本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第5話 5次元の愛>

 みさの所にはいろんな人が相談に来るようになったがやはり多いのが恋愛や浮気の相談であった。
相手の気持ちを見て欲しい、浮気しているか教えて欲しいなどの相談が多かった。
時には霊視したことを正直に言うことができないケースもあったが、悪い事でもきちんと
見た通りに言うことが信用に繋がるという社長のアドバイスに従って言うようにしていた。
 
 みさ自身が恋愛経験があまり無いのに恋愛の相談ばかり受けるのはちょっときついと感じる
事もあった。時に他の人の幸せ話を聞かされているように感じることもあったからである。
「私も恋がしたい。愛されたい」と思いが募るようになってきた。若さ故それは当然であった。
「霊能者なんてやっていては男性は気味悪がってしまうだろう」と思ったりする。

 ある日、若い男性がみさの部屋に入ってきた。「占って欲しいことがあります」と言ってきた。
その男性は20代前半のようであった。ジャニーズ系のような甘いマスクでおしゃれのセンスもよい。
髪は少女漫画に出てくる男性のような感じで薄く染めているようであった。
何よりも雰囲気が誠実そうでよい。
「どういった相談でしょうか?」と言うと
「僕、好きな人がいるんだけど、その人と結ばれるのか?見て欲しい」と言ってきた。
みさは霊視をしてみた。しかし何も見えない。「どうして?」と悩んで繰り返したが何も見えない。
男性は「やっぱり見えないかな? だってまだ知り合ったばかりだもん」と答えた。
みさは「どんな人なんですか?」と聞いてみた。
男性は「僕の目の前に居るよ、君のことだよ」と答えた。
みさは突然のことで胸が張り裂けるようなショックを受けた。
「この人は私をからかっているんだわ。動揺しちゃだめ」
と思ったがやはり動揺していることが顔に出てしまっていた。

「ごめん。君を困らせてしまったかもね。僕はこの町で家具ショップの店員をしているんだ。
 将来はインテリアデザイナーになるのが夢なんだ。
 占い師のような繊細な感覚を持った人が好きなんだ。僕ってさ、こう見えて繊細なんだ。
 特に美的なことにだけどね。君は霊感があるんだよね?不思議なことってワクワクするよね」
と答えた。彼の瞳は美しく、そしてどこか子供のような純粋さがあり、それがみさの心にグサリと来た。

男性は「ごめんね。仕事の邪魔をしちゃったかな。もしよかった今夜、
 不思議な世界を聞かせてほしいんだ」と言って店の名刺を渡した。
「僕がよく行くカクテルバーだよ。今夜7時に一人で飲んでるからよかったら一緒に・・」と
言って帰っていった。

みさは突然の誘いに戸惑った。霊視をしてこの人のことを見ようと思ったがその気になれない。
この男性を信じたいという気持ちがあったからである。
「誠実そうな人だし、会って話するくらいならいいわよね」
と考えて行くことに決めた。

 その男はその後、近くの喫茶店で仲間と喋っていた。

「おい、お前が目をつけていた霊能者の子はどうなったんだ?」
「今日、誘ったぜ。店で待ってるって言って。来たら成功だな」
「かわいい子なのか?」
「ブスさ。ランクDだな」
「お前のDランクは俺たちにとってはB+ってとこだな」
「店で酔わせて部屋に連れていき、一発やる。そしたらポイ」
「おいおい、霊能者をやり、ぽいしたら呪いかけられるぞ」
「面白いじゃんか。呪い掛けてもらおう。心霊スポットより刺激的だ」
「お前はいいよな。そんな色男に生まれてたら、女に不自由しないよな」
「俺は腕を磨いてどんなタイプの女でも落とせるようになってやる。
 いずれ東京に行ってAAAランクの女をものにしてやるのさ」
「勝手にやってろ。下衆男。
 俺たちにもおこぼれよこせよな。この間みたいに写真撮って送ってくれよ。
 その女の裸の写真撮って俺たちに転送してくれよなあ、頼むぞ。
 そしたら賭けで負けた分帳消しにしてやるぜ」

 夜7時、みさは男が言った店に行ってみた。歓楽街の隅にあるひっそりと
した洋風な店であった。扉を開けるとカウンタには占いに来た男性がいた。
みさはその男の横に座ったので、男はそれに気づいた。

「君か?来てくれたんだ。よかった」と無邪気に笑った。しかし、
カウンタの奥の方を見て急に怪訝な顔になった。そして黙ってしまった。
みさはその方向を見たが何もない。
男はみさに小声でささやいた。
「カウンタの奥に座っている男は知り合い? ずっと俺にガン付けている」
「え、そんな人いないわよ」
「居るだろ? 奥に座ってる男だよ。モハメドアリみたいな黒人だよ」
「何いってるの?」

次第に男性は気まずい感じになってきて、
「ごめん、急用を思い出した。帰る。マスター、お勘定」
と言って店から出て行ってしまった。
カウンタの奥を見ながらおびえているようにも見えた。

「なんなの?」とみさは困惑しながら自宅に帰った。
帰るとシャップが迎えてくれた。「お帰り、デート失敗したね?」と皮肉っぽく言った。
みさは「どういうこと。誰かが邪魔したのかしら。
私の楽しいひと時を・・誰が邪魔したの?」とぼやいた。
シャップはすかさず みさに食ってかかった。

「みさ、どうして霊能者なのにあんな男にひっかかったの?
 霊視すればすぐにわかるだろ? あんな女たらし。
 それとも、恋すると霊視ができなくなるってこと?」
「うるさいわね。ちょっと話するだけだったのよ。
 男になんかひっかかるわけないわよ。
 あなたが邪魔したの?」
「ダギフ様だよ。みさを守ってくれたんだよ」
「ダギフ様が・・そうなの。だったら本当に悪い男だったのかもね。
 追い払うために強そうな黒人に化けたということね」
「そうじゃないよ。ダギフ様はそんな卑怯な真似はしないよ。
 堂々と本当の姿を現したの」
「ええ、ダギフ様は黒人だったの?」
「そうだよ。そろそろダギフ様のことを知る時が来たのさ
 今日は夢の中でダギフ様がみさと会ってくださると言ってるよ」
「え、本当なの? 夢でダギフ様が会ってくれるの? 楽しみだわ」
「寝る前に呪文を唱えなさい」

みさは夢の中であれ、ダギフ様に会えるかもしれないとワクワクして寝床についた。
そして呪文を唱えたのであった。

「マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ」

念の為に見たい夢を見る数字「599,824,078,748,8」を紙にたくさん書いて枕の下に置いた。
緊張してすぐには寝付けなかったが疲れが溜まっていたため、やがてこっくりと寝てしまった。

 みさは夢の中に居た。夢と分かっていて妙に意識がはっきりしている。
場所は異国の建物の中であった。アフリカ風のエキゾチックな建物であった。
中は綺麗な装飾がしてある部屋であった。
「ここはどこ? 異国? いつの時代なの?」
異国情緒が漂っていたがどこか懐かしさも感じるのであった。
窓の外には砂漠が見える。そしてその向うには海。
「なんて美しい光景なの。こんなに美しい場所があるの?」
と口にしたところ、背後から
「環境汚染される前の地球はどこも美しかったんだよ」と聞こえてきた。
振り向いてみると黒人男性が立っていた。どこかの部族の衣装のようなものを
着て帽子をかぶっている。どれも派手な色彩であるが綺麗である。
男性は長身でがっちりとした体格をしている。顔はモハメドアリのように整っていて
綺麗な瞳をしている。そして全体的に育ちの良い品の良さが漂っている。
みさは「あなたは誰です? もしかしてダギフ様ですか?」と聞いてみた。

「そうだ。ダギフだ。ダギフ・コマンザ。ダギフ族の王子だ」と答えた。
「王子様? ここは何処なんですか いつの時代なんですか?」
「北アフリカだ。もう500年くらい昔だ」
「え、そんな昔・・」

すると外からイスラム教のお祈りの歌が聞こえてきた。
ダギフは「礼拝があるので行ってくる。君は行かなくもよい。待っていてくれ。
その間に鏡を見てごらん。君の500年前の姿だよ」と言った。

みさは部屋にある全身が映る鏡に自分の姿を映してみた。
「え、これが私・・・」と驚愕してしまった。
そこに映った姿は黒人女性であった。背が高く、すらりと長い美脚。
思わず、服を脱いで全身を写してみた。「綺麗な体だわ」
そして顔も信じられないくらいに美人である。
「まるでモデルのナオミ・キャンベルみたい・・」

 そうこうしている内にダギフ様が戻ってきた。
「驚いたかい。君はこの国の中で選ばれた美女なんだよ。
 そして私の妃になる予定なのだ。
 君は単に美しいだけで選ばれたわけではないんだ。
 君はこの国の中でブードゥー教を盛んに信仰している部族の娘なのだ。
 しかも、君の先祖も父も呪術師だった。君も呪術の素質がある。
 私は呪術の力を借りたい。そう願っている。
 イスラムもキリストも、ブードゥーも仲良く共存できる国そして
 誰もが平和に暮らせる国を築きたいのだ」

みさには言ってる内容がよく理解できなかったがダギフ様が強い責任感を
持っている人だということだけは分かった。

 そしてやはり夢の中である。さっきまで外の景色が美しい昼間だったが
いつの間にか夜になっている。
ダギフはみさに優しくささやいた。「もう夜になった。二人の夜だ」
「シャップ、寝室を準備をしなさい」と声を掛けた。
すると黒人の少年が現れた。「ダギフ様、かしこまりました」
歳は15,6歳くらいの可愛い少年である。
「シャップってあの猫のシャップ?」と思わず口にしてしまった。

「お妃様はじめまして、私はシャップです。
 私は王子様だけでなくお妃様にも生涯御使いいたします」
猫のシャップがこんな少年だったと思うと思わず笑ってしまうのをこらえられなかった。
ダギフはシャップに冗談っぽく言った。
「シャップ。お妃様に恋するんじゃないよ」
「めっそうもありません」

続いて寝室に案内された。映画で見たようなエキゾチックな寝室であった。
ダギフはみさを抱きかかえて寝室のベッドの上に乗せた。
そしてやさしくみさの体に触れた。やがて二人は男女の交わりに陥っていった。
みさの体で感じる官能の感覚はとても夢のとは思えないはっきりしたものであった。

そしてみさは目を覚ました。
「凄くリアルな夢。全ての感覚が現実と変わらない。これは夢なの?」
起きてもみさの体は震えている。「夢とは思えないわ」

するとシャップがみさの傍に来て、テレパシーで話した。
「みさ、君はダギフ様に会ってきたんだよ。夢ではないよ」
「昔みたいだったわ。タイムトリップしたのかしら?」
「そうじゃないよ。昔のままの世界があるんだよ。
 現代風になってるけどね」
「そういえば私が着ていた衣装は現代の洋服みたいだった。それに
 全身鏡なんて500年前のアフリカにはなかったわよね。
 それより、思い出した。シャップは黒人の少年だったんだね」

それを聞いてシャップは恥ずかしそうに目をそらした。
「俺は国中から選抜されたんだぞ。優秀だったんだからね」
「でも、可愛い坊やだったわ」
シャップは気恥ずかしさからどこかに行ってしまった。

 それ以来、みさは毎晩のように夢の中でダギフ様と過ごすようになった。
食事をしたり、砂漠や海に出掛けたり、演奏会に行ったりして過ごした。
まるで現実と変わらない食事の味覚、海や風の感覚、信じられないほど綺麗な夜空・・
天国のようであった。しかも自分は絶世の美女・・

「この世よりもこっちの世界の方がずっといいわ」と感じさせるものであった。
言葉通り、夢の世界であった。
何よりもみさをワクワクさせたのはダギフとの愛の交わりであった。

「私の彼氏は2次元の存在でも3次元の存在でもない。見えない世界に居る存在。
 5次元の存在。その彼氏と私は5次元の愛を楽しんでいる」
 
その不思議さと世界で自分だけが得ているだろうという優越感、それが一番の満足であった。
でも疑問に感じることが一つあった。
王子様だったダギフ様はどうして私と最初に会った時「悪魔である」と言ったのだろうか?
シャップやダギフに聞いてみるがいつも二人は口を閉ざして答えてくれない。
「どうしてなのかしら?」これだけはみさには分からなかったのである。

 ある夜、いつものようにダギフ様と夢の中で過ごしていると突然。
家臣の一人がやってきた。「王子様、奴等がやってきました。遂にやってきました」と
興奮して言った。ダギフは突如険しい顔になった。そして震え出した。

みさは「奴等って誰?どうしたの?」と聞いてみた。
ダギフはおもむろにつぶやいた。
「海の向うからきた白人の国の連中だ。奴等は巨大な船や我々が持っていない武器をもっている。
 奴らは周辺の国を荒らしていると聞いている。奴等は我々を滅ぼすかもしれない・・」
と言って悲しい顔でふさぎ込んでしまった。

そこでみさは夢から覚めた。いつもと違って全身汗をかいていて疲れた感じがするのであった。
「どうしたのかしら、何があったのかしら・・」と考えたがみさに分かるはずもない。

 今日も退屈な現実の一日が始まったと思いながら・・テレビをつけて朝の支度を始めた。
ニュースが流れていた。

「現在、北アフリカでは紛争とテロが頻発しています。イスラム国 IS が崩壊した後、
 北アフリカで派生したテロ組織 IGS は驚くべき勢いで勢力を伸ばしています。
 米国のトランペ大統領はIGS撲滅宣言を出しました。米軍総力を投入するとのことです。
 日本にも軍の出動を要請しています。日本政府は米国の要請に従って自衛隊の出動を検討して
 いますが、国会周辺では「憲法違反である」との激しい抗議運動が起きています。

 今、入ったニュースです。テロ組織IGSは声明を出しました。
 「もし日本が参戦するなら日本全土でテロを実行する」との声明です。
 また、IGSは日本語のページを出したとの声明も出しています」

 みさはそれを聞いてつい好奇心からIGSのページをスマホで検索してみた。
するとネットサーフィンを数回繰り返すだけでそのページに到達することができた。
開いてみると、意外にも綺麗なページであった。クールサイトと言う感じである。
しかし、ページから黒っぽいどろどろしたものが噴出しているのが見えた。
それがみさの体に染みついてきた。
みさはすぐさま激しいだるさ、苦しさを感じたのであった。

「HPから悪霊が放出されてるわ。こんな酷いページ、今まで見たことがないわ」
みさはすぐさまページを閉じて、邪気抜きの術を行った。

「怖い集団だわ 日本でテロを起こすなんて・・」
しかし、みさが恐れていることはそれだけではなかった。
このテロ組織と夢で見た王国とが何か関係があるような気がすることであった。
「そんなことはない」とみさは無理やりその思いを否定した。

 みさは夢の世界が乱れてしまったのではないか?
と不安に思ったが翌日の夜からはいつものようにダギフ様が夢の中で迎えてくれた。
美しい風景、エキゾチックな音楽、料理、珍しい美術品や工芸品・・
何よりもみさを楽しませてくれたのは王子様のやさしさと寝室での愛撫であった。
若いみさはこの5次元の愛に満たされて、現実世界の恋愛なんてつまらないと思うようになっていったのであった。

「私の彼氏はこの世のものではない超人。そこいらの男よりずっとカッコいいし、神様みたいな力がある」

みさはそう思うと優越感を感じ、自慢したくなったが流石にこんな話は誰にもできなかった。

 みさはまた、自分が過去にこんな幸せだったと考えることでも慰められた。
 しかし、一方で強い疑いもあった。

「夢の世界はあまりにドラマチックすぎるわ。
 きっとダギフ様が私を慰めるために作ったフィクションなのよ。
 私が王子様の目に留まるほどの美女だったなんてありえないわ」
 
 あまりに苦しい子供時代を過ごして自信を失っているみさは、
 幸せな前世を信じることなどできなかったのである。

つづく

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