者や認知症の人のせん妄の話を調べると心霊現象みたいな話は
 よくあるということが医学サイトに書かれていたりする。
 ということは、本当だと言ってる人も脳の異常によってそう見えたりする
 だけなのではないか?」

という不安がよぎったりする。
秀人には霊能力などの特殊な能力はない。霊を見たことなどない。
不思議な体験も一切ない。だから霊の実在を確信することができない。

「今まで人生を賭けて信じてきたことが全て嘘だったなんて? 考えたくない。
 それに、あの世のことを考えて人生設計してきたのだから、疑いたくない。
 でも、もしかしたら、もしかしたら、みんな存在しないのでは?」

霊が存在しないことを考えてしまうと底しえない恐怖に襲われてしまう。
もし霊が存在してないなら、自分は存在しない幻想を追いかけていたことになる。
そして死んだら自分は、意識も心もない冷たい土になってしまう。

「そんなことはない。霊は存在する、絶対に!」

そう自分に言い聞かせる秀人であった

 ある時、古本屋でオカルト本をいつものように漁っていたが、
たまには、オカルト本ではない、一般の霊供養や仏教の本でも読んでみるか?と
立ち読みしてみたら、仏教研究の第一人者と呼ばれる学者が書いている
霊についての本が目についた。
「仏教の権威が説く 愛する人との死別について」という本である。
ベストセラー本で多くの人に感動を与えた本と書かれたカバーがついてる。
それを立ち読みしてみると。

「霊とは心の表れである。
 供養とは遺族の執着を消し去るため、思い出として整理するためにある。
 仏教では霊への執着を断つために方便として浄土などを教えているが、
 その理由は、故人への執着や死後の不安を断つためなのである。
 それが仏教の真髄である空の教えなのである。
 死後や霊などにこだわってはいけない。
 あるかないかなどは迷いであり、空という煩悩なのである。
 仏教は全てが縁起により変化・流転しているという現代の科学にも通じる
 合理的な教えなのです。
 お釈迦様は、霊やあの世のなどの合理性のない説法はしていないのです。
 霊が見えるという人がいるが、その人の心が脳の中で霊を見せているだけである。
 霊が見えるということは心が病んでることの証拠である。
 遺族にとって大事なことは故人のことを忘れてあげる。
 それが本当の供養なのである」

などと書いてある。肝心の霊の存在の有無については一切言及していない。

「まるで霊など妄想にすぎないと言ってるように聞こえる。
 こんな本を読んで心が安らぐのだろうか?
 本当に大勢の人が感動したのだろうか?
 今までオカルト仲間としか霊について議論しなかったが、
 一般の人達は霊をこんな風に考えていたのか?

 お墓も供養も形だけのもの。生きてる人達の心を慰めるためのもの。
 いわば、セレモニーみたいなもの。
 霊が見えても、それは脳の幻覚にすぎない。

 これが世間の常識、そして正当な宗教の教えだったのか?
 僕は今まで本気で信じてきたので、変人、いやバカだったということか?」

それを考えると重苦しい気持ちになるのだった。
この時、好きだったロックバンドの歌が思い出されてきた。

「僕たちはいつか、みんな冷たい土になってしまう。
 だから今を精一杯生きるんだ」

みたいな歌の文句を思い出した。

「死んだら土になるなんて・・・僕はそう思わない。
 死んでも霊になって生きていくんだ。
 もし本当に土になってしまうなら、
 青春を楽しもう、恋をしよう と考えるよりも、
 どうせ自分は消えてしまう。だから他人から金を奪っても、
 騙してもいいんだ。何をしたっていいんだ。
 捕まらなければいいんだ。得したものが勝ち。
 ということにならないだろうか?
 これが現実なんて納得できない。
 霊は存在する。神仏もあの世もある。人生には意味がある。
 善人は報われる、悪人は裁かれる。そうにちがいない」

そう自分に言い聞かせてきたのだが、年と共に段々と現実が見えてくるのである。
いろいろと世の中のカラクリ、冷酷な現実が見えてきてしまう。

 そんなある日、親友の加藤と久々に会い、酒を飲む機会があった。
相変わらず彼は充実してるだろうと思ったが、何か嫌なことがあったらしい。機嫌がよくない。
悩みを聞いてあげると、結婚についての悩みを抱いてるようである。
彼は結婚して子供が欲しいと以前から言ってたが、相手が見つからないらしい。
秀人にとっては贅沢な悩みである。

「そんな悩みを抱くということは収入や将来について希望があるという事だ。
 僕はそれどころじゃない。生きていけるかどうか?って悩みだ。
 こいつ、収入が安定してるなら、生活に困っているシングルマザーと結婚してあげれば
 いいじゃないか?それなら、いくらでも相手は見つかりそうなものを」

と思うのだが、加藤は理想が高い。相手にこだわりがあるようだ。
イケメンでもエリートでもないのに相手への条件がメチャ高い。

「相手は20代前半、アイドルになれる程の美人で処女。これが最低条件。
 絶対に妥協しない」

とこだわっている。
そこで美人をそろえているという結婚紹介所に高い会費を払って、毎月のように
紹介してもらっており、申し込むと相手は会ってくれるのだが、追加料金を払って
交際まで進むと、うまくいかずに失敗する。
そこで追加料金を払ってカウンセリングや講習会に参加して努力するのだが、
やはりうまくいかない。その繰り返しが何年も続いている。

「結婚紹介所とはそういうもの。
 なかなかうまくいかないが、努力し続ければいつか成婚できる。
 努力と辛抱だ」

と次々紹介される人にワクワクしていたのだが、
ある時紹介されて会った女性が教えてくれたのである。

「ごめんなさい。
 私、アルバイトなんです。つまり・・・サクラなんです。
 だからあなたの望みには応えてあげられません。
 もうこんな、人を騙す仕事、私には耐えられない。
 かなりお金がもらえるバイトなんですが、もうやめます。
 あなたも、やめてください。
 いくら頑張っても、みんなサクラだから、結ばれることはないんです。
 お金を搾り取られるだけなんです」

これを聞き、彼はこの紹介所のカラクリに気付いてしまったのである。

「この結婚紹介所は詐欺だったんだ。
 美人のサクラに会わせて、
 高額の紹介料をふんだくるだけのシステムなんだ」

彼はショックと怒りに震えながら、やけ酒を飲み、愚痴りだした。

「訴えてやる! と思ったがもし訴えたら、
 正直に告白してくれた人に迷惑がかかる。
 それに詐欺の証拠なんてない。だからできない。
 泣き寝入りするしかない。
 今まで何百万も払ったことが、悔しい。
 もう世の中が信じられない」

 そう言って秀人に泣きごとを言ってきたのである。
秀人は「お前が身の丈に合わない理想を抱くから騙されるんだよ」
と本心思ったが、それを言っては可哀そうなので。

「そりゃ、酷い話だ。でも、かわいい子とデートできたんだろ?
 ワクワクして夢心地になれたんだろ? お金は無駄になってないよ」
「俺は本気で結婚したかったんだぜ。その真剣な想いを利用されたんだ。
 世の中は何でも建前と本音があって、みんな綺麗事で固められてる。
 そして嘘ばっかだよ。俺みたいなバカな男は恰好のカモということさ。
 女達は馬鹿な男達を騙して笑ってるんだろうな。男ってバカだもんな」
「男だけじゃない、その逆もあるよ。
 女を騙すデート商法ってのもあるんだ。
 イケメンが女とデートして商品を売りつけるやつさ」
「女だって騙されるということだな。
 そういえば、女は宗教とかスピリチュアルとか信じてる人が多いしな。
 神も仏も、霊も存在するわけないのに。
 あれこそ金儲けを企む人間が創作している嘘なのにね。
 女どもはそれで騙されて金をむしり取られるがいいさ。
 あ、すまん、お前も霊を信じてたな」

秀人はこの言葉にショックを受けてしまった。

「これが常識というか、正当な考え方なのだろうか?
 やはり、賢明な人は霊なんて信じてないのか? 霊は存在しないのか?
 ホーキング博士も死後の世界なんてないと断言してたしな。
 あれだけ頭の良い人には霊の話なんて矛盾だらけで嘘が見えてしまうんだろうな。
 唯一の科学的証拠だった「臨死体験」も最近では脳の機能であることがわかって
 来てるみたいだし。結局全て嘘、幻だったってことか。

 いや、そんなことはない。心霊体験談がいっぱいある。
 みんなが嘘言ってるなんてことはない。
 それに霊が見える人もいるんだ。
 でも、幻覚で見える人もいる。いや、全てが幻覚では説明できない。
 本当に見える人もいるはずだ」

 秀人の悩みは時に眠れなくなるほどの深刻なものになっていった。
自分が人生を掛けて追及してきたものが実はフェイクだったと考えると
自分の存在が無意味なものに感じられてきてしまうからである。

 なんとか、霊が存在する証拠はないものだろうか?とネットを探していると
近年、注目を集めている霊能者 岳森常命 が思い出された。
この人はネットや雑誌に度々登場して、多くの芸能人や評論家から
本物の霊能者と称される人である。
この人は卓抜した霊視の能力があり、事細かに透視することができるとの評判である。
今までに大勢の人達の悩みを解決してきた実績があるという。
 ちょっと朴訥で即座には霊視できないらしく、TV出演はしないようである。
饒舌ではないところが、本物という雰囲気を醸し出している。

「こういう本当に霊が見える人がいるんだ。しかもピタリと透視を当てている。
 脳の幻覚なんかじゃ説明できない。霊が居る証拠だ」

と秀人もこの人を信頼していた。ある日、この霊能者のHPを
見ていると「アシスタント募集」の広告が掲載されていた。
なんでも、先生の霊視を文章に編集できる達筆な人を募集とのこと。
霊のことに強い関心がある人という条件である。

「お、これはいい。僕にピッタリの仕事だ。これはチャンスでは?
 先生のアシスタントになれば、霊が存在する証拠を目の当たりにできる。
 心霊研究家への第一歩となる」

早速、秀人はこの事務所に連絡してみた。
すると事務所の人達は、秀人のことを知っていた。

「あ、あなたのHNはよく知ってますよ。かなり霊について詳しい方ですね。
 是非ともあなたにアシスタントになって欲しいと思っていたところです」
「それはうれしいです。
 ところで、私がアシスタントになって
 何をしたらいいのでしょうか?」
「先生が霊視したことを文章にまとめるだけなんですよ」
「ちょっと疑問が。
 先生ご自身は何故文章をお書きにならないのでしょうか?」
「・・・・ううん、ちょっと言いにくいのですが、
 先生は文章が書けないんです。文盲でして。
 先生は幼少の時から悪霊と戦い、また厳しい試練により、修羅場の半生を
 送ってきました。いつも死と隣り合わせの極限の生活を送ってこられたのです。
 それにより卓抜した霊能力を獲得されたわけなのですが、そのため学業をする
 お金も余裕もなく、文章が書けないのです。
 ですから文章や言葉の表現をサポートする人が必要なのです。
 このことは誰にも言わないでくださいね」
「わかりました。そうだったのですね。
 それならば私が先生のサポートをさせていただきます」

 早速、事務所に出かけて面接を受けてみた。
スタッフは秀人を歓迎してくれた。前任の人が病気で亡くなってしまい、
困っていたとのことであった。すぐに採用されたのである。

そして、翌日、先生の部屋に案内されたのである。
秀人はワクワクしながら先生に対面した。
先生が霊視を行う部屋は大きな祭壇や神仏の像などが置かれている棚がある。
仏像や人形などが所狭しと置かれており、いかにも妖しい雰囲気である。
しばらくすると先生が登場した。ごく普通の人である。

「ようこそ、私のアシスタントを希望してくれました。
 君にはしっかりと働いてもらいたい」
「はじめまして、秀人です。
 先生のお役に立ちたいと強く望んでおります。
 よろしくお願いいたします」
「さっそく仕事をしてもらいたい。
 さあ、これが本日の相談者のメモだよ。
 これで相談者に伝える文章を作ってくれないか?
 上手に書いてくれよ」

と言って霊能者はレポート用紙みたいなのを秀人に渡した。
そこには、相談者の悩みの他に、先祖の家系図、身内で不審死した人
の名前や死因などが書かれている。また、相談者の性格、経歴、
出身地の歴史や事故・事件などがメモのように記載されている。

「先生、このレポートは霊視の結果ですよね?
 原因となっている霊はどの人ですか?
 霊は何を望んでいたのですか?
 あの世でどういう状態だったのですか?
 霊視で見たことをもっとリアルに教えてください」

と言うと先生は困惑したように語った。

「それを書くのが君の仕事だよ。この情報で推察したまえ。
 霊のことは詳しいんだろ?」
「私は先生が見た、その、状態というか、姿というか、執着や迷いとか
 霊の訴えとかが聞きたいんです。私には見えないですから」
「おい、君、私が本当に霊が見えると思ってるのかい?
 このレポートはわが社のスタッフが調べたんだよ。霊視なんかじゃない」
「え、今、何と言いましたか・・・
 私は・・・先生は霊が見えるけど、学歴がなくて、
 文章にまとめることができないので代わりに私が書く担当だと聞いてますが」
「失礼な、私は大学卒だよ。国文科をちゃんと卒業しているよ」
「え? 先生は貧しくて学業ができなかったと説明をうけましたが・・」
「また失礼な、貧乏だなんて、私の実家は一戸建てだよ。3階建てだ。
 この辺りでは豪邸の方だよ。お金に困ったことなんて一度もない。
 誰が私を貧乏育ちなんて言ったんだ」
「・・・・」

霊能者は電話を掛けてスタッフを呼び出した。

「おい、ちょっとみんな、ここに来てくれ。
 新しく雇ったアシスタントなんだが、ちょっと変だぞ。
 すぐに集まってくれ」

するとスタッフがぞろぞろとこの場所に集まってきた。ヤクザみたいな男もいる。
みんな怖い表情をしている。そして秀人を囲った。

「おい、この新米くんは本気で霊を信じてるみたいだ。
 仕事の内容をよく理解してないみたいだぞ」
「す、すいません。私達の説明が不十分だったようです」

秀人はむっとして反論した。

「私は先生の霊視を文章にするということでアシスタントを引き受けました。
 でも、違うんですね。
 もしかしたら先生は霊視ができないのですか?」

霊能者はきつい表情になった。

「君、霊なんて信じてるのか? バカか?
 君の仕事は相談に来たお客が納得するストーリーを書いて、
 それでお客さんを慰めるということだよ。それが我々の仕事だよ」
「先生は霊を信じてないのですか? 霊が見えるのも嘘だったのですか?
 じゃあ、先生は詐欺師ということになりますね?」

集っている人達はこれを聞いてむっとした顔になり、秀人に近寄ってきた。

「失礼な。我々は霊を信じてるお客様の心を救ってあげているんだよ。
 お客様はみんな満足している。詐欺ではない」
「僕は先生が本当に霊能力があると信じて疑ってもいませんでした。
 でも、嘘だったんですね。
 こんな仕事!辞めさせてもらいます」
「君、頭を冷やしなさい。
 君は素晴らしい才能があると聞いている。
 私には君の才能が必要なんだよ」
「でも、僕は人を騙すなんてできないです」
「騙してなんかいないよ。
 我々はお客様のニーズに答えているサービス業なんだよ。
 今時の言葉で言えばスピリチュアルセラビーというのかな?」
「僕は霊を信じてるんです。信じたいんです。
 だから、先生のアシスタントになろうと思ったんです」
「そうか、純粋だね。君は。さっきバカと言ってすまなかった。
 でも、よく考えて欲しい。君は霊を見たことがあるか?ないだろ?
 見たとしても幻覚にすぎない。証拠なんてないだろ?
 霊なんて存在しないんだ。それが科学者の出した結論だよ。
 利口な人間は誰もそんな迷信を信じてはいない。
 神も妖怪も霊もあの世もなんにもないんだよ。
 この世は、ただの偶然によって存在してる機械だ。
 理由も目的も、善も悪もない。裁きもない。ただのジャングル。
 強い者が勝つ。現代では利口な人間が勝つということだ。
 弱い人間、劣る人間は食い物にされる。これがジャングルだ。
 君は利口な人間だろ?
 だから、我々と一緒に勝ち組になった方がいい。
 いい事教えよう。
 前任者には月給100万くらい給与を出していたんだ。
 君もそれくらいは稼げるようになるはずだ。努力次第だよ。
 どうだ。いい仕事だろ? 他にこんなに稼げる仕事があるかな?」
「でも、僕は先生を信じていたのでショックです。
 辞めさせてもらいます」
「悪い事は言わない。
 我々の秘密を知ったからにはもう後戻りは許されない。
 分かってるよね」

ヤクザみたいな男が構えて怖い顔をしている。
秀人は大勢に囲まれて恐怖を覚えた。

「やばい、辞めたら酷い目に遭うかも (・_・;)」

冷静になり、自分が危険な状況にあることがわかってきた。

「わ、分かりました。
 先生の言われた通りにします」
「それが賢明だ。
 前任者は恵まれていたよ。
 病気にさえならなければ一生幸せだったはずだ。
 彼とは毎年、別荘や海外に一緒に行ってたんだ。
 私の大切なパートナーだった。
 君はとても素直だ。前任者と重なって見えるよ。
 君のようなパートナーが欲しかったんだ。
 わが社の正社員にもしてあげる。
 会社員として世間から認められるよ。
 ここに居るみんなともファミリーになるんだ。
 我々と一緒に楽しく生きようじゃないか?
 貧乏、苦労、孤独とおさらばしたいだろ?
 マンションも、嫁さんも面倒みてあげるよ。
 さあ、どっちを選択する? 私のパートナーになるか?それとも。
 フリーターだったよね? 惨めな生活を死ぬまで続けるか?
 迷うことなんかないよね?
 もう一つ、決して今日ここで見聞きしたことは口外してはいけないよ。
 口外したらどういうことになるか、想像できるよね」
「はい、わかります(-_-;)
 先生の言う通りにします」

もし、ここで辞めるとタンカ切ったら生きて帰れそうもないと
感じて言う通りにすることにした。
とりあえずの収入の契約は毎月35万円 平均的なサラリーマンの月給である。
いきなり友人の加藤と同じくらいの収入を手にできることになったわけである。
こんなにもらえるのは驚きである。収入には満足したのだが、
やはり先生が霊を信じてなかったことが秀人にはショックであった。

「霊能者なのに、霊を信じていないなんて、
 そんなことがあるのだろうか?
 ということは世の中の人達はみんな信じていないということか?
 やはり、霊は存在しないのか? みんな嘘だったのか?
 僕は人生を心霊に捧げたのに。それが全部嘘だったなんて。
 人間はやっぱり死んだら土になるだけの安物だったのか、悲しいじゃないか?
 全てを失ってしまった気分だ。ショックだ」

この時思い出したのが「真実を知った瞬間」の話である。
以前何かの本で読んだことがあるのを思い出した。
カルト宗教の信者がカルトの本質を知ってしまった瞬間のことを。
いままで信じてきたことが全て作り話だったことを知る瞬間である。
それで絶望のあまり精神に異常をきたしてしまう人もいるのである。

信者だけではない。カルトに奉仕してきた幹部達もそうなのである。
幹部も役員レベルまで昇進するとカルトの本質を知ることになるのである。
当然、そこでショックを受けることになる。いままで教祖や教えを信じて
疑わずに奉仕してきたのに、それが全て嘘だったことを知ることになるからである。

教祖や役員達は、これに一番気を使うのである。
新参の役員にデリケートに真実を伝えなければならないからである。
下手をしたら、真実を知った新参役員は脱会してしまうかもしれない。
辞めて逆にカルトを告発する側に立つかもしれない。
あるいはショックで寝込んでしまうかもしれないのである。

そこで教祖は新参役員をやさしく説得するのである。
どうやってショックを和らげるのか?
それは「安泰の生活、安泰の老後」を約束することなのである。
役員としてカルトに奉仕すれば億近くの報酬が与えられて
安泰の生活をすることができると説得するのである。
高級住宅に住み、毎日贅沢な料理を食べて、家族や子供達を不自由なく
生活させることができる。子供を良い学校に進学させることもできる。
そして、年老いても高級な老人ホームで余生を送るだけの蓄えを持てる。
お金や生活の苦労、不安が一切ない安らぎの人生を過ごすことが保証される。
これを褒美にして、全てが嘘だったことを受け入れるさせるのである。

本にはそう書いてあるのを思い出したのである。
まさに自分がそういう立場に居ることを知ったのである。
秀人は開き直ることにした。

「人生なんて一度キリ。
 だから何をしてもいい。要領良く生きて
 楽しく生きれば勝ち。お金を稼いだ者が勝ち。
 お金があれば何でも欲しい物が買える。
 好きなことをして、優雅に過ごせる。
 それが幸せというものなのさ。
 お金を手に入れるために何をしたっていいだ。
 霊なんて嘘を信じる人達を騙してもいいんだ。
 頭のいい人間が勝つ。これがこの世の現実。
 僕は勝つ。年収1千万稼ぐ。
 エリートサラリーマンになるのさ。
 加藤なんか一気に追い抜くことができる。
 もう、これしか道はない。
 幻想を捨てて、現実を選ぶんだ。
 気持ちを切り替えるんだ」

 秀人は先生のパートナーになることに腹を決めた。
それからというもの、秀人は霊能者の言う通りに心霊ストーリーを丹念に作った。
調査結果を見て、相談者に恐怖を抱かせるストーリーを作り、先生に渡す。
先生はこれを霊視で見たかの如く相談者に伝えて、多額のお布施や供養を要求する。
こんな詐欺みたいな事を毎日行ったのである。

 生活には何も困らなくなった。
先生が準備してくれたマンションの一室に住まわせてもらい、
月給35万をもらうことができた。会社員という肩書をもらい、
クレジットカードも作ることができた。
堂々と「私は会社員です」と人に言えるのは爽快である。
欲しかった物も買うことができ、充実した生活を送れるようになった。

こんなに恵まれてはいるが、秀人の気分はすっきりしない。
仕事を終えると、山下達郎の「BOMBER」などを
聞いて堕落した自分を自嘲したりする。

「金があれば太陽でさえ掴むことができる都市さ♪」
「嘘で固められただけの奴をこわせ♪」

などと口ずさみ、自分を嘲けて笑ったりした。

「もう何も信じない。後戻りはできない。これでいいんだ」

そう叫びながら、深酒をするのが日課になっていった。
時々、神も霊もあの世も存在しない絶望感で締め付けられそうになる。
加えて、困ってる人から金を騙し取る罪悪感に苦しめられることもある。
「こんな世界、滅んでしまえ!」と自暴自棄になりそうな時もある。

そんな日々を送っていたある日のこと。
お客から「霊を供養して頂いてから病気が奇跡的に治りました」という報告が
来たとの感謝の連絡があり、霊能者は部屋で秀人にそれを伝えた。

「秀人くん、君のストーリーが上手だったから
 プラシーボ効果で病気が治ったんだよ。
 君は凄い。前任者よりも才能がある。君を採用してよかった」

と誉めてくれたのである。褒められて秀人も気分がよくなった。

その時である。
先生の背後にうっすらと人の姿が現れた。
秀人が書いたシナリオに登場する女性の霊のように見える。
その霊がにっこりと笑って秀人を見つめたのである。

「先生、後ろに霊が・・笑ってます」
「君、何を言ってるんだね。大丈夫か?」
「見えたんです。初めてです。霊を見たのは」
「君、最近顔色がよくない。アル中じゃないか?」

その後も、秀人が作った心霊話は相談者の評判がよく、
次々と奇跡が起きたという報告が来るようになった。
これには霊能者もスタッフもびっくりである。

「あいつは凄い。天才かもしれない。雇ってよかった」

と評価する一方で、秀人の顔色が悪く、言動もおかしくなってることに心配する声もあった。

「あいつ、大丈夫か?」

ある夜のこと、お酒に酔っている秀人の前に少女が現れて見えたのである。
はっきりと。
昭和時代のおかっぱ頭で着物みたいな服を着た少女である。
その少女は泥酔した秀人にテレパシーのように話しかけた。

「教えてあげる。霊は存在するわ。
 あなたは霊が生きがいでしょ?
 もう自分を偽るのは、やめて。
 あなたが苦しんでる姿を見て
 みんな、可哀そうだと思ってるわ」

秀人はびっくりした。

「え、どういうこと。
 君は誰? アルコールによる幻覚?」

すると少女はにっこり笑って答えた。

「私は霊よ。本当に霊はいるの。
 これから先生の所に行ってください。
 みんなが姿を現してくれるわ。
 あなたを助けたいの」

「なんだって? 本当?
 霊なんて居るわけないはず」

「いいえ、霊はいます。
 先生の所には大勢の霊がいます。
 みんな怒ってるわ。人を騙してるから
 優しいあなたまで引きずり込んだわ
 もう、天罰が下りる時がきたわ」

これを聞いて秀人は一気に酔いが覚めてしまった。

「本当かもしれない。
 よし、これから先生の所へ行くぞ」

秀人は自転車に乗って霊能者の部屋に急ぎ、押し入った。
すると先生とスタッフ達が集まっていた。
どうやら会議をしていたらしい。

「秀人君、どうしたんだ。今日はもう業務は終わってるよ」
「先生、さっき霊が現れて、先生の所に行きなさいって言ったんだ」
「何を言ってるんだね。君、酒の飲みすぎだよ」

スタッフ達もあっけにとられている。

その時である。
地震でもないのに、祭壇や棚がガタガタ震えだした。

「な、なんだ。地震か?」
「いや地震ではありません。霊の仕業です」

この時、秀人には部屋にたくさんの人の姿が半透明で見えたのである。
みんなで祭壇や棚のものを揺らしているのが見えてきた。
振動はどんどん激しくなり、祭壇の飾りや神仏像などが落ちそうなほど揺れている。
これを見てスタッフは驚き、何もできずに腰を抜かしたようになってしまった。

「これは、何だ」「ありえない」

と叫ぶのみである。
霊能者である先生までもがパニック状態で腰を抜かしてしまった。

秀人の目の前に少女の霊が再び現れた。

「写しなさい。カメラで」

と言うのが聞こえた。
「よし」とスマホを取り出して動画撮影のスイッチを入れた。
すると祭壇や棚の振動が更に激しくなり、置かれているものが飛び出したり、
 浮遊したりし始めた。ポルターガイスト現象である。
スタッフはそれを見て恐怖に震えて動けなくなった。声を上げる者もいる。
霊能者も怯えて「う、うそだ、霊なんているわけない」と叫んでいる。

秀人のカメラはそれをしっかり撮影した。

「なんてことだ。奇跡だ。
 初めて体験した心霊現象だ。
 しかも、カメラに収めることができた。
 これこそが僕が求めていたことだ。
 そうだ。霊は存在したんだ。本当に存在してたんだ。
 この部屋には霊が一杯住んでいたんだ。お化け屋敷だったんだ。
 これをネットに上げる。人々に伝えるんだ。
 霊が居る証拠を世の中に伝えるんだ」

と思わず叫んだ。
秀人は歓喜している。

「ようし、この動画を配信するぞ!
 僕がここで体験したことを全部ネットに公表する!」

と大声で叫んで部屋を出ていってしまった。

これを見た霊能者やスタッフは蒼白になった。
霊能者は恐怖に震え、パニック状態である。
そしてスタッフに指示をした。

「おい、奴は我々のこの醜態をアップする気だ。
 奴は狂ってる。すべて暴露するかもしれん。
 奴を止めろ。捕まえろ、阻止しろ!」

すると控室にいたヤクザみたいな男も出てきた。

「奴が裏切ったか? それとも狂ったか?
 よし、マンションに仲間を先回りさせて捕まえてやる」
「そうしてくれ、我々の嘘が暴露されたら
 集団訴訟されるぞ。会社はつぶれる。
 みんなおしまいだ。死ぬ気で奴を捕まえろ」

スタッフ達は秀人を追いかけたが、宅配バイトで鍛えた秀人の自転車に
追いつくことはできなかった。
秀人がマンションに着きそうになった時、目の前にまた少女が現れた。
そして秀人に警告した。

「家には行かない方がいいです。
 公園に行って、あなたが持っているその小さな機械を使ってください」
「待ち伏せされてるってことかな?
 おお、スマホでも動画をアップできたね。ようしアップするぞ。
 ありがとう」

秀人は公園に行き、スマホを操作して先ほど撮影した心霊現象の動画をネットにアップした。
祭壇や棚の物が飛び交い、霊能者が腰を抜かしている動画である。

「こんなことが起きるなんて、夢のようだ。
 これは幻覚じゃない。動画に収めたんだから。
 霊は本当に存在したんだ。

 やった。本当だったんだ。
 霊たち、みんながそのことを教えてくれたんだ。

 お金なんて要らない。
 安定した生活も、将来もいらない。

 霊が存在する それだけでいいんだ。
 僕はそれだけで幸せだ!」

秀人は狂喜乱舞して大声を上げた。
その姿は、霊に取りつかれているようであった。

おわり

(注)…霊を扱う人や団体には霊が集って来る。例え信じてなくても。
    霊は間違いなく存在する。私には疑いようもないことであるが、学者やインテリ達はこれら存在するものを
    必死に「存在しない」と屁理屈を駆使して主張しており、私には奇妙で仕方ない。



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