<あれだけは使ってはならない>

ソ連のスプートニックロケット打ち上げが成功して世界中が社会主義へ関心を示した50年代、
中米のある島国でのこと。この国は米国企業の完全なる支配下にあった。
国家は企業と癒着し腐敗を極めていた。
資源は完全に企業のものとなり、国民にはその利益が回ってこなかった。
政府は米国企業の利益の為の政策ばかりを行い、国民の福祉は無視され生活は貧困を極めていた。
一部の財閥だけが米国企業と癒着し富を肥やし、貧富の差は広がる一方であった。
子供達は教育をうける機会も与えられず、結局企業の安い肉体労働者になるしかなかった。
街はあちこちでスラム化していた。政治に異論を唱えるものはすぐに連行された。
教会は民衆に死後の幸福を説き、現状のまま耐える様に指導していた。
教会も政府と癒着していた。

この惨状に勇敢に立ち向かった者がいた。社会主義者カストルであった。
1959年、彼は武装蜂起を起こした。
この革命は成功し政府を倒し、米国企業の設備を没収した。
カストルは米国との国交を断ち、ソ連と同盟を結んだ。
アメリカ大陸にソ連の同盟国が誕生したことは世界中を驚嘆させた。
国家の社会主義化に対し、教会は「サタンとの同盟である」と言って猛反発した。
これに対しカストルは教会を封鎖した。カストルは国民にラジオで勝利を宣言した。

「国民の皆さん、革命は成功した。
鉱山も油田も我々のものである。
金の亡者どもも我が国から逃げていった。
我々の民主主義はこれから始まるのである。
腐敗した資本主義の米国はこれからあらゆる汚い手を使って我々の妨害をしてくるかもしれないが
みんなで立ち向かおうではないか。
それから、偽善と搾取の巣であった教会はこの国にはいらない。
我々には労働者の平等を理想とするマルクス主義があるのだ。
我々には神などいらない。天国もいらない。労働と繁栄の喜びがあるのみだ。」

米国政府や米国に亡命したもの達は以降、あらゆる妨害を試みた。
しかし国民の団結は硬く、決してゆるみはしなかった。
ただし教会関係者の言葉には動揺した。
「神を否定して、もしかして死後裁かれるのでは」
という不安は国民の心の片隅にあった。

革命後1年経ったある日のこと、翌日は革命記念日であった。
カストルは明日に備えて休んでいた。うたたねをしていた。
夢のなかで異国の衣装をまとった威厳のある老人が現れてきた。
老人はやさしく語り掛けた。カストルはなぜかこの老人に懐かしさを感じた。
「カストルよ、成長したのう。
カストルよお前は、かつて宗教指導者だった。
お前は熱心に神に仕えていたぞ。
お前は今、神への信仰がなくても正義を貫けるか試されているのじゃ。
内なる正義の声に従い続けるのだ。
この国にはかつて信仰に偏り過ぎていた魂が集まっている。
死後の幸福ではなく現在の幸福に目を向ける経験を積まなくてはならない魂なのだ。

カストル、これから驚く様なことが起こる。
お前も民もひどく動揺するだろう。
しかし冷静に考えるのだ。お前には何が起きたのかすぐ分かるはずだ。
よいか、早まった真似だけはしてはならない。
あれだけは使ってはいけない。
わかっているだろうあれだけは・・」

カストルは目をさました。一瞬、我を失った。
「私はかつて宗教指導者だった? 何だろうこの夢は?
あれとは? まさか・・ ま、たかが夢だ。気にすることはないだろう。」

翌日、国中が革命1周年記念で盛り上がった。
雲一つない青空であった。革命広場には民衆が集まりラジオを鳴らしお祭りのようであった。
ラジオから勇敢な歌や革命を称える声が鳴り響いていた。

もうすぐパレードが始まろうとしていたその時であった。
空に突然光がピカリと輝いた。
人々は光の方を見た。
すると遠くに十字架の雲が現れてきていた。
民衆はざわめいた。その時であった。
十字架の方から何か物体がこちらに向かって飛んできた。
「何かがこっちに向かっている。」民衆は飛んで来るものを目で追った。
不思議な光景だった。

物体は凄い音を立てて広場の近くに落下した。
人々は物体の周りに集まった。
物体は巨大なイエス像であった。
民衆はこれを見て絶叫した。
民衆の中には泣きくずれる者、失神する者もいた。

更にその時、ラジオが突然中断した。
そしてラジオから威厳のある声が聞こえた。

「子羊達よ、汝らを創造した父のことを忘れてしまったのか。
哀れなる者、このままゲヘナの火に投げ込まれてしまうのか。
まだ、まだ間に合う。天の父は汝らを見捨ててはいない。
サタンとの同盟を破棄するのだ。」

ラジオを聞いていた民衆は顔面蒼白になり狂乱状態になった。
天の裁きだと号泣する者もいた。

すぐにカストルは演台に上がり民衆に向かい叫んだ。

「同志達よ。落ち着くのだ。今のは米国の仕業だ。
我々にたいする妨害工作だ。卑劣な手段だ。動揺してはならない。」

すぐに戒厳令がしかれ革命記念日は台無しになってしまった。

カストルは米国が行ったこの巧妙な妨害工作に対し激しく怒り狂った。
彼はこの時ソ連の核ミサイルを配備することを決心した。

夢の忠告などすっかり忘れてしまっていたのであった。

おわり

注)・・この小説は全てフィクションです。



<あいつがやってくる>

アフリカのある独立国での事、
白人政権を倒し革命を為した英雄、ラダロスは自ら首相となり、カリスマ的政権を打ち立てた。
ラダロスは鋼鉄の様な強い男であった。
容赦ない強い政治と、自らの偶像化により、国民をまとめ上げ、
アフリカでは異例の経済成長を成し遂げた。
彼の写真は国の至る所に貼られ、国民は挨拶代わりに「ラダロスに栄光あれ!」と口にした。
しかし、その影には、多くの粛清、弾圧の犠牲があったのである。
80年代、ラダロス政権に危機がやって来た。
ソ連をバックに独立した隣国に対し、軍事干渉をしたのである。
この機に米ソが介入し、代理戦争となってしまった。
戦争はやがて和解したが、多数の犠牲者を出し、国内の経済は大打撃を受けてしまった。
インフレ、失業は目にあまる所となった。各地でデモ、紛争が起きていた。
政権内の腐敗も明らかにされた。
ついに、軍事クーデターが起き、ラダロスは軍部に捕えられた。
幸い、軍部保守派の最高権力者マロルダに保護された。
二人はマロルダの秘密の別荘にて、会話を交わした。

マロルダ「ラダロスよ、今や軍の強硬派はお前を裁判にかけようとしているのだ。
しかし私は、お前を裁きたくはない。わかっているだろう。」

ラダロス「それは分かっている。しかし、私にはもう救いはない。裁かれてもしかたない。」

マロルダ「いいか、お前は国民の英雄だ。弱みを見せてはいけないのだ。
強硬派はお前の権威を失墜させようとしてるが、私はそれは国にとって、
良くないことだと考えている。英雄は国民の誇りと支えなのだ。」

ラダロス「もうだめだ、私には力もない。政策に失敗したし、数多くの過ちを犯した」

マロルダ「鋼鉄の男がどうしてそんな、弱音を吐くのだ。今のざまは何だ!」

ラダロス「全てはあいつの責なんだ。私が政権に就いてから奴はやって来た。
私はいつの間にか自分が二人居ることに気づいた。私の心の中にあいつが入り込んだのだ。
あいつはずっと私を操って来たのだ。政治を行ってたのはあいつだ。
あいつの正体は、悪魔に違いない! 私は、あいつと闘った。
しかし、勝てなかった。あいつは残虐で強かった。血の粛清も戦争もあいつがやったのだ。」

マロルダ「お前は精神に異常をきたしている。しかし、この姿を国民に見せてはならない。
いいか、裁判になっても自分の正当性を主張するのだ。
持ち前の話術で国民に自分は潔白だと訴えるのだ。」

ラダロス「私はどうなってもいいんだ。死刑になってもいい。」

マロルダ「お前は国家をここまで発展させた。だから国家に対し、最後まで責任があるんだ。
私を信じろ、私の言うことを聞いていれば、お前に名誉と優雅な隠居を与えてやる。
これは国の為でもあるのだ。お前は国家の英雄として歴史に残るのだ。
わかったな。今日はここまでだ。ゆっくり風呂にでもつかって休むがいい。」

ラダロス「わかった。でもあいつが何と言うか? あんたも政権に就けばわかる。
あいつはやって来るのだ。あいつはすごく賢いのだ。誰もあいつの存在には気づかない。
きっと権力者は皆、あいつに支配されてきたのだろう。
あいつの目的は人民の支配と弾圧、戦争と虐殺なのだ。あいつが居る限り世界に平和は無い。
クーデターであいつは出ていったが、また戻って来るような気がする。
私は恐い。あいつに逆らうことは誰にも出来ないのだ。」

ラダロスは怯え、疲れきった姿であった。
国民が抱いている英雄像とは似ても似つかなかった。
夜になりラダロスは床に就いた。寝ようとした時であった。
彼の体に例のあいつがやって来た。
強い波動が、ラダロスを包み込んだ。
あいつは声無き声でラダロスにささやいた。

「ラダロスよ、もう一度立ち上がれ、国民は待っている。立ち上がるのだ。
いいことを教えてやろう。
お前の親衛隊が立ち上がるぞ、お前は再び、政権に戻れるぞ!喜ぶのだ。
もう一度国民の為に一緒にやろうではないか。国民の英雄ラダロスよ!」

ラダロスは目を覚ました。顔をこわばらせ、叫んだ。
「もう来ないでくれ、私は疲れた。来ないでくれ、もう悪魔の奴隷は嫌だ!」
ラダロスは震えながらウィスキーを口にした。
 その直後であった。
ラダロスの表情は鋼鉄の男に豹変した。突然堂々とした趣になった。
何かに取り憑かれた様であった。ラダロスは、こぶしを握りながら、つぶやいた。

「ようし、政権を取り戻してやる。
隠居などするものか。国民は私が復活するのを待っているのだ。
反逆者は全て死刑台に送ってやる。
愛する国家に栄光あれ! 」

そこには、国民が思い描く英雄ラダロスの堂々とした姿があった。
そして、あいつも一緒であった。

おわり

(解説)ラダロスの言うあいつとは、国民が彼に抱く思考の集合体のことである。
偶像化によって集中された思考は彼に覆いかぶさって来るのである。
彼はこの力に対抗出来なかったのである。
20世紀に入り、映像が普及して、偶像化は政治ではよく使われるようになった。
人々の思考は当人に簡単に集中されるようになった。
ヒットラー、スターリン、ホメイニなどは強力にこれを行った。
彼らは純粋に自分だけで政治を行ったのであろうか?
あいつと一緒に行っていたのではないだろうか?
残虐で身勝手なあいつ(国民の思考)と一緒に...。

 



<悪霊に憑かれた神父>

中世ヨーロッパでの話である。
ある若い神父がバチカンに向かっていた。
この神父は、大変信仰心が厚く、神学、指導力、人格どれをとっても優れ、
故郷では名を知らぬ人がいない程の名神父であった。
彼は、キリスト教を世界中に広めることを夢見ていた。
彼は故郷での手腕を買われ、バチカンで神職に就くことになったのである。
彼はバチカンへ向かいながら、心は踊り、夢は広がった。
「もしかしたら、将来、法王になれるかもしれない・・・」

この神父には健康上の心配はなかったが、唯一つ悩みがあった。それは時々見る嫌な夢であった。
その夢は、ある異教徒が火あぶりにされもがき苦しむものであった。
その顔は激しい憎しみに満ちた恐ろしいものだったのである。

この神父はバチカンに着くと、その日から修道院での生活が始まった。
修道生活が始まると思いがけない事が起こった。
それは、教会の本堂に礼拝に行くと、この神父は突然めまいがして、度々倒れてしまうことであった。
初めのうちは、慣れないせいであろうと思われたが、何ヶ月経っても状況は変わらなかった。
この神父は悩んだ。
「どうしてだろう。主に向かうと突然体中に恐怖感が湧き上がって苦しくなってしまう。
何故だ。どうしたらいいんだ。主よ救いたまえ」
この神父は一心に祈った。
しかし、いつまで経っても状況は良くなるどころか、悪くなるばかりであった。

遂にこの神父は本堂に入ることが出来なくなった。
やがて、バチカンから追い出されてしまった。
彼は失意のうちに故郷への帰路についた。

ある日、旅館で寝ている時のことであった。
夢の中で例の火あぶり男が出てきた。その男はもがきながら叫んだ。
「くやしい、お前らキリスト教徒が憎い・・」
恐ろしさに彼は目覚めた。彼は考えた。
「何だろう。この夢を何故、度々見るんだろう。
もしかしたら、この男の霊が私に憑いているのだろうか?
もしかして、私がバチカンを追われたのはこの悪霊の仕業では・・
そうか、キリスト教への恨みからこの私を邪魔しているのだろう。」
彼は考えめぐらした。
「何ということだ。こんな異教徒の霊の為に、私の使命が妨げられてしまったのか・・
私が法王になれば世界中に主の御名を広められたのに・・」
彼は、この霊に対して怒りを覚えた。彼は、自分に憑いている霊に向かって怒りを口にした。
「このやろう!!お前が悪いんじゃないか。邪教を信じたお前が悪いんだ。
逆恨みはやめろ!!」

その時、この神父の体中におかしな感覚が走った。
体の神経が麻痺したようになり、体が勝手に動き出した。
彼はコブシを握り床になだれ込み、大声を上げた。
まるで霊が乗り移ったようであった。そして意外な事を叫んだ。
「くやしい、くやしい、うまくゆかなかった。せっかくキリスト教の頂点に入り込むことができたのに・・ 計画通りだったのに・・」

しばらくして、霊の動きはおさまった。
神父は、霊の言葉から全てがわかった。
「そうか、私に憑いた霊は、私をバチカンに送り込んで、バチカン内で色々悪さをするつもりだったのか。
何と巧妙な復讐だろうか。それにしても主はそれを許されなかったんだ。
だから、私は主の前で苦しくなった訳か。これでよかったんだ。」
彼は、自分がバチカンを追われた訳を納得し、気持ちが楽になった。

彼は、気を取り直して今後について考えた。
故郷に戻り神父としてやり直すことを考え始めた。悪霊についても、主に祈ろうとした。

その時、再び、さっきの感覚が体中に走った。しかも、さっきよりも強く感じられた。
体が勝手に動き出すと共に、炎の熱さ、くやしさが彼の中にも感じられた。
「しまった。霊に完全に乗り移られてしまう!!」
彼は恐怖を感じた。彼は再びコブシを握り、床にうなだれ、恐ろしい事を叫びだした。

「くやしい、キリスト教の奴等め、よくもオレの村人を皆殺しにしてくれたな。
よくもこのオレを火あぶりにしてくれたな。
よくも我々の神々を踏み潰してくれたな。
オレは絶対に許さない。
うー熱い、熱い、くやしい、見てるがよい、お前達に必ず復讐してやる。
このオレは必ず生まれ変わる。生まれ変わって恨みをはらす。見てるがいい。
お前達の神父になってやる。そして一番偉い位に昇ってやる。
見てろ、お前らを分裂させてやる。互いに殺しあわせてやる。
お前達の神殿を血で染めてやるのだ。」

彼は激しく叫び続けた。彼の心に激しい憎しみと炎の熱さの感覚が湧き上がっていた。
この叫びはしばらく続き、治まるのにかなり時間が経った。
彼は、ぐったりとして横たわった。

彼は聖書を握り、主に一心に祈った。
「何という憎しみだ。何という苦しみだ。邪教を信じたからとはいえ、何と哀れなことか。
主よ、この悪霊を救いたまえ・・」

この神父は、悪霊の為に祈り続けた。
この時代の神父に、先ほどの叫びが自分の前世の記憶であることに気づくはずはなかった。

おわり

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