本作品は2017年作です。

<騎士道>

 霊能者 宮魔大師(きゅうまだいし)は金を出せば何でもする霊能者である。
「何でも請け負う」という噂が広まっており、宮魔のところにはいわくつきの
お客が多く訪れるようになっていた。
 
 ある日、宮魔の所に白人男性が相談に来た。
背が高くイケメンでしかも日本語が堪能な40歳くらいの男性である。
この男性はアメリカ人であるとのことだった。
アメリカ人のイメージと異なり、地味な服装で礼儀正しくしゃべり方も丁寧である。
礼儀や作法を仕込まれた上流家庭の人という印象であった。
男はディランと名乗り、相談を始めた。

「宮魔さん、私はお願いがあるんです。
 私は社会の正義のために戦う決意をしたんです。
 最近話題になっている「メシア再臨プロジェクト」という団体をご存知ですよね」
「ああ、何か聞いたことがある。
 イエスキリストの遺伝子を使ってクローン人間を作り、
 メシア再臨を実現させるという団体ですよね」
「そうです。最近では火星移住なども主張しています。
 実は、この団体は私の友人が創設したんです。友永という男です。
 アメリカで知り合って一緒に団体を創設することにしたんです。
 私は日本に真の騎士道を広める使命感で協力したんです」
「騎士道?」
「日本の武士道みたいなものです。騎士達の理想の生き方のことです。
 ここだけの話ですが、私はテンプル騎士団の正統な継承団体に属しています。
 秘密の団体なんですけどね。
 テンプル騎士団は歴史の定説では十字軍の頃に創設されたと言われていますが
 本当はもっと古く、5000年の歴史があります。世界最古の組織なんです。
 今でも秘密に継承されています。世界に真理と理想の精神を広めること
 を使命としています。私は厳しい審査を通過して入会が許された者なんです。
 アメリカでは数人しかいません」
「5000年? そりゃ凄い」
「メシア再臨プロジェクトを作った当初、友永は私と同じく騎士道の精神に賛同していました。
 しかし、段々と変質していったのです。金儲けを企むようになっていったのです。
 マスコミの関心を集めるために荒唐無稽な話を盛り込むようになっていったのです。
 イエスキリストをクローンで再臨させるなど子供だましのSFにすぎません。
 しかも、実際に実現させるつもりもないんです。目的は寄付を集めることです。
 人の善意を利用して金儲けをするだけの詐欺集団になってしまったんです。
 私は騎士道を利用して人を騙すなんて許せないんです」

これを聞いた宮魔は心の中で思った。
「5000年だの、世界最古の騎士団なんて話もインチキ臭い。
 どっちもどっちだよ」
宮魔はあきれたような顔でディランに聞き返した。
「で? クーデターでも起こすつもり?」
「そうです。団体の代表である友永を失脚させて、
 私が真の騎士道の代表になります。
 もしかしたら団体は潰れてしまうかもしれない。
 でも正義のためなら仕方ありません。私は戦うつもりです」
「私に何をしてほしいというのですか?」
「今度、団体の集会があります。毎年行っている全国一斉大会です。
 会場で私は友永の悪行を暴露します。インチキを暴きます。
 会員達に本当のことを告知したいと考えています。
 でも、今、私は役員から外されて中枢部に入ることができません。
 クーデター計画は実行することができないんです。
 そこで宮魔さんには団体のコンピュータに入り込むためのパスワードを透視して
 欲しいんです。それさえ分かれば私には大会を乗っ取ることができます」
「パスワードを教えてくれ?
 そんなことできないですよ」
「ある方から、宮魔さんは鍵の番号を透視したと聞きましたよ」
「ああ、鍵の番号を忘れて困っていた人の件ですね。
 あの時は霊が教えてくれたんです。たまたまうまくいっただけですよ。
 もし、パスワードが透視できたら、何でもできてしまうじゃないですか?
 宝くじを当てて生活することだってできてしまいますよ。
 それはいくら私でも無理というものです」
「そうですか、それは残念です。ならばあきらめます」
と男は落胆した様子であった。
ディランが帰ろうとしたとき、宮魔の目の前に紫色の光が突然出現したのであった。
「な、なんだこりゃ」と驚いていると目の前に中世の騎士のような人が
現れたのが見えた。品のよい誠実そうな騎士が数人立っている。
その騎士の一人が、宮魔を見つめながら、紙のようなものを広げて見せた。
そこには数字やアルファベットが書いてあるのがはっきり見えた。
「これが、パスワードか?」と声に出して宮魔はすぐにそれをメモに書いた。

ディランは「どうしたのですか?パスワードが見えたんですか?」
と目を輝かせて宮魔にせまった。

「今、騎士みたいな人が現れて教えてくれたよ。
 これだよ」
「おお、これに違いない。ありがとうございます。
 これで作戦を実行します」
「本当にパスワードなのかわからないよ」
「もしダメだったら諦めます。宮魔さんには何も責任はありません。
 これで戦います。失敗して殺されるかもしれません。
 でも、私はどうなっても構いません。
 どんな事態になっても宮魔さんのことは口にしませんから、安心ください」

宮魔はディランの誠実な態度に感服した。
「この人は現代の騎士というわけか・・
 正義のために殺されてもいいなんて真面目だなあ。
 だから、騎士団が守護してくれているわけか。
 一体何が起きるんだろうか? 楽しみだ」

 それからしばらくしたある日、メシア再臨プロジェクトの全国大会が開催された。
ディランも教団のスタッフとして会場にいたが、危険人物扱いされているため
中枢部に入ることは許可されなかった。
大会は、講演、演芸、体験談発表などが豪華に行われて終始中世の騎士団を
思わせる荘厳さが演出されていたのだった。

この大会のクライマックスはイエスの精霊の召喚である。
代表である友永が演台に立って祈りを捧げるとイエスが出現するというものである。
友永が演台に立つと舞台のライトが消されて、友永だけが柔らかいライトに
照らされる。友永はこの荘厳の中で一人芝居のように騎士道精神を熱く語るのであった。
最後に、イエスが現れて、友永の体が宙に浮くという奇跡が起きるのである。
世界で唯一正統なテンプル騎士団の秘奥中の秘奥の技が年に一回だけここで公開される
という特別なイベントであった。
 
 そのクライマックスがあと10分後に実行される時になった。
ディランはノートパソコンを持って会場の奥にあるトイレに入った。
トイレの便座に座りながらパソコンを操作した。
「大丈夫だ。このトイレから無線でネットワークに繋げることができた。
 さあ、舞台装置のサーバに入り込むことができるかな?」
ディランは操作をして、宮魔から聞いたパスワードをインプットしてみた。
するとエラーなく入り込むことができた。
「やった。成功だ。宮魔のパスワードは本物だった。やっほー!」
PCには舞台の映像が映し出され、器材の操作パネルも表示された。

「ようし、もうすぐクライマックスさ。ここで細工をしてやるのさ。
 イエスの精霊だの空中浮遊だの、演出だってことを暴露してやるのさ」

ディランが待っていると、友永の説法が終わり、会場が静まり返った。
すると背後から光がほんのりと出現したのであった。
会場は荘厳な雰囲気に包まれた。光はやがてゆらゆらと形を変えながら
段々と人の形になっていった。
会場にいる信者達はこの光を見て感動に浸った。
同時に友永の体が光によって持ち上げられてゆっくりと上に上がっていくのだった。
友永の体はゆっくりと浮遊して2mくらい上空まで上がって止まった。
イエスの精霊が出現して奇跡を起こす最高の見せ場である。
出席者の多くはこれを見るために参加したと言ってもよかった。

「今だ」
ディランはパソコンを操作した。すると突然、会場のライトが全て点灯した。
ライトの強い光によって舞台装置がはっきりと露呈された。
友永は糸のような紐で吊るされていて上の方にはクレーンのような装置まで見える。
更に背後にはイエスの光を演出する特殊な装置が置かれているのがはっきり見えた。
ディランはクレーンを動かして友永を更に上に持ち上げた。
誰が見てもクレーンで吊るされていることがバレバレである。

会場はざわめいた。
「何だ、クレーンで持ち上げてたのか?
 トリックだったのか?」という怒号が上がった。
教団の役員、スタッフが慌てて声を上げた。
「幕を閉じろ、ライトを消せ」
宙吊りになった友永もマイクを使って叫んだ。
「はやく、降ろしてくれ、助けてくれ〜」
スタッフ達が右往左往しているが、一切何もできない。
ディランがコンピュータを乗っ取っていたからである。

続いて、ディランが操作すると友永を吊るしていた糸が急に緩んで、
友永が床に落下した。ドスンという大きな音が響いた。
と同時に会場に悲鳴が響いた。会場は大騒ぎである。

ディランは、にやりと笑いながらPCの映像をながめた。
「さあ、次の出し物を披露してやるよ」
ディランがPCを操作すると
会場にいきなり音楽が大音響で流れ出した。
それは「氷川きよし の ズンドコ節」であった。
騎士団の厳かな式典に突然「ずん・ずん・ずん・ずんどこ・・」
と場違いな歌が流れだしたのである。
同時にライトが歌に合わせて点滅した。

会場はパニック状態になった。
テロかもしれないと逃げ出す人が出口に殺到し始めた。

「誰がこんなことをしているんだ。
 早く捕まえてやめさせろ!」
とスタッフや警備員があちこちを右往左往しはじめた。

ディランは笑いをこらえながら
「友永め、これでおしまいだな。
 さあ、ここからが本番さ」
と口にしてトイレを出た。

ディランはトイレから出て地下室の方に走っていった。
地下の一室の前で覆面をかぶってピストルを取り出した。
部屋の扉を開けると、中には一人の職員が居るだけであった。

「うまくいった。この騒ぎで警備員はいない」
ディランは部屋に居た職員にピストルを向けた。
「おい、ここに金がある事はわかってるんだ。
 早く金をだせ。さもないと殺すぞ」
職員はおびえながら、金庫を隠していた布を払いのけ、金庫の鍵を開けた。
中には札束が入っており、それを見たディランはにやりと笑った。
「俺は知っていたぜ。
 いつも大会では、万一に備えてキャッシュを常備していたのを・・」
ディランは職員にピストルを向けながら命令した。
「この袋に金を全て入れろ」
職員は言われるままに金を袋に詰めた。
「ごくろうさま」
ディランは袋を持って裏口から会場を後にした。
そして近くに準備していた車のトランクに袋を詰めて出発した。

車を運転しながらディランは鼻歌を歌いながら独り言を喋りはじめた。

「うまくいった。友永に復讐してやった。
 利権を独り占めにして俺を追放したから
 こんなことになるのさ。ざまあみやがれ。
 慰謝料もたんまり頂いてやったぜ。
 式典で赤っ恥をかいた教団は、金まで盗まれたなんて
 恥の上塗りだから決して警察に届けないだろう。
 俺は、ゆうゆうとこの金を持って海外にトンズラできるさ。
 俺って天才だな。完璧な犯罪だ。笑いが止まらん」

ディランが車で走っていると突然、視界に紫の光が現れた。
「な、なんだこれは・・前が見えない・・」
ディランはブレーキを踏もうとしたが、体が動かない。
ハンドル操作もできない。体が何者かに乗っ取られたようで
運転ができない。
「どうしたんだ。何が起きたんだ・・」
やがてディランは意識を失った。

しばらくしてディランは目を覚ました。
車は停止している。目の前にはエアバックが作動していて
ディランの体はエアバックと椅子の間に挟まれている。
特に大怪我はしていないようだが、動くことができない。
「しまった。どこかに突っ込んしてまった。
 早く、金をもって逃げないと・・」
しかし、体が動かない。あたふたしていると
車の周りに人が集まってきている。
「やばい、警官だ。ここはどこだ?」
窓から外を眺めるとそこは警察署であった。
「な、なんてことだ・・俺は警察署に突っ込んでしまったのか・・」
目を覚ましたディランに警察官が窓から声を掛けた。

「大丈夫でしたか? 
 今救出しますからじっとしててください。
 ところで、トランクに積んである札束は一体何ですか?」

この問いにディランは何も答えられなかった。

 その日の夕方、宮魔が一仕事を終えてTVを見ていると
速報で驚くようなニュースが飛び込んできたので釘付けになった。

"本日、米国人男性が警察署に車で突入するという事故がありました。
車には現金1億円と銃が積まれていることがわかりました。
この男性はディランと名乗っているとのことです。
現金はある宗教団体から奪ったと供述しているとのことです。
本日、この宗教団体のイベント会場で舞台装置が誤動作して
教団代表が大怪我をする事故があったようです。
 教団は現金を強奪された事実はないと言っていますが、
警察は何か関連があると見て調査を開始しました・・
続報が入り次第お伝えします"

「こりゃ驚いた。
 もしかして、この米国人って? この間相談に来た人?
 クーデター起こすと言ってたけど、ただの強盗だったの?」

と宮魔が思っていると目の前に紫の光が現れて男達が現れた。
中世の騎士団である。ズラリと目の前に並んだ。
騎士達は宮魔を見つめて、ニッコリと笑って独特の敬礼のような
不思議な仕草をして消えていった。
「協力してくれてありがとう」と言ってるように見えたのだった。
宮魔は直観で例の白人の相談とこの事件が全て騎士団の仕業で
あることがわかった。

「そうか、わかった。これは天罰だ。
 あの白人も悪党の一味だったんだな。
 騎士団が悪党を一掃したわけだな。
 きっと騎士道を名乗る詐欺が許せなかったんだな。

 こんな純真なオーラ、この世で見たことが無い。
 本物の騎士達だな。
 現代にはこんな純粋な人はいないね」

おわり



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