本作品は2017年作です。
●宮魔大師 シリーズ●
<第4話 財産なんて金の亡者にくれてやれ!>
霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
「何でも請け負う」という噂が広まっており、宮魔のところにはいわくつきの
お客が多く訪れるようになっていた。
ある日のことである。
宮魔のところに40代くらいの男性がやってきた。
きちんとした身なりをしているが、どろどろしたオーラを放っている。
宮魔にはこの男がやっかいな相談を持ち掛けてくる相手であることが直観で感じられた。
「この男はろくでもない男だ。大勢の人を泣かせてきた曲者だ」
とも感じられたのであった。
男は宮魔に言葉を選びながら何かいいにくそうに相談を始めた。
「はじめまして、伊倉と申します。自営業をしています。
相談があります。私の甥、つまり兄の息子さんのことなんです。
実は、私の兄は2年前に病気で死亡してしまいました。
その1年後には兄の妻も自殺してしまいました。
英太という息子が一人おり、私が引き取って育てています。
今、中学3年生です。そろそろ卒業なので進路を考えてあげている
ところなんです。その子は両親が亡くなったことで心に傷を負っており、
内にこもってる感じなんです。
なんとかこの英太を幸せにしてあげたいと思ってましたら、
良い方が養子にしてくださると言ってくださったのです。
お金持ちの方で、英太をとても気に入ってくださっているのです。
こんないい話はないのですが、先方は娘と結婚して婿入りすることが
条件と言ってるんですね。それがネックなんです。
英太はどうもそこの娘さんが気に入らないみたいなんです」
「それなら諦めるしかないですね。
いくら周りの人がいい縁談だと思っていても本人同志がその気ないならば」
「先方の方も娘さんもとってもいい人なんですよ。
何が気に入らないのか?と不思議に思うんですよね。
そこで宮魔さんにお願いがあるんです。
英太と娘さんの縁結びをして欲しいんです。
以前、あなたが縁結びをしてくれたと人から話を聞きまして。
あなたならできるかもしれないと相談に伺ったわけです」
「術を使うことで縁結びを成功させたことは何度かありますが、
相手の意志を完全に曲げることはできないですよ。
英太さんと娘さんの縁結びが成功するかどうかはわかりません。
とりあえず、見てみますね」
宮魔が霊視をして状況を見てみるとすぐにどす黒いもやのようなものが
見えてきて、男が紳士的に喋ってるのととは裏腹に泥沼の状況が見えてきた。
男は英太を可愛がってなどおらず、いつも虐待している様子が見えてきた。
「お前なんていらない。消えてしまえ」といつも怒鳴っている様子も見えてきた。
英太は厄介者だったのである。
宮魔はちょっと目を怒らせて男に警告のように言った。
「伊倉さん、あなた、きれいごとを言ってましたね。
英太さんの幸せのために縁談させたいなんて嘘でしょ?」
「何を言うんですか!
失礼な方ですね。私を侮辱するつもりですか?
あなたに相談するのは止めます。帰ります」
とむっとして帰ろうとした。
すると宮魔は引き止めるように言い返した。
「伊倉さん、
他所に行ってもあなたの相談に応じてくれる方はいないですよ。
このままだとトラブルになりますよ。英太さんは今危険な精神状態ですから。
私なら何とかできますがね。どうしますか?」
「本当に何とかできるんですね?」
「できますよ。私に任せてください。
もうきれいごとを言わなくてもいいです。
あなたの望みを正直に言ってください。
私はどんな相談にも乗りますから」
「わかりました。
実を言うと私と妻は英太にはうんざりしてるんです。
暗いし、生意気だし、ひねくれているし、いつも喧嘩になります。
本音を言うと早く英太を追い出したいんです。
縁談は英太を追い出す絶好のチャンスなんです」
「それだけじゃないでしょ?
お兄さんの遺産を狙ってますよね?」
「そんなこと・・まあ、あなたには嘘はつけませんね。
確かに兄の財産を頂きたいと思ってます。
兄の商売を引き継ぎたいと思ってるんです。
英太が相続したら財産は無駄になります。
あいつは兄の仕事を引き継げる器じゃない。
けっして英太の財産を横取りしようというわけじゃないですよ。
英太はちゃんと富豪の養子にしてあげるつもりですから」
「なるほど、そういうことですね。
英太さんがその富豪の娘と結ばれれば、万事丸く収まるわけですね。
では、英太さんが娘さんを好きになるように術を掛けましょう」
「英太とその娘は今、一緒の部屋に住まわせているんです。
年頃の二人ですから自然と契りを交わすだろうと思ったんです。
娘さんの両親の合意をもらってます。
契りを交わせば婚約させると言ってくれているんです。
だから、契りを交わすように術を掛けてほしいんです」
「なんだって? 一緒の部屋で契りをさせる?
まるで家畜の種付けみたいじゃないですか?
そりゃ、酷いんじゃないですか?
英太さんを人間として見てないですね」
「そんなことはないです。
契りを交わせば娘さんに愛着が湧くはずだと思って策を練ったんです。
あいつはタイプじゃないとかつまらないこだわりがあるだけですよ。
結ばれればいい夫婦になります。みんなが幸せになります。
英太にとってもいいことずくめです。
多少の策は方便というやつですよ。
術を掛けてください。
部屋には監視カメラが仕掛けてあります。契りを交わしたら
成功ということで報酬を支払いますよ」
「監視カメラ? どういうことですか?
あんた、英太さんを動物扱いしてますね?
ひどすぎますよ」
「つべこべ言わないで、お願いしますよ。
みんながこれで幸せになるんですから」
「未だきれいごとを言ってますね。
本当はあんたがお金を手に入れる為なんでしょ?」
「ちょっと宮魔さん、失礼じゃないですか?
ま、いいか、成功さえすれば報酬を払いますよ。
お願いしますよ」
宮魔は男が甥を人間扱いせずに追い出そうとしており、
財産だけはちゃっかりもらおうとしていることにあきれ果てた。
「最近財産を巡る相談が増えてきたけど、こんなに
酷い話は初めてだ。世も末だな。
今の世の中、人の命も金でしかないわけか。
まあ、この俺も金次第だけどね」
と心の中でにんまりするのであった。
宮魔が英太に意識を向けてみるとかなり心がすさんでいることが
感じられた。叔父さん夫婦とは険悪なようで”思い通りになんて
なってたまるか?”という意固地な気持ちが感じられてきた。
しかし、娘のことは嫌いではないようだった。
寧ろ好意を持っているように感じられるのだった。
娘は心の病から社会に適応できない不登校児だったようである。
しかし、年頃の娘である。英太の気持ちを揺さぶっていることは
まちがいなかった。
そこで宮魔はこの英太の意固地な想いを和らげるようにする術と
娘に対する情欲を刺激する術を掛けてみることにした。
毎晩、それを継続してみた。
10日ほど経って伊倉が再びやってきた。
「宮魔さん、成功しましたよ。契りを交わしました。
二人は夫婦になることになりましたよ。向うさんが婚約させると
言ってくれました。これで万事うまくいきます。
あなたはやはり凄い人です。感謝します」
「良かったですね。これで私の仕事は終わりました」
宮魔は一件落着したとほっとしたが何か胸騒ぎがするのであった。
「これで丸く収まるとは思えない。これから未だ続きがありそうだ」
と予感がするのであった。
予感は的中した。
ある日、驚いたことに、その英太本人が宮魔の元に相談に来たのであった。
英太は宮魔が見立てた通り、生意気盛りの中学生であった。
ちょっと大人っぽい雰囲気があり、容姿はスマートな感じであるが、
顔は暗い感じだった。
英太は、怒りを隠しきれないような感じで宮魔に相談を始めた。
「僕は英太と言います。相談があります。
あなたしか相談する相手はいなんです。
僕の父は2年前に死亡しました。母も死亡しました。
僕はその後、叔父に育てられましたが酷い仕打ちをされました。
毎日、殴る蹴る、暴言を吐かれる日々でした。
叔父の家族はみんな意地が悪い人達ばかりです。
みんな、僕を厄介者扱いしてます。
食事も残り物しか与えてくれません」
英太は涙ぐみながら身の上話を話し続けた。そして急に眼を釣り上げて
怒りをこらえながら恐ろしい話をしだした。
「宮魔さん、僕は知ってます。
僕の父は叔父に殺されたんです。間違いないです。
叔父は父におんぶにだっこでお金をたかる寄生虫でした。
しまいには、父の会社と財産を奪い取ったのです。
父の死は不審なことばかりです。でも、証拠はないんです。
それだけじゃないんです。
残された母にいいがかりをつけて追い詰めたんです。
母は悩み抜いて自殺してしまいました。
こんなひどい話ありますか? 叔父が許せないです」
「警察に言えばいいのでは?」
「言いましたが証拠が無いので動けないと言われました。
僕も殺されそうになったことがあります。そこで友人に
もし僕が不審死したら通報するように伝えてあります。
それを知った叔父は手のひらを返したように優しくなりましたが
財産を狙ってることは変わりません」
「お父さんの財産を相続する権利は君にあるんじゃないの?
叔父さんが奪うなんてできないんじゃないの?」
「僕には法律のことはわかりません。叔父の話だと父は
遺言に自分の会社を継承することに財産を使って欲しいと書いていた
ようです。そこで会社を継ぐことを装って相続したようです。
更に、僕を養子に出して排除しようと画策しています」
「君は養子になるの?」
「ある金持ちが娘の養子を探しているのを見つけてきて、
僕と結び付けようとしてるのです。
その娘さんは心に病を負っている人です。
大人たちは何を企んでるのか僕にはわかりませんが、
僕とその娘さんを無理やり結び付けようと図っているんです。
こんな馬鹿なことってありますか?」
「確かに酷い話だ。世も末という感じだ。
で? 君はどうしてほしいの?」
「どうしたらいいのかわからないんです。
ただ、悔しくて悲しくて毎日苦しんです。
耐えられないんです。
父と母の無念を思うと・・何とか復讐がしたいんです。
どうしたらいいでしょうか?」
「そんなこと言われてもねえ、君が考えるしかないよ」
「なんとか警察に捜査してもらうことはできないでしょうか?」
「もう何年も経っているから証拠がなければ警察は捜査してくれないよ。
まあ、確かにご両親は殺されたみたいだけどね。
私には見えるよ」
それを聞いた英太は激高した。
「やっぱり、そうか、ちきしょー。殺してやりたい。
これから殺しに行ってやる!」
「まあ、落ち着きなさい。
殺そうと思っても失敗する可能性が高い。
叔父だって君が逆上することくらい想定しているはずだよ。
成功しても君が不幸になるだけだ」
「父を殺した叔父夫婦が父の財産で遊んで暮らすなんて
我慢できない。財産は渡さない。絶対に」
「裁判でもする?敏腕弁護士を雇えば取り返せるかもしれない。
でも、相手の方が上手だよ。中学生の君じゃ勝てないね。
それに君はお金持ちの娘さんともう婚約したんでしょ?
世間は”だったらいいじゃない”と思って味方になってくれないよ」
「どうして、婚約のことを知ってるのですか?」
「(冷や汗)そ、それも霊視で見えたんだよ」
「お金が欲しいんじゃないんだ。
父の金を取り戻したいだけなんだ。
父と母は身を粉にして働いて財産を築いたんだ。
遊んでばかりの叔父とは全然違うんだ。
そのお金を叔父達になんか渡したくないんだ」
「なるほど。
では、どうして婚約なんかしちゃったの?」
「僕は叔父が連れてきた娘さんと結婚する気なんかなかった。
大人のおもちゃじゃないって反発してたんだ。
でも、彼女と話をしていて気が変わったんだ。
彼女も可哀想な人だった。
大人たちの思惑に振り回されて傷ついてしまったんだ。
その上、無理やり僕みたいな知らない男とひっつけられるなんてひどい話じゃないか?
僕たちは話し合ったんだ。こんな醜い大人達の下から逃げようって。
財産なんて要らない。二人で逃げようって。
僕は彼女と約束したんだ。一緒になって幸せになろうって。
財産を奪い合う人間達とは無縁の世界に行こうって。
叔父たちは僕らがセックスしたから夫婦になった証だとか騒いでいたけど
僕たちは動物園のパンダじゃない。
二人で結婚することを誓い合ったんだ。だから婚約したんだ」
「ならば、財産は要らないの?」
「財産なんてなくていいいだ。
僕は彼女を幸せにしてみせる。自分の力で。
もうすぐ、二人で旅立つつもりだ」
「良く言った!
その言葉を聞きたかった。
君の力になってあげたくなった。
君の想いを果たしてやろう!」
「でも・・
財産は要らないけど、叔父には渡したくない。
それが心残りで苦しくて、耐えらえないんだ。
どうしたらいいんでしょうか?」
「私が君に代わって叔父達に復讐してあげるよ」
「どうやって財産を取り戻すんですか?」
「先ず、言っておく
財産なんて金の亡者にくれてやれ!」
「ええ? それじゃ復讐にならないじゃないですか?」
「いい案がある。
いいかい? お金はあっても使えなければ意味がないんだ。
叔父夫婦がお金を使えなくすればいいんだよ」
「お金が使えない?どうすれば?」
「つまり、叔父達に寝たきりになって手足も動かない状態になってもらうということさ。
これなら、お金がいくらあっても何も買うことができない。
どこにも行けない。何も楽しいことができない。そうだろ?」
「呪いを掛けて病気にするってことですか?」
「まあ、そんなところだ。
どうやって寝たきりにするかは任せてくれ、私の腕の見せ所だ。
これで、目の前に札束があるのに、それを手にすることも
使うことも何もできない苦しみと絶望を味わう・・
お金があるから諦めることもできない。
金の亡者に対しての最強の復讐だよ。
君のお父さんの財産をこの復讐の道具に使うんだよ」
「ええ、そんなことが・・
確かにお金があって使えないなんて生地獄ですね。
本当に叔父を病気にすることができるのですか?」
「できるさ
君は何もしなくていい。
君は彼女を幸せにしてあげることだけに専念するんだ」
「本当ですか?
ありがとうございます。なんかすっきりしました。
ところで、宮魔さん、呪いもできるんですね」
「実を言うと、私がやるんじゃないんだ。
君の背後に君の両親が居て、復讐したいって言ってるんだ。
私はその手伝いをするだけだよ。でも必ずうまくいくよ」
「そんなに簡単に呪いってできるんですか?
怖いですね」
「普通はできないよ。
普通の人はいろんな存在や力に守られているからね。
でも、叔父さん夫婦は守られてないね。
逆に呪いを応援する存在が一杯いるね。
なんか集まってきたよ。相当恨まれてるね。この叔父達は」
「やっぱりですね。
普段の行いが悪い人達だからですね」
「悪い奴はいざという時に助けてもらえないのさ」
「なるほど」
「君に、一つ、付け加えて言っておく。
ご両親は君には好きなように生きてもらいたいと言ってるよ。
財産のことなんて心配しなくっていいって言ってるよ。
愛する息子に財産残しても不幸になるだけだって考えみたいだ。
だから、もう過去は忘れて未来のことを考えるんだな」
「分かりました。全て忘れることにします。
宮魔さん、光が見えてきました。
何と言ったらいいか・・感謝します。
ありがとうございます。ありがとうございます」
英太は宮魔の前で涙を流しながらお礼を繰り返すのであった。
英太が帰った後、宮魔は独り言を喋り始めた。
「ようし、修行で磨いた腕を発揮する時が来た。
どうやって料理するかな。遣り甲斐のある相手だ、絶対に成功するさ。
ぞろぞろと霊が集まってきたな。お前たちの無念も晴らしてやるよ。
だから手伝ってくれよ」
宮魔は久々の呪いに武者震いを感じるのであった。
おわり
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