本作品は2016年作です。

●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●

<第7話 因縁>

 みさが霊能者として仕事をするようになって2年が経過していた。
シャップやダギフ様に支えられて様々なお客の悩みに対応することができ、
自信もついてきて充実した日々を送っていた。
もっともみさにはこの世の現実よりも夢の中のもう一つの世界の生活の方が
充実しており、この世の方が夢の中のようでもあった。

もう一つの夢の世界は、過去なのか?現在なのか? 時間も空間も超越した
ような世界であり、愛も夢も叶えられる不思議な世界であった。
「これがあの世というものなのかしら? 楽園のようだわ。
 もしそうなら、この世の方が地獄だわ」
と思ってしまうのであった。

 夢の中では毎日のように美術や料理を楽しむことや、工芸品を作ることなどに
励むことができた。次第にみさはアフリカの料理や美術品を作る才能の目覚めを
実感する自分に気づいてきた。
「こういう仕事をしようかしら」と思ったりすることもあった。
ファッションもアフリカンな感じになっていった。そしてみさの占い室もアフリカの
妖しい雰囲気に染まっていったのである。それがエキゾチックな魅力を醸し出し、
地元ではちょっとした話題になっていった。

 また、みさが行う独特の占いやマジナイも口コミで人気になっていった。
その多くが夢の中でジェマに教えてもらった術であり、評判がよかった。
人気の呪文は時世を反映してか、パワハラやいじめを回避する呪文
「ヨモン・ロズロー・モノテェ・ヨンロ」であった。

 ある夜、夢の中の世界でダギフ様が真剣な表情でささやいた。
「君の実力が試されることになるよ。強敵だが、自力で対処するんだ。
 君の力で解決できるはずだから私には助けを求めないように」

と突然、アドバイスしてきたのである。
みさにはそれが何を意味しているのかわからないまま、夢は終わった。

 目が覚めたその日、出勤すると朝から沈みこんだ女性が相談に訪れた。
若い主婦という感じの女性であった。

「あのう、霊能力があると聞いてきたのですが?」と切り出した。
みさは答えた。
「どういうご相談でしょうか?」
「子供のことなんですが、不登校になりそうなんです。
 小さい頃から原因不明の病気に悩まされています。人見知りしたり、
 突然意味もなく大声を出したり、いつも問題を抱えています。
 最近、特におかしなことを言うようになったんです。怪物が家にいると言うんです」
「お子さんはおいくつでしょうか?」
「6歳です。男の子なんです」
「見てみます」とみさは霊視した。
 すると意識を向けた瞬間に体中がビビりと感じる重苦しいエネルギーが感じられ、
即座に全身が痛くなり、イライラしてきて気分が悪くなってしまった。

「これは霊障だわ。それも強い恨みだわ」
みさはこの人の自宅を霊視してみた。すると「あっ」と声をあげてしまった。
自宅に大勢の霊が巣くっているのが見えたからである。
「あのう、ご家族のみなさん、健康面は大丈夫でしょうか?」と聞いてみた。
「主人はいつも病気がちです。なんとか勤めていますが2度もガンの手術をしています。
 主人の両親は40代で亡くなっています。主人の親戚には病人や障害者が多いですし、
 原因不明の病気や事故で亡くなった方も多いです。また、男の子が生まれないです。
 生まれてもみんな病気なんです。普通じゃないですよね。やはり祟りでしょうか?
 私も嫁に来てからというもの、いつも具合が悪いんです」
「大きなご自宅のように見えます。地主さんか何かですか?」
「商売をしています。主人の祖父が中国の満州で商売をして財を築いたと聞いています。
 戦後、こちらでもいくつか商店を開いて今に至っています」
「キョンシーみたいな霊がいくつも見えます。そして羽が生えた虎や変な動物みたいなのも・・
 何か心当りがありますか?」
「さあ、わかりません。祖父が満州に居た頃にそういったものを信じていたのかもしれません」
「その霊とコンタクトしてみます」と意識を向けた。
 その瞬間、強い圧力のようなものがみさにぶつかってきた。
 霊が自分に強い敵意を示していることがわかった。怒りが強烈に伝わってくるのであった。
「邪魔するな。我々はこの家系が消滅するよう復讐している。邪魔するな。
 自業自得なのだから。この者の代で家系を潰す。子孫は残させない」

とテレパシーで伝えてきた。かなり大勢の霊が関わっているように思えた。
みさは「祖父が中国に居たとのことですが、中国人に恨みを買うようなことは?
 ありませんでしたか?」と女性に聞いてみた。
「私は聞いてません。商売をしていただけです。戦争で日本人が恨まれていた
 ということはあったと思いますが・・」
「どうしてこんなに恨まれているのかしら?」と考え込んでいると翼の生えた虎のような
存在がやってきてみさの目の前に現れて威嚇しながら伝えた。

「邪魔するな。この者の祖父はとんでもない悪党だった。
 この者がどんな酷いことをしたのか?今見るがよい・・・」

 みさの脳裏に昔の街並みの風景が浮かんできた。その中にこの相談者の祖父と
思われる男性が現れた。まるで映画の予告編のように様々な場面が次々と映像として
現れて流れた。祖父は今の闇金融のようなことをして、大勢の人を罠に掛けて
財産を奪い取っているのが次々と映像となって見えてきたのである。
特に立場の弱い現地の人達、貧しい人から搾り取って虐げている場面が見えてきた。
財産を失い絶望して自殺する人や餓死した人も少なくなく、その悲痛な様子が見えた。
そればかりか借金の方に娘を買い取り、売春宿で奴隷のように働かせていたことも見えた。
この男は大勢の人を苦しめながら、それを何とも思わず、むしろ楽しんでるようにも見えた。
富に対する強欲さと弱い人をいじめて楽しむという残虐さをもった人間だったのである。

「こんな酷い人間がこの世にいたとは・・」
 みさは、この男に激しい怒りを感じたのであった。
みさは見たことを相談者に伝えた。すると女性は困惑したように言った。

「主人の祖父が何をしたのか私どもには分かりません。
 どうして我々が知らない昔の事で苦しまなければならないのでしょうか?
 私達には罪はありません。なんとかしてください」

みさは困った。今まで経験したことが無いほどの霊の数、しかも力をもっている。
こんな恨みの霊障を解決できるのだろうか?不安に感じてきた。
断った方がよいのでは?と思ったが、夢でダギフ様が試されていることを
思い出して「これは何とか対処しなければならない」と考えた。
そこでこの家族を襲っている霊に恨みを消し去る呪文を唱えてみた。

 すると霊達のマイナスのエネルギーが浄化されて消えていくのが感じられた。
次第に黒っぽいエネルギーは見えなくなっていった。
「意外に簡単に解決したわね。やはりジェマさんの呪文は効果あるわね」

みさは「もう大丈夫です。念の為に護符を作ります。それを家に貼ってください」
と言って呪文を唱えた。

「マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ」

そして念を込めた護符を渡した。

 みさは「一件落着」と一息を付いた。
お客が来ていなかったので自販機でジュースを買ってくつろいでいたその時であった。
部屋の壁がドンと鳴った。「え、誰?」と言った瞬間、その音は四方の壁から同時に鳴った。
ドン、ドン、ドン・・と。
「これは霊・・」と思って霊視してみるとキョンシーみたいな黒い霊が何人もいる。
そして天井の近くにはさっきの虎や亀などの動物が居て恐ろしい形相で睨んでいる。
みさは心臓が止まるかのようなショックを受けた。虎はみさに怒鳴るように話しかけた。

「邪魔するなと言っただろ! これは正当な敵討ちだ。
 武士道の国のお前らならわかるだろう。あの男は大勢の人生、家族を断絶させたのだ。
 だから、同じようにあの男の家系も断絶するのは当然の報いなのだ!」

みさは勇気を出して反論した。

「子孫には罪はないでしょ?子孫にも生きる権利はあるわ」

みさは自分も訳も知らずに先祖の因縁で苦しめられていたことを思い出していて
感情が篭っていた。

怪物は反論して言った。

「罪を犯した者の子孫は必ずその償いをしなければならない。それが天の道理だ」
「そんなことはないわ。罪は犯した本人のみが償うべきよ」
「我々を説得することは無理だ。邪魔するならお前にも復讐する!」
「私はそんなことは許しません」

その直後、黒い存在がみさに襲い掛かった。みさの体を重苦しいものが覆いつくした。
身体中に痛みが走った。そして吐き気のような気分のわるさ、頭痛、めまい
そして得体のしれない不安が突然襲い掛かった。
シャップがみさの体に飛びついて黒いものを排除しようと爪を立てて掻いたが
取り去ることはできなかった。

「助けて・・」と思った瞬間、狼の霊キバが襲ってきた霊達を噛んでふりほどいた。
するとすうっと楽になった。キバはみさの真上に立ち、霊達をにらんだ。
「キバ、助けてくれたのね・・」

と思ったのもつかの間、何百体もの霊達が突如として現れてきて、みさの周りを囲んでいた。
どれもゾンビみたいな恐ろしい姿をしており、憎しみの眼だけが光っていた。

「邪魔をするな!思い知らせてやる!お前なんぞに俺たちを邪魔させない!」
という怒号のような念が声となって伝わってきて耳が張り裂けそうであった。

霊達とキバがにらみ合いをしていると、占いコーナーのあちこちでも悲鳴があがった。
各部屋で壁を叩く音や、書類が舞い上がる音、机の上の物が飛び上がって床に落ちる音などがしていた。
また、突如、天井のLEDが消えたり、点いたりを繰り返した。

「キャー、なにこれ」「いやあ、助けて・・」とあちこちで声が聞こえた。
「他の占い師さんにまで・・ どうしよう。こんなにたくさんの霊が
 相手では私とキバではとても対処できない」
と絶体絶命の危機であった。
「ダギフ様・・助けて、私には無理です・・」と叫んだ。
「もうだめ・・」恐怖で震えながらもうダメだと感じた、その時である。

突然、目の前に男の人が現れた。
「ダギフ様の手を煩わすまでもないよ」
とその男はニヤリと笑って答えた。
「誰・・ あ、あなたはジェマ」
「そう、ジェマだ。大丈夫だよ」
「でも、相手は何百人もいるわ・・3人でも無理だわ・・」
「こっちもその倍の数いればいいだろう」
ジェマが両手をあげると突然、ジェマ自身が細胞分裂のように次々増えていった。
まるで忍者が目くらましに分身をずらりと並べるドラマのシーンのようであった。
「僕の得意の術だよ」

何百人にも増えたジェマは悪霊達一人一人に術を掛けて動けなくさせた。
「みさ、水を用意してくれないか? 何でもいいよ。水を入れて持ってきて」
みさはトイレに行き、バケツに水を入れてもってきた。するとジェマは呪文を
唱えた。すると動けなくなった霊達が次々と水に吸い込まれていった。
すぐさま水は黒い汚い水に変わった。
「さあ、水を捨ててきて」とジェマは言った。みさはトイレの便器に水を捨てて
すぐに流した。これによって霊達はあっと言う間に消えてしまった。

「ジェマ、ありがとう。あなたは夢の中だけの昔の人だと思っていたけど
 現代にも居たのね?」
「僕は分身だよ。分身はずっと生き続けることができるんだ」
「ジェマ、あなたの本体は今どこにいるの?」
「この地上に生まれているよ」
「どこに居るのか?教えて」
「それは教えられない。本体は自分がジェマの生まれ変わりだと覚えていないんだ。
 君がその人を探し当てても本人は何のこと?と言うだろう。
 だから知らない方がいいんだ」
「それでも会ってみたいわ」
「探し当てることは宝くじに当選するくらいのありえない事だから最初から望まない方がいい」
「そうなの・・
 ところでさっきの霊障はこれで解決したの?」
「いや、まだまだだね。
 これは相当しつこいね。アジア人は子孫に復讐をする傾向があるようだ。
 まあ、部族や人種に対して無差別な復讐するよりはましだが」
「どうしたらいいのかしら」
「霊達は一つの霊団を形成している。部族という感じだ。
 そこの親分に交渉することで恨みの方向性を変えることができるよ。
 私の分身軍団が威圧して要求するとうまくいくと思うよ」
「どう交渉するの?」
「この家族は罪が無いから手を出すなということ。
 罪を犯した張本人だけに復讐すること。
 張本人は、もうすぐこの地上に生まれてくるからそいつだけを
 好きなように料理すればよいということ。
 何度でも何十回でもそいつが生まれ変わる度に復讐し続ければいい。
 その代わり、他の人には手を出すなという要求をするんだ。
 それなら応じてくれるはずさ」
「頼んでもいいの?」
「お妃さまの為ならお安い御用です」

この騒ぎは地元で有名な噂話となった。失神者まで出る騒ぎになったからである。
「デパートの占いコーナーでポルターガイスト現象発生」
とツイッターで噂が拡散された。

翌日、社長の有子が状況を聞きにやってきた。
みさはすまなそうに謝った。

「すいません。私が原因です。
 評判を落とすようなことになってしまい申し訳なくおもっています」
すると有子は
「いいのよ。占い部屋は不思議さが売りよ。
 今回の件は宣伝になるわよ。
 ポルターガイストを退治した凄腕の霊能者がここにはいると
 記事にするわ。相談者が増えるわよ」と笑って言った。

「みささん、あなたの部屋はエキゾチックで妖しい雰囲気になったわね。
 この飾り、あなたが編んだの? 才能あるわね。
 今度、アフリカ占いカフェを開業しようかしら?
 アフリカ雑貨店も兼ねると人気が出るわよ」

 社長のしたたかさにみさは「凄い人」と驚いたのであった。

 数日後、ジェマが現れて「交渉は成功したよ。霊団は張本人がこの世に
生まれくるまで待つと約束してくれたよ。生まれてきたら好きにすればいいと
言っておいた」と報告してくれた。

みさは「よかったわ。あの家族はこれで幸せになれるわ。
 罪を犯したあの極悪非道な祖父だけが罪を償えばよいのよ」
とほっと胸をなでおろした。
 
シャップがやってきて
「今回の件では僕は何もできなかった。ごめん」と申し訳なさそうに言った。
「いいのよ。あなたはいつも私を慰めてくれる頼もしい相棒よ」
「召使いだよ。
 実は・・よくない報告があるんだけど・・」
「なにかしら」
「例の極悪非道の祖父さんの次の生まれ変わりを透視してみたんだけど・・
 どんなことになるかって気になって・・」
「地獄の人生になるでしょうね。見たくもないわ」
「それがどこに生まれ変わってくると思う?」
「どこかの貧しい国?」
「見てみたら・・日本だったよ。しかも・・
 相談に来た女性の孫として生まれるのが見えたよ」
「ええ〜 
 それじゃまたあの女性の家庭が不幸になるじゃない?」
「そうなんだ」
「悩みの解決にならないじゃない? 何とかならないの」
「そればっかりはダギフ様でも・・どうにもできないよ」
「あの女性に言った方がいいかしら?お孫さんは作らないようにと」
「そんなこと言っても女性がショック受けるだけだし、
 お子さんはそんな話信じないよ」

「お母さんもお子さんも信じたくない事は信じないでしょうね・・
 言っても苦しめるだけね。
 やっぱり逃れられないのね。因縁って恐ろしいものなのね」


つづく

※ ヨモン・ロズロー・モノテェ・ヨンロ は実際にパワハラ・嫌がらせ・いじめを回避する効果があります。(推奨17回)
 



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