本作品は2016年作です。
●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●
<第4話 パラレルワールド>
ある運送会社の会議室に安田祐司が一人訪れた。
部屋には社長の高木が座っていて、安田の入社面接が開始された。
祐司はうやうやしく頭を下げた。無口な祐司はもじもじしながら黙っていたので
高木の方から話しかけた。
「君のことは職安から聞いているよ。大丈夫。君は採用するつもりだから。
君のような力持ちがうちには必要なんだ。しっかり働いてもらうからね。
ちょっと言いにくいことだがはっきり言っておく。
君は犯罪歴があるが気にしないことだ。うちには同様の人が何人もいる。
過ぎたことはいいんだ。若い頃は過ちを犯すこともあるんだ。
反省してやり直せばいいんだよ。
何を隠そう、この私も若い頃は不良でねえ。私の頃は暴走族が流行っていて。
私は特攻隊だったんだ。随分無茶な事をしてしまった。
事故や喧嘩で怪我した奴を何人も見てきた。
世間に迷惑も掛けたし、すまない気持ちで一杯なんだ。
罪滅ぼしをしたいと思っているんだよ。過去は忘れて一緒に頑張っていこう」
「ありがとうございます。真面目に働きます」
祐司はほっとした。
「やっと普通の職場に落ち着けることができる。職安の人が言ってた通り、
ここの社長さんはいい人のようだ。ここで骨をうずめたい」
祐司は体が大きく喧嘩が強かったので子供の頃からゴロツキであった。
中学・高校と地元では狼のように恐れられる存在であった。
しかし、人を大怪我させて警察沙汰になり、高校退学となってからは
すっかりその世界からは消えてしまった。
その後の世間の冷たさは想像以上であり、世間というものを身に染みたのであった。
「自分は喧嘩が強いので偉大なんだと勘違いしていた。本当は腕力を
使って威張っていただけの愚か者だったんだ」と気づいたのであった。
それ以来、不良だった過去を隠すように地味に大人しく生き、細々と仕事を
探しながら生きていた。しかし不景気の嵐によって仕事は不安定。ほとんど
ホームレスのような暮らしになってしまっていた。
そんな折、普通の会社の社員として就職できたことは幸福なことであった。
祐司は入社してから一心に働いた。
段々と職場の人達とも打ち解けることが出来た頃である。
ある日の夕方、帰宅しようとすると会社の前に小さな男が立っていた。
健一であった。不良だった頃の相棒である。いや自分が相棒だったかもしれない。
健一は祐司になれなれしく近づいてきた。
「兄貴、俺だよ。覚えてるだろ? 探したぜ。
こんなチンケなとこで働いてるのかよ? どうせ安月給だろ?
俺と組まないかい?」と話しかけた。
「健一か? 失礼なこと言うなよ。
お前、噂ではやばい仕事しているらしいな。俺はやばい仕事はいやだ」
「兄貴、いつからそんな臆病になったんだよ。あの事件以来か・・
俺は今、チンピラから追われてるんだ。俺はこの通りチビだから舐められるんだ。
兄貴と一緒だったころは誰もが道を空けてくれたよな。もう一度組んで欲しいんだよ。
こんな職場の何倍も稼げるぜ」
「すまん。俺はこの会社の社員として働く決意をしたんだ。
止める訳にはいかない。俺のことは諦めてくれ」
「俺を助けてくれないのかよ。あんなに深い絆を結んでいたのに?
俺が殺されちまうかもしれないんだぜ。ダメだっていうなら
あの事件のことを職場の人に言いふらしてもいいんだぜ」
「お、おい脅迫するのか? ここの人は俺の過去を知ってる。ゆすっても無駄だ」
「本当にそうかな? また来るから、よく考えておけよ」
それ以来健一は会社の前で待ち伏せするようになった。自宅に押し掛けてくる
こともあった。その度に断ったのだが健一はしつこかったし、段々と脅迫めいた
ことを言うようになってきたのだった。
「やっぱりあいつは噂通り、ゆすりたかりをやってるようだな。
最低だ。そんなの。俺はそんな人でなしにはなりたくない」
祐司は健一が諦めるのを待っていたが内心不安であった。
健一はチビだが執念深い恐ろしい男であることを知っていたからである。
そんなある休日、祐司はデパートの屋上の喫煙所でタバコをふかしていた。
そこは祐司の安らぎのスポットだったのである。帰りに占いコーナーを通りかかった時
「霊能サロン・・霊視・・」という言葉が目に入った。祐司はちょっと興味が
湧いてきてみさのサロンで霊視してもらうことにした。
サロンに入ると「いらっしゃいませ、どういった相談でしょうか?」とみさが出迎えた。
祐司は悩みを打ち明けた。
「悩みがあるんだ。俺、昔不良だったんだけど、
昔の事をネタに脅迫する奴がいて困っているんだ。そいつはしつこいんだ。
俺にかかわるなって言ってるんだけど、諦めてくれるかな?
どうしたらいいか?霊視してくれるかな」
みさは重い悩みだったので躊躇したが「見てみます」として霊視した。
すると衝撃的な未来が見えてきた。祐司がつきまとう男と揉めて男を殺してしまう
映像であった。みさは恐ろしくなった。
「お客さんに危機が迫っています。今すぐ逃げてください」と答えた。
「危機って何?」
「あなたとその人の間でトラブルが起きる映像が見えました」
「うん、そうなるかもしれない。でも逃げるなんてできないんだ。
なんとか危機を回避することはできないかな?」
みさはダギフ様にお伺いを立ててみた。するとダギフは答えてくれた。
「この者はこの先、必ずトラブルになる。それは避けられない。
残念ではあるが、この者の運命と言えるだろう。
だが、この者は大変真面目な気持ちを持っているので、
救いのカードがたった一枚だけある。
もし、トラブルが起きてもパラレルワールドで別な世界に移行する
チャンスが1度だけ許されているのだ。それを伝えなさい。
護符にその力を込めて渡しなさい」
とのことであった。みさは祐司に伝えた。
「危機は回避できないそうです。でも、救いはあります。
パラレルワールドに移行することです」
「パラレルワールド? マンガで読んだことがあるような?
別世界のことだろ? でも、そんなのマンガの世界だよ」
「1度だけあなたには別な世界に逃れることが許されているそうです。
今その護符を作ります。それを身に着けていてください」
「なんだかインチキくさいなあ。でも信じてあげるよ」
みさは護符に念を込めた。
「マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ マノゼェー・ドロンドロ」
祐司はその護符を大切に懐にしまって帰っていった。
数日後、祐司の携帯に知らない人から電話が掛かってきた。
出ると健一だった。
「健一か? 俺の番号どこで調べたんだ?」
「そんなの探すの、情報屋の俺にはたやすいことさ」
「情報屋? お前はゆすりたかりだろ?」
「そんな言い方すんなよ。頭脳労働ってやつさ。
兄貴は肉体労働者として雇ってやるよ」
「すまんが、もうあきらめてくれ。俺はお前と組むことはできないんだ」
「おい、いいかげん目を覚ませよ。お前はワルなんだよ。
堅気になることはできねーんだよ。お前の前科を社長さんに伝えてやったよ。
ちゃんと証拠も揃えてな。経歴からは削除されていたみたいだが、証拠は
ちゃんと残ってるんだよ」
「な、なんだって」
「そしたら社長は怒っていたぜ。もうクビだな。
今夜9時に公園の滑り台の所に来なよ。詳しく話してやるからさ。
面白いネタもあるぜ」
電話はそこで切れた。
数時間後、社長から電話が掛かってきて、祐司はすぐに出た。
「社長、どうしましたか?」
「どうしましたかじゃないよ。健一という人が来たぞ」
「え・・」
「お前は嘘言ってたな。お前の本当の前科を聞いたぞ。
喧嘩したんじゃなくて、空き巣に入ったそうだな。
留守番してた老婆に見つかって、老婆を殴って怪我させたんだよな。
ちゃんと新聞記事も見せてもらったぞ。
お前は不良どころじゃない。最低の、人間の屑だ。
明日からもう来なくていい。クビだ」
祐司は「うわぁー」と叫び声を上げた。激しく机を叩いて泣き叫んだ。
一番知られたくない過去を暴かれてしまったからである。
パニックが落ち着いて・・今度は強い怒りが沸き上がってきた。
「健一め、よくもこんな仕打ちを・・」
夜9時、祐司は公園の滑り台の所で待っていた。公園には誰もいなかった。
そこに時間通りに「健一」がやってきた。
祐司は興奮して叫んだ。
「健一、よくも社長に過去のことを喋ってくれたな」
「これで分かっただろう。お前は堅気にはなれないんだよ。
俺と組もうよ。もっと楽にいい金が稼げるぜ」
「お前みたいな虫けらの人生なんて送れるか・・」
祐司は怒りと興奮で自分をコントロールできなくなっていた。
健一に掴みかかり、気づいた時には首を絞めていた。
「う、や、やめ・・」と健一は口にして意識がなくなっていた。
どれくらい締めていただろうか・・祐司が手を離したところ、
健一は崩れ落ちた。
「殺してしまった。どうしよう・・。
そうだ。こいつはチンピラに命を狙われていると言ってた。
このまま逃げればチンピラに殺されたことになるだろう」
誰も公園には居ない。目撃者はいない。急いで自宅に帰った。
自宅に着いてビールをがぶ飲みするとそのまま眠ってしまった。
パトカーのサイレンが鳴り、目が覚めた。
「パトカーだ。健一の死体が発見されたんだ」
その時、気づいたのである。「携帯が・・ない」
ポケットにあるはずの携帯がないことに気づいたのである。
「もしかして健一と揉めた時に落とした・・もうダメだ。
俺は殺人犯として捕まる」
祐司は号泣した。
「どうして、こんなことに。俺はただ普通に生きていきたかっただけなのに。
神様あなたは残酷だ・・ こんな運命に落とすなんて。
一度過ちを犯した人間は一生救われないのか・・」と叫んだ時に思い出した。
「そうだ。あの占い師がくれたカードがあった。パラレルワールドとか・・」
祐司は懐のカードを手に
「お願いだ。この事件をなかったことにしてくれ。
もしそれがダメなら俺を死なせてくれ」
と祈った。そしてウィスキーをストレートでラッパ飲みした。
やがてアルコールが回ってきて気を失った。
祐司は目を覚ました。どれだけ時間が経ったのかわからない。
そこは病院のベッドだった。
職場の人や社長が目の前に居た。
社長は笑顔で声を掛けてくれた。
「大丈夫だったか? 危ないところだったぞ。どうして酒をがぶ飲みしたんだ?
あのチンピラに脅迫されていたのか?
心配するな、チンピラは死んだぞ。あいつはそうとうなワルでゆすり屋だったらしい。
ヤクザに殺されたらしい。刑事さんが言ってたよ。犯人は分かってるので指名手配するって。
そんなワルにゆすられて辛かっただろうな。みんな心配してたんだ。
それから、携帯を会社に忘れていたぞ。これで救われたな。
事務員が携帯を届けに家に行かなかったら今頃は部屋で仏になってたぞ」
祐司は答えた。
「すまないです。みんなに迷惑かけたようで。
社長さん、もう私を許してくださるんですか?あの日の電話で怒ってましたよね」
「なんのことだ? 私は電話なんてしてないよ」
「え、・・」
祐司は一瞬混乱した。あの日のことがまるでなかったことになっている。
しばらく唖然としていたが、思い出した。
「そうだ、パラレルワールドだ。ここは別な世界なんだ。俺はそこに
移動することができたんだ。あの占い師さんのお陰だ。ありがとう・・」
その後、社長と社員は会社に戻りいつも通り仕事に就いた。
社長はソファーにくつろぎながら独り言を喋っていた。
「祐司め、昨日のことは夢だと思ってるようだな。ふふふふ。
昨日のことは俺と祐司だけの秘密さ。祐司はあのチンピラの首を
締めたが死んではいなかった。息を吹き返した後にとどめを刺したのはこの俺さ。
あのチンピラ、俺の秘密まで暴いてゆすってきやがった。だから殺したのよ。
祐司もドジだな。現場に携帯を落としていきやがった。
俺が拾わなかったら捕まってたぞ。
祐司には電話でクビと言ってしまったが俺の秘密が漏れるのを防ぐためさ。
でも、あのチンピラから秘密は聞いてなかったようだ。よかった。
祐司の前科なんて大したことない。俺の前科に比べたらささいなことさ。
これで祐司の弱みを握ることができたぜ。
あいつには俺の用心棒になってもらうぜ。
この会社の本業は極道だってことをゆっくり教えてやるとするか」
その頃、みさは自宅でTVを見ていた。ニュースで殺人事件の報道が流れた。
近くの公園で無職の男性が殺害されたニュースであった。
「・・警察は犯人を運送会社に勤める安田祐司と断定しました。
しかし、安田祐司はその夜自殺していたことが分かりました・」
とアナウンサーが伝えた。
みさはこの名前に覚えがあった。
「先日、相談に来た人だわ。最悪の結果だわ・・」
みさは悲しくなってきた。
「私の術も効果が無かったのね・・」
するとシャップがやってきてみさを慰めてくれた。
「大丈夫、この人は死ぬ前にパラレルワールドの別世界に移動したよ。
ダギフ様はそう言ってるよ。今も元気に生きてるらしいよ。
別の世界では事件は無かったことになってるみたい」
「本当に?よかったわ」
「でも・・・」
「でもってなに?」
「ダギフ様はちょっと失敗したと首をかしげているの。
事件だけが帳消しの世界に移動させたつもりが・・
ちょっと変な世界に移動させてしまったみたい。
勤めている会社が暴力団になってる世界だったらしい。
移動させる世界を間違えたかもって言ってるよ」
「そんなことってあるの?」
「馴れない術を使ったからね。
ダギフ様は失敗してしまったとショック受けてるよ」
「ダギフ様でも失敗することってあるのね?」
つづく
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