本作品は2020年作です。
●宮魔大師 シリーズ●
<第11話 トラブルの絶えない職場>
2018年も半年が過ぎようとしているある日のことである。
宮魔はお客を待って部屋でくつろいでいた。
「もう今年も半年が過ぎようとしている。今回は年を越せるだろうか?
あのヒロシに会ってからというもの、この俺も2017年を10回繰り返えす羽目に。
おまけにやっと2018年に年越しできたと思っていたら、また2018年の正月に戻ってしまった。
ヒロシの病気がうつってしまったのか?
なんでヒロシはこんな変な病気になってしまったんだ?」
宮魔はしばしヒロシのことを霊視してみた。すると・・
「以前には見えなかったが・・今の俺には見えてきた。ヒロシの秘密が・・
そうかそうだったのか?だから年を越せなかったわけか。ということは・・」
霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
「何でも請け負う」という噂が広まっており、宮魔のところにはいわくつきの
お客が多く訪れるようになっていた。
その日、若い女性が相談に来たのだった。その女性は美代子と名乗った。
大人しそうな女性である。おもむろに宮魔に相談を告げた。
「あのう、相談があるんです。
私の職場についてなのですが、ちょっと変なんです。
私はある営業所の庶務をやっています。今年採用されたばかりなんです。
庶務と言っても誰にでもできる雑用しかしてないんですけど。
とてもいい人ばかりの職場なのですが、いつもトラブルばかり起きてるんです。
もしかして祟りとかがあるのでは?と心配しています」
「どんなトラブルですか?」
「電話を取るといきなり怒鳴る人がいるんです。
それがもう毎日のようにあるんです。
私、ショックを受けてしまって。
そしたら事務所の人達が電話に出なくていいよと言ってくれたんです。
みんな優しいんです。でも、変ですよね?
それから、時々ヤクザみたいに怖い人が事務所に怒鳴り込んでくるんです。
怖いと思う時があります。でも、みんな平気なんです。
脅迫状も来るんです。先日は爆弾騒ぎまで。結局イタズラでしたけど」
「ううん、何かあるのかな?」
宮魔はしばし、彼女の勤めている事務所を霊視してみた。すると見えてきた。
「美代子さん、
あなたの勤めている会社は危険な仕事をしている会社です。
何を扱っている会社なのですか?」
「何度か説明してもらったのですが、とても凄いハイテク技術を販売してるんだそうです。
なんでも、水からイオン分解とか・・で電気を発生させる装置だそうです。
見せてもらいました。水を入れるだけで電気が発生するんです」
「それだ。それが危険なんだよ。
だから、狙われているんだ」
「どうしてですか?
環境によいものだって言ってました。
いいものを広めようとしているのに何故狙われるんですか?
みんな素直で真面目な人達ばかりです。
環境問題を解決したいって言ってました。それが何故?」
「だから危険なんだよ。
石油や原子力の利権を持つ人達がだまってるわけないだろ?
利権を持つ人達にとって、君の会社は邪魔者なんだよ。
潰して闇に葬ろうと考えてもおかしくない」
「そういうことだったのですか?
じゃあ、財閥とか権力とかから狙われているという事ですか?」
「たぶん、そうだと思う。
何か巨大な力が狙ってるように見えるんだ。
黒くて大きなものが襲い掛かろうとしてるビジョンが見えるんだ。
君は会社を辞めた方がいいよ。関わらない方がいい」
「でも、私が逃げたらみんなショック受けると思うんです。
それに・・宮魔さんはもう見抜いてると思うので告白します。
私、営業所の英治さんと付き合ってるんです。一緒になりたいんです。
初めてなんです。こんな気持ちになったの」
「付き合ってると言ってもまだ友達程度だろ?」
「そうなんですけど、毎週二人で会っています。
英治さんはとても優しい人なんです。
私が引きこもりだったと告白したら、じゃあ青春時代を取り戻そうって
いろんなところに連れて行ってくれたんです。
本当に私のことを気遣ってくれているんです。
彼のやさしさが怖いと感じるくらいなんです。
彼だけでなく、みんな優しい人達ばかりなんです。
私、今までにこんないい人達の職場って経験したことないんです。
こんなにいい人達が・・狙われるなんて許せないです。
何とかならないでしょうか?」
「ならないよ。それが現実だよ。君は逃げた方がいい。
君が敵に逆らっても何もならないよ。
それよりも自分自身を守るべきだよ」
「確かにそうね。
何の能力もない私には何もできませんものね。
でも、辛いです。
こんな私を採用して大事にしてくれた会社を見捨てるなんて
それに、他所でやっていく自信もないんです」
美代子は泣き出してしまった。泣きながら自分自身のことを語りだした。
「私、ずっと引きこもっていたんです。ずっと心の病で」
「あなたが心の病を抱えていることは見えましたよ。
学生時代に辛い想いをしましたね」
「わかるんですか?凄いですね。
そうなんです。
すいません。心の中の苦しみを・・吐き出させてください。
私は小さい頃、テニスに夢中になってました。
大人たちは才能があるって私のことを期待してくれました。
将来プロになれるかもって周りの人が言ってくれました。
そんな期待を背負ってしまい、ひたすらテニスの練習に打ち込みました。
何もかも犠牲にして練習だけをしていたんです。
その結果、県でトップのテニス部の高校に推薦で入ることができたんです。
私はそこで必死に頑張りました。
そのためか1年目で目立ってしまったんです。
それがよくなかったようです。私って世渡りが下手なんでしょうね。
先輩やコーチから嫌われてパワハラを受けてしまったんです。
酷いものでした。私を潰すためのイジメでした。
でも、周囲の人達の期待があるのでテニスを辞めることもできない。
じっと耐えました。
でも、ついに耐えられなくなって心の病気になってしまったのです。
うつ状態で何もできなくなり、テニス部も学校も辞めるはめになりました。
唯一の特技だったテニスもトラウマで出来なくなってしまったんです。
もう私には何もなくなってしまい、引きこもってしまいました」
「そうだったのか。辛かったね。
俺の息子を思いだすよ。
スポーツの世界もトップクラスともなると醜い競争の修羅場さ。
周囲の勝手な期待によるプレッシャー、
足の引っ張り合い、パワハラ、嫉妬、イジメ・・
息子はそんな醜い競争に振り回されてしまったんだ」
「宮魔さん、息子さんがいらっしゃったのですか?
テニスをしてたのですか?」
「もういないよ。死んでしまったよ。
息子はテニスじゃなくてバスケをやってたんだ。
死んだのは俺のせいさ。
俺は商社に勤めていた。世界各地に販路を広げる先鋭部隊だった。
世界中を回ったよ。その為、家にはほとんど帰らなかったな。
仕事のために家庭をおろそかにしていたわけだ。
息子の面倒なんて、ほとんど見なかった。
息子はバスケの才能があったから、
俺は、バスケに没頭させておけば手が掛からないって手抜きしていたのさ。
ひたすら期待を裏切るなってプレッシャー掛けてバスケをやらせていたんだ。
息子は期待に応えようと必死に努力したんだよ。君みたいにね。
息子もトップレベルの高校に入ったんだ。
ところが息子はそこのキャプテンや監督に嫌われてイジメられたのさ。
息子は要領が悪くてアスペルガーみたいなところがあったからね。
相当酷いパワハラやいじめを受けていたらしい。
ある時、息子は俺に苦しい心の中を打ち明けたんだ。
バスケを止めたいって言ったんだ。
俺は・・その時、息子の話をロクにきかずに叱ってしまったんだ。
根性出せって、期待を裏切るなって怒鳴ってしまったんだ。
それで、息子はバスケを止めることもできず、耐えられずに自殺してしまった」
「ええ、そんな酷いこと・・」
「俺は学校に訴えた。イジメが原因の自殺だと。
しかし、学校は否定し、もみ消された。
マスコミに報道されることもなかった。
俺が住んでいた市は与党の大物議員の本拠地だったから政治の力で
もみ消されたのさ。
妻は”あんたのせいよ あんたが息子を殺したのよ”って出て行ってしまった。
俺はショックで何もできなくなった。酒に溺れて、仕事もやめたのさ
息子や俺の人生を踏みにじった奴らが許せない・・と恨みを募らせて・・
俺は、イジメた人間達、隠蔽した教師、政治家に復讐することを誓ったのさ。
ふと、アフリカに滞在してた時、呪術師に会ったことを思い出した。
恐ろしい姿をした呪術師だった。気味が悪かったのを覚えている。
その呪術師は俺を見た時、こう言ったんだ。
”あんたは私の弟子になる。かならず俺の所にくる。
あんたも私と同じ世界から来た魂だから”と
俺はその時”何言ってんだこいつ、頭がおかしい”と思ったんだが
それは現実になったのさ。
俺はアフリカに行き呪術師の弟子になって呪術を学んだのさ。
そして、日本に帰り、イジメた人間達に呪いをかけたのさ。
やつらは苦しんで入院した。この時、俺には呪術の才能があることに気付いたのさ。
俺はイジメた奴らの息の根を止めてやると留めの術を掛けようとした。
その時、息子の霊が現れたのさ。
”お父さん、やめてくれ、お父さんに人殺しになってほしくない”
と言ったのさ。それを聞いて我に返ったのさ。
俺はそれ以来、呪術師に習ったことを使って訳アリの人を助ける仕事を
することにしたのさ。息子の供養のためにも」
「そうだったのですか。それはお辛いことでしたね。
すいませんね。そんな話をさせてしまって」
「いや、それはいいです。
あなたは会社を辞めなさい。
あなたが巻き添えを食ったらあなたのご両親が悲しみますよ。
あなたのご両親が私と同じ苦しみを味わうことになるのですよ。
もうすぐ、大変なことが起きるのが見えます」
「何がおきるのですか?」
「あなたの会社の破滅です。もうすぐです。
その前に逃げなさい」
美代子は宮魔の忠告を聞いて悩んだ。
次の日、出社していつものように愛想を振りまいたが心の中は複雑である。
「一体、破滅が起きるってどういうこと」と周囲を注意深く観察してみた。
すると妙なことに気付いた。
「事務所の近くに数台黒い車が止まっている」
数日前から黒い車が駐車していることに気付いた。
窓は真っ黒で中に人がいるのかどうか分からない。
「やはり、狙われているのかもしれない」
美代子は昼休みに英治を食事に誘って、それを打ち明けてみた。
「英治さん、車が止まっているのに気付いた?」
「うん、みんな気付いてるよ」
「悪い人達なんじゃない?」
「だいたい、誰かわかるよ」
「警察に言った方がいいんじゃないの」
「無駄だよ。警察もグルだよ。
もしかしたら僕たちは殺されてしまうかもしれない。
でも、逃げることはできないんだよ」
「英治さん、分かっているなら逃げて」
「ダメだ。僕は逃げたりはしない。
そうだ、君に言うつもりだったんだ。
君はもうこの会社を辞めなさい。
君を巻き添えにしたくない。
今日で退職するんだ。社長には話してある」
「いや、私だけ逃げるなんて。英治さんも」
「ダメだ。もう会わないようにしよう。
君はもう事務所に来てはいけない」
「いや、一緒に逃げましょう」
「ダメだ! もう君とは会えないんだ!」
英治が強く言ったので美代子は何も言い返せなかった。
美代子は翌日から会社に行くことができなくなったのである。
数日間、無断欠勤したが、事務所から電話もない。
もう自分は退職したことになっているのだろうか?と思ったりした。
しかし、職場や英治のことが気になってしかたない。
そこでこっそり事務所の近くに行って偵察してみた。
すると・・
職場の周りを大勢の人達が囲っている。黒い車が何台も駐車しており、
武装したような人達が大勢出てきている。何かものものしい雰囲気である。
「一体何が・・」
しばらく美代子が遠くから見ていると掛け声と共に男達が一斉に建物に
侵入し始めた。扉を叩き、「開けろ」と怒鳴っている。
そしてバールのようなもので扉を壊し始めた。
「やめて、なんてことするの」
美代子は事務所の方に向かった。すると道を男達が塞いだ。
「ここからは立ち入り禁止だ」と言って美代子をにらんだ。
「どうしよう、警察に通報しなけりゃ」
美代子は自宅に戻り、110番に通報した。
「事務所が襲われています。すぐに来てください」と通報すると
「それについてはご心配要りません」と言って電話を切られた。
再び、110番に通報したが、同じ回答をされて切られてしまった。
「警察が対応してくれない。警察も政府もみんなグルなんだわ」
美代子は悲痛に暮れた。
「こんなことが起きるなんて、英治さんや職場の人達はどうなるの」
美代子は震えが収まらず、部屋でくるまっていた。
少し落ち着いてきたので、宮魔の所に駆けつけた。
「宮魔さん、大変です。
先日、相談した営業所なんですが、襲われているんです。
警察も動いてくれません。どうしたらいいんでしょうか?」
美代子は宮魔に抱き着いて泣き出した。
宮魔は美代子が落ち着くのを待ってそっと言った。
「君の会社のことを今、TVでやってるよ。さあ、現実を観なさい」
宮魔は、TVのスイッチを付けた。丁度夕方のニュースをやっている。
「先ほどから、警察と検察による投資詐欺会社の一斉捜索が始まっています。
繰り返しますが、この会社は水から電気を作る技術という嘘の話を語り
大勢の人から投資資金を集めた出資法違反で捜索を受けています。
被害者は1000人 被害額は100億円を超えていると見られています。
証拠や資金を隠す恐れがあったので本日一斉捜査を実施したとのことです。
この会社の悪質な手口、そして被害者の訴えをこの後詳しくお伝えします・・」
美代子はそれを見て愕然とした。
「会社は詐欺グループだった!? あんなにいい人達ばかりなのに・・
そんなことがあるの。英治さんも詐欺師の仲間だったの・・」
宮魔は美代子を慰めるようにそれに答えた。
「俺も最初は分からなかったよ。
でも、段々分かってきた。
君の会社は詐欺集団だったのさ。悪い人達だったんだ」
「でも、みんな優しい人ばかりでした。悪い人には思えません」
「君には優しかったのさ。
みんな悪いことをしてるから、罪の意識を感じていたんだよ。
だから、君にやさしくすることで、それを紛らわせていたのさ。
そのために君が必要だったのさ」
「みんな、罪の意識を紛らわすために私にやさしくしてたの?
ということは・・私はその為に雇われたの?」
「たぶん、そうだと思う。
慰めのマスコットが必要だったのさ。
君は病弱で過去を背負っていた。だから雇ったんだよ。きっと。
優しくしてあげる相手が必要だったんだ。
人間とはそういうものなんだよ。
どんなに極悪な人でも罪を感じて苦しくなることがあるんだ。
そんな時、誰かに優しくしてバランスをとりたくなるんだ。
アル・カポネも地元の人には優しかった。国定忠治もそうだった。
とくに英治という男は罪悪感で苦しんでいたんだろう。
君を娘か恋人のように大事にすることで心のバランスを保っていたんだろう。
それだけじゃなかった・・
君の会社の人達は君と一緒に居ることで段々気持ちが変わっていったようだ。
最初、君は単なるマスコットだった。でも、君が元気になり、幸せになっていく姿を見て
みんな心変わりしたのさ。もう詐欺はやめようって。
今回、逃げ隠れしようと思えばできたけど、みんな逃げなかっただろう。
もう足を洗って罪を償うつもりなんだよ」
美代子はそれを聞き、ボロボロと涙を流していた。
「宮魔さん、わかりました。
そうだったんですね。
では一つ・・お聞きしたいことがあります。
英治さんは私のことを本気で愛していたのですか?
もしそうなら、私、英治さんが刑を終えるまで待ちます」
「彼は君のことを本当に愛してるよ。
だからこそ、君にはもう会わないはずさ。
彼のことは忘れなさい」
「そうなんですね。本当に優しい人なんですね。
わかりました。忘れます」
宮魔は美代子が帰った後、日記に本件のことを記録していた。
「ううん、二人は互いに強い想いを抱いてるな。まずいなあ。
きっと二人は再会して結ばれてしまう。
彼女には詐欺師だった男なんかに結ばれてほしくないな。
よし、二人の心から執着を取り除く術を掛けるか?
もう二度と結ばれないように」
宮魔は二人に術を掛けようと準備した。
二人の想いを抜き取ってしまう術である。
修行によってこの術を体得したのである。
その時、ふと思い出した。
「まてよ、あの女性は・・
そうだ。内臓が極端に弱っているのが感じられる。
医者でもヒーラーでもどうしようもできないレベルだな。
元々虚弱な体質だったんだな。可哀そうに。
もうすぐ寝込んでしまうだろう。
残りの人生も長くない。もう恋することもできないだろう。
もし、恋の想いを抜いてしまったら・・
人生でたった一度の甘い思い出が味気なくなってしまう。
それは可哀そうだ。思い出は残してあげよう。
想いを抜く術は男の方だけに掛けることにする」
おわり
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