本作品は2016年作です。
●霊能サロン「ドロン・ドロ」 シリーズ●
<第18話 ドッペルゲンガーとの愛>
あれから数か月が経過した。
詐欺事件で休んでいた女性も無事復帰して、店の運営も順調に進んでいた。
みさは自分の能力にショックを受けていたが、店の忙しさに追われて、
いつしかそのことも忘れてしまっていた。
恭子も雑貨店の運営をうまくきりもりしていた。店ではアフリカのお面などが
インテリアとして人気があり、彼女はお客のニーズをうまく分析して仕入れ先に
売れ筋の物を上手に発注することができた。彼女には物を見抜く目と商才があった。
ファッションについてもしっかりと勉強してアフリカのカラフルな色彩の布地を
用いた若者向けの衣装を自ら提案して揃えて、これも人気になっていた。
恭子も店の経営を支える重要な人物となっていた。
みさは恭子を採用したことは間違いではなかったと安心していた。
みさはこの日、恭子に声を掛けて雑談をしていた。
「恭子ちゃん、彼氏とはどう?」
「はい、毎週会ってます。うまくいってますよ。
彼って大学卒業後、UFOの本を出版するために たも出版に入社したんです。
でも大月教授にTVでコテンパンにやられてから本は売れなくなり、
結局出版社を辞めてしまったんです。
それからずっと勉強して弁護士を目指していたんです。
今年、司法試験に受かったと言ってました。
元々彼は一夜漬けでもほとんど満点取るくらい頭の良い人だったし、
弁護士には向いてるかも。
それに惑星モリアの光が導いてくれたみたい。
夢の中で光の導きを何度も経験したって言ってたわ」
「弁護士さんなら将来は安心ね。結婚は?」
「彼、ちょっと不安があるみたい」
「大丈夫よ。モリアが守護してくれるわ。あなた達の人生はモリアの人達が
注目していると思うわよ。家庭を作って子供を育てて幸せになりなさい」
「もしかして、私の人生はモリアの世界に中継されて朝ドラみたいに
みんなに見られているのかしら・・ちょっと恥ずかしいわ」
「いいじゃないの。祝福してくれてるのよ。
さあ、開店時間が来たわ。今日は休日なのでお客さんもたくさん来るわよ。
頑張りましょう」
そんな会話をしながら店の平穏な朝の時間が流れていた。
みさの相談室に最初に訪れたのは高校生の男の子であった。あどけない顔を
しているがしっかりとした雰囲気、礼儀正しさ、絵に描いたような対応の上手さ
が感じられる高校生であった。みさは「きっと育ちの良い子なんだわ」と
感じたのであった。高校生はみさに相談内容を話し出した。
「僕は近くの○○高校の生徒です。□□貞夫と言います。
相談内容は彼女なんです。
年上の女性と付き合っています。真希さんと言います。
でも、不思議なんです。休日の決まった時間に公園のある場所に行くと
必ず彼女はそこで待っていてくれます。
でも、彼女は携帯電話を持っていないし、住所も電話番号も分からないみたい。
自分のことなのに記憶があいまいな人なんです。
何よりも不思議なのはいつも突然消えてしまうんです。
もしかして彼女はこの世の存在ではないのでは?
でも、ちゃんと食事もしてますし、お金も払っています。幽霊じゃないです」
少年の相談はマンガの世界のような話だったのでみさは驚いたが、
この少年の話は終始一貫しており、妄想を語っているようには感じられなかった。
みさが鑑定してみた結果、彼女は幽霊ではなく、ドッペルゲンガーであるという
結論に至った。
「あなたの彼女は幽霊ではないです。この世に生を受けている女性です。
でも、その人そのものでもないんです。ドッペルゲンガーですね」
「ドッペルゲンガー? 医学用語みたいですが聞いたことがない言葉です。
何ですか?」
「分身ですね。彼女の霊体の一部が分離して一人歩きしてしまったんです。
その分身があなたとデートしているんです」
「やっぱり、生身の女性ではなかったんですね」
「でも、幽霊じゃないから、本人に会えばいいのよ」
「どうやったら本人に会うことができるんでしょうか?」
みさが思案していると貞夫の携帯にメールが送られてきた。見るとメールは
マコトからのメールであった。
「阿弗利加のお部屋占いサービス
あなたが探している女性は △△真希
電話番号は ○○○○○○○○ です」
貞夫はメールを読んでびっくりした。
「これは何? 彼女の名前と電話番号が書いてあるの?」
「この店のサービスですよ。あなたが会っている女性はその人ですよ。
電話して、実際に会ってみなさい。
今度は突然消えたりしない本物の彼女とデートできるわよ」
「ヤッター、うれしいな。ありがとうございます」
貞夫は思わず子供っぽい笑みを浮かべてガッツポーズを取った。
「大人っぽい子だけど、やっぱり高校生ね」
その頃、ドッペルゲンガーを飛ばしていた真希は、モデル募集の案内に
つられてある事務所に面談をしていた。真希はモデルとして働く契約書に
サインしたところ、男達が詰め寄ってきて
「早速撮影に入るよ」と強引に別室に連れていった。
そこは、AV撮影の現場であった。
真希は「AV撮影なんて書いてなかったわよ」
と言ったが男達は「ちゃんと契約書に書いてあるよ」と隅の方を指さした。
ここで断ったら違約金を払ってもらうと強引に詰め寄ってきた。
相手は数人の男達、争ってもかなうわけもなく、真希は言われるがままに
AVの撮影に応じてしまった。
撮影が終わった後、男達の態度が変わった。本性を現したかのような
狡猾な態度になって真希に迫ってきた。
「撮影した映像はネットで配信するぜ、名前もバッチリ出してやるぜ。
両親に送ってもいいんだぜ。
それが嫌なら、金出しな」
真希は驚いた。AV撮影ではなく脅迫だったのである。
男達は真希を見下したかのような態度でせせら笑っていた。
しかし、真希もここで本性を出した。大人しそうな女性を装って
いたが真希の本性はそんなものではなかったのである。
「なによ、あんた達、脅迫だったのこれ?
こうやって女性達を脅迫しているのね?
あんたたち最低中の最低ね。警察に訴えるわ。
私は既にAV女優よ。下調べしてなかったようね。映像が流れたって
どうってことないわよ。実家に送りたければ送ればいいわ。
笑っちゃうわね。
さあ、あんた達、警察に通報されたくなければ選択肢は二つしかないわ。
一つは私の要求するだけの出演料を払うこと。話が違ってたから上乗せするわ。
もう一つは私をここで消し去ることね。ここに来ることは友達に話をしてあるわ。
自宅にもパンフが置いてあるわ。私が消息不明になったら
まっさきにあなた達が調べられるわ。
さあ、どっちにするの?」
真希は強気な態度で男達に迫った。
気迫に負けて、男達は真っ青な表情になって黙り込んでしまった。
「さあ、どうするの? 私を殺すなら殺しなさいよ。
そんな度胸もないのね。最低ね。
なら、早くお金を払いなさい。
こんな卑劣なことはもう止めるのね。
今度、こんなことしてるのを発見したら通報してやるわよ」
真希は男達から金を巻き上げた。そういう強気の女性であった。
この真希は子供の頃から争いが絶えない家庭に育ち、いつしか不良になっていた。
不良時代に男達とふしだらな関係を持ってしまい、自分は汚れた女だと
ずっと思って自暴自棄に生きていたのである。
彼女には特に優れた能力はなかったがスタイルと肌が綺麗なので手足のモデルとして
働いていたが、仕事が無いことも多くAV女優として出演することもあったのである。
真希は世間、特に男に対して不信感を抱いていた。
男はみんな同じ。女を所有物みたいに思っている。外見でいいとか悪いとか
そんなことだけで見ている。女はペットと同じ。
いい人ぶっても、処女がいいとか過去がどうたらくだらないことにこだわる。
処女じゃないと、女は中古車みたいに価値が落ちるの?人間も車と同じなの?
男はそんな浅はかな考えしかできない馬鹿だと見下していたのである。
特に高校時代のあるトラウマが彼女を苦しめていたのである。
高校時代、不良でいつも問題を起こしていたが、本当は真面目に平凡に
過ごしたかったのである。しかし、家庭には居場所がない。そんな彼女は
不良仲間と一緒に居ることしか安らぐ場はなかったのである。
その時の担任の先生は熱血先生だった。男性の国語の教師で文学が大好き。
いつも文学の世界の愛や情を熱く語る人情派の人だったのである。
真希はこの人なら自分を助けてくれる。自分を愛してくれると信じたが
裏切られた。この先生は真希に冷たかったのである。
その理由は「自分のタイプ(美人)じゃないから」
それだけだったのである。
文学を愛して人情の大切さをいつも考えている人が実際には何故冷たいのか?・・
と真希はその時は分からなかったが後でわかったのである。
「伊豆の踊子」でも何でも文学に登場するヒロインは決まって美人。
つまり、美人でなければ愛や人情の対象ではないのである。
逆に美人であれば無条件で愛と情を注ぎ混むのである。
どんなに悪い人であっても美人ならば愛を注ぎ込む、
それが人間らしい美しい事のようである。
これが詩や文学を愛する人情派の世界だったのである。
「人の道だの人生だの言葉を語っていても男はやっぱり
下半身で生きてる脳タリンばかり」
真希はそれ以降、男に対する不信を募らせていったのである。
「まあ、女も同じ、所詮、人間なんてみんな馬鹿」
これが真希の人生観であった。
でも真希も女である。愛がほしい。
「理想の人は、脳なしのバカ男ではなく、公平で大きな心を持った知的な人。
きっとそういう人がこの世に居るわ」
いつもそういう理想を抱いていたのであった。そんな彼女は時々、白昼夢に
ふけり、その中で賢い年下の男の子と付き合っていたのである。
彼女にはそれがリアルに感じられたがまさかドッペルゲンガーで現実の男の子
と付き合っているとは夢にも思わなかったのである。
そんなある日、真希の携帯に電話が掛かってきた。見知らぬ番号である。
真希は「間違い電話かな?」と思って出て見ると相手は貞夫だった。
「もしもし、△△真希さんですか?」
「はい、そうです」
「僕、□□貞夫と申します。
初めて電話します。いつも公園であなたとデートしてます」
真希はびっくりした。
「どういうこと。
確かに私は空想の中で公園で男の子と会ってるけど、まさかそれが・・」
「そうなんです。僕なんです。
あなたのドッペルゲンガーとデートしていたんです」
「ドッペル・・・」
「ドッペルゲンガーです。あなたの分身です。あとで検索してみてください」
「ええ、信じられない」
「信じられないなら会ってみませんか? これから公園に来てください」
真希は公園に行ってみた。するとそこには空想の中の男の子が居た。
また、貞夫の方もいつも会っている真希を発見したのであった。
「あなた、さっき電話してくれた貞夫さん?」
「そうです。真希さんですね。
いつもあなたの分身と会ってました。あなたは本物ですよね?」
二人は何の躊躇もなかった。いつも会っていたからである。
ベンチに座り、貞夫は真希の背中から腰に手を回した。
「あなたは本物ですね。ドッペルゲンガーじゃないですよね。
消えたりはしないですよね」
「そうよ」
真希は空想の中でいつもしているように、貞夫を抱きしめて口づけをした。
貞夫もまたいつものように口づけの後、真希の胸や足、腰に手をのばして思うままに触った。
貞夫は有名高校の生徒であった。父親は内科の開業医である。
親戚にも医師になった者が多い、名門の家の子供であった。
貞夫は子供の頃から医師になる為の英才教育を受けており、高校になると
医師として生きるための特別カリキュラムを受けていた。
医師養成の専門のコンサルタントと契約しており、子供の頃から
学業だけでなく交友関係、趣味に至るまで詳細なカリキュラムが組まれて
教育されていたのである。
緻密な計画で養殖された魚のようであった。
勉強は元より、交友関係、スポーツまで管理されていた。
貞夫には野球部に入る事がカリキュラムされていたのである。開業医を継ぐ
には野球が人望づくり、地域との交流に有利という判断からであった。
しかし、貞夫は野球などに興味はなかった。
そればかりか医師になりたいとも思ってはいなかった。高校生ともなると
段々と将来について違和感を感じるようになってきたのであった。
「医者は志を持つ人がなるべきだ。自分はなりたくない。
でもこの養殖コースに乗っかっていれば最低限医師にはなれる。
おかしくはないか?」
その上、将来の結婚相手は良家のお嬢様と決まっているらしい。
結婚相手は当然、コンサルタントが決める。
大学のランクや医学の学科などのランクによって相手も変わるらしい。
全てはデータで計算されたマッチングによって決定されるのである。
美人で教養の高い人と結婚する為にはもっと成績を上げて良い大学に入らなければ
ならないと指導されていたのである。
しかし、貞夫はこんな養殖みたいに育てられる人生に違和感を感じてきていた。
「僕は医者になりたくない。
なりたくない人間が何で医者にならなければならないんだ。
それに結婚相手まで受験のランクで決められるのはおかしいじゃないか?」
貞夫は自分が置かれている人生に段々と疑問を抱くようになってきたが、両親は同じく
コンサルタントのコースで育てられてきた人であり、本人達はそれで幸せだと思っている。
そんな両親の気持ちを傷つけたくもない。
貞夫はいつしか公園で人知れずドッペルゲンガーの真希と
デートをして紛らわすようになったのであった。
そしてこの日、二人はめでたく肉体のままで出会うことができたのであった。
二人はいつものどこか夢のようなデートではなく、現実のデートを楽しむことができた
のである。互いに手や体を触れ合う感触、ぬくもり、全ては現実のものである。
二人は意気投合しながら会話を楽しんでいた。
「貞夫さんは高校生なのよね。将来は何になりたいの?」
「僕の親は医者なんだ。開業しているんだよ。
親は僕に医者を継がせるつもりだけど
僕は医者になりたくはないんだ」
「どうして? お医者さんてカッコイイじゃない?」
「僕はなりたいものがあるんだ。でも、親に言えないんだ」
「何になりたいの?」
「ミステリー研究家になりたいんだ。世界中の古墳や遺跡を発掘して古代人の秘密を
明らかにしたいんだ。フリーの研究家になりたい」
真希は噴出しそうになった。
「そりゃ、ご両親には言えないわね。
でも、本気で考えているなら、それは夢があるわ」
「僕は今養殖コースみたいに育てられているんだ。恵まれている訳なんだけど
何にも自由がないんだ。結婚相手まで決められてしまうんだ」
「いいとこのお嬢さんと?」
「そうなんだ」
「男の人は清純なお嬢様が好みなんじゃないの?」
「養殖された人は嫌なんだ。
僕は自由な人が好きなんだ。一緒に夢に向かっていけるような」
「とて純粋なのね」
「僕は自分の手で幸せを掴みたいんだ。
古代のミステリーを自分の手で発掘してみたいんだ。ただそれだけだよ。
世間の人はどれだけ高い大学に入ったとか、どれだけ高い地位に登ったとか、
名誉や称号を欲しがるけど、そんなものは結果であって目的じゃない。
なんでそんな形にこだわるのかわからない。本質じゃないよ」
「あなたは面白い考え方をする人だわ。
世間の人達はみんな形で判断するものなのよ。
お医者さんとか有名大学出ていればそれだけで価値が決まるのよ。
特に男の人はそうなの。男は肩書ね。女は見た目。
だからみんな必死で表を繕おうとするのよ」
「段々分かってきたよ。カラクリが。
うちみたいな金持ちは子供を養殖みたいに育ててある程度以上の大学・肩書を
持たせることができる。
そうやってみんな、安全な地位にしがみつこうとしているだけなんだ。
まやかしだったんだよ。卑怯なやり方なんだ。
要領よくコースに乗って、安全で得する人生を送ろうとしているだけ。いやらしい生き方さ。
表向き立派なことを言って着飾っているけど、心の中はちっぽけで自分のことしか考えていない」
「あなたは頭がいい人ね。そして純粋。そういう人が好きよ」
「僕は医師の肩書も、大学も、良家の妻も要らない。
自分の責任でやりたいことをして自由に生きてみたいんだ」
「あなたは凄いわ。高校生でそんなこと考えるなんて。
それに引き換え、私は汚れた女。昔からダメだったの。
実はね。私AV女優なの。
・・・
嫌いになった?」
「いや、あなたは何も汚れてなんていない。汚れているのはそう思う人達の方だと思うよ。
あなたは、つまらない虚飾を捨てることができる。
AV女優も一つの職業だよ。何も問題ないよ。
僕はあなたのような自由で強い女性が好きなんだ。
女子プロレスラーとかに憧れていたんだ。
AV女優も堂々と体を晒す大胆さがあって惹かれるよ」
「本当? あなたは変わっているわね。
そんなこと言う人初めて見たわ。
私も、あなたみたいな人が好き。あなたの夢についていってあげるわ」
二人は深い恋に落ちていったのだった。しかし、それは騒動の始まりであった・・
ある日の朝、みさの所に電話が掛かってきた。貞夫の父親からであった。
「もしもし、あなたがみさ さんですね。
先日、うちの貞夫がそちらに伺ったようですね」
「はい、お客として相談に来られました」
「その時、真希という女性と縁結びをしたそうですね」
「え、縁結びしたわけではなくて占いをしただけですよ」
「息子の日記にはあんたの店で真希さんを紹介してもらったと書いてありますよ。
困りますよ。未成年の息子に女を斡旋するなんて」
「そんなつもりはありません。当店では占いしかしていません」
「息子は朝から消息不明です。学校にも行っていません。
日記には女と駆け落ちするみたいなことが書いてありますよ。
その女のことを教えてください。
見つからなければ警察に届けますよ。
あんたには責任とってもらうよ」
みさは驚愕した。貞夫に真希の連絡先を伝えたのは事実だが、
それが駆け落ちに発展するとは夢にも思わなかったからである。
「どうしよう」と不安が募った。みさの脳裏には最悪の展開まで見えてくる。
そこで東野美玲に相談することにした。すぐに美玲に電話をした。
「もしもし、東野さんですか? 相談があるんです」
「みさちゃん、どうしたの?」
「うちのお客さんの高校生が女性と駆け落ちしてしまったんです。
どうしたらいいのか? 悩んでます」
「あなたの店で知り合った間柄なの?」
「そうです。うちの店で結ばれた二人です」
「でも、駆け落ちなんて警察の出る幕ではないわ。
本人達の問題よ。
相手は未成年だから何かの法律に触れるかもしれないけど
結局は本人の意志で決めることよ。放っておきなさい」
「私には見えるんです。二人が心中する未来が・・」
「え、あなたの店で知り合った二人が心中・・そりゃまずいわね。
詳しい事を教えて」
さすが東野美玲である。午後には二人を連れ戻して車でやってきた。
「みさちゃん、二人を捕まえたわ。逃亡生活するつもりだったみたい」
車から二人は連れ出されてみさの部屋に座らせられた。
二人はしょぼくれた顔をして下を向いている。
「私の仕事は終わったわ。あとは任せるわ。
大丈夫よ。所轄の警察には通報してないから」
東野はさっさと車で戻ってしまった。
みさは二人に対してやさしく説教をした。
「貞夫さん、いくらなんでも駆け落ちはいけない事よ。
あなたは未成年なの。親の保護を受けている身なのよ。
両親はあなたのことを愛して今まで育ててくれたの。
あなたが親の望みと違う生き方をするのは自由だけど、
それは両親の長年の努力と苦労を裏切ることになるのよ。
そのことを覚悟しなさい。
真希さん、貞夫さんは未だ高校生なの。
高校を卒業するまで待ってあげられる。
あと1年、待ってあげて。それができないなら諦めて。
貞夫さんとご両親の間でしっかり話し合う時間を与えてあげて。
1年間よ。
今日は二人の記念日よ。勇気を出して旅立とうとした日よ。
1年後にここでまた再会してみてはどうかしら?
18歳になった貞夫さんが決意したなら、両親が反対しても
周囲の人達は味方してくれるわ。
もし、1年後の今日、どちらかが来なかったとしても恨みっこなしよ。
その時は諦めるのよ。
さあ、ご両親が心配しているから貞夫さんは電話をして早く帰宅しなさい。
二人には障害を乗り越えて結ばれる護符を上げるわ。
私は二人が結ばれることを祈ってるわ」
と言ってみさは護符を二人に渡した。
これで一件落着したのであった。みさの見事な采配に店の人達は感心した。
「みささん、女将さんとしての貫禄がついてきたなあ」
と皆が称賛したのであった。
貞夫はみさの指示を受けて帰宅したが、
真希には何か気になることがあるので引き留めていた。
「真希さん、あなたには心中した女性の霊が憑いてるのが見えるわ。
それが今回の騒動を引き起こした原因にも思えるの」
「心中した女性?」
「この地域で江戸時代に、武家の若息子と町娘が恋に落ちて駆け落ちしたのよ。
丁度あなた達と似ているわ。そして二人は心中してしまったのよ。その女性の霊よ。
霊はまだ相手に未練があるわ。それを何とかしないと
あなたも影響されてしまうわ」
「どうしたらいいのでしょうか?」
「女の霊を成仏させてあげないと」
みさは女の霊に未練を断つよう説得してみたが強情な霊でいくら言っても
未練を断ち切ることができないようである。
仕方ないので男の霊を呼ぶことにした。
慎之介という名前で裏山の墓地のどこかに眠っているらしいことを
女の霊に聞きだした。
みさは裏山に意識を向けて 「慎之介さんの霊、来てください」と念じた。
するとゾロゾロと何十人も男の霊がやってきてみんながみんな
「はい、私が慎之介です」と名乗りを挙げてきた。
「やばいわ、無縁仏が集まってきたわ。みんな寂しいので縋ってきたのね。
これでは慎之介さんを特定して呼び出すのは困難ね。
どうしたらいいのかしら?」
と悩んでいるとジェマが現れた。
「そうだ、僕の分身がその慎之介さんに化けてあげるよ」と言ってくれた。
「頼みます。今、慎之介さんのイメージを送るので」
するとジェマの分身がイメージに従って段々と武士の姿に変わっていった。
「やっほー、サムライジェマの登場だよ」と言って武士の姿で目の前に立った。
しかし、どこか変である。外国人がサムライの格好を真似した仮装行列
みたいな感じである。何か違和感がある。
「ジェマさん、ありがたいけど、これではダメだわ
形だけ似てるけど、どこか変なの」
みさが思案しているとマコトからメールが来た。
「みささん、いいアイデアがあるよ。慎之介さんのイメージをデータにして
3Dプリンタで作ればそっくりに出来上がるよ。霊体の材料が必要なので
それはジェマさんにお願いして」
みさはジェマにお願いをしてみた。するとジェマは
「何だって? 霊体の材料になれ? 粘土みたいになればいいの?
そんなの・・やるっきゃないか」
しぶしぶジェマの分身はマコトの所にある機械に行って粘土みたいに溶けて、
それが注入された。すぐに3Dプリンタが動いて慎之介そっくりの霊体が作られた。
霊体は完成後、真希についている女の霊の所に歩み寄った。すると女の霊は
「慎之介さん。来てくれたのね」と感激して涙を流した。
慎之介に扮したジェマは「どうしたらいいの?」と迷っていたが
言葉も交わさず女性の霊を抱擁してあげるだけで十分であった。
霊は長年の悲願を果たしたことで気持ちが安らいで霊体の殻をほどいていった。
その隙にみさは呪文を唱えて霊が浄化するようにヒーリングした。
霊が次第に浄化されていくのが見えたのであった。
つづく
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