本作品は2022年作です。
●霊界のお仕事人(アフター・ライフ・ワーカー) シリーズ●
<第一話 あの世にも仕事があった!?>
名栗勇樹は20代のしけた男である。仕事はフリーアルバイトである。
日雇いの3K仕事が多い。仕事がない日もある。
その為、食べる物も買えない時がある。
汚いアパートでギリギリの生活をしているのだった。
唯一の楽しみは、スマホでSNSを楽しむことである。
やることと言ったらスマホをいじって過ごすだけ。ほかに何もしない。
するお金もない。それだけが慰めであった。
こんな男だが、SNSでは他人を励ましていて、好かれていたりする。
毎日、過去を思い出しては、悔しさ、辛さを感じて泣きたくなる。
でも諦めない。きっといつかもう一度幸せを手にできると信じている。
そういう前向きさは持っている男である。
「俺は、昔輝いてたよなあ。
会社の営業部でトップの成績だった。
商談をまとめる達人と言われた。
出世間違いなしと期待されたなあ。
あの頃は楽しかったな。
あの事件さえなければ・・・
あんな苦しい想いを誰にもさせたくない。
俺は苦しんでる人の味方になってあげる」
といつも同じことをつぶやいているのだった。
勇樹がつぶやいた「あの事件」とはサラリーマンだった頃のある日、
満員の通勤電車に乗っていた時に起きた出来事のことである。
女性が痴漢の被害に遭ってるのを発見してしまったのだ。
何者かの手が女性の体を触っているのが見えたのだ。
「あ、痴漢だ。こいつを捕まえてやる」
と手を伸ばして犯人の手を捕えようと勇樹が手を伸ばしたところ、
丁度、女性が勇樹の手を握った。そして上に上げて、
「この人、痴漢です!」
と女性が声を上げた。
本当に痴漢をしていた奴は急いで手を引っ込めた。
この人だかりの中のどいつの手なのかはわからない。
その直後、勇樹は周りの人達に取り押さえられて警察に補導された。
勇樹は「私はやってない。犯人を捕まえようとしたんだ」
と言っても警察は聞いてくれない。
ただ「白状しろ」と責めるだけである。
これが何時間も続いて勇樹は根負けしてしまい、
「私がやりました」と署名してしまった。
その後、起訴もされず、罰金だけで済んだのだが、会社から解雇されてしまった。
その後は、どこも雇ってはくれない。
劣悪なアルバイトみたいな仕事しか就けない。
身内や近所の人達からも冷たい目を浴びせられて針の筵である。
「あの女の責だ」と怒りが沸いてくるが、
「いや、あの女性には罪はない。俺の運が悪かったんだ」
「あの時、犯人を捕まえようとしなければよかった」
「いっそ、死のうか?」
「いや、人のために尽くしていれば、いつか無実を信じてもらえる」
いつもそんな堂々巡りを繰り返しながら気持ちを立て直した。
SNSでは同じような理不尽な苦しみを味わっている人達に同情と励ましを
するのが日課となったのである。
勇樹が励ますと気持ちが安らぐと多くの人が報告してくれるようになり、
それが勇樹の生き甲斐となっていたのである。
SNSではYou樹と名乗っており、
「You樹さんは不思議な力があるよね。
人の心を楽にするというか、そんな力が・・・」
そう言われるのだった。勇樹自身も何故だろうか?と思うところがあった。
ある日、SNSで親しくなった人からメールが届いた。
何でもその人は父親が経営している会社の跡継ぎに任命されたとのことだった。
一時はどん底に落ちていたが勇樹に励まされて頑張った結果、会社の経営が
うまくいき、父親が後継者にしてくれたとのことである。
メールには
「これもYou樹さんのお陰です。あなたは私の恩人です。
是非、あなたに私の右腕になって欲しいんです。
営業を担当してください。あなたが痴漢などする人ではない
ことは100%信じてます。是非我が社に来てください」
これを見た勇樹は飛び上がった。
「やったチャンス到来だ。信じた通りのことが起きた!」
さっそく町に繰り出し、祝杯を挙げて夜通し飲み続けた。
やがて意識がもうろうとしながら、帰宅途中のことであった。
歩道橋の階段を何とか登り、降りようとしたとき、ふらりとバランスを
崩して階段を転げ落ち、頭を強く打ってしまった。
そしてそのまま、死んでしまったのである。
勇樹の意識が目覚めると、あんなに泥酔していたのに何故か体が軽い。
そして、お花畑のようなところに居る。
「どうしたんだ。確か飲んで帰宅する途中だったはずだが・・」
すると次から次へといろんな人達が代わる代わる勇樹の所へ訪れては
「ううん、ちょっとカラーが違う」
「ちょっと我々とは合わない」
などと言いながら去っていく。
「なんだ、おまえらは? ここはどこだ?」
と勇樹が叫んでいるとある人が近づいてきて話しかけた。
「勇樹さん、あなたは死んだんですよ。
ここはあの世ですよ。
我々はあなたを仲間にすべきか?
定めるために来ています。
あんたは、心がいじけているが前向きな人だ。
世話好きだな。その上仕事が好きだね。
我々の仕事に役立ちそうだな」
「あの世だって? 聞いたことがあるが、
本当にあったのか? おれは臨死体験してるのか?
だったら、現世に戻してくれ。
せっかくいい仕事を手にできたんだから」
「臨死体験じゃないよ。
あんたはもう死んだんだよ。
もう戻れないよ。
早く諦めなさい」
「何でだよ。
せっかくチャンスが巡ってきたのに。
こんなのひどすぎるよ」
「あきらめろ、
あんたが酒を飲み過ぎたせいだよ。
その分、こちらの世界で働けばいい」
「あの世にも仕事があるのか?」
「あるよ。ほとんどの霊が働いてるよ。
ただ、現世と違って働くも働かないのも自由。
何もしなくても生きていける。
だが退屈で、何かをしたくなるものさ。
やりたい仕事だけを無理せずやればいい」
「営業もあるのか?」
「ううん、あると言えばあるが、あんたには
人助けをしてもらいたい。苦しんでる人のな。
どうだ?」
「ああ、いいよ。それでお金が稼げるならな」
「あの世ではお金を稼ぐ必要なんてない。
仕事をすればするほど、幸福感が増えるんだよ」
「そうなのか? 幸福感? 遣り甲斐とか、評価とかか?」
「まあ、そんなとこだ。
役に立つことをすればするほど
自分が満足できて、運気がアップする」
「運気だって?ドクターなんとかの風水か?
そんな気休めより、大事なのは金だよ」
「あの世では運気、すなわちエネルギーが金と同じ力を持つ。
運気が上がると何をしてもうまくいく。
逆に運気が悪くなったり欠乏したりすると
何をしても歯車が合わず失敗する。
現世ではよくわからなかっただろうが、あの世では
はっきりこれが形になるんだ。運気=幸せなのさ。
役に立つ仕事をすればするほど、その運気というエネルギーが
たくさんもらえるようになっているのさ」
「へえ、面白そうだな。
運気とは電子マネーみたいなものか。
働くほどもらえるってことか。
わかった」
「もう、現世への執着は消えたか?」
「俺を抜擢してくれた社長さんに申し訳ない」
「明日お前の葬儀があるようだ。
社長さんにお別れしてこい」
「うん、本当にすまないなあ。
何で飲み過ぎたのかな、俺って馬鹿だな」
「後悔したところでどうにもならん。あきらめろ。
ところで私はモグロだ。模黒才気という名前だった。
モグロと呼んでくれ。お前よりも30年ほど早くこちらに来た」
「モグロさん、よろしくお願いしますよ。
しっかし、ダサい格好だな。競馬場に来てるおっさん達みたいだよ。
俺みたいにカジュアルスーツで決めたらどうだ?
あれ、何で俺はスーツ着てるんだ」
「見た目はその人の心を現わしてるのさ。
私はこういうラフな格好が落ち着く。
あんたは営業の時のその派手なスーツが気に入ってたんだな?」
「名乗るのを忘れていた。俺は名栗勇樹だ。
というかあんた既に勇樹と呼んでいたな?
なんで名前を知ってるんだ」
「あんたのスーツに名札が付いてるからだよ」
「あれ、サラリーマンの時の名札だ」
「はは、よほどサラリーマン時代が忘れられないようだな」
「さあ、私のエリアに来てもらおう。現世で言えばオフィスだな」
モグロに言われて瞬間移動のように別なエリアに移動した。
そこは本当にビルの中のオフィスのような所だった。
「モグロさん、あの世の世界というから、もっと魔法の世界
みたいなのを想像していたが、現世と変わらないじゃないか?」
「あの世は現世と変わらないの。
正確に言うといろんな時代のいろんな社会が再現されている。
そこに住む霊達の記憶が作り出した世界だからな」
「他にもいっぱいオフィスがあるなあ」
「いろんな部署、チームがある。現世のあらゆる分野のサポートを
しているんだ。学問、芸術、文化、政治、経済、農業、スポーツ・・・
現世にあるあらゆる分野の専門チームがあるんだ。
みんな、それぞれの分野で現世を支援している。
我々の部署はどん底で苦しんでる人を支えることだよ。
いわば、排水溝の掃除だ」
「あんたセンスないな。排水溝の掃除なんて言うなよ。
苦しんでる人を救ってるなら、救世騎士団とでも言ったらどうだ」
オフィスには2人ほどが居て仕事をしている。
一人は何故か机ではなく、畳を敷いてそこに座禅のように座っている。
もう一人はおばさんである。頭が切れそうだが何か異様な雰囲気がある。
第一印象は変人達である。モグロの第一印象もそうだった。
「考えてみれば俺も変人だ。人の事は言えない」と文句は言わないことにした。
2人は勇樹に気づくと軽く会釈をした。
それだけで互いのプロフィールが脳裏に流れる。
「モグロさん、ここは脳内インターネットが実現してるのかい?
皆さんと脳内でコミュニケーションできたよ」
「あの世ではこれが当たり前だ。言葉を使わなくても交信できる」
「パソコンがある。インターネットがあるのか?」
「我々はパソコンがないと落ち着かないからあるだけだ。
パソコンがなくても何でも情報を頭の中で検索できる」
「おお、脳とネットワークが繋がってるわけだ。すごい」
「モグロさん、ところであんたが社長か?」
「この部署のリーダーだよ。
我々の社長はあれだ」
と言って窓の外の太陽を指さした。
「太陽か?」
「神様だよ」
「聖書に書いてある天地創造の神とやらか?」
「うん、それがよくわからない。
私の同期で他所の世界に配属された奴の話だと
そこの太陽とここの太陽は微妙に違うらしい」
「神様がいっぱいいるってこと。
ということは神道の八百万の神の一人?」
「俺にそんな難しいことを聞くなよ。シンリに聞け」
「シンリ?」
「そこに居る畳の上に座ってる男だ。行者だった男だ」
「このカッコつけた奴だな。
わざと聖者みたいな汚い格好して髪とヒゲを伸ばしてる
気取ってるところが気に入らないな」
「シンリは凄い術が使えるんだぞ。
お前はしばらくシンリと一緒に仕事することになる」
「さっそく仕事をしたい。いいですよね?」
「勇樹、お前はまだ死んだばかりだぞ。
普通はしばらく現世にとどまっていたり、
行ったり来たりして迷ってる時期だぞ。
いわゆる49日ってやつだ」
「俺はもうあの世とやらに住む覚悟ができた」
「切替えが速いやつだな」
「冤罪の人生をリセットできたんだ。
もう現世に未練はないぜ」
「そうか、仕事はな、お前のやりたいことを脳内で探せ、
それを申請しろ、私がOKしたら着手していい」
勇樹がやりたい仕事と念じるだけで机の上のパソコンのモニタに
様々な映像が見えてきたのが見える。その中でショックで震えている
若い女性の姿が見えた。どうやらひったくりに遭いPTSDになってしまった
ようである。
「これは可愛そうだな。何も悪い事してないのに。
この人を慰めてやりたい」
と思ったところ、モニタに字幕が流れた。
「これは未来の映像、未だひったくりには遭ってない。
事件を未然に防げ!」
「よし、ひったくりを防いでやる」
と決断してモグロに申請した。
「いいだろう。女性が事件現場に立ち会わないように導け。
どうやればいいかわからないだろうから、
シンリに手伝ってもらえ」
とモグロは許可を出してくれた。しかし、勇樹は納得できない。
「この人を事件から遠ざけても他の人が被害に遭うだけじゃないか?
ひったくり犯を倒さなければ意味がない」
と考えた。そこでシンリに相談してみることにした。
「はじめましてシンリさん、手伝ってもらえませんか?
ひったくり犯を退治したいんだけど」
「おう、勇樹さん、こちらこそはじめまして。
退治なんてしていいのかな?
でもひったくりは許せんな」
勇樹がひったくり犯のことを考えただけで、
パソコンにその男の映像が映し出された。
男は過去に何度もバイクに乗って女性のバッグをひったくりしていた。
しかも、男はゲームのように楽しんでるのが見えた。
自分は獲物を狩るイーグルだと思ってるらしい。
定職につかないふらつきであり、ひったくりで稼ぐつもりである。
「俺はザ・グレート・イーグルの血を引いてるのさ。
獲物を狩る野生の血が騒いでたまらん。
女の悲鳴は、たまらない。やめられない快感だぜ。
俺の狩りの腕前は誰にもマネできねえのさ。
これでたんまり稼いでやるのさ。
人に使われて働くなんてもうたくさんだ。俺は実力で稼ぐ」
勇樹はこの男の映像を見て、強い怒りを覚えてしまった。
「ひでえ奴だ、許せない。痛い想いをさせてやりたい」
シンリもそれを見て怒りを感じたようである。
そして今、男が、まさにひったくりをしようとしている。
勇樹はどうしたらいいのかわからない。
「シンリさん、どうしたらいいの」
「バイクがひったくりする前に俺が目の前に姿を現して妨害する」
「いや、そんなことをしてもまたひったくりを繰り返す」
「そうだな、どうしたらいいかな。そうだ
ひったくりをした後にバイクを倒すのはどうだ」
「それじゃ、女性がトラウマになってしまうじゃないか?」
「勇樹、あんたは女性に乗り移って意識を失わせればいい。
得意技だろ?」
「何でそんな特技が俺にあるなんてわかるんだ」
「俺は修行マニアだからわかる。
男が転倒している間にあんたが女性に乗り移って報復するんだ」
「そんなことできるのか?」
「できるさ。あんたは才能がある。
女性の意識を失わせれば何も覚えてない。あんたならできる。
女性はサッカーをやってる。蹴りをお見舞いしてやれ」
「わかったやってみよう」
まず、勇樹が女性に乗り移り、意識を乗っ取った。
直後、男は女性のバッグをひったくりして逃走した。女性は抵抗もせず、
顔色一つ変えなかったので男はびっくりした。「なんだこの女!」
逃走中、目の前にシンリが姿を現した。男は人が飛び出してきたと
驚いてハンドルを回転させて壁に激突し、転倒した。
その衝撃で足を痛めてしまったようである。
男は足を抑えて「痛い、助けてくれ」と叫んでいた。
女性はゆっくりと転倒した男に近づいていった。
すでに意識を失っている。勇樹が入りこんだからである。
「不思議だ。シンリの言うとおりだ。
女性を操ることができた。
よし、こいつに裁きを下す」
勇樹は女性の体を操り、バイクの男からバックを奪い取った。
男は足が痛いらしく、座り込んで足を抱えて苦しんでいる。
「た、たのむ、救急車を呼んでくれ、助けてくれ」
しかし、女性は男が痛がっている足に思いっきりジャンプして
乗っかり痛んでいる足を踏みつけた。
勇樹が怒りをぶつけたのである。
男はギャーと悲鳴を上げた。勇樹は女の体を借りて男に言い放った。
「男の悲鳴を聞くのはきもちいいなあ、やめられないぜ」
そう言ってもう一度、ジャンプして足に乗っかった。
足がブキブキッと鈍い音を立て、男は大声で悲鳴を上げた。
男はヘルメットを脱ぎ、女に土下座するような格好をして頭を下げた。
「わるかった。ゆるしてくれ、もうやめてくれ、お願いだ。
助けてくれ、すぐに救急車を呼んでくれ〜
足が死ぬほど痛い〜」
と懇願した。恐怖で涙を流している。
そこへ女性は助走をつけて駆け寄り、男の頭を思いっきり蹴り上げた。
そして女は「自分で救急車を呼べよ」と言い放った。
女性はサッカークラブのメンバーであり、蹴りの威力は相当なものであった。
この蹴りによって男は後ろに吹き飛ばされて気絶した。
女性はそのまま歩いて帰っていった。
しばらくすると女性は意識を取り戻した。
「今、何があったのかしら。なんかあったような。
意識がふっとんだような。ショックを受けたような・・・
でも、シュートを決めたような爽快感も・・
足が痛い・・何でだろう?」
首をかしげながら帰途についた。
それを見てモグロが飛んできた。
「おい、お前ら、ひったくり犯に制裁を加えたな。
それはやってはいけないことだぞ。
裁くのは俺たちの仕事じゃない」
「いいだろ、こんな悪いやつ。自業自得だ」
「ダメだ、今回だけは見逃してやるが、
今度やったらこの仕事から外すぞ」
「そんなに怒らないでくれよ。
女性がトラウマにならないようにしただけだよ」
「いいか、こっちの世界では言い逃れは通用しない。
嘘は全て見抜かれる。よく覚えておけよ」
つづく
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