本作品は2018年作です。

<翡翠の仮面>

 アキオは今日も自宅のPCに向かい、小説を書いていた。
彼はミステリー小説の作家を目指す30代の若者であった。
彼は中学卒業後、いろんな職を転々とした結果、商売で一定の成功を手にするまでに至った。
これに自信をつけて作家として世にデビューする夢を実現しようとしているのだった。

 アキオは小さな頃から賢くて器用だったので大物になると期待されていたが、
父親が事故で亡くなってしまい、母親も病気になり進学もできず、
中学卒業後に働きに出るしかなかったのである。
 自分よりも劣る同級生たちが進学して自分をせせら笑ったことや、
中卒だと見下した者達に悔しさを感じており、
いつか成功して復讐してやると決心したのだった。

「学歴のない俺でもミステリー小説なら書ける。
 日本のアガサ・クリスティーの名声を手にしてやる。
 見ていろ、無能な奴らに俺の才能を見せつけて笑ってやる」

それが自分を発起させる言葉であった。

 ある時、小説を書く合間にインターネットの出会い系サイトを検索してみた。
しばらく恋人が居なかったので、そろそろ話し相手になってくれる人でも見つけるかな・・
という軽い気持ちであった。
 検索を探すといろんな女性のプロフィールが表示されたが、
どれも同じような内容ばかり。

「どいつもこいつもステレオタイプだなあ。
 作家志望の俺は普通の女なんて興味ない。
 今度付き合う女は一癖あるほうがいい。
 小説のネタになるようなミステリアスな女がいい」

 そう思いながら探していたところ、ある女性のプロフィールが目に留まった。
その内容は驚くべきものであった。

「私は呪われています。
 仮面の呪いによって醜い姿に生まれてきてしまいました。
 自分の醜さを想うと悲しくてたまりません。
 仮面の呪いで私は奴隷のような日々を送っています。
 もし、こんな私でもいいという人が居たら、話し相手になってほしいんです。
 毎日辛いです。こんな私の相手をしてくれる優しい男の人が希望です。
 でも、私はとても人に見せられないほどに醜いです。
 それは覚悟してください」

と書いてある。

「なんだこりゃ? ジョークだろうか?
 出会い系で自分は醜いなんて書いて誰が申し込みするだろうか?
 こりゃびっくりだ。一体どんな人なのだろうか?
 どういう身の上なのだろうか?
 興味が湧いてきた」

アキオはすぐに、この女性にメールを送った。すると夜に回答がきた。
女性は、リエという名前であることを明かしてくれた。
彼女はメールで自分の身の上話を書いて送ってきたのだった。

「私は生まれてこの方、ずっと不幸な人生を送ってきました。
 両親は私が生まれてすぐ、私を捨ててしまいました。
 生まれてこなければよかったんです。
 私は家族も友達もなく一人で苦しい人生を生きてきました。
 何度も死ぬことを決意しました。でもできませんでした。

 ある時、何故自分が不幸なのか?その答えを知ることができました。
 それは翡翠(ひすい)の仮面の呪いだったのです。
 遠い昔、私は翡翠の仮面の神様を怒らせてしまったのです。
 重大な罪を犯してしまったのです。だからこの人生で醜い姿になって
 償いをさせられているのです。
 私は仮面の神様に償いを捧げる日々を送っています。
 辛いです。一時でよいので、私をどうか慰めてください」

とのことであった。

「なんだ? 仮面の呪いだ? どういうことだ。
 シュールだ。
 こりゃ、会ってみるしかない。どんな人なのか?
 一体どういう事情なのか?詳しく聞いてみたい」

アキオはこのリエという人に街のレストランで会おうと書いたところ、
「人前には出たくありません。自宅に来てください」
との回答があった。

「いきなり自宅に呼び出す女なんて初めてだ。
 もしかしてこれは何かの罠かも・・何か裏があるのか?
 ますます作家の好奇心を刺激する女だ」

 リエの自宅は古ぼけたアパートの一室であった。アキオがベルを鳴らして
「メールでお会いする約束したアキオです」と言うと彼女が扉を開けて中に
入れてくれた。普通の女性であったが顔をマスクとサングラスで隠している。
テーブルに座り、二人は会話を交わした。

「はじめまして、あなたがリエさんですね。
 会ったこともない男を自宅に招き入れるなんて・・」
「私に会いたいと言ってくれた人はあなただけです。
 あなたは優しい人だと信じています」
「ありがとうございます。
 ところで翡翠の仮面と書いてましたよね?
 一体どういうことなんですか?」
「説明します。
 翡翠の仮面はメキシコの古代文明で崇拝されていた神様です。
 私は遠い昔、翡翠の仮面を私利私欲のために西洋人に売ってしまったのです。
 その罪の為にこの人生で醜い姿にさせられて償いをさせられているのです」
「それって前世ということ? なんでそんなことが分かるの?」
「実は私が売った仮面は巡り巡ってこの日本のある場所に祭られているのです。
 その仮面を祀る司祭の人からそう言われたのです。間違いないのです」
「その場所に通っているの?」
「そうです。毎日。そして償いをしています。
 私は罪が重いので普通の仕事をすることも、
 どこかに出掛けることも許されていないのです。
 ただ、償いをするだけの人生なのです」
「本当か?
 その司祭ってどんな人?」
「会社の会長さんです。美術品の売買をしています。
 特殊な能力があって神様と話をすることができるのです。
 私が自殺未遂をしたときに助けてくれたのです。
 そして不幸の原因を教えてくれました。
 償いをすれば救われると手を差し伸べてくれたのです」
「なんだそりゃ。
 もしかしてあなたはその司祭に騙されてるのでは?」
「いいえ、その人は立派な人です」
「うそだよ。君は洗脳されているんだ。
 呪いなんて言う奴を信じてはいけないよ。
 騙されているんだ。逃げるんだ」
「ダメです。
 たとえ、その人から逃げることができても、
 仮面の呪いからは逃げられません。
 それにこんな醜い姿なので人前には出れないのです」
「何言ってんだ。醜いって?顔に傷でもあるの?」
「いや、そんなことはないです」
「だったら、心配ないって
 呪いだの、前世だのバカバカしい。デタラメだよ。
 償いの人生なんて・・他人の言うことを信じてはいけないよ」
「私のこと心配してくださって、ありがとうございます。
 でも、翡翠の仮面は本当に生きているんです。わかるんです。
 だから、逃げられないんです。
 私はただ、この辛い想いを誰かに話したかっただけなんです。
 聞いてくれてありがとうございました。
 それだけでいいんです。感謝します。さようなら」
「さようならって今日出会ったばかりだよ」
「こんな暗い話、もう聞きたくないでしょ?」
「いや、興味が湧いてきたよ。
 俺の話も聞いてほしいんだ。俺はアキオだ。
 ミステリー作家になるんだ」
「ミステリーって何する人?」
「ううん、もっとくだけて言うとルパン三世さ」
「え? ルパン?」

女性はクスクス笑ったようだった。

「笑ってくれたね。うれしいよ。
 僕は君を苦しみから救ってあげたくなった」
「本当なんですか?」
「ルパン三世だから何でもできるよ。
 ところでよかったら君の顔を見せてほしいんだ。
 君は醜くなんかないはずだ。
 ここでそんな思い込みを消し去ってみないか?」
「ダメ、恥ずかしい」
「僕を信じてるなら、見せて欲しい」

リエは震えながら後ろ向きになってマスクとサングラスを外した。
アキオは
「どんな不細工な人でも構わない。
 俺はこの人のシュールな運命に立ち会う」
と心に決めたのであった。

リエはうつむきながら顔をこちらに向けた。

それを見てアキオは絶句した。「う、うそ」

かなりのブスだろうと想定していたが・・なんと絶世の美女である。
トップモデルにも引けを取らない美人である。

「り、リエさん、君は美人じゃないか・・」
「え、嘘よ」
「なんでだよ。鏡を見てごらん」
「いつも見ているわ。でもやっぱり醜いわ」
「そんな馬鹿な。こんなことがあるのだろうか・・」

 ふと思い出した。
精神病の一種で自分が醜いと思い込む病気があることを。
醜くくもないのに醜いと思ってしまう心の病気である。
強い劣等感によってそのようにしか見えなくなってしまうらしい。
中には美男美女の人もいて周囲から奇異に思われることがあるという記事を
見たことを思い出した。

「そうかこの人は心の病気なんだ。
 しかも、男に洗脳されている。
 スケベ男がこの人の病気につけこんで騙しているんだな。
 洗脳して独り占めにしてるんだ。
 こんな奇妙なことがあるだろうか?」

アキオはこの時、心に燃えるものを感じたのだった。

「リエさん、君は醜くなんかないんだ。むしろ美人だよ。
 君は仮面の呪いだの言ってる男に騙されているんだ。
 その男は誰なんだ、教えてくれ」
「いや、私は騙されてなんかいないです」
「証拠を見せてやる」

アキオはリエのスマホを手に取り、リエの顔を撮影した。

「さあ、出会い系のプロフィールにこの写真を載せるんだ」
「いや、こんな醜い顔を晒すなんて」
「醜くない。僕を信じるんだ」

リエはアキオの熱心な勧めに押し切られて、写真をプロフィールに載せた。

「ちょっと待ってみよう。びっくりすることが起きるよ」

30分くらいしたところで次々とリエのスマホにメールが送られきた。
出会い系の申し込みのメールである。
「あなたのプロフィールに共感しました」
「人はルックスではないです。心です。あなたを助けてあげたいです」
「あなたの辛い想いをじっくり聞いてあげたいと思って申し込みました」
などと綺麗事のメッセージを書いて送ってきている。
次々と止めどなく送られてくる。

「どういうこと、今まで一通も来なかったのに」
「君の写真を見て申し込みが来たんだよ」
「ええ、本当なの?」
「ほら、次々来るだろ? 君は美人だからなんだよ。
 これが動かぬ証拠だよ」
「うそでしょ」
「うそじゃない。わかっただろ。
 君は美人なんだよ。
 笑ってやれよ。この馬鹿な男達を!」

リエは次々送られてくるメールを見て驚いた顔をしている。
アキオは笑いをこらえ切れなかった。
「これが世間というものさ、おかしてたまらない」
笑いながらアキオは固い決意をしたのだった。

「ようし、この女性を悪夢から解放してやる。
 こんな面白いことがあるだろうか?
 まるでミステリー小説そのものだ」

リエが償いとして通っている場所は豪邸であった。
豪邸の中に美術館のような部屋があり、翡翠の仮面が祀られているのだった。
彼女はその美術館の世話や商品の管理などをしているのだった。
豪邸の持ち主は古美術商の宝田洋治である。
60代で妻に先立たれている一人者の男であった。
リエはこの男の言われるままにほとんど無償で働かされているのだったが、
同時に男の愛人であった。男は絶世の美女であるリエを
独り占めするために醜いと洗脳し、仮面の呪いを吹き込んでいたのだった。
アキオは、この男について念入りに下調べをした。

「こいつは商売人だが黒い噂がある。脱税、密輸・・疑惑の男だ。
 商売やってた俺にはわかる。こいつはワルだな。
 女好きだという噂もある。愛人バンクに登録してたこともあるらしい。
 リエは恰好のカモだったわけだな。
 翡翠の仮面で洗脳するとは・・リエを馬鹿にしているな。
 どうせ、こんなものガラクタだろう。
 面白くなってきた。
 こんな奴からリエを奪い取ってやる」

ある日、アキオはリエを街に呼び出したが、未だ洗脳が解けてないらしく、
リエはマスクをしてやってきた。

「マスクなんていらないよ。外すんだ」
「いや、恥ずかしい」
「いらないって」
アキオは無理やりマスクを取り払った。
リエは恥ずかしそうにしながらアキオと街を歩いた。
「ほら、みんな君を見つめるだろ?」
「醜いからよ」
「相手の顔をよく見ろ。みんな目を輝かしてるだろ。
 君はみんなが注目する美女なんだよ」

段々とリエは周囲が興味を持って見つめているという事を信じてくれるようになった。
洗脳が段々と解けているのをアキオは感じ取った。

「リエ、宝田の所へはもう行くんじゃない。
 奴は悪党だ。君をだましてるんだ。
 君を愛人として確保してるだけなんだ」
「全てうそだったの?」
「そうさ。嘘だったのさ。仮面もガラクタだろ?」
「違うわ、一度仮面を鑑定してもらったことがあるの。
 本物よ。古代文明の遺跡よ。数千万の価値があると出たわ」
「なんだって?
 でも、呪いなんて嘘だよ」
「呪いは本当よ」
「宝田はクズなんだ。あいつの言うことなんて信じるな」
「ダメ・・頭ではわかっても・・やっぱり怖いの。
 呪いのことを考えるだけで震えが来るの」

アキオは驚いた。

「これが洗脳というやつか・・
 どうしたら呪いを解くことができるのか?
 こんな馬鹿げた洗脳が嘘であることをどうやってリエに・・」

アキオは悩みこんでしまった。

「説得してもリエの心からは呪いの恐怖は消えないだろう。
 どうやったら、呪いなんてないことを証明できるのか?」

得意とする推理物のストーリーのように考え巡らせていると、ふと思いついた。

「・・そうだ。いっそ、仮面を盗んでやればいいんだ。
 本当に呪いの力があるなら盗むことはできないはず。

 俺が盗んだら翌日のニュースを彩ることになるだろう。
 ルパン三世参上と置手紙を残す・・ルパンが美術品を盗んだと騒ぎになる。
 と同時に宝田のスキャンダルを流してやる。脱税、違法行為の数々さ・・
 宝田はぶざまな笑いものになり、会社も信用を失う。

 これで仮面なんて何の力もないことが明らかになるわけだ。
 仮面は闇で売って金に換える。俺とリエの逃亡資金さ。
 警察やマスコミが必死に俺を追いかけるが、ルパンは決して捕まらない。
 これぞミステリーの実演さ。いっそ本当にルパン三世になってやるか?
 俺もリエも世間のはぐれ者、こんな生き方もありかな。
 面白いぜ。俺の才能を見せてやるぜ」

 アキオはリエに
「君を仮面の呪いから解放してやる。
 君は必ず幸せになれる。どこか遠いところへ行こう。
 ルパン三世に任せてくれ」
 と繰り返し言い聞かせるのであった。

 アキオは宝田の豪邸から翡翠の仮面を盗む計画を着々と実行し始めた。
先ず、邸宅に忍び込む。作戦として清掃業者を装って無料の掃除サービス
を実施することにした。清掃業の経験があるアキオにはもってこいの
作戦であった。何度か通って家政婦と顔見知りになることから始めた。

ある日、宝田が不在であることを確認して、家政婦に清掃サービスをすると
言いくるめることに成功した。
家政婦は手抜きができるとあって喜んでアキオを中に入れてくれた。
アキオはこの時、邸宅の各部屋を回って偵察することができた。
そして、仮面がある部屋も確認できた。

「ようし、下調べ完了。作戦もばっちり。成功間違いなし」
推理作家らしく綿密なシナリオを立てたのであった。

 ある日の夜、その作戦が決行された。
先ず、塀の一部にはしごを掛けて忍び込んだ。
逃げる時もこの場所から逃げるとしっかり記憶して。

 次に仮面が飾ってある部屋の窓を開けた。こっそり外から
開けられるように細工したのだった。
中に入ると祭壇のようなものがあり、そこに仮面が祭られていた。
翡翠の不気味な仮面である。
「ようし、うまくいったぜ」
アキオは仮面を布でぐるぐる巻きにしてバッグに入れてそれを背負った。
そして窓から外に出た。とその時、警報が鳴った。

「う、警報だ。20分で警備が来る。早く脱出しなければ」

アキオは仮面を担ぎながら何度も頭に叩き込んだコースを走った。
「そこに女神像がある、そこを左に曲がればいい」
そのとおりに走った。しかし、出口は見当たらない。
「おかしいなあ。この近くにはしご掛けたはずだが・・」
するとまた女神像が見えてきた。
「あれ、さっき見た像だ。間違えたかな」
アキオは女神像を左に曲がって走ったが、やはり出口にはたどり着かない。
「おかしい、道を間違えたかな?」
と思っているとまた同じ女神像が・・
「同じ場所をぐるぐる回っているのか? どういうことだ。
 やばい、警備員が来てしまう」

アキオは現在地を確かめるために建物の中に入ることにした。
丁度開いてる窓から建物のなかに入った。
「一体ここはどこだ」と見取り図を開いた。
覆面マスクが邪魔でよく見えないのでアキオはそれを脱いだ。
すると、足音が・・
「やばい、警備員か・・」
と顔を向けると、そこには家政婦が・・
その時気付いた。
「ああ、マスクを脱いでいた。顔をみられた。
 何でこんな夜に家政婦がいるんだ・・」

家政婦は驚いたような顔をしてたたずんでいる。

「しまった、見られてしまった。
 しかもこの女は俺のことを知っている。
 どうしよう、この女を殺すか?」

男はナイフに手を伸ばした。しかし・・

「この人には何の罪もない・・殺すなんてできない」

そこで考えた。

「そうだ、口止めをすればいいんだ。ナイフを突きつけて・・
 言ったら殺す。必ず復讐する と言って脅せばいい」

と思った。そして再びナイフに手を伸ばした。
その時、翡翠の仮面を担いでる背中が熱くなるのを感じた。
そして脳裏に不思議な映像が一瞬ではあるが見えた・・

遠い昔のこと・・この翡翠の仮面が祭られている祭壇で若い女性が生贄になっている・・
祭壇の前で男が生贄の女性を殺そうとしているまさにその瞬間・・

ふと、男が自分のような気がした。そして生贄の女性はリエである。
二人は無言で会話しているようだった。

「すまない。ゆるしてくれ。
 君を殺さなければならない。ゆるしてくれ」
「いいのよ。あなたのせいではないわ。
 私は喜んで身をささげるから苦しまないで」

これは俺の前世なのか?それとも仮面に染み付いた誰かの記憶なのか?
それは分からない。そして我に戻った。

「俺は何をしているんだ。この家政婦をおどして口止めなんて・・
 そんなことしたら、この人は一生怯えて暮らすことになるんだ。
 リエと同じく心に傷を負った女性になってしまうんだ」

アキオは呆然と立っている家政婦ににっこりと笑って語り掛けた。

「俺の負けだよ。
 マスクを脱いだ俺が悪いんだ。
 さあ、警察を呼びな。
 ここで待っているよ。逃げたりはしないよ。
 君が悪いんじゃないよ。
 君を恨んだりはしないから安心して」

家政婦はすぐに走って逃げてしまった。
すぐにパトカーが来て男は逮捕された。

アキオは強盗犯として拘置所に入れられた。
後日、リエが面会に来てくれた。リエは悲しそうな顔をしている。

「リエ、すまない。こんなことしてしまって。
 君を仮面の呪いから解放してあげようと思ったんだ。
 信じてくれるよね?」
「信じているわ。
 私のためを想ってくれたのね」
「家政婦に顔を見られるなんて俺もドジだったな。
 ルパン三世にはなれないな」
「聞いたわ。
 あなたは家政婦を脅したりはしなかった。
 彼女を苦しめたくなかったのね。優しいのね。
 それを知ってうれしかったわ」
「いや、そんなことないよ。
 家政婦が君のように見えたんだ」
「いや、あなたには誰も傷つけることはできないわ
 あなたはそういう人、私にはわかるわ」
「リエ、もう宝田の言うことなんて信じてないよね?」
「ええ、あなたのお陰で目が覚めたわ。
 宝田はこの騒ぎで週刊誌のネタにされてるわ。
 あなたのことより、宝田のスキャンダルばっかり報道されてるわ。
 本当に極悪の男だったのね。
 どうしてこんな男を信じてしまったのかしら」
「よかった。君の代わりに復讐できたわけだ」
「あなたには感謝しています。
 本当に申し訳ないわ。
 私のためにあなたはこんなことになってしまった。
 あなたの夢も終わってしまったのね。
 私と会わなければよかったんだわ・・」
「おれは作家になる夢は捨ててないよ。
 寧ろ、俺はもっと大きな生き甲斐を見つけることができた」
「生き甲斐って?」
「君さ。君を幸せにすることさ。
 出所したら君を必ず幸せにする」
「でもあなたは犯罪者として有名になってしまったわ。
 もう作家にはなれないでしょう」
「ミステリー作家にとっては華麗な経歴だよ。宣伝になるさ。
 それに刑務所暮らしにわくわくしてるんだ。
 どんな人との出会いがあるか今から楽しみだよ。
 それよりも一番つらいのは君と会えなくなることさ。
 君をよその男にとられるかもしれないと思うと・・」
「心配しないで。あなたが戻ってくるのを待ってるわ。
 私のためにここまでしてくれたあなたを裏切るわけはないわ。
 また、顔を隠してあなたを待つわ」
「そうか、うれしいよ。
 ところで、翡翠の仮面の呪いは本当だったね。
 俺は逃げるときに同じ場所をぐるぐる回って逃げられなかったんだ。
 ありないことが起きたんだ。これが仮面の呪いだね」
「いいえ、違うわ。
 仮面は収集家の私物になってるのが嫌だったのよ。
 だから、あなたを使って自分の存在を誇示したのよ。
 これで仮面は博物館に大事に飾られることになるわ。
 その方が仮面にとって幸せなのよ。
 私にはそう感じられるの」
「そうか・・
 君がそう思うなら真実なんだろうね。
 俺は仮面に一本取られたってわけか」
「それだけではないわ。
 私には感じるの。仮面は私たちを祝福しているのよ。
 きっと私たちの出会いも仮面の奇跡なのよ」
「そうだね。
 君と会えたことが一番の奇跡だよ。
 ムショから出たら、君と二人で必ず成功を掴む。絶対に。
 それが俺の生きがいであり、俺を笑った世間への復讐なのさ!」
「大丈夫。翡翠の仮面があなたの夢を叶えてくれるわ」
「君は未だ仮面の呪いを信じてるんだね。
 俺たちを見守っていくれているという呪いを・・」

おわり



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