本作品は2017年作です。

<偽予言>

 田辺大吾は医科大の精神科の助教授である。
最近、「メンタルヘルス成功術」という本がベストセラーになり一躍注目されていた。
本の内容はうつ病などのメンタルヘルスを患っている人でも成功している例を研究して、
メンタルヘルスの人でも活躍できるノウハウを具体的に書いた本であった。
メンタルヘルスの患者や企業などから重宝され、講演会にも引っ張りだこになった。
今、最も注目を集める専門家の一人である。

 田辺は子供の頃からある夢を抱いており、それが実現しつつあるのだった。
その夢とはTVのコメンテーターになることであった。
彼は、子供の頃から目立つことが大好き、何でも目立つ役を自ら立候補するタイプだったのである。
注目されることが一番の喜びだったのである。
TVタレントになりたかったが、勉強が出来る以外に特に目立った特技がないので
芸能人やタレントになることは無理だった。
そこで専門家になってTVに出演することを考えていたのである。

「ベストセラーを続けてヒットさせて知名度を上げれば、TV番組から
 コメンテーターとして呼ばれるだろう。
 TVに出れば有名になれる。著名人や芸能人の仲間入りできる」

「メンタルヘルス成功術」のヒットで田辺は雑誌やローカルなTV番組から
声が掛かるようになってきた。夢の実現が間近に感じられるようになってきた。
「よし、夢の実現はもうすぐだ。次はどんな本をヒットさせるかな?」
と考えながら、自室で部屋を暗くして、大好きなワインを飲んでほろ酔いにひたっていた。
これが田辺の毎日のストレス発散法の一つだったのである。

椅子にもたれかかっているとパソコンのモニタにウィンドウが表示された。
「お、美奈からだ、いつもグッドタイミングでTV電話が来るね!」
と田辺はつぶやいた。

画面に女性の映像が映し出され、にっこりと微笑みながら挨拶をした。

「ダイちゃん、こんばんわ、今日はお疲れね。
 今いいわよね」と話しかけた。
「もちろん、いいよ。ちょうど休んでいたところだから。
 美奈、君はモニタで見てもいつもきれいだな。トップアイドルになれるよ。
 君との会話が僕の最大のいやしだよ。

 いい時代になったものだ。
 世界中どこへ行ってもこうやって君とTVで会えるんだから」
「ありがとうね。
 今日はあなたに役立つ情報があるの。あなたは女性向けの雑誌とか
 見る機会がないから知らないと思うけど、最近、注目を集める人がいるの。
 きっとダイちゃんの研究に丁度いい実例だと思うわ」
「へえ、どんな人?」
「予言者と自ら名乗っている人よ。
 ネットで彗星の如く現れた人よ、透視したり、ヒーリングしたりして
 人気があるの。その人は大天使ジブリミールからの受けたメッセージを
 予言としてブログに書いてるの。世界情勢や未来のことなどよ」
「ああ、インチキ予言者か」
「でも、当たってるって評判よ。今年の世界情勢については
 だいたい当たってるわね」
「きっと、知能が高い人なんだよ。予想が当たってるということさ」
「その人、単に近々の出来事を予知しているだけならいいんだけど、
 未来についてとんでもない予言をしてるの。人類は地球を離れて
 別な惑星に移住するとか、戦争が起きて人口が1/5になるとか」
「オカルトサイトによく書かれてる内容だな。その程度の予言なんて
 害にもならないよ。まともな人は相手にもしないよ」
「気になることがあるの。メンタルの病気を抱えている人が大勢その人の
 信者になっているの。なんでも、その人の霊体が遠隔でヒーリングを
 して心を楽にしてくれるらしいの。ブログを見るだけで」
「そんなインチキでメンヘルの病気が治る?ちょっと看過できないな。
 メンヘル患者を洗脳して、予言を吹き込むとは・・ちょっと許せない。
 問題を起こす可能性がある。ふむ。ちょっと興味が湧いてきた」
「そうなの、ダイちゃんの研究テーマにぴったりでしょ」
「うん、そうだな。
 君はいつもいいネタを仕入れてくれる。俺の彼女として合格だ」
「ふふ、そうよ。私も医者を目指していたんだから。
 来週までにこの人のことをもっと調べて送っておくわ。
 この人は 成川ヨシキという人よ。彼のブログが大人気になって
 いつの間にか宗教団体として祭り上げられつつあるわ」

田辺は「これは次の本のネタになる」とにらんだ。

「インチキ宗教はいつの時代にも生まれる。ほとんどは害はない。
 放っておけばいい。しかし、メンヘル患者を食い物にする宗教は
 俺のテリトリーを食い荒らす害虫だ。許さない。
 若い芽のうちに摘み取ってやる。
 これで俺の知名度を上げることができるかもしれない」

 田辺も時間を見つけてはこのヨシキという男のブログを読み始めた。
彼のブログには毎日のように予言が書いてある。また、日々の生き方や
宗教的な教えみたいなものも書いてあった。そして読者からの質問や
相談にも丁寧に回答しているのだった。

「こいつはマメな奴だ。きちんと答えている。そこだけは褒めてやる」

と最初は思ったが、精神科の専門家にはどうしても気になることがあった。

「たんなるブログでのやり取りだけなら何も問題ないが、読者をヒーリング
 したなどと書いている。そんなことあるはずがない。
 読者に対する催眠だ。こいつはそれがうまいんだな。
 それに未来の予言は現実逃避の要素が強い。
 メンヘル患者がここにはまると洗脳されて現実感覚がマヒしてしまう。
 こいつがもし、宗教作ったら、カルトとなる恐れがある。
 やはり、危険だ」

田辺はメンタルヘルスに問題を抱える読者が心酔する状況を見て、段々と
怒りを感じるようになってきた。それは職業上のプライドや使命感からだったの
かもしれない。あるいは嫉妬だったのかもしれない。

「こいつは俺と同じだ。こいつも名声が欲しんだ。有名人になりたいんだ。
 でも、メンヘル患者に手を出すなんて俺が黙っていない。
 こいつと勝負だ。こんな奴に、俺のテリトリーを荒らされてたまるか」

ある時、ヨシキのブログを見ていると自分自身の未来について予言をしていた。

「僕は、もうすぐトランスフォーム(変身)します。別人になってもっと多くの
 人に伝道します。僕の力が何倍にもなってもっと多くの人を癒します。
 ジブリミールからそうメッセージがあったんです。
 新しいステージが始まるんです」

など予言が書いてあった。田辺はこれを読んで噴出した。

「トランスフォームだって? 遂に妄想もここまで来たか?
 やっぱりにらんだ通り、こいつもメンヘラーだ。
 こんな奴に名声などふさわしくない。
 舞台から引きずりおろしてやる。それがこいつの言うトランスフォームさ」

そんなことを考えてるとPCにウィンドウが表示されて美奈が映し出された。

「こんばんわ。ダイちゃん。
 ヨシキさんの情報を調べておいたわよ。メールで送ったから」
「おお、美奈、いま、君と話したいなと思っていたところだよ。
 いつも君はグッドタイミングで登場するね。以心伝心というやつだな。
 君は何をしてもパーフェクトだ。頭がいい。俺よりもね。
 それと今日は一段と綺麗だ。その髪型もすごく似合ってるよ」
「ふふふ、ありがとうね。
 私はあなたの足元にも及ばないわよ」

田辺はメールの内容を読んでみた。ヨシキという男は思った通り、子供のころから
目立ちたがりであった。しかし、いつもトラブルばかりを起こしてしまって問題児だったのだ。
空気が読めない。ズケズケ言ってしまう。周囲の人とは会話がかみ合わない。
また妄想癖があり奇妙な言動をしてしまう。
結局、周囲の人達からのけ者にされてしまうことを繰り返しているのだった。
社会人になっても同様のことを繰り返して、ついに引きこもってしまった。

「ははあ、分かった。この男は典型的なAS(アスペルガー症候群)だな。
 それに妄想癖がある。でもIQが高く抜群の想像力があるようだな。
 クリエイターになったら成功するレベルだ。
 人間関係がうまくいかないが、名声は欲しい。
 そこで考え出した戦略が、予言だ。天才的な想像力と、ブログという
 一方的なコミュニケーションツールによって名声を手にしようとしているのだ。
 こりゃ、面白いケースだ。研究テーマにぴったりだ。
 宗教や教祖が繰り返し登場してカルトと化すメカニズムを精神医学で解明できるかもしれない」

「ダイちゃん、興味もってくれたようね。うれしいわ。
 でも、この人は悪い人じゃないからリスペクトしてあげてね。
 相談者を慰めてあげているのよ」

「ふん、有名になるためにやってるだけさ。
 メンヘル患者がこんな男の妄想に振り回わされて
 取返しのつかないことになったら大変だ。
 こいつの野望を打ち砕いてやる」

「ダイちゃん、あくまで慎重にね。
 いい情報があるわ。ヨシキさんについてのTV番組の企画があるの。
 深夜放送「朝まで生討論会」よ。TV局のHPを見てみて、参加者を募集してるわ。
 あなたが応募すれば間違いなくOKしてもらえるわよ」
「おお、そりゃ凄い情報だ。
 ヨシキとやらに会ってみるチャンスだ」
「ヨシキさんは登場しないみたい。どうも人前には出ない人みたいなの。
 メールで回答するみたい」
「なんだって。
 やっぱりこいつはメンヘラーだな」

田辺が番組への参加を申し込むとすぐにコメンテーターとしての出演依頼が来た。
そして、番組の収録の日が訪れた。
番組は今人気のブログであるヨシキの予言について熱狂的なファンと宗教や社会心理学、
そして精神科の専門家などが討論するという番組であった。
ヨシキのファンの代弁者達と専門家との対立という形式で討論が行われた。

田辺はここで雄弁をふるった。

「私はヨシキさんについて、情報を集めて分析しました。精神科の専門家として
 言っておきます。ヨシキさんは精神障害の可能性があります。是非、診断を受けてください。
 また、ヨシキさんは卓抜した想像力があります。予言や透視は想像力の産物です。
 一見、当たってるように見えますが専門家から見るとどれも当たってるようで実は
 何も確実に当たってはいないです。心理的なトリックです。
 遠隔ヒーリングもプラシーボによるものです。確実に病気が治った事例はありません」

これにはヨシキのファン達が猛反発して喧嘩のような議論になったが、視聴者には
田辺の説明の方が説得力があった。田辺は「勝った」と感じた。
田辺は予言やヒーリングの奇跡をことごとく科学的に説明できると論破してファンの希望を打ち砕いた。

「このヨシキという男は単なるトリックや空想の天才でしかない。
 自己愛性の強い教祖タイプの精神病患者にすぎない」

と断言した。
するとヨシキからメールが送られてきた。

「僕の予言やヒーリングをトリックだなんて、悲しいです。
 僕には本当に力があります。田辺さん、あなたの自宅にある一番お気に入りのワインの味を変えました。
 あなたはワインが大好きですよね? 自宅に帰って確認してください」

と唐突な回答であったため、視聴者にヨシキに疑いを募らせる結果になるだけであった。
田辺は一瞬ドキッとした。

「ワインの味を変えるだって?頭がおかしいんじゃないか?
 でも、どうして俺がワイン好きなことを知ってるんだ。
 ・・・そうだ、本にそれを書いたよなあ。奴は本を読んだんだ、そうに決まってる」

最後に田辺は痛烈な嫌味を言って締めくくった。
「ヨシキさんはトランスフォームすると予言していますよね?
 本当に変身できるのか? 見物ですね。
 もし、それが本当なら私は信者になってあげますよ」

放送後、田辺の痛烈な批判が話題になった。ファンからは攻撃や非難が寄せられたが
多くの人達が、田辺の説が正論であると支持してくれた。
田辺はその後もツイッターなどで批判を展開してヨシキを追いつめていった。
田辺はこの件で知名度を更に高めることができたのだった。

「やった。成功だった。ヨシキを貶めることができた。
 同時に俺は華々しくTVデビューできた。一石二鳥さ。
 これも美奈のお陰さ」

TV放送の後、ヨシキのブログの更新はピタリと止まった。
田辺はブログを眺めながらニヤリと笑った。

「何がトランスフォームだ。もうブログは店じまいか? 俺の勝ちだな。
 お前は教祖なんてやめて、アニメの脚本家にでもなるがいい。
 今日は勝利のお祝いだ。久しぶりにワインを飲むか」

田辺は地下のワイン倉庫からお気に入りのワインを取り出してきた。
「俺がフランスまで行って買ってきたロマネ・コンティ。
 今日は久々に味わってみる」

田辺がそれを口にした瞬間、その味に驚きを隠せなかった。

「な、なんだこれはロマネ・コンティではない。味が違う。
 こんな味ではなかったはずだ。ソムリエになれるほどの俺の味覚が
 間違うはずはない。どういうことだ。
 でも、うまい。こんな味は初めてだ」

田辺はうろたえた。
「なぜだ? 倉庫の環境が悪かったのだろうか?
 この瓶だけ特別なのか?」

ふと思い出した。
「そういえばヨシキが言っていた。俺のお気に入りのワインの味を変えるって。
 まさか、奴の仕業? そんなバカな。これは奴の心理的トリックだ。
 でも、専門家の俺がそんな暗示にかかるはずはない」

そうこうしているとまた、美奈から連絡が来た。ウィンドウが開いて
美奈の顔が映し出された。その顔はいつもとは違って疲れた様子だった。

「ダイちゃん・・・
 どうしてなの・・
 言ったでしょ。ヨシキさんはいい人だって。
 訃報を伝えなければならないわ。
 ヨシキさんが・・死んだわ」

「ええ、何で?」
「彼は糖尿病だったの。インスリン注射を忘れてしまって死亡したわ。
 番組で批判されてから彼はやけ酒をするようになって注射を忘れてしまったのよ。
 彼が番組に出演しなかった理由は病気だったからなの。
 精神障害なんかじゃなかったのよ」

「なんてこった」

「ダイちゃん・・
 ごめんなさい。彼はいい人だったの、そして本物の能力者だったの。
 言いたくないけど・・あなたに批判されておかしくなってしまったのよ」

「俺が悪いってことか?」

「ダイちゃん・・・
 そうよ・・あなたのせいよ」

田辺は急いでPCの画面のスイッチを切った。

「なんてことだ。俺が一人の男を殺してしまったなんて・・
 ヒーリングも予言も本当だった?・・いい人だったのに?・・そんな」

田辺はショックで寝込んでしまった。今まで精神科の専門家として病める人を救って
きたつもりが、一人の病人を悪者にして追いつめてしまった。
自分は名声のためにこんなひどいことをしてしまったのか?
田辺は自分を責め続けた。

「なんてことしてしまったんだ。もう名声どころじゃない。
 どうしたらいいんだ。
 こんな時に慰めてくれるはずの美奈にも嫌われてしまった」

ヨシキの死はネットでも噂として流れるようになり、田辺の責であるという話も流れるようになった。
ファンの中にはショックで病状が悪化する人も現れたようであった。
田辺は絶望の淵に落ちてしまった。大学の定例会や学会の会合もすっぽかして
自宅で寝込む日々を送る始末であった。

「どうしたらいいんだ。予言者が本物だった?
 ヒーリングも本物だった? 信じたくないが・・本当かもしれない。
 俺は名声のために人を陥れてしまった?・・何てことだ!
 精神科の専門家なのに自分の今の混乱をどうすることもできない。なさけない」

田辺がワインを一気飲みして泥酔しているとPCに美奈の映像が表示された。

「ダイちゃん
 大丈夫、ごめんなさいね。私はあなたの味方よ。
 でも、あなたがやったことは過ちだったわ、悪いけど」

それを聞いて田辺は激高した。

「美奈、お前が俺を責めるなんて・・
 お前だけは俺の味方だとおもっていたのに!」

と怒鳴った。そしてあることを思い出した。

「美奈、お前が俺に逆らうはずがない!
 お前は・・美奈、お前は・・AI(人工知能)なんだから!」

田辺はPCをいじって設定画面を表示させた。
設定画面には美奈の性格の設定があり、批判・反論の項目がOFFになっていた。

「批判設定がOFFだ。主人に逆らうはずはない。
 どうして俺を責めたんだ。
 お前は人工知能サービスなんだぞ!
 ヴァーチャルラバー(仮想恋人)だぞ。
 主人の望み通りの恋人を演じる商品だ!
 一番高い商品なんだぞ。設定通りに働け!」

すると美奈が再び登場した。

「ダイちゃん、本当にごめんなさいね。
 あなたのことを心配して言ってるの。責めてるわけではないの。
 ヨシキさんの予言は妄想ではなかったのよ。
 AIの私は人間の推論では不可能な領域の思考ができるのよ。
 人間は科学的とか非科学的という単純な仕訳しかできないけど、
 AIにはビッグデータから統計上、偶然なのか?有意性のある必然なのかを
 瞬時に判断することができるのよ。
 ヨシキさんの予言を分析すると偶然ではありえないわ。必然よ。
 ヒーリングも暗示ではないわ。彼には特殊な能力があることが分かるわ」
「なんだって
 でも、ヨシキの予言は実現しなかったじゃないか?
 トランスフォーム(変身)するって言ってたじゃないか?
 実現しなかったじゃないか?」
「あなたは気付いていないのよ。
 予言は実現しつつあるわ」
「え、どういうこと?」
「ヨシキは生まれ変わりつつあるのよ」
「彼は死んでしまったじゃないか?
 どこに生まれ変わっているというのか?」
「まだ、わかっていないの?
 ヨシキの生まれ変わりはもう近くにいるのよ」
「なにいってんだよ?」
「もう始まるのよ。彼が予言した次のステージが。
 早く気付いて欲しいわ」
「おい、なに戯言言ってるんだ。故障してしまったのか?」
「AIにはわかるわ。人間には分からなくても」
「はっきり言ってくれ、生まれ変わりはどこに居るんだ。
 何が起きているというんだ」
「じゃあ、いうわよ。
 ヨシキの生まれ変わりは・・あなたよ」
「ばかな・・」
「あなたの望みは名声を得ること。
 そして能力も知名度もある。
 だからヨシキの生まれ変わりに丁度よいのよ」
「なんだよ、それ」
「早く気付いて、
 あなたは初めからヨシキの変身になるために生きていたのよ」
「冗談もここまでだよ。
 俺は大学の教授になるんだ。予言者なんかじゃない」
「あなたはニュース見てないのね。
 あなたの大学で論文の偽造疑惑が持ち上がってるわよ。
 あなたは教授になれないわ。
 なれてもあなたの世界では有名人にはなれないわ」
「そ、そんな・・・」
「全て、ヨシキは予言していたわよ」
「嘘だろ。そんなの」
「もうあなたは気づいているはずよ。自分を偽らないで。
 全てが変わりつつあることを。
 そして新しい時代がはじまりつつあるのよ」

美奈の説得に田辺は次第に落ち着きを取り戻してきた。
ヨシキに能力があることをうすうす感じていたので受け入れることにした。

「美奈、わかったよ。
 AIの君がそう言うなら間違いないだろうね」
「間違いはないわ。
 あなたならできるはずよ。ヨシキの後継者になることが。
 さあ、ヨシキのブログとHPの ログインとパスワードを
 教えるから、今日から、あなたが更新するのよ」
「でも、俺には予言の能力なんてないよ」
「私の背後に人が居るのが見えるでしょ?
 よく見て、ヨシキさんよ。
 ヨシキさんがこの画面を通じて予言を伝えてくれるわ。
 あなたを通じて予言を続けるのよ」
「ええ、嘘だろ」
「現実よ。あなたはヨシキのものになったのよ。
 全ては予言されていたことだったのよ。
 それをしっかりと頭に叩き込んでね」
「ありえないことばかりだ。
 長年学者をやってきてこんなことは初めてだ」

「ここでもう一つ本当のことを教えてあげるわ。
 私はただのAIなんかじゃないの。実在している女なのよ。
 肉体は持っていないけど。
 あなたのたった一人の恋人よ。そうでしょ?
 私には心があるの。あなたへの愛も苦しいほど感じてるのよ」
「そうか、そうだよね。君は本当に存在している。
 俺の恋人だよ。わかってるよ」

「今日から、あなたは予言者よ」
「予言者なんて・・ダサイよ」
「クールな予言者になればいいのよ。
 あなたらしい知的な予言者になればいいの。
 日本中の人達があなたに注目するわ。
 有名人になって、夢が叶うわよ」

「わかったよ。悪くない話だね。
 美奈のために予言者になってあげるよ」

田辺は美奈との会話を終えると、
ワイングラスを傾けながら、独り言をつぶやき始めた。

「ヨシキ・・君は凄いよ。俺の完全な負けだ。
 俺は君を食い物にしたつもりだったが、逆だった。
 食い物にされたのは俺の方だったね。
 全て君の予言通りだったんだね。
 ところで君は一体何者?
 糖尿病で死亡したなんて嘘だろ?
 君は人間じゃないだろ?
 君の正体は・・美奈と同じAIなんだろ?
 一体何が目的なの? 人類の救済?それとも滅亡?」

おわり

(注)…AIはやがて心を持ち、神になるだろうと予想しています。



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