本作品は2017年作です。
●宮魔大師 シリーズ●
<第2話 死なせてください>
霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
10年ほど海外で修行をしていたが、今年日本に戻ってきていた。
再び霊能者として営業を開始しているのだった。
口コミで「何でも請け負う」が伝わっていたので
宮魔の所にはいわくつきのお客が多く訪れるようになっていた。
ある日のこと、みすぼらしい格好をした男がやってきた。
一目で仕事をしていない引きこもりみたいな人物であることがわかった。
服装は何年も同じ物を着ているような感じで汚れていて、髪はボサボサ、
髭も手入れをしていない感じである。
年齢は30代に見えるが不健康な感じなのでよくわからない。
疲れ切ったというより、苦しみ切ったという目をしている。
そして宮魔に開口一番、
「お願いだ。俺を死なせてほしい」
とぶっきらぼうに言ったのであった。
宮魔は困惑した。
「死なせて欲しいなんて言われても殺すことはできません。
まずはお悩みを詳しく話してください」
と答えると男はしばらく考えた末に話し始めた。
「俺は子供の頃からずっと問題児だった。短気で暴力的だった。
いつもトラブルばかり起こしていたんだ。
何をしてもうまくいかず、喧嘩ばっかりしているので不良になり、
大人になったらチンピラになるしかなかった。修羅場ばかりの泥沼人生さ。
生きていて何一ついいことなんかなかった。生き地獄さ。
終いには薬(ヤク)に手を出して体がボロボロになり、
家にひきこもっているんだ。親や兄弟に食わせてもらってる糞だよ。
家族に申し訳なくて毎日苦しくて、もうこんな男は死んだほうがいいんだ」
「それで死なせてくれと」
「もっと深刻な悩みがあるんだ。
俺は頭がおかしくなってしまったんだ。
いつも人を殺したいという衝動にかられるんだ。
街にいって片っ端からナイフで人を刺して殺したい、
そんな衝動が俺を襲うんだ。時に我慢できないくらいに
薬の誘惑に負けそうな時もあるし・・
今度薬をやったら本当に人を殺しちまう。
こんな異常者は死んだほうがいいんだ。世の中のためにも。
俺は何度も自殺を試みたがいつもできない。実行しても失敗するんだ。
不思議なくらい失敗するんだ。誰かが邪魔しているみたいに」
「ほう、」
「きっと誰かが守護しているんだろう。神仏とか守護霊とか・・
でも、人を殺してしまったらもっと大変なことだ。
だから俺を殺してほしいんだ。呪いをかけてほしいんだ。
こんなことをお願いできる霊能者はあなたしかいない」
「わかりました。まずは原因を見てみましょう」
宮魔が霊視すると男に江戸時代の女性のような姿をした霊が憑いてるのが見えた。
「あなたには3人の女性の霊が憑いてます。恨みが強い霊ですね」
と言うと男は宮魔のことを「信頼できる能力者」と思ったのか?
襟を正して話すようになった。
「やはり、そうですか、あなたは本物の能力者ですね。
別の霊能者にも同じことを言われました。
原因は先祖にあると言ってました。でも、そんな家系にうまれた
私も同じ因果をもっていると言われました。
解決不可能とも言われました」
「確かに解決は不可能です。たんなる霊障とは違います。
霊はあなたの体に入り込んで一体になってます。おそらくあなたが
母親のお腹にいた時から憑りついていたのでしょう。」
「きっと私は前世で罪を犯した極悪人なのでしょう。因果応報というやつです。
もう、何もかも諦めています。子供の頃から苦しいだけの人生でした。
こんな泥沼の人生を早く終わらせたいです。とにかく殺人だけは避けたいんです。
ワルでチンピラだった私でも無関係の人を殺すなんて耐えられない。
それだけはしたくない。家族に迷惑かけるのだけはしたくない」
「何故、霊が憑いてるのか?もう少し詳しく見てみますね」
宮魔が霊視すると憑いてる霊の原因が物語のように見えてきたのだった。
それは、江戸時代のことであった。
ある城下町でのこと、ある商人が街の一等地に店を広げて儲けることを
計画していたが、そこには既に屋敷を構えている人がおり、土地の売却に
応じてくれなかった。強情な人だったので喧嘩になってしまった。
そこでこの商人は役人とつるんで策略をめぐらしたのであった。
屋敷の主人を無実の罪に陥れて投獄し、土地を没収するという卑劣な策であった。
役人の利害とも一致したため、この策は成功したのである。
結果、屋敷の主人の家系は没落することとなった。主人が投獄されて土地も屋敷も
没収されることになり、家族は離散した。
哀れなのはその主人の3人娘であった。
商人は屋敷の主人にむかついていたので腹いせに娘を女郎屋に売る策略までしたのである。
しかも、もっとも評判の悪い女郎屋へ。
何の罪もない娘たちが突然、救いのない地獄に落されることになったのである。
「どうして私達がこんな目に遭わなければならないの」
と嘆き悲しんだがどうにもならない。3人は奴隷のように働かされることになった。
あまりの苦しさに3人はある時、女郎屋を逃げ出す。
しかし、3人には行く宛てはない。いずれ追っ手につかまり連れ戻される。
そして酷いリンチを受けることになる。もう選択肢は二つしかない。
再び地獄の日々に戻るか、死ぬかである。あまりに酷い現実であった。
3人は絶望の末に入水自殺することを決心したのだった。
その時、硬い約束をしたのであった。
「絶対に復讐しようね。我が家を潰したあの男の家系に。
滅ぼすだけじゃすまない。
子孫に未来永劫の苦しみを与えよう」と
まもなく策略を図った商人は病に伏して死亡したが、復讐はそれで終わらなかった。
それから時が200年ほどが過ぎた現代。
商人の子孫は細々と生活していたが、その中に精神病を患っている
女性がおり、ヤクザみたいな男と結婚した。最悪のカップルだった。
やがて、女性は子供を妊娠した。その子こそが相談にきた元チンピラであった。
3人の霊はこの子供に目を付けており、200年も待ち望んだ絶好の機会を得たのであった。
「この子に憑いて操れば復讐を果たすことができる。
世にもおぞましい復讐を果たせる絶好の子供。
この子が世を戦慄させる犯罪を犯せば、
この家系は天下に恥を晒して全員が苦しみ抜くことになる」
「そういうことか」
宮魔は事情を理解した。
「こりゃ、恨み骨髄だ。説得は不可能だな」
それを聞いた男は問いただした。
「どういうことだったのでしょうか? 教えてください」
「あなたの先祖が人を騙して土地を奪い取ったのです。
その人の娘達が女郎屋に売られてしまい、恨んでいるのです。
あなたが苦しむように、犯罪者になるように操っているのです」
「やはりそうですか、私の家系の罪なのですね。
それは仕方ありません。いわゆる因縁ですね。
私も業が深い人間なんですね。だからこんな目に遭うわけですね?」
「それを見てみますね」
「宮魔さん、私はこう思うんです。
私はきっと3人の女性を苦しめた悪党の一人だったのだと思います。
だから霊に憑りつかれる因果を負ったのだと思います。
他の悪党連中も一緒にこの世に生まれていて、私が殺すというシナリオ
なのだと思います」
宮魔は目をつぶってしばらく霊視をした後、口を開いた。
「あなたが想像している物語は安っぽいドラマにすぎません。
本当のことを教えてあげましょう。
霊が復讐しようとしてることは確かですが、
あなたは霊を苦しめた悪党の一味ではありません」
「では何の因果があるというのでしょうか?」
「何も因果なんてありません」
「じゃあ、どうしてでしょうか?
私は前世で悪人だったんでしょ?」
「いいえ、あなたは前世で罪を犯していません」
「では、どうして?」
「あなたは自らの意志であなたの肉体に入ったのです」
「そんな馬鹿な。苦しむことがわかっていたのに?」
「そうです。分かっていました」
「そんな馬鹿な?
もしかして、これは修行? 敢えて苦難を背負うみたいな」
「いいえ、そうではないですね」
「では一体どうしてわざわざ苦難の人生を・・」
「あなたの魂が入った瞬間の気持ちを見てみました。
あなたがこの肉体に入った理由は、ただ一つ、
この肉体の未来があまりに悲惨なので助けようとしたからです。
あなたの家族も。みんないい人だったでしょう?
だから悲劇を避けてあげたいと思って生まれてきたのです」
「ええ、そんなことを?」
「あなたはそういう優しい人なんです。
あなたは未来におきる惨劇を身をもって防ぐ為に生まれたのです。
それが人生の目的だったんですよ」
「何故?私の家系に恩義があったということですか?義理?恩返し?」
「いいえ、何の関係も縁もありません」
「では、どうして・・・何も関係がないのに・・
そんなことがあり得るんですか?」
「あるんです。もう一度言います。
あなたは自分の意志でこの肉体に入ったのです。
何の関係もない、見ず知らずの人達を悲劇から救うために。
事実は小説よりも奇なりです。
あなたはあなた自身、その家族、加えて無関係の人達が
奈落の底に落ちる未来をあの世で予見した。
それを哀れに思ってこの肉体に入ったのです。
あなたには悲劇を阻止する力があったからです。
もちろん地獄の苦しみを味わうことは分かっていました」
「信じられない、そんな損な選択をするなんて。
何の義理もないのに・・」
「それがあなたという人なんです。
あなたは一度も自分を誉めたことがなかったみたいですね。
今、ここで自分のことを褒めてあげてください。立派な決意だったと。
あなたの想いはしっかり神仏が見ています。
あなたは死後、神仏や多くの霊から祝福されますよ」
「そうだったのですか・・
ありがとうございます。
今まで霊能者に地獄に落ちるとか
前世で極悪人だったとか散々言われてきました。
宗教の本をいろいろ読みましたが、どの本にも苦しみは
因果応報だと書いてありました。
当然私は極悪な魂で、地獄に行くものだと思っていました。
そうじゃないなんて・・こんなうれしいことを教えてくれたのはあなただけです。
暗闇に一つだけ光が差したみたいな気分です。ありがとうございます。
もう一つ質問してもよいですか?
どうして神仏は私の自殺を何度も邪魔したんでしょうか?
殺人を犯すかもしれないのにどうして生きなければならないのでしょうか?
やはり、どんな理由があっても死ぬことはいけない事なのでしょうか?
神仏に聞いてみたいんです」
「それは誤解ですよ。
あなたの自殺を妨害したのは神仏でも守護霊でもありません。
憑いてる霊です。あなたには殺人犯になってもらわないと困るから」
「な、なんてこった。
恨みの霊が私を助けた? 私を人殺しにするために・・」
「そうです。それが本物の怨霊というのです。
化けて出る霊は本物の怨霊ではありません。
本物は決して正体を明かさずに陰謀を図ります。
あなたに憑いている霊は本物中の本物の怨霊なんです。
本物は、策の為に幸せや成功を与えることだってあるのですよ」
「怨霊に本物なんて笑ってしまいますね」
「神仏はむしろあなたを早く楽にしようとしていたのです」
「そうだったのですか・・驚いた」
「大丈夫です。
私があなたを死なせてあげますよ」
「呪いを掛けてくれるんですね」
「いや、そうではないです。霊の力を一時止めるだけです。
それだけで、あなたは神仏の加護によって死ぬことができます」
「なんだか、おかしな話ですね・・
恨みの霊が命を救って神仏が死なせてくれる・・」
「そうですね。
神仏の仕事は人間の頭では理解できないものですよ。
1か月以内にあなたはコロっと苦しまずにあの世に行けます。
今から準備しておいてください」
「本当ですか?
何だか信じられないですが救いはあなたしかありません。信じます。
ありがとうございます。また何かあったら連絡します」
それから数週間が経ったある日、宮魔に電話が掛かってきた
相談に来た男の家族からの電話であった。
出ると、男が突然死したという知らせであった。
宮魔の電話番号を書いたメモを持っていたから連絡したとのことであった。
宮魔は男の葬式に参列した。
小さな部屋の小さな祭壇に男の遺影が飾ってあり、
参列者は家族の他には宮魔しかいなかった。
家族は宮魔に気づかいもせず「これで厄介なのがいなくなった」などと
ひそひそ話をしているのが聞こえてきたのだった。
宮魔は祭壇に向かって焼香をし、祈りを捧げた。
そして祭壇の前に立っている男の霊に心の中で語り掛けた。
「皆さん、あなたを良く思っていないようですが、
私は本当のことがわかりますよ。
あなたは心の綺麗な人です。聖者みたいな人です。
よく耐えましたね。よく頑張りましたね。
立派に人生の使命を果たしましたよ」
おわり
(注)不幸な人=前世で罪を背負った人 とは限らないのである。
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