本作品は2016年作です。
●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●
<最終話 再出発>
みさは目を覚ました。
目を覚ますと病院のベッドにいたのである。
「あ、助けられたんだわ」と安心感が漂った。
体には点滴や酸素濃度を測る機械が接続されている。
看護士が来たので声を掛けてみた。
「あのう、私は海から助けられたのでしょうか?
テロリスト達は捕まったのでしょうか?」
看護士はにっこりとほほ笑んで答えた。
「あら、夢から目覚めたようね。
あなたはアフリカから広まった感染症に掛かって高熱を出して寝ていたのよ。
でも、大分よくなったわ。もう大丈夫よ」
「感染症? 海に飛び込んだはずなのに・・
あれから何日が経ったの?」
みさはカレンダーを探してみた。「今日は何日かしら・・」と目で探していて
驚くべきことを発見。年数が違う。「あれ、5年も前・・ということは私は19歳」
なんと、19歳の時の自分に戻っている。
「どういうことなのかしら? タイムトリップ?
まだ剛志にもダギフ様にも会っていない頃の自分に戻っているじゃない?」
みさは混乱してしまった。
「一体なんなの・・」
悩み考えた末の結論は現実的で単純なものであった。
「今までの出来事は全て夢だった」それだけである。
「私がダギフ様に会ったのも、多くの仲間達に会ったのも、店を持てたのも
何もかも夢だったんだわ。現実じゃなかったんだわ・・」
みさはそれに気づくと悲しくなってきた。「夢だったなんて・・」
「でも、そうよね。あんなドラマみたいなことが本当のはずはないわよね。
私は何も変わっていないんだわ。
やっぱりあの頃と同じ・・独りぼっちなんだわ」
みさはガッカリしてしまった。
今までの喜びと希望に満ちた日々がみんな消えてしまったからである。
数日後にみさは病院を退院することになった。
そこで待っていたのは厳しい現実であった。
職場を解雇されて独りぼっちの自分に戻ったからである。
でも、あの時の自分とはどこか違う。死のうなんて思わない。
「寂しいけど、なんとかなるわ」と何故か強気である。
「長い夢だったけど、そのお陰で私は強くなることができたんだわ」
これで良かったのよ」
と前向きに思うことができたのであった。
でもやはり考えると納得がいかない。
「不思議だわ。夢だとしても私には5年分のはっきりとした記憶があるわ。
それにみんな辻褄が合っているわ。夢だったら支離滅裂なはずなのに。
あれは夢なんかじゃないわ。私は過去に戻ったのよ。
そうだわ。これからもう一度あのドラマが始まるのよ。
今度は、ストーリーが分かっているから失敗しないわ。
ハッピーエンドにするわ」
みさは剛志と出会った海岸の崖っぷちに行ってみた。
「ここで剛志と出会うんだわ。忘れもしないあの日、と言っても
未来なんだけど。そしてダギフ様やシャップともここで出会うのよ。
やり直しなんだわ。きっと、私は剛志と結ばれるのよ。
ダギフ様も社長さんも祝福してくれるのよ。
そうよ、そうに決まっているわ。再出発なのよ」
そして運命のあの日がやってきた。剛志と出会うその日である。
みさは夜中にこの海岸に来て、一人その運命の瞬間を待ち続けていた。
「きっと剛志が来る」
すると背後から人が来るのがわかった。
「あ、来たんだわ!」
男性が近づいているのが分かる。
「そう、声を掛けてくるのよ・・」
みさは期待して待っていると、男性がみさに話しかけた。
「君、ここで何をしているの?」「まさか・・」
みさは即座に振り返った。するとそこには剛志がいたのであった。
「やっぱり。剛志さん、来てくれたのね?」
すると意外な反応があった。
「ごめん。待ち合わせしてたんだね? 失礼しました」
と立ち去ろうとした。みさは引き止めた。
「剛志さん、待って」と声を掛けると。
「ごめん、僕、隆史というんだ。人違いだよ」
よく見ると剛志とは似ているがやはり違う人であった。
「ごめんなさい。人違いでした。
でも、私、待ち合わせなんかしてません」
「じゃあ、一人? なら僕とお話しない・・」
「ええ、いいわ」
みさはこの隆史という男とベンチに座った。
おもむろに、みさは隆史に質問してみた。
「隆史さん、今流行っている巴山怜いるでしょ?
あの子可愛いわよね?」
「え、僕、アイドルなんて興味ないよ。
追っかけやってる人の気が知れないよ」
「やっぱり・・剛志とは違う人ね」
とほほ笑んだ。
「何を言ってるの? 君は面白いね」
隆史を見ていると「誰かに似ている」と感じられるのであった。
「そうだ。ジェマさんだわ。
もしかして隆史さんはジェマさんなんじゃないの?」
隆史は驚いたような顔をした。
「何を喋っているの? ジェマって誰?
外国の歌手? 俺がその人に似ているの?」
みさは一人笑いながら話を続けた。
「隆史さん、お仕事は何をしているの?
私は失業中なの」
「僕は港の水産工場で働いているんだ。
忙しくてもう嫌になっちゃったんだ。
もっと自分に合った仕事があるような気がするんだけど。
何か・・超能力とか使う仕事がしたいんだ。ヒーラーとかね。
でも、そんなの子供っぽい願望だよね」
「大丈夫よ、できるわよ。あなたはジェマですもの」
「そう言ってもらえるとうれしいよ。なんか術が使える気がするんだ」
そうこうしている時、隆史は遠くを見つめて驚いた表情をした。
「何だろう、あの光?」
隆史が海に向かって指をさした。
「ほら、みてごらん。海に光るものが浮かんでるよ。こっちに近づいてる。
UFOじゃないか?」
みさはそれを見て声を上げた。「あれはダギフ様の光!」
すぐにベンチから立ち上がって崖の方に向かった。
「やっぱり、夢ではなかったのよ。全ては本当のことだったのよ」
みさは感動で涙がこぼれるのを感じた。「ダギフ様・・」
そう思っていると何かが足に触れるのを感じた。
足元を見ると・・そこには猫がいた。
「ああ、シャップ。シャップだわ」
そう、ロシアンブルーの猫シャップがそこにいたのである。
みさはすぐに猫を抱き抱えた。
シャップは以前と同様にテレパシーでみさに話しかけた。
「みさ、久しぶりだね。会いたかった。
君は人生をやり直すことになったんだよ。
みさは努力したし、日本を救ったのにあんな最後を遂げたので、
みんなが協力して何とかしてあげようと奮起したんだよ。
19歳のみさに戻してもう一度やり直してあげたいと思ったんだ。
ジェマとダギフ様が500年もかけて磨いた術を初めて使ったみたんだよ。
マコトと惑星モリアの協力もあって成功したんだよ。
みさは19歳のあの日に戻ったんだ。過去を変える技術が完成したんだよ。
君がその第一号だよ。
この術はいずれ人類の歴史をやり直すことになるよ。
世界は過去を変えることで救われるんだ」
「過去を変える技術?ほんとにそんなことができるのね」
「そうさ。
君は新しい人生を歩むことになるんだよ」
「うれしいわ。
ところで隆史さんって ジェマさんでしょ?」
「そうだよ。でも本人は気づいてないよ」
「やっぱりね。
でも、ジェマさんの生まれ変わりがあんな大人しい人なんて意外だわ」
「ジェマが強気の人に生まれ変わったら大変なことになるだろ?
想像つくだろ? 大人しい人に生まれて丁度いいんだよ」
「それもそうね。ふふふ」
「みさ、今度はどんな人生を送りたい?」
「今度は霊能者とか呪術使うのは嫌だわ」
「そうだね。今度はママさんになってみる?」
「それがいいかもね。大変そうだけど何でもできる気がするわ。
あの頃の私とは違うわ」
「じゃあ、ジェマと家庭を築いてみるか?」
みさは、隆史の方を見つめた。
隆史は月の光を見つめて「UFOだ」とカメラを取り出して騒いている。
みさはそんな無邪気な隆史を見つめながら一人微笑むのであった。
すると月の光は次第に大きくなり、隆史やみさを包み込むように広がった。
「ダギフ様が私を包んでくれているんだわ。気持ちいいわ」とみさは光を受け入れた。
光はやがてみさの視界全てに広がった。みさは光に包まれていた。
「ああ、ダギフ様に会えるんだわ・・
この優しい光の向うにダギフ様がいるんだわ・・もう一度会いたいわ」
次第にみさは視界が真っ白になり、意識が薄れていった。
・・・ここは病院であった。
ベッドの上にはみさが寝ており、人工呼吸器が繋がれている。
医師は時計を見て言った。
「午前1時10分です。ご臨終です」と告げた。
みさの母親が号泣した。
「みさ、みさ、ごめんね。お母さんが悪いんだよ。
何にもしてあげられなかった。
ごめん。辛い事ばっかりだったね。ごめんよ」
みさはあの運命の日、剛志に会うことなどなく、崖から飛び降りたのであった。
それがこの世における冷酷な現実であった。
運よく救出されたが一か月生死をさまよってたった今、死亡したのであった。
剛志に会って・・で始まる物語は全て生死を彷徨う間の夢・幻だったのである。
母親はみさを憐れんで泣き叫んだ。
「どうしてこんなに不公平なの。
みさはずっと苦しいことばっかで
こんな最後を迎えるなんて。
神様、どうしてみさを助けてくれなかったの・・」
すると、母親の前にみさが浮かびあがってきた。
「お母さん、みさよ。久しぶりね。
どうして泣いているの? ここはどこなの?
そこに寝ている人は誰なの?
そうだわ。お母さんにまだ報告してなかったわね。
私ねえ、最近とっても幸せだったのよ。
恋も一杯したし、自分のお店も持ったし、
みんなと楽しく過ごしたのよ。
それとね、日本を救ったのよ。凄いでしょ?
映画みたいな日々を送ったのよ。
今度ねえ、家庭を持つことになったの。
彼氏を連れていくわよ。子だくさんにしたいわ。
お母さんにも手伝ってほしいの。一緒に暮らしましょうよ。
あ、みんなが呼んでるわ。みんないい人達よ。
また後で連絡するわ」
と話しかけているのが聞こえたのであった。
母親はみさが今まで見たこともない幸せそうな表情をしているので安心した。
「みさ、楽しい夢を見てたんだね。幸せだったんだね。よかったね・・」
母親の目に、みさが光の中に吸い込まれていく様子が見えた。
そしてそれを導く黒い姿をした男の人も見えた。一目で「死神」と分かった。
しかし、その死神に何故か怖さを感じない。むしろやさしい死神と感じられた。
おもわず母親は死神に手を合わせて
「みさをよろしくお願いします」と祈りを捧げたのであった。
その死神は崖から飛び降りたみさを引き取って、実現できなかった夢を実現して
くれる世界に導いていたのだった。
みさの仲間達もみな、この死神に引き取られた人達であった。
高校生の時に崖から飛び降りた有子を筆頭に、恭子も隆史も東野も武田もマコトも・・
みんな、みさと同じく悲しい人生を送った人達であった。
この世界を司る死神、いや悪魔の名前は「ダギフ」であった。
そしてダギフの肩には黒猫が1匹乗っかっている。
その猫の名前は「シャップ」であった。
−完−
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