本作品は2018年作です。

<徳川埋蔵金>

 芳之助は幕府に仕える某譜代大名の武士である。
しかし、身分は高くはない。下級武士である。
また四男坊であったため、家督を継ぐ立場にもない。その上天性の変わり者。
いつも常識離れした行動をして周囲から煙たがれている男だった。当然出世の望みもない。
芳之助はいつも「武士なんぞに生まれなけれよかった〜」と口にしていたのだった。
彼は武芸に励むでもなく町の本屋に出かけては面白い書物を見つけて読みふけるタイプで
あった。親も「ろくでもない四男だ」とあきらめていたのだった。

 時は幕末。幕府は長州征伐に失敗し、幕府の威信は地に落ちつつあった。
「幕府は長州一国を倒すことすらできないほど落ちぶれた」との噂が広まっていた。
将軍慶喜が西国に行き、政治の主導権を争っていたが、思うようにいかず
薩長同盟と近く戦になるのでは?という噂が駆け巡る状況であった。

 芳之助も一応は譜代大名の武士である。世の中の情勢には興味を抱いていた。
町の本屋には「幕府の政権を朝廷に返上し、国として一つにまとまるべき」という意見を
述べる書物もあり、こういう本を読み漁っていた。
役人の監視が及ぼないところで様々な主張が飛び交う時代であった。
芳之助はこういう本を目にして「うむ、政権を朝廷に返上する、すなわち大政奉還。それはいい」
と口にすることがあった。
同僚が慌てて「そんなこと口が裂けても言ってはいけない」と戒めたりしていた。
芳之助はそういう変わり者の男だったのである。

 ある日、芳之助は鮮明な夢を見る。
東照宮から権現様(家康のこと)が光となって現れるという夢であった。
光は芳之助に告げるのである。

「芳之助、そなたもわかっておるだろうが、わが国は有史以来最大の危機を迎えておる。
 国の行く末は上様の采配にかかっておる。そこでそなたにお願いがある。
 上様の御意志に従って天命を遂げて欲しいのじゃ。近く天命が言い渡される・・」

とのことであった。芳之助が夢から覚めると全身が熱くなって汗をかいているのだった。

「これはいつもの夢ではない。権現様のお告げに違いない。
 しかし、私のような下級武士に何ができるというのか?」

芳之助には夢のお告げの意味が分からなかった。

 数日後、芳之助は藩主から呼び出しを受ける。
「お殿様が私なんぞに御用とは・・一体何だろうか?」と不思議に思いながら
登城すると謁見室で藩主が芳之助に謁見した。藩主は芳之助に真剣な表情で語りかけたのだった。
「芳之助、頭を上げよ。そなたにお願いがあるのじゃ。
 ただし他言無用じゃ。それだけ重要な用事じゃ」
「はあ、めっそうもございません。
 私のようなものに重要な用事とは、一体何事でございましょうか?」
「そちも聞いておろう。今、上様は朝廷と交渉をしておる。
 今、国の存亡が掛かっている重要な局面なのじゃ」
「存じております」
「先日老中様より、お達しがあった。
 上様からの密使が届いたとのことじゃ。
 それには軍資金のことが書いてあったとのことじゃ」
「軍資金?」
「今、国はまっぷたつに割れておる。戦になることも考えられるのじゃ。
 幕府は総力を挙げて軍資金を備えておったのじゃ。その額400万両。
 戦に備えての金じゃが、この金を巡っていくつかの勢力が対立しておるのじゃ」
「もしや大政奉還派と現状維持派の対立では?」
「おお、良く知ってるな。さすが我藩の知恵どころだな。
 そうじゃ。上様は政権を朝廷に返上して国を一つにまとめることをお考えじゃ。
 しかし、従来通り幕府による統治を続けるべきという勢力もおってな。
 彼らは軍資金でフランスから武器を購入し、西洋式の軍隊を作るべきと考えておる。
 一刻も早く強い軍隊を作り、長州らを倒すべきと血気盛んなのじゃ」
「そうですか、やはり」
「もし今、軍資金が戦費に使われてしまったらどうなると思う?
 我が国が二つに割れて戦になることは火を見るよりも明らかじゃ。
 上様は国の中で戦をすることはお望みではない。異国の思う壺じゃからな。
 上様は大政奉還をして、薩長との戦を避ける道を考えておられる。
 その結果、幕府は一大名に格下げとなるが、それでも国が一つになる方がよいとお考えである。
 軍資金は国が一つになった後に国造りに使うべきとのお考えだ」
「はあ、さすがは上様です。
 権現様の再来と噂されるだけあって聡明ですね。
 私もそう考えております。
 幕府ではなく国として一つになるべき時が来たと心得ております」
「そなたも聡明じゃ。
 上様と同じ考えを主張していたと聞いておるぞ。
 では本題に入る。他言無用じゃぞ。
 老中様よりお伝えじゃ。軍資金を埋めて一時隠すことに決めたそうじゃ。
 戦に使われないようにじゃ。人夫達と警護に当たる強者を集めて来月に決行する
 とのことである。そこでそなたにも同行して欲しいのじゃ」
「わ、私は腕の立つ武士ではないですが・・」
「はは、わかっておる。
 そなたには重要な役割があるのじゃ。
 軍資金を埋めるに当たって老中様は心配をしていることがある。
 警護の武士たちは忠誠心の強い者達ばかりじゃ。だが、その忠誠心が裏目にでる
 恐れがある。中には軍資金を幕府のために使うべきと考えるものが居て
 軍資金を横取りするかもしれないのじゃ。
 また、忠誠心のあまり、人夫達の口止めをするかもしれない」
「口止めというと?」
「殺してしまうということじゃ。
 上様は流血騒ぎや人夫の殺害などあってはならないと仰せである」
「さすが上様です。
 もう武士だの幕府だのという時代ではないのですね。
 国民全員のことをお考えなのですね。すばらしいです」
「その通りじゃ。
 そなたに、この大仕事が成功するよう監視して欲しいのじゃ。
 上様からのお達しをそなたに預ける。
 やってくれるか?」
「もちろんです。
 国のために身命を掛けて天命を果たしてみせます」

 芳之助はこの上ないお役を頂いて上機嫌だった。

「こんな俺でも上様のお役に立てる・・なんということ!
 そうだ、この間の夢のお告げはこのことだったんだ。
 権現様、いや神仏が私に天命を授けてくださったんだ」

 翌月になり、芳之助は軍資金を埋める極秘任務に呼ばれたのであった。
夜中に江戸の港からたくさんの船が出航した。船には山のような千両箱と
人夫達、そして警護の武士達が乗っていた。
船は夜の間に海を渡り、ある島に到着した。
人夫や武士達にはその場所は教えられてはいなかった。
そして夜のうちに人夫と武士達が千両箱を荷車に載せて運んだ。
芳之助も同行していた。

 やがて島の山奥の林の中にたどり着くと朝になった。
人夫達は穴を掘るように命じられ、穴を掘り始めた。
大勢の人夫達が一斉に穴を掘り、昼前には作業は完了した。

「さあ、千両箱を埋めよう」
ということになったその時であった。
警護の武士の一部が突然鉄砲を人夫や他の武士達に向けた。

「やめい。千両箱を埋めるのはやめるのだ。
 そのお金は幕府の軍備に使うのだ。埋めてはいけない。
 すぐさま、船に戻して我々の言う場所に運ぶのだ」

これは謀反であった。おそらく軍資金を埋めることに反対する
勢力によるものだろうと推測できた。
芳之助は「しまった。何とかしなければ・・」と思ったが相手は
銃を構えている。どうしたらいいか?と考えたがどうにもできない。
そこで決死の覚悟で彼らの前に立った。一世一代の賭けであった。

「まってくれ。軍資金を埋めるのは上様の御意志だ。
 上様に逆らうというのか!」
と大声を上げた。そして藩主から渡された密使を取り出した。
「これが見えぬか!上様からのものであるぞ」
と目の前に差し出した。

 一瞬、謀反の武士達はひるんだが・・やはり意志は変わらなかった。

「たとえ上様の御意志であったとしても幕府のために我々は決断する。
 薩摩・長州どもは着々と軍備を進めているのだ。
 彼らに負けてなるものか。いまこそ幕府の力を結集して反撃するべきなのだ。
 権現様は、幕府がつぶれることをお望みではないぞ!」
と芳之助に反論した。

 芳之助も権現様を出されると反論はできない。
だが夢のお告げを思い出した。

「よく聞くのだ。
 軍資金を埋めて戦を避けることは権現様の御意志だ。
 私は権現様より天命を頂いている。
 国のための大切なお金を戦に使ってはならない。
 権現様はそうお考えだ。
 私は命を賭けてこの天命を果たす所存だ!」

と大声で反論した。
すると謀反の武士は怒りの声をあげた。

「きさま、権現様を冒とくするつもりか?
 お前なんぞに権現様のお考えが分かるわけはない。
 無礼者、殺してくれるわ」

と銃を芳之助に向けた。その時である。
とつぜん、謀反の武士達が驚きの表情になり、銃を下げた。
芳之助の背後に突然まばゆい光が出現したからである。
芳之助は何が起きたかわからない。「何?」と混乱していると
背後から小声が聞こえてきた。
「ここにご出現された光は権現様であるぞと言いなさい」と・・
芳之助が声のとおりに武士達にそれを伝えると武士達はひれ伏したのであった。
それを見て芳之助に状況が理解できた。

「そうか、権現様が背後にご出現されたんだ。
 奇跡だ。やはりこれは天命だったんだ。間違いない!
 なんということ。こんな不思議なことが本当に起きるとは・・」

 芳之助の説得によって騒動は収められて、無事に千両箱が穴に埋められ、
その上に土が盛られた。埋蔵金を埋める仕事が終わったのであった。
そして夜になるのを待って人夫や武士達は船に戻った。

 作業は綿密に計画されたものであった。
夜の内に船を出発して夜の内に穴場まで行き、また夜に船に戻ったので
人夫達には埋めた場所が全く分からない。
船員達には漁港工事とだけ伝えてあり、埋めた穴場も分からない。
こうして埋めた場所は人夫や船員達は誰もしらない。

しかし、昼間の騒動で人夫達には動揺が走っていたのだった。
「お金を隠す作業だったのか?
 ということは我々は口止めされるかもしれない」
と不安を抱く者もいた。

 芳之助はそれを憂慮していた。下手をしたら人夫達によって暴動が起きるかもしれない。
ここで逃げ出す者が出るかもしれない。それはまずい。今夜の夕食が重要だ。
きちんと夕食とお酒を与えて和ませてやらねば。

 しかし、ここで恐ろしい企てが進行していたのだった。
武士達の一部が人夫の料理に毒を盛ろうと考えていたのだった。
埋蔵金の秘密を知る人夫の口封じをするためである。

 芳之助もそれを予想していた。
「もしかしたら毒が盛られるかもしれない」
そこで芳之助は人夫や武士達に通達を出した。
「今夜の夕食は全ての船で武士・人夫同席で無礼講の宴を催す。
 互いの労をねぎらうため、宴席は自由にすること。席を決めてはいけない」
という通達であり、上様の名前を借りて芳之助が作ったものだったが皆は本物と信じてくれた。

これによって毒を盛る企みができなくなり、無事に夕食が振舞われた。
お酒によって人夫達の不安も解消され、何事もなく船は無事に江戸に着き、
人夫達は解散したのだった。

 芳之助は「うまくいった。天命を果たすことができた。
 権現様の御意志を果たすことができた。感無量だ」
と喜びに浸っていた。
 芳之助はその後、藩に戻り、藩主に無事成功したことを報告した。
藩主はにこにこしながら芳之助にねぎらいの言葉を与えた。

「よくやった。私の目に狂いはなかった。
 そなたには先見の明がある。そなたが国を救ったのじゃ。
 誇りに思うぞ」

 芳之助はこの上ない喜びに浸った。
「今まで無能扱いされてきたけど、俺は自分の信じることは曲げなかった。
 それを認めてもらえたんだ。こんなうれしいことはない。
 何よりうれしいのは権現様も私を認めてくださったということだ。
 俺は権現様の夢のお告げを受けたのだ。
 そして奇跡も起きたのだ。こんな凄いことが他にあるだろうか?」

 後日、藩主は江戸に行き、老中に埋蔵金のことを報告した。
老中も上機嫌でねぎらいの言葉をかけた。

「埋蔵金の件、うまくいってよかったな。
 そちの藩の芳之助という者がよくやってくれたと聞いておるぞ。
 彼は適任だったな。適任な男をよく見つけてくれたな」
「老中様、ありがとうございます。
 我藩の面目を掛けて成功させることができて安堵しております。
 芳之助はよくやってくれました。彼ほどの適任者は他にはおりませんでした」
「褒めてつかわずぞ」
「老中様の決断こそ、すばらしいです。
 よく考えましたな。
 軍資金を埋めるという天下の大芝居。
 天下に徳川家の威信をとどろかせることができますな」
「上様は大変困っておられたのじゃ。
 何故、幕府は戦うことができないかというと・・
 本当の理由は、お金が無いこと。それだけだったのだ。
 軍資金なんてもう底をついて空なのだ。
 しかし、金が無いので戦ができないことが知れたら幕府の威信は丸つぶれじゃ。
 そこで軍資金を埋める芝居をして埋蔵金伝説として広めることにしたのじゃ。
 お金が無いからではなく、国のためを想って戦を避けたということにするのじゃ。
 これで上様のメンツも保たれる」
「すばらしいお考えです。
 同行した武士や人夫達が伝説を広めてくれるでしょう。
 そのための芝居ですから」
「上様は心配しておられることがあった。
 芝居とは言え、役者達は本当のことを知らない。もし役者達が反逆して、
 流血騒ぎになったら、せっかくの伝説に傷がつく。
 人夫の口止めなんて恐ろしい話が添えられたらせっかくの芝居が台無しだからな。
 そこで愚直な男を監視役にしたというわけじゃ。
 うってつけの者を見つけてくれたようじゃな。
 ところで嘘がばれる心配はないよな?」
「大丈夫です。
 埋蔵金の箱には濡らした砂利と泥を詰めております。
 箱もボロボロの物を使ってます。
 1年ともたずに土に帰るでしょう。掘り起こしても何もみつかりません」
「芳之助にこの芝居が気付かれてはいないよな」
「大丈夫です。
 あの男は能無しですから気付きませんよ。忠誠心もいいかげんなものです。
 コロコロ考えが変わる奴ですから。自ら伝説を広めかもしれません。そういう変な男です。
 埋めた場所などもう覚えてないでしょう。道も覚えられない間抜けとの評判ですから。
 なんとかとハサミは使いようということです」
「そのとおりじゃな。よくやった」

おわり

注意・・天は「嘘も方便」で天啓を与えることがある。



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