本作品は2019年作です。

<黄金の鍵>

「さあ、始まりました。黄金の鍵 ゴールデンキーの時間です。
 今日は行列のできるラーメン店の店長さんのお話です。
 店長はラーメン屋を経営していましたが競争が激しく、中々お客さんが来てくれないことを
 悩んでいました。もう店を畳もうかと思っていたある日のこと、一緒に調理していたチャーハンの具材を
 作ったばかりのラーメンにこぼしてしまいました。「しまった一杯無駄にしてしまった」とガッカリした
 のですが、試しにどんな味なのか?味見してみたところ、独特の風味がありました。
 そこで店長はこれをヒントにチャーハン味ラーメンを開発することに成功したのです。
 これが美味しいと評判になり、人気の店になりました。

 黄金の鍵は誰にでも与えられます。日々のちょっとした偶然の発見の中にあるのです。
 エジソンは「天才は99%の努力と1%のインスピレーションだ」と言いました。この1%とは
 天が与えてくださる黄金の鍵ではないでしょうか?
 天は選ばれた人にこの鍵を与えてくれるようです。
 選ばれた人とは努力する人のことでしょう。
 この黄金の鍵を次に手にするのはあなたかもしれません」

 会社から帰宅した耕司はTV番組を見ながらビールを飲んでいた。

「へえ、そういうものなのか? 俺にも黄金の鍵が降ってこないかな・・」
などと考えていたのだった。
 彼は衣料品メーカーの営業マンで、販路を開拓する仕事をしていたが、
デフレの影響で業績は芳しくなかった。
この日も課長からこっぴどく叱られたのだった。

「お前はいつまで経っても成長しないな。この仕事に向いてないんじゃないか?
 同期の佐々木はお前の倍も成果を上げてるんだぞ。同期でなんでこんなに違うんだ?
 脳みその量が違うんじゃないのか? おい、給料ドロボー、こんなこと言われて悔しくないのか?
 悔しかったら、来月は佐々木よりも稼いでこいよ」

そう言われて思いっきり落ち込んでいたのだった。

「俺は営業なんて向いてないかもな。
 でも、こんな商品売れるわけないよな。佐々木はコネがあるんだ。きっと。
 ああ、もうこんな会社やめてもっといい仕事つきたいなあ。
 でも他に何ができるのか? 特技と言えば武道くらいか・・」

 耕司は高校時代に少林寺拳法部に入ってから趣味で武道をやっていた。
太極拳や気功にも手を出していた。でも、大会で入賞するほどの腕でもない。

「中途半端なんだよな。武術でメシが食えるほどでもないしな・・
 もしかしたら、ヒーラーならできるかもしれない」

と気功に興味を持ち、あちこちのヒーリングの伝授などを受けて訓練するように
なっていた。そうこうしている内に気が感じられるようになり、それを送ることも
できるようになってきた。「こりゃ面白い」と思ってSNSで「ヒーリングします」と
宣言して無料でヒーリングをしていたのだった。すると意外にも良い反応があった。
「ヒーリングしてもらったら楽になった」という感謝の言葉をもらうことも多かった。
「俺ってヒーラーに向いてるかも?」と思ったりしたのだが、調べてみると
世の中にはヒーラーは掃いて捨てるほどいる。

「こりゃ競争が激しい世界だな。メシを食うのはやっぱり無理だな。
 成功するには何か隠し味が必要だな。黄金の鍵が」

 ある日、SNSに「助けてください」という女性からの悲痛な相談があった。
その女性はストーカーから追いかけられて付きまとわれているというのだった。
警察に相談して何度か指導してもらったが、男は「もう近づかない」と表向きは言いながら
やはり付きまとうのは止めていなかった。男は毎晩、自宅の近くに待っているというのである。

「もう限界なの。あの男は私を殺そうとしているわ。助けて」と悲痛な訴えをしている。
しかし、耕司にはどうすることもできない。
「どうしたらいいのか?」と必死に考えヒーリングで男を倒そうと呪いを掛けてみた。
しかし、全然効果がない。
「呪いってヒーラーには簡単にできそうだが、できないんだよな。
 人間には防御の能力が備わっているんだよな。それを突破できないんだ」

でも、女性の必死の訴えに何とか答えたい。そこでいろいろ試行錯誤をしていた。
すると、ふと思いついた。「押してもダメなら引いてみな」という言葉がある。
開かない扉を開ける時のコツである。
「もしかして」
「押してもだめなら、引く・・そうだ。攻撃ではなく、抜くんだ」

 耕司はヒーリングの技術を使ってストーカーの男のエネルギー体をとらえてみた。
その中の「先天の気」を感じ取って、それを抜き取ってみることにした。
最初はわずかな感覚だったが、感触があった。

「これだ。これが命のエネルギーなんだ」
耕司は懸命に男の命を抜き取ってみた。すると意外にも簡単に抜き取ることができた。

「そうだったんだ。人間の体は外からの攻撃には強固に出来てるが、生命力を抜かれる
 ことは想定されていない。防御ができないんだ。このちょっとしたコツに気付けば
 簡単に抜くことができるんだ」

 耕司は今まで誰も気づいていないと思われるコツを発見したのだった。
「もしかしたら、これで女性を助けることができるかもしれない」
 耕司は一晩中男の気を抜いてみた。段々とうまくできるようになるのがわかった。

 2日後、SNSに女性から連絡があった。
「ストーカー男は死亡しました。警察から連絡がありました。
 原因不明の突然死だったそうです。
 あなたが退治してくれたのですね。感謝します。
 このことは誰にも言いません。
 私を助けてくれた恩は忘れません。ありがとうございました」

とのことであった。耕司はこれを見てぎょっとした。
「俺は人を殺してしまったのか?」
体に震えが走った。その日、耕司は恐怖で眠ることができなかった。
それを紛らわすために酒を飲んで、眠った。
翌日目を覚ますと多少冷静に考えることができるようになった。

「いや、俺は殺人をしたんじゃない。女性を助けたんだ。
 殺す気なんてなかったし。助けたい一心でやったことだ。
 俺は人助けをしただけなんだ」

 耕司はこの能力が本当に使えるものなのか?偶然ではないのか?
試しにネットにページを出してみることにした。

「呪い代行:身の危険を感じる方に限定します。料金は成功報酬のみ」

というサービスを開始してみた。「効果が無ければ料金は頂きません」
という触れ込みであった。成功報酬を唄っためか、依頼が何件もきた。
耕司は「しばらく試してみる。ダメだったらやめるだけさ」
と引き受けた。

 依頼はストーカー、恐喝、いじめなど悲惨な悩みを持つ人からの
ものばかりであった。

「今すぐ助けてください。このままでは破滅します。
 私を苦しめている相手を倒してください」という内容ばかりであった。
耕司は身に着けたコツを使って相手から命を抜いてみた。すると
相手は倒れたり、入院したりした。全て成功したのだった。

「やった。俺は才能がある」
お客から「ありがとうございました。助かりました」
と連絡があり、料金が振り込まれていた。

「やった。こんなことで3万円も稼げた。これで商売ができる」
と喜んだ。「悪い奴を倒してお金がもらえる。こりゃいい商売だ」
 
 数日後、ある人からとんでもない依頼がきた。
その内容は「夫を殺してください」という相談であった。
「夫は浮気をしています。そして私に暴力をふるっています。
 離婚したいけどできません。助けてください。
 夫は自分のことしか考えない人間のクズです」
というものであった。「いくらなんでも、殺人なんて・・」
と思って断ろうとしたが女性は「成功したら100万円差し上げます」と言ってきた。
「ひゃ、ひゃくまん! そんなに出してもらえるのか?」
耕司の心が動揺した。

「最初から殺人の依頼なんて・・いくらなんでも・・
 でも、100万は欲しい。断るべきか?引き受けるべきか?
 そうだ・・依頼者の夫は悪人なんだ。悪人を倒す仕事なんだ。だったら
 人殺しじゃない。警察官が悪人を銃で撃つことと変わりない」

耕司は引き受けることにした。そして男の生命力を抜き取った。
すると一週間後、女性から報告があった。

「夫は突然苦しみだして死亡しました。心臓発作とか医師は言ってましたが、
 あなたの力ですね。ありがとうございます。
 これで私は自由になれます。約束通りお金は振り込みました。
 決してあなたに依頼したことは口にはしません」

これを聞き耕司は悩んだ。

「俺は殺人を依頼されて実行してしまった。殺し屋じゃないか・・」

しかし、無理やり自分を納得させた。

「いや、違う。必殺仕事人だ。弱い人を助けているんだ。
 いいんだ。これで、世の人の苦しみに答えているんだから」

「そうさ、いいんだ。もう悩んでもしかたないんだ。
 100万も稼いでしまったんだ・・後には引けない。これを本業にするしかない。
 あんな会社なんて辞めてやる。課長に辞表を叩きつけてやる!」

 耕司は会社を辞めて正式にHPを立ち上げて「呪い代行業」
を商売として本腰を入れるようにした。口コミで噂が広まったらしく、
結構お客が集まるようになってきた。最初は料金1万円であったが
3万、5万と引き上げても依頼が来るようになった。
 大抵は相手が倒れるか入院するまでという条件で請け負っていたが
中には「殺してくれ」という依頼もあり、それは10万円で引き受けた。
最初は罪の意識を感じたが段々慣れてくる。そのうち、「苦しめて殺す」
というスペシャルメニューも加えた。当初は「身の危険を感じる人のみ」
としていたのが、いつの間にか金次第で何でも引き受けるようになったいた。

たまに耕司は「罪悪感」を感じることがあったが、
「悪い奴を退治しているだ」と自分を納得させていた。

耕司のサイトは口コミで「本物だ」と噂が広まるようになり、
相談する人は絶えなかった。
お客が増えてくるにつれて耕司はサラリーマン時代に近い稼ぎができるようになっていた。

「俺が開発した技は黄金の鍵だな。天が与えてくれた技だな。
 でも、これじゃ未だ黄金とは言えないな。もっと稼げないとな」

などと考えていたが・・・たまに得体の知れない不安が走る。

「もしかして、こんなことをしたら地獄に落ちるのでは?」
という恐怖である。
「殺人なんて犯したらあの世で裁かれる・・・
 いや、俺は人救いしただけだ。
 俺が地獄行きだったら兵士はみんな地獄いきじゃないか?
 そんなことはないはずだ」
耕司は不安を払拭するため本屋に行ってスピリチュアル本を買いあさった。
本の中で
「地獄はありません」という記述を必死にさがし出して
「そうだよな。地獄なんてあるはずがない」
そうやって死後の恐怖を紛らわしているのだった。
最も耕司を慰めてくれたのが「神との会話2」に書いてある
「ヒットラーは天国にいる」という記述だった。
「最も信頼できる本に書いてあるんだ。ヒットラーでさえも天国にいるんだ。
 俺も天国にいけることは間違いない。ヒットラーも俺も世の為、人の為に
 仕事をしただけなんだ。裁かれるはずがない」

 ある時、耕司の所にスーツを着た男性が訪れてきた。
貫禄とインテリの雰囲気がある人である。男は丁寧にあいさつをした。
「私は米国の諜報機関の者です」
「諜報機関? CIA?」
「詳しくは申せませんがそういった機関です」
「私に何か用事でしょうか?」
「単刀直入に申しましょう。
 あなたは人を殺すことができますね」
「え、なにを言ってるのですか?」
「我々は調べました。あなたは呪い代行業をやっていて
 実際に成果を出している。本物の呪術師ですね」
「・・いや、たんなるヒーラーです。
 悩みの相談を受けているだけです」
「ご心配なく、あなたの行いを裁きにきたわけではないです。
 我々はあなたの力を借りたいのです」
「というと・・人を殺して欲しいということですか」
「そうです。お金はこれくらいは払いますよ」と言って指を立てた。
「100万?」
「その100倍です」
「え、1億・・」
「依頼したい相手は麻薬組織のボスやテロリストなど大物ですからね。
 みんな悪党ばかりです。あなたの力によって退治して欲しいです」
「本当ですか? ならば是非引き受けたいです」
「ただし、条件があります。今のお仕事は畳んでください。
 我々の依頼だけを受けるようにしてください。
 それからここから引っ越してください。
 そしてあなたはお付き合いされている女性がいますね。
 その方とも別れてください」
「HPなんぞ閉じてもいいが、何で彼女と別れなけりゃ・・」
「お付き合いされている女性は口が軽いです。秘密をもらしてしまいますよ。
 あなたもエージェントになるんですからね。身元を隠す必要があります。
 お金があれば、いくらでもいい女性を見つけられますよ」
「エージェント? ちょっと不安だな。任務が終わったら
 消されるんじゃないのか?口止めに。映画でよくあるストーリーだ」
「そんなことはないですよ」
「じゃあ、こうしよう。あんたは日本に住んでるんだよね。
 あんたの家族を教えてくれ。実際に居ることを確かめる。
 もし、あんたが裏切ったらあんたと家族に呪いを掛ける。
 もし、俺が殺されたら悪霊になって家族全員に復讐する。
 どうでしょうか?」

これを聞いてスーツの男は一瞬びびったが、冷静さを取り戻して

「いいでしょう。我々はあなたを裏切ったりはしません。
 代わりに我々の依頼を口にしないことを約束してくれますね。
 まずはためしにこの男を殺して欲しいのです。
 メキシコの麻薬組織のボスです。米国に麻薬を輸出している大物です」

耕司はさっそくその依頼を引き受けて麻薬組織のボスに呪いを掛けた。
マフィアのボスになるだけあって生命力が強かったが、耕司は念入りに命を抜いた。
そして2週間後にスーツの男がやってきた。

「耕司さん、麻薬組織のボスは死亡しました。あなたの力を確認しました。
 これが口座とカードです。ここからお金を降ろしてみてください」
と言って通帳を見せてくれた。1億の記載があった。
「今後のお金の引き渡し方法についてはあなたの希望通りにしますよ。
 我々を信用してくださいね。
 仕事は年に数件は依頼します。今後10年以上は仕事を依頼しますよ」

耕司は躍り上がった。
「凄い。億万長者だ。夢が叶った。もうHPなんぞ閉じる。
 一等地の高級マンションに住める。フェラーリやジャガーが買える。
 もっといい女と付き合える。豪華客船で世界一周だってできる。
 俺は黄金の鍵を手にいれたんだ。天がプレゼントしてくれたんだ」

耕司はすぐに彼女に電話をした。そして唐突に別れを言い放った。

「おい、今日からお前は俺の彼女じゃない。もう会わないほしい」
「耕司、何言ってんの?どういうこと」
「お前は俺の彼女にふさわしくないんだ。だからお別れだ。
 今まで世話になったな。さよなら」
「耕司、ちょっと待って。いきなり何言ってんの?
 冗談でしょ?」
「なんだ、俺に未練があるのか?
 俺はいままでブスのお前で我慢して付き合ってやってたんだぞ。
 感謝しろよ」
「何その言い方。別の女でもできたの?」
「嫉妬か? もっと美人の女と付き合えることになったのさ」
「あんたって最低、クズね」
「未練があるなら100万くらい手切れ金やるよ」
「バカにすんなよ。私こそ、あんたのようなダメんず、妥協で付き合ってただけだよ。
 未練なんてこれっぽっちもないよ」
「じゃあ、これで終わりだな」

つづいてHPを畳もうとした。
メールを見ると悲痛な相談をしてくる人達から依頼が何件か
来ていたが、耕司にはもう興味もない。

「もうこんなドブさらい商売はやめる。
 貧乏人の相手なんておさらばさ」と言いながら、
HPの全てを一気に削除した。

諜報機関からの依頼は数カ月に1件づつきた。呪いを掛ける相手の
情報には、たくさんの写真や名前があったが詳しくは書いてない。
スーツの男に「この人物は何をした人なのですか?」と聞いても
「秘密です」と言って教えてくれない。「本当に悪党なの?」と疑問に
思ったりしたが、1人殺せば1億もらえるので「これは仕事だ」と疑問を押し殺して
実行した。相手によっては「最大限苦しめて殺して欲しい」と注文がついていた。

「どうして苦しめる必要があるのですか?」と言うと
「悪党はこんな悲惨な最後を遂げると印象づけるためだ。
 仲間の士気をそぐためだ」
と答えてくれた。
「そんなものか・・」と耕司は納得して実行した。

1年が経った。4件も仕事をしたので4億の財産を手に入れることができた。
しかも、現金でもらったので税務署にはバレない。
耕司は毎晩、社交会や高級なクラブに通うようになった。すぐにモデルみたいに美人の
愛人ができた。フェラーリも買い、高級ホテルのスイートルームで
過ごすようになった。人から何をして稼いでいるの?と聞かれると

「俺は株で儲けてるのさ。でも、株の情報なんて勉強しないよ。
 天性の勘と運があるのさ」などとうそぶいていた。
「世の中は金だな。金持っていることを示すだけでいい女が振り向いてくれる。
 毎日高級な店で美味しいものを食べて、美女達とパーティーさ。
 そして、気に入った女とやり放題。
 何でも買える。何でもできる。有名人のコンサートも特等席さ。会うことだって可能さ。
 どこへ行ってもVIP待遇さ。王様になったみたいだ。
 友達が一杯できて、いつでも誰かが相手になってくれる。
 手取り足取り世話してくれる。脱税の手口まで教えてくれる。
 まあ、俺は税金払ってないから必要ないがな。
 世の中ってこんなものだったんだ。金があればこの世は天国だな」

ただし、不安なことが一つあった。時々、どこからか呪いのような攻撃が来るのである。
内臓を目掛けて銃みたいなものが撃たれるような感じなのである。
突然、ドシーンと体に打ち込まれる。その直後は内臓が痛くて動けなくなる。
予告もなく突然くるのである。その度に体の調子が悪くなっていく。

「何か、体が痛くなってきた。もしやこれは呪い?
 それとも俺が殺した人の怨霊?」
この得体の知れない攻撃に耕司は不安と震えを覚えた。
その攻撃は仕事をするに連れて回数が増えているように感じる。

 クラブのホステスに「もしかしたら悪い霊が憑いてるかも」と話してみると
ホステスの一人がこういったことに詳しいらしく、アドバイスしてくれた。
「もしかしたら誰かが生霊を飛ばしてるのかもしれないわ。
 前にそういうお客さんがいたのよ。嫉妬されてたのよ」
「どうしたらいいのかな?霊能者とかに相談した方がいい?」
「あなたはそこいらの霊能者なんて行かないで資産家専門の
 スピリチュアルセンターに相談した方がいいわ」
「そんなのがあるの?」
「一般には知られてないけど、資産家専門のサービスがあるの。
 今は優秀な能力者って、みんなそっちに居るらしいのよ」
「へえ、スピリチュアルの世界もそんなものだったのか?
 世の中全て、神や仏も金次第ってことか」

 耕司はさっそく、そのスピリチュアル団体をクラブのママを
介して紹介してもらった。人望のある人の紹介でないと入会できないらしい。
「Second Life Spilitual Support」SLSSという団体である。
すぐに営業マンと思しき女性が耕司を訪れてきて説明してくれた。
入会金3000万、年会費1000万であるが、耕司にとっては高くない。
そこでは超一流という霊能者がそろっているということであった。
「現世の幸せはもちろん、天国へ行くまでサポートします」ということであった。
「神仏も超一流の存在がサポートしてくれています」と書かれてあった。
耕司はさっそく体の痛みについて相談してみた。

 そこいらの相談所と違って高級なホテルのような場所で霊能者が
相談に応じてくれた。送り迎えまでしてくれる。
 霊能者に「最近、突然攻撃のようなものが飛んできて体が痛い」と
訴えると霊能者は霊視をしてくれた。しかし、渋い顔をしている。
耕司が「呪いですか? 生霊ですか?」と聞くと霊能者はクビを横にふる。
「ちがいますね。何でしょうか?私にもわかりません。
 失礼ですが、あなたもしかして人を殺したりしてませんか?
 安心ください。私どもはお客様の味方です」
「ん・・正直に言います。呪いを商売にしてます。
 諜報機関から依頼を受けて悪党を退治してるんです。
 もちろん、正義のためですよ」
「これは天罰かもしれません」
「天罰?」
「もちろん、あなたは悪い事はしてないのでしょうけど。
 あの世には人殺しは裁かれるという法則があるのです」
「どうしたらいいのでしょうか?」
「法則を曲げるように神仏に祈願してみます。
 大丈夫です。私どもの会に居る霊能者・宗教家は超一流です。
 神仏も一般の人達が信仰している神様よりも格がずっと上です。
 法則を曲げることが可能です」
「お任せします。
 もう一つ心配なことがあるのです。
 私は死んだら天国へ行けるのでしょうか?」
「行けますよ。ヒットラーも天国にいますよ。私には見えますよ。
 でも地獄はありますよ」
「え、地獄はあるのですか・・」
「いや、あなたは大丈夫です。
 どんなに罪を犯した人でも本物の神仏に寄進すれば
 天国に行けるのです。ヒットラーは死ぬまえに寄進していたんです」
「本当ですか?」
「心配要りません。地獄へ行くのは貧乏な悪人だけです。
 私どもの会のお客様は悪人であっても全員天国にいけます。
 会員の方には暴力団の組長さんだった方もいます。生前悪事を
 重ねた方ですが、今は天国にいますよ。私には見えます」
「そうですか、死後の世界もお金次第だったんですね」
「そうなんです。一般の方にはこのことは言わないでくださいね。
 あなたには天使のクリマを付けて差し上げます。
 天国に行くまでお世話します。こんな姿をしています」
と絵を見せてくれた。
かわいらしいアイドルのような姿をした天使である。

 耕司は「天使が天国まで連れてってくれるんだ。
 あの世でもいい暮らしができるんだな。
 これも黄金の鍵のお陰だな」と安心した。

しかし、攻撃は一向に止まない。
仕事をするたびに攻撃の頻度が増えてきている。
そして体中が痛むようになってきた。
最近では外出するのも辛くなってきた。
あまりに体が痛いので病院で精密検査を受けてみることにした。
その結果は・・・「末期の癌」ということであった。
医師によると体中に癌が転移していて治療は不可能ということであった。
「そんな、1年前にはピンピンしてたんですよ。何で?」と問い詰めても
医師は「わかりません。珍しい症例です」というだけであった。
医師によると余命は数カ月ということであった。

「なんてことだ。せっかくセレブになれたのに。
 もうあの世行きなのか?どうして・・どうして」

耕司に絶望が走った。恋人達やセレブ仲間もみんな悲しんでくれた。
SLSSの人達も悲しんで、そして慰めてくれた。
「セレブの世界って貧乏人達と違って、みんないい人達ばかりだな」
耕司は、みんなに励まされて、なんとか現実を受け入れることができた。

「仕方ないさ。人間だもんな。いつかは死ぬんだ。
 でも、おれは凡人じゃない。
 死んでもあの世でセレブさ。天に選ばれたんだから。
 黄金の鍵を天から授かった人間なんだからなあ。
 あの世でもフェラーリに乗れるだろうか?
 アイドルみたいな美女と恋ができるだろうか?
 大丈夫だ。SLSSのサポートがあるさ」

やがて癌が進行して耕司はうなされるようになった。
「ああ、もう死が近づいているのだろうか?
 もう最後というのに誰も来てくれない。
 恋人達も全然見舞いにも来てくれないじゃないか?
 あんなに親切にしてくれたのに。嘘だったの?」
と思っていると誰かの影が見えた。美しい女性である。
「来てくれたんですね。あなたは誰でしたっけ」
と言おうとしたらその女性が答えてくれた。
「私はSLSSのクリマです。あなたを天国までお届けします」
と答えてにっこり笑った。
「クリマは本当にいたんだね。美しいなあ。本物の天使だね
 俺を天国に連れていってくれるんだね。よかった」

やがて意識がもうろうとしてきて死の時がきた。
耕司の前には大勢の人達が立っているのが見える。
クリマや大勢の神仏や天使みたいなのが見える。

「俺はもう死ぬんだ。
 大勢の人がお迎えに来てくれたんだね。
 ありがたい。こんなに早くあの世に行くのは残念だけど、
 あの世で幸せを満喫することにするよ。
 SLSSに入ってよかった」

クリマが微笑みで答えてくれた。
「何も心配要らないですよ。
 耕司さんは神様から選ばれた人なんですから、自信を持ってね。
 天国でも最高の生活ができますよ。永遠にセレブですよ」
「ありがとう。そう言われるとうれしいよ。
 俺って天才だもんな。この腕は世界最高だもんな。
 だから天は俺に黄金の鍵を与えてくれたんだ」
「そうですよ。あなたは天に選ばれたのです。
 さあ、天国に行きましょう。一緒に」
クリマも大勢の人達もにっこりと微笑んでいた。
しかし、耕司には気がかりな思いがよぎった。
「疑うわけじゃないけど・・もう一度、確認したい。
 俺は人を殺したんだ。でも天国に行けるんだよね?」
「ええ、行けますよ。会員様はみんな天国に行ってますよ。
 ヒットラーやビンラディンだって天国にいるんですよ。
 どうしてあなたが行けないなんてことがあるの?」
「そうだよね。彼らに比べたら俺はまったくの善人だよね」

やがて耕司の意識が消えた。目覚めるとそこは
不思議なお花畑のような世界であった。

「やった、天国に来た」

すると前方から大勢の人達が近づいてくるのが見える。
耕司はまだこちらの世界に慣れてないためか?
はっきり焦点が合わず、ぼやけて見える。
近づいてくる人達の姿がだんだんと見えてきた。
いろんな人達がいる。みんな笑みを浮かべている。

「天国へようこそ。我々は歓迎いたします」
と先頭の人が口にした。

耕司は
「天国の人達が歓迎してくれてるんだ。
 迎えにきてくれたんだ。
 誰だろう? ご先祖様? ソールメイト?
 それともSLSSのサポーターかな?
 たぶんそうだな。クリマもいるかな?
 可愛いクリマと一緒に暮らしたいな」
などと喜んだ。

「はじめまして、耕司です。よろしくお願いします。
 これからは天国でお世話になります」
と近づく人達にあいさつをした。

 そして、集まった人達が目の前まで近づいてきた。
やっと姿が見えるようになってきた。
そこに居る人達はどこかで見たことがあるような外国人達であった。
「どこかで見たような? はてどういう方々かな?」
などと考えていると、代表の人が挨拶をしてくれた。

「ようこそ。天国へ。
 ここに居る皆さんは、あなたに呪いを掛けられた者達ですよ。
 みんな苦しみを味わって死にました。
 あなたにお世話になったお礼をしなければなりません」

そう言うと、集まっている人達の表情が作り笑いから憎悪の表情にガラリと変わった。

「お前の死後は天国なんかじゃない。
 金の為に殺人を繰り返した最低の外道!
 お前には死があるのみだ!さあ消えてしまえ!」
「おい、どういうことだ。何故、あんたたちがいるんだ」
「お前が死ぬと聞いて集まってきたのさ。復讐するために!」
「すまん。許してくれ。
 俺はCIAに頼まれて実行しただけだ。
 仕事でやっただけなんだ」
「違う、お前は金が欲しくて人を殺した殺し屋だ」
「俺は悪人を倒してくれと頼まれただけだ」
「俺たちは悪党じゃない。米国にとって邪魔者だっただけだ。
 みんな国や市民の為に米国に逆らった政治家や活動家ばかりだ。
 俺たちが突然殺されて、どれだけの人達に影響が及んだのか?
 お前は考えもしなかっただろう? お前はやってはいけないことをしたんだ。
 しかも、自分は安全なところに居て無防備な相手を殺したんだ。
 もっとも卑怯な殺し屋だ」
「CIAの人はみんな悪い奴だと言ってた。俺は知らなかった。騙されてたんだ」
「お前はわかっていた。俺たちが悪党ではないことを。
 わかっていたのに金のために引き受けたんだ。そうだろ?
 だから、天国に行くサービスの会に入ったんだろ?
 やましいことをしたと感じていたからだろ。
 ここでうそはつけないぞ。」
「違う、俺は天から黄金の鍵を授かったんだ。これは天の思し召しだ」
「黄金の鍵だって?
 お前の技は人の命を抜き取るだけのドロボーみたいな技じゃないか?
 それを天がくれた黄金の鍵だなんて笑わせるぜ。
 お前は選ばれた人間なんかじゃない。
 天罰が下ってもそんな妄想に浸ってるとはな・・
 良心の声に耳を傾けていれば救われたのになあ」
「違う、違う。
 SLSSのサポーター、クリマよ?助けに来てくれ。どこにいるんだ!」
「SLSS?さっきいた奴らか? そいつらは帰っていったよ。
 お前との契約はあの世に無事に届けるまでだろ?
 ちゃんと契約を果たしたらしいぞ」
「あの世の幸せを約束する契約だったはずだ。うそだったのか?」
「天国に連れていくまでが契約だろ。
 その後のことは契約書に書いてなかったろ?
 さっきの奴らがそう言ってたぞ」
「ええ、そりゃ詐欺じゃないか?」
「金の為に人殺しをした奴が他人を詐欺なんて責めることができるかな?」
「助けてください。お願いです」
「誰も助けに来てくれないよ。
 お前を助けようと思う神仏や霊は誰ひとりいやしないだろ?
 これがお前の真実の姿さ。薄っぺらな人間のお前はみんなに嫌われていたのさ。
 さあ、お前には2つ選択肢がある。地獄で何万年も罪の償いをするのが一つ。
 もう一つは永遠に消滅すること。さあどっちがいい」
「どっちも嫌だ」
「早く選べ」
「どうして、ヒットラーも天国に行ったのに何でおれが地獄に行くんだ」
「ヒットラーが天国に行った? お前はアホか?
 ヒットラーはもう永遠に消滅してるわ」
「ええ? そんな馬鹿な」
「お前、そんな戯言信じてたのか?」
「うそだ・・」
「さあ、どちらかを選べ」
「・・な、ならば消してください。苦しむのはいやだ」
「そうだろう。お前は消え去るのだ」
「早く消してくれ、こんな苦しみはまっぴらだ。もう何もかも消してくれ」
「本当のことを言おう。選択肢なんて嘘だ。お前はただ消えるだけなのだ。

 突然、理由もわからず、命を奪われた俺たちの無念さを考えたことがあるのか?
 だから、お前には何の選択肢もなく、無念に消え去る永遠の処刑しかないのだ。
 しかも、お前が人に与えた苦しみの分、存分に苦しんでから消えるのだ。
 俺たちがお礼をしてやるぞ。地下の拷問部屋に連れてってたっぷり料理してやる」
「な、なんてこと」
「さあ、存分に俺たちが味わった苦しみを味わってもらおう」

「助けてくれ」と叫びながら・・耕司は目を覚ました。
それは夢だった。夢から覚めると病室だった。
「あ、夢だったのか?」と安心した。
するとベッドのカーテンの向こうで愛人達がひそひそ話をしている。

「まだ、死なないのね。遺産の取り分は私が3分の2よ」
「何言ってるの半々でしょ?」
「私が内縁の妻なんだから当然よ。こんな男の相手をずっと我慢してやったんだから
 それくらいもらって当然よ。遺言書はもう作っておいたわ」
「何言ってるのよ。耕司はあなたより、私の方を愛してたの。だから等分よ」
「愛なんてあったの? バカバカしい。
 それより、耕司が息を吹き返すかもしれないわよ。もう待てないわ。
 いっそ私達で息の根を止めてやらない?」
「そうしたいけど、バレたらどうするのよ?」
「プロに頼めばいいのよ。殺し屋よ。
 金をだせばやってくれる人はゴロゴロいるわ」
「じゃあ、あなたの取り分から払ってね」
「なにー!ふざけんじゃないわよ」

耕司にはひそひそ話が聞こえていた。

「おい、何言ってるんだ。俺は殺されるのか?
 どうしてこんなことに・・ 
 こんなことなら死んだほうがましだ。死んで天国に行きたいよ。
 まてよ、まさかさっきの夢は正夢で・・死んだら裁きが待っている・・まさか・・
 いやだ、いやだ。
 こんなことになるなら、黄金の鍵なんて手にしなければよかったんだ」

おわり

注)・・私PSYRYUはこの物語のようにすれば億万長者になれるだろうと考えています。
    しかし、その結果どうなるか予想できます。
    こういう罠は世の中一般にも、あちこちにあります。
    人間とは愚かなもので、人生のほんの一時の幸せを手に入れるために
    良心に反したことを行って、その後何百年の苦しみやあるいは永遠の死に至ることがあります。



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