本作品は2017年作です。
<恋>
病院の一角にある小さな部屋、そこは面会ルームである。
そこに一人の男が訪れ、患者を待っていた。
その男は橋本と言い、カウンセラーである。
この日、橋本はこの病院にうつ病で入院している青年、優弥と面接をする約束をしていた。
部屋で待っていると優弥が時間通りにやってきた。優弥は20才前の青年である。
優弥は、にこやかに挨拶をして入ってきた。楽しそうである。
やはりカウンセリングが楽しみのようだ。
「僕を待ってたんだろうな。入院中は暇だろうし、あまり人と会う機会もないしなあ。
僕も君と会うのが楽しみだよ」
などと思いながら、橋本は話しかけた
「優弥君、どうだ。眠れるか?」
「大丈夫です。よく眠れます」
「トラウマに悩まされることは?」
「最近はありません。気持ちも落ち着いてきています。
早く大学に戻って研究を再開したいです」
「そうか、きっともうすぐ先生が退院させてくれると思うよ。
心配いらないよ。うつ病は必ず治るんだから」
「聴いて欲しい話があるんです。また見たんです。UFOを・・
窓の外で止まっていたんです。子供のころ見たのとおんなじです」
橋本は一瞬、けげんな顔になった。
「そうか、UFOか・・
でも、それは近所の人が飛ばしているドローンかもしれないよ」
「いえ、そんなものではありません」
「そうか・・なんだろうね。
ところで、君の友人、ジョニー君とはどうだ?
また現れたかな?」
「はい、現れています。
橋本さんだけです。信じてくれるのは・・
ジョニーとは毎日会ってます。彼は僕と似た青年なんです。
病室で一人になったときに僕の前に現れるんです。
かれはイギリス人なんです。ブロンドで青い瞳をしているです。
とても綺麗な青年なんです。
同じ人間とは思えないです。僕も白人に生まれていればよかった」
「そんなことはないよ。優弥くん、君も綺麗だよ。自信をもっていいよ」
「ありがとうございます。
ジョニーも大学生なんです。
彼は蒸気機関を研究していることを明かしてくれました」
「蒸気機関って? エンジンのことだよね?」
「そうです。ジョニーの暮らしている時代ではまだエンジンは発明されていないんです」
「ん? どういうこと。
ジョニーは昔の人だったの?」
「そうだったんです。
いつもレトロな服装をしてるので不思議でしたがその謎が解けたんです。
彼は1680年代の青年らしいんです」
「1680年? 江戸時代じゃないか?」
「そうだったんです。彼はその時代の青年なんです」
「どうして昔の人が君に会いにくるんだ? 幽霊?」
「違うんです。ちゃんとした人間です。どうして僕と会うことが
できるのか不思議なんです。悩んだ末の推察なんですが・・
UFOが関係していると思うんです。時間軸の歪みが生じてしまったんじゃないかと」
「え、わからないな。
科学ではタイムトラベルなんてありえないんじゃないのか?」
「いや、あり得ますよ。最新の理論では可能と主張している人もいますよ。
説明しましょうか・・」
「あ、いやいや僕には理解できないから・・いいよ。
ところでジョニーは何の目的で君に会いにくるんだい?」
「彼は蒸気機関を実用化しようと研究しているんです。
それに情熱を注いでるんです。
その熱意があんまりに強いから未来に来てしまったんです。
きっと僕と波長というか気が合うんだと思います。
同じ年代ですし、似たような志を抱いていますから。
それにジョニーも僕が見たのと同じUFOを目撃したらしいんです」
「なんだって?」
「ジョニーはそれを未来人,つまり我々の乗り物だって解釈したみたいです。
僕が時空の架け橋を掛けたんだと思ってるんです」
「・・・凄い話だな。
まあ、彼も君と同じく夢を抱く青年だってことだけは確かだね」
「ジョニーは熱く語るんです。
蒸気機関が実用化されたら列車や車を作ることができる。
機械を動かして大量の物を作ることができるって。そしたら豊かな社会が実現する。
貧困も戦争もない平和な時代が来るって、熱く語るんです」
「英語で?」
「そうです。でも、今の英語と発音や言葉使いが違っていて半分くらいしかわかりませんが」
「半分でも英語が分かるとはすごいな」
「今の時代では自動車や列車、飛行機も当たり前に動いていると教えてあげたら
飛び上がるほど喜んでました。乗り物の絵本を彼にあげました。
食い入るように見てました」
「絵本? それがいいね。
ジョニーは日本語が分からないだろうから絵本がいいね」
「今日、ジョニーがお礼の手紙をくれました」
優弥は便箋を差し出した。そこには達筆な英文が書かれていた。しかも、
粗い万年筆みたいなもので書かれていることが分かる。
「こりゃ、凄い。君がこんな上手に英文書けるとは・・」
「僕じゃなくてジョニーが書いたんです」
「あ、いや、失礼、そうだね。ジョニーの手紙だったね」
橋本はちょっと失敗したという表情になり手紙を見つめた。
「こんなものを妄想で書けるとはこの青年はやはり頭がいいな・・」
と口にださずに心の中で思った。
「これで信じてくれますよね?」
「ああ、信じるよ。
ジョニーは過去から未来にやってきているんだね」
「そうです。
彼にとって未来はバラ色の世界なんです。
蒸気機関によってバラ色の未来が実現するって信じているんです。
でも、本当は違いますよね? それがつらいんです」
「どういうことだね?」
「蒸気機関の発明で産業革命が起きて経済が豊かになったけど、
結果として世界は平和にはならなかった。
むしろ、侵略や戦争が世界中で盛んに行われるようになった。
兵器も飛躍的に進歩してしまったんです。
しまいには20世紀に世界大戦が起きてしまいました」
「うん、そうだね」
「そのことはジョニーには言えないんです。
彼は蒸気機関が世界を平和にするって信じているから」
「そうか、皮肉なことだよね。
ちょっとついでに言っておく。
君には耳が痛いかもしれないけど、君が大学で研究している
反重力装置も同じなんじゃないのか?」
「どういうことでしょうか?」
「君は子供のころにUFOを目撃してから、反重力装置を開発する夢を抱くようになったよね。
でも、それも蒸気機関と同じで、開発したら兵器に使われるんじゃないか?」
「・・・確かにそうです。それも悩みの一つなんです。
でも、僕はどうしてもそれを実現したいんです。
反重力装置が実現すれば太陽系の外に行くこともできると思うんです。
そしたら戦争なんてしなくなると思うんです」
「いや、地球の外まで戦争が広がるだろうね。
そもそも、反重力なんてありえないんじゃないか?」
「ありえます。だってUFOが来てるじゃないですか? それが証拠です。
重力波の最新の理論でも可能性があるんです・・・」
優弥は目を輝かして重力についての理論を展開して話し出した。
橋本には全く分からない内容であった。
「優弥くん、君は頭がいいなあ。
その通り理論的には可能なのかもしれないね。
でも、それが実現するのはいつの話かわからないよ。次の世紀かもしれない。
それよりも君は機械が好きなんだから、飛行機や車をいじる仕事に就いた方が
いいんじゃないか?」
「僕は病気で入院までしてしまいました。
もう希望の就職なんてできませんよ。
だから大学に戻って研究するしかないんです」
「そんなことはないよ。優秀な君ならどこでも雇ってくれるよ。
UFOなんて忘れてもっと身近な物に興味を持とうよ。
EV車なんてどうだ? 有望だし、夢があるだろ?」
「EV車も大好きです。自動運転にも興味あります。
でも、子供のころみたあのUFOが忘れられないんです」
「だから・・それはドローンだって!」
と橋本は語気を強めた。
「いや、ごめん。何だか正体が分からないからUFOって言うんだ。
何だかわからないものを反重力装置だなんて決めつけることは
科学的じゃないよ」
「はい、そうかもしれません」
「それにさっき言ったように反重力装置が完成したら世界は危険になるよ」
「悲しいですね。ジョニーと同じなんですね。
世の中のためにと技術を開発した結果が裏目に出るなんて」
「君の才能は別のことに向ければいいんだよ。
環境問題を解決する技術とか、今すぐ必要な技術がいっぱいあるだろ?」
「はい・・」
「今日も楽しい話をすることができたね。
他にも何か悩みがあるかな?」
「さっき言ったジョニーなんですが・・あの・・」
「なんだい?」
「彼と会うと心がときめくんです。初恋みたいに・・
とても彼が愛しいんです。そして彼のことがいつも頭から離れないです」
「ん? 君は男だろ? ジョニーも男じゃないか?」
「そうなんです。男なのに・・気になるんです。
これはいけないことかもしれないんですが・・
僕はジョニーを抱きしめたいって思ってしまうんです」
「ははは、男に恋してしまったわけか!
タイムトラベラーとの恋は船乗りとの恋よりも大変だよ!」
「そうですよね。おかしな話です。
でも切ないんです」
「君の部屋にはTVがあるだろ?
アイドルグループの踊りでも見たらいい。
かわいい子がいっぱいいるからさ。
僕が君くらいの頃はアイドルに夢中になっていたよ。
難しい本ばかり読んでないでたまにはバラエティ番組でもみたらいいよ。
また、来週来るからね」
橋本は病院を出て駅の方に歩いていた。
外はすっかり冬景色となり、クリスマスの雰囲気が漂い始めていた。
しかし、街に流れるニュースは戦争の危機など暗いニュースばかりであった。
橋本は、駅前の喫茶店に入った。
すると橋本を見つけて手を振る人がいた。
優弥の両親だった。
橋本は優弥の両親と同席し、面会の様子を説明した。
「橋本さん、どうでしたか?優弥の様子は・・」
「息子さんは落ち着いてます。トラウマも消えています。
何よりも明るい話をするようになりましたよ。
また、熱心に勉強しています。数学や理科が得意なようです。
彼は技術屋さんに向いてます。退院したら専門学校に入れて整備士とか、
エンジニアにするのがよいでしょう。
航空機の整備士とか、EV車とかの関係がいいのでは?
まだ息子さんは自分が大学生だという妄想を抱いていますから、それが覚めてからですが・・」
「そうですか、優弥はよくなっているんですね。
息子は高校でいじめにあっておかしくなってしまいました。
おかしなことばかり言うようになり、統合失調症と診断されて遂には入院することに・・
でも、治りつつあるようで安心しています」
「大丈夫です。妄想は段々現実的になっています。
今、EV車に関心を向ける誘導をしているところです。
息子さんは何よりも抜群に頭がいい。将来は有望ですよ。
ところで、ちょっと聞きたいんです。
息子さんは男性に恋するとか、そういう傾向はありませんでしたか?」
「いえ、特に・・まさか、息子は同性愛をしてるんですか?
うちの子は普通にグラビア雑誌とかに興味もってましたよ」
「いやいや、ちょっと友達のことが気になるみたいなことを・・
まあ、誰しも同性に惹かれることが1度や2度くらいはありますから・・
気にすることでもないです」
「本当ですか?それならいいですが・・
ところで、UFOからのメッセージとかそんな荒唐無稽な妄想はもう消えたんですよね?」
「そうですね。未だちょっとUFOとかタイムトラベルとかを話題にしますが・・
息子さんはオカルトに興味があるんじゃなくてUFOという乗り物や科学に興味があるんですよ。
そのうち、現実の飛行機とか車に興味を持つようになるでしょう。心配いりませんよ。
必ず現実に引き戻します。引き続いて乗り物の本などを差し入れしてください。
絵本がいいようです」
その時であった。父親が窓の外を指さして言った。
「あ、あれは何でしょう?何か飛んでます」
それを見て橋本は目をしかめながら答えた。
「ははは、あれはドローンですよ」
「へえ、UFOみたいですね。よくできているんですね」
橋本はむっとした顔になった。
「また、出現しやがった」と心の中で思った。
橋本は自宅に戻り、PCに向かった。
PCにウィンドウが現れてチャットのように言葉が流れるように表示された。
誰も見たことがないような文字である。橋本はボタンをタッチした。
するとスピーカーから音声が自動翻訳されて日本語で流れるのであった。
「$%{*#bh\\◎//::・・本日の報告をしなさい」
「はい、本日、予定通り、優弥という青年と面会してきました」
「どうだ? 青年の具合は・・」
「順調です。少しづつですがUFOや反重力装置から関心をそらすことに成功しています」
「絶対、青年が反重力装置の開発に着手するのを阻止するんだぞ。
それがお前のミッションだと心得よ。
地球はまだまだ反重力装置を手にしてはいけない。
たちまち世界中で戦争に使われるだろう。
太陽系の外にまで戦争が広がるだろう。とんでもない」
「その通りです。地球はまだ戦争の危機が濃厚です。
こんな状況で反重力装置など・・
絶対に開発させてはいけないですね。
地球に来てはっきりそれを実感しました」
「かつて我々はこの地球の蒸気機関の発明を許してしまった。
そのため、地球は暗黒の歴史を歩むことになってしまった。
もう100年遅らせれば世界大戦を避けることができたのに。
だから、今回のミッションこそは必ず成功させなければならない。
反重力装置を開発する才能をつぶさなければならない」
「わかってます。必ず阻止します」
「いいか、もし失敗したら、青年を心神喪失にする強制措置を取ることになるぞ。
お前もそれは望んでないだろ」
「もちろんです。絶対にそんなことにはなって欲しくないです。
彼は頭がいいし、性格も純粋な良い子です。それに・・」
「それに何だ?」
「いや、その」
「隠さずに言え。何でも報告するのが義務だぞ」
「彼は美しい青年です。うっとりするほど。
だから、幸せになってほしいんです」
「なに? お前まさか・・」
「まさかってなんです」
「青年を好きになったのか?」
「そんなことはないです」
「実はお前を男にして地球に派遣したのは理由があったんだ。
お前は女を希望していたのにあえて男にした理由がな。
地球では男と女だと間違いが起きやすい。過去にそういう実例があったんだ。
まさか、男同士でもそんなことがあるとは・・地球は奇妙な星だな」
「いえ、そんなことはないです。
彼はいいものをたくさん持ってるので幸せになって欲しいだけです」
「そうか、くれぐれも情に流されるんじゃないぞ」
「わかってます。
それよりも、お願いがあります。
偵察機をまた彼に目撃されてしまいました。
両親にも目撃されましたよ。
目撃されないように注意してください。
何度言ったら分かってくれるんですか?
そもそも彼が反重力装置に興味をもってしまった原因は
偵察機を目撃したからなんですよ。
これ以上、私の邪魔をしないでください!」
「わるかった。注意しておく」
橋本は母星との通信を終えると一人物思いにふけるのだった。
「優弥には絶対に幸せになってもらいたい。
きちんとした仕事について、いい女性と結婚して欲しい。
そしてたまには僕と会ってもらいたいね。
地球の若者は美しい。ずっと一緒に居たくなるほどだ。
特に優弥は美しすぎる。美しいからいじめられるんだな。
彼には苦しんだ分、幸せになって欲しいね。
これが恋というものなのか? 地球人とは奇妙なものだな。
恋した人には幸せになってもらいたい。
守ってあげたいと強く思ってしまう。
この気持ちはすばらしいものだ。地球人も捨てたもんじゃないな。
優弥は僕の恋人だ。毎週、会うのが楽しみだ」
鞄に彼がくれた手紙が入ってるのを見つけた。
ジョニーが書いたという手紙である。
「優弥は本当に頭がいい。
こんな本物そっくりの手紙を妄想で書くなんて
普通の学生にはとてもできないことだ」
ふと便箋の隅を見ると 1687年と印字されていた。
「この便箋は奇妙だな。紙質が荒いし分厚い。こんな紙は売ってないぞ。
どこかのマニアックな店で買ってきたのか?
でも入院中で買いに行くなんてありえない。
両親が差し入れした? まさか、こんなレアなものを・・
もしかして、これは本物?
本当に過去の人間と接触しているのか?
そんなことがありうるのか・・・
母星に報告して、専門スタッフに原因を調査してもらわねば・・
もし、妄想ではなく本当に過去の男に会っているとしたら・・」
「もし、本当だったら・・とんでもない。時空を超えた接触など・・
我々の監視が時空を歪めてしまったのか?
そういえば蒸気機関の発明も阻止しようとしていたらしいから・・
監視装置の誤作動か? 何かの手違いが原因でこんなことが起きてしまったのかも?
もしかしたら、これが原因で蒸気機関の阻止に失敗してしまったのかも?
これは大変なことだ・・早くなんとかしないと・・
でも、俺にとってはそんなことよりも・・・もっと重要なことが・・
それは・・優弥の恋の相手が妄想ではなく現実の相手だったことだ」
橋本にメラメラと怒りの感情が湧いてきた。
「ジョニーが本物だったなんて・・
優弥が女に恋するのは構わないが男に恋するなんて許せない。
俺は二人の愛を絶対に許さないからな。
ジョニーと会う事を絶対に阻止してやる!
この湧き上がる怒り・・これが地球人の言うジェラシーというものなのか・・」
橋本はこぶしを握り締めた。
街はクリスマスのイルミネーションで彩られ、何事もないように過ぎていった。
世界を救うためのミッションが今日も人知れず行われていたのだった。
ちょっと間抜けな工作員達によるミッションなので成功するのかどうか不明であるが・・
地球人でこのミッションに気付く者は誰もいなかった。
おわり
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