本作品は2020年作です。

●宮魔大師 シリーズ●

<最終話 宮魔狙われる>

 2018年も11月となり紅葉の季節となってきた。
宮魔は日々、緊張感を抱きながら生活している。

「今月、奴は来る。俺を殺しにくる」

宮魔は以前、予知ができる青年から今年、殺されることを予言されたことがある。(新作8)
その時は宮魔にはわからなかったのだが、
今では自分でも未来を予知することができるようになってきた。
ある男が自分に恨みを抱いており、殺しに来るビジョンが見えるのだ。
その男のことは覚えていないが、かつて相談事に応じたことが原因で捕まった男のような気がする。
ビジョンの中で宮魔は男と格闘するが、男は格闘技をやってるようで手ごわい。
格闘の末、宮魔は刃物で刺されてしまう。それが見えるのだ。

「藤田と海外に逃げれば避けることができると思っていたのだが・・
 それだと年を越せなかった。どうしたらいいものか?
 用心棒を雇うか? たぶん、それで回避できてもまた年越しできないだろう。
 説得してみるしかないのかもしれない。逆恨みだと納得させるのだ。
 それが俺に課せられた試練なのかもしれない。面倒な試練だ。
 もし、それで男が納得しなかったら、催涙スプレーを掛けるか?
 それとも何か罠を仕掛けるか?
 いやいや、いっそ霊能者らしく潔く殺されるか?
 そろそろ息子がいるあの世に行ってみたくなってきたし」

 そんなことを考えて過ごしていたある日、突然それは訪れた。
男が家に侵入してきたのである。ビジョンで見た男である。
どこにでもいるような陳腐な男であるが、体は大きい。
顔は憎しみで歪んでいる。宮魔を見つけると刃物を向けた。

「おい、宮魔だな。
 お前を殺しにきた。死んでもらうぜ」
「死んでもらう?
 なんでだ、理由を説明してくれ」
「お前は覚えてないかもしれないがな、
 4年前にトトウ建設の幽霊騒ぎがあっただろ?
 お前はその幽霊退治をしただろ?覚えているか?」
「ああ、事務所に幽霊が出て社員が怯えて困ってるという相談だったな。
 私は幽霊を成仏させて解決しましたよ」
「それだけじゃないだろ?
 お前はその時

 ”この会社には横領している人間がいる”

 って社長に告げただろ?」
「ああ、そういえば・・」
「社長は会計士を雇って徹底的に調べ上げた。
 そのお陰で俺がネコババしてたことがバレちまったんだ。
 それで俺は逮捕されちまったわけさ。
 人生メチャクチャになったぜ」
「あんたが横領するのが悪いんですよ。自業自得です」
「俺は会社を食いつぶすつもりはなかった。
 利益のほんの一部だけをもらっていただけだ。
 俺は要領よくやってたんだ。
 誰でもみんな要領でうまく生きてるだろ?
 俺は長年会社に貢献してきたんだぜ。給料の何倍も貢献してきたんだ。
 ちっとばかり小遣いをもらっても罰は当たらない。
 お前が黙ってれば全てうまくいっていたんだ。
 余計なことをしやがって」
「幽霊に頼まれたんですよ。幽霊はかつての役員だった。
 会社の経営のことを心配して出てきていたんだよ。
 その霊が横領のことを指摘してほしいと言ったんだ。
 霊を成仏させるためにも指摘する必要があったんだよ。
 余計なことしたわけではない」
「つべこべ言うな。
 お前のせいで俺は何もかも失った。
 会社からも、妻や子供からも見捨てられた。
 もう、まともな仕事には就けない。何も希望がない。
 お前のせいだ。
 お前さえいなかったら俺は一生安泰に過ごせたんだ。
 お前を殺してやる。またムショ暮らしになっても構わん。
 この恨みを晴らさなければ俺の気持ちが治まらん」
「よく考えなさい。
 あなたが悪い事をしたのが原因です。
 あなたの恨みは逆恨みというものです」
「うるせー、お前を殺してやる」

男は体が大きく、筋肉質なタイプである。
強そうである。格闘しても勝てそうにない。
用意した催涙スプレーを使おうかなどと考えていたが、撃退する前に刺されて
しまうだろう。説得するしかない。宮魔はそんなことを考えていた。

「あんた、また刑務所に戻るつもり?殺人やったら刑は重いよ」
「俺は今、住む家もない。
 ホームレスで野垂れ死にするくらいならムショの方がマシさ」
「もしかしたら死刑になるかもしれないよ。逆恨みの殺人だから」
「一人殺しただけじゃ死刑にはならない、日本ではな」
「そんなことはないよ。一人でも動機によっては死刑になるよ。調べたのか?」

一瞬、男はひるんだように見えた。
宮魔は「よし、もう少しだ」と思い、説得を続けた。

「俺は霊能者だから言うけど、
 殺人を犯すとあの世で随分と苦労することになるよ。
 もう、この世での希望を失ったのなら、あの世のことを考えたらどうだ?
 あんたの罪は横領だけだ。大した罪を犯したわけじゃない。
 誰も傷つけてはいないからね。地獄に落ちるほどじゃない。
 その上、償いもしている。
 だから、ここで心を入れ替えれば天国へ行けるよ。
 もし、ここで殺人を犯したら万事休すだよ。地獄いきだよ。
 悪い事は言わない。刃物を降ろしなさい。
 天国へ行けるようアドバイスしてあげるから」

それを聞いて男は困惑したように見えた。迷いが出たようである。
刃物を持った手を無意識に引っ込めた。
しかし、また思い出したように男は刃物をしっかりと握り直した。

「その手にゃ乗らないぜ。
 俺はムショに居る間、お前に復讐することだけを考えてきたんだ。
 もう俺の心の奥まで恨みがしっかりと刻み込まれているんだ。
 そんなつまらない説教で気が変わるはずねーだろ。
 死にやがれ!」

男は刃物を再び宮魔に向けた。
それを見た宮魔は「なら、やむなし」と覚悟を決めた。
宮魔は胸を男に向けて開き直ったような態度を見せた。
そして堂々とした態度で男に言った。

「じゃあ、俺を殺せ。
 命乞いなんてしない。
 覚悟はできている、
 さあ、早く俺の心臓に刺せ!」

男はそれを聞いてビックリ仰天してしまい、動けなくなった。
大人しく覚悟を決めるとは想定もしていなかったようである。
しばらく沈黙の間が続いた後、男は震えながら口にした。

「そうか、覚悟はできてるんだな・・いいことだ。
 よし、お前を殺してやる」

男は刃物を握って宮魔を刺そうとした。
しかし、手が震えて力が入らない。
男は明らかに葛藤している。
殺したい、でも、殺せない。
そんな感じである。パニック状態である。
宮魔の意外な態度が男を混乱させてしまったようだ。
男の葛藤は1分ほど続いたであろうか、汗だくになって

「今日は無理だ。覚えてろ!」

と捨て台詞を吐いてどこかへ行ってしまった。
宮魔はそれを見て呆れてしまった。

「なんだ、俺を殺す度胸がなかったのか?
 ダメな男だな。
 ま、これで俺は天が課した試練をクリアしたわけだ。
 死を覚悟したんだからな。合格だろう。
 これで2019年に行くことができる。
 さて、2019年はどんな年なのかな?」

宮魔が未来を透視してみると

「ううん、元号が変わるな。
 新しい元号は れ・い・あ?・・ 冴えないな。
 秋には大きな台風が来るのが見える。
 この近所も水害に見舞われるな、引っ越すか?
 また、どこかのお城が燃えている。みんな悲しんでるな・
 あんまり良い年じゃないな。
 ところで俺の姿が見えてこない。
 どういうことだ・・俺は・・」

それから、1カ月ほど時が経ち、大晦日になった。
宮魔は新しい年を迎えようとしていた。

「今度は年を越すぞ」と思いながら宮魔はTVを見ていると強い眠気に襲われた。
「また、眠気だ・・」と思う間もなく眠ってしまった。

目を覚ますと朝である。
宮魔は「朝だ。今年は何年だ」とTVを付けるとTVのアナウンサーが
挨拶をしているのが映った。

「皆様、あけましておめでとうございます。
 2018年が始まりました」

と聞こえた。

「何? 2018年? また戻ってしまったのか?」

と愕然としてしまった。

「また、同じ年を繰り返すのか?」

と思いながら、部屋を見渡した時、
コタツの向かい側に誰かが寝転んでいるのを発見した。

「あ、ヒロシじゃないか?
 ヒロシ、起きろ、2018年だぞ。
 お前は年越しを望んでいただろ?
 起きろ」

と声を掛けるとヒロシが目を覚ました。

「宮魔さん、年が明けたんですね。
 今年は・・」
「2018年だ」
「また、もどったんですね」
「?? お前も戻ったのか?」
「そうですよ。
 宮魔さんにせっかく年越しさせてもらったのに
 また、繰り返しているんです」
「お前、1年前、ここで年越しできたって喜んでいたじゃないか?」
「でも今度は2018年を繰り返しているんです。
 まあ、2019年に年越ししなくてほっとしてます」
「どうして?」
「2018年は散々な年でした。
 会社が倒産してしまいました。悪評を広められて・・
 テロ国家にソフトを販売している売国奴だとネットに書かれました・・
 それだけではないです。
 私も疑いを掛けられて追われてしまいました。
 きっと2019年には無実の罪で捕まってしまうでしょう」
「でも、それは悪評ではなくて事実なんだろ?」
「宮魔さん、それは失礼ですよ!」
「俺には見えたぞ。
 お前の会社は表向きゲームソフトの会社だが裏で・・
 ウラン濃縮装置と核実験のシミュレーションのソフトを作ってるんだろ?
 しかもその開発のエースはヒロシ、お前だろ」
「いや、そんなことは・・
 宮魔さんにしらを切っても無駄ですね。
 その通りです。
 それをテロ国家に売って利益を得てました。
 でも、生きるために仕方なかったんです」
「だから、こんな目に遭うんだよ」
「どうして? どうせこの世はシミュレーションソフトの中です。
 核戦争で滅んだってリセットボタンを押した程度のことでしょう?」
「お前はほんとコンピュータオタクだな。
 そんな言い訳があるか? お前は犯罪者なんだよ。
 大勢の人を危険にさらしたんだ。極悪人だ。
 だから、天罰が下ったんだよ。天罰だよ」
「ええ、天罰?」
「そうだよ。俺も悪党だからな。
 一緒に無間地獄に堕ちたってことさ」
「無限? ということは永遠にこれが続くのですか?」
「たぶん、そうだろうね」
「2017年の方がマシでした。2018年を繰り返すのは嫌です。
 倒産、逃亡、逮捕、こんな年はこりごりです・・」
「でも2018年中には捕まらなかったんだろ。
 だったら、永遠に捕まらんということだよ」
「そうか、逮捕されることはないんだ。
 でも、今、貯金があんまりないんです。
 2018年は貧乏暮らしでした。
 そんな1年を繰り返すなんて嫌です。
 初めからループするのが分かっていればマンション買わないで
 貯金を残しておいたのに」
「いい話がある。
 この1月に藤田という男が相談に来る。
 宝くじ7億当てた男だ。そいつは大金が入ったために散々な目に
 遭っている。俺が海外に逃げさせてやることになってる。
 ヒロシ、お前も一緒に行かないか?
 藤田はお前と同年代だぞ。
 海外で友達欲しがってたから喜ぶぞ」
「ええ、それはいいですね。
 一緒に海外に行きますよ。
 宮魔さんも行ってくれるんですよね」
「ああ、行ってやるよ」
「でも、1年ですよね。
 毎年同じことの繰り返し、いくら海外でも飽きてしまいます」
「飽きたら違う国に行けばいいんだよ。
 俺はいろんな国を知ってるから俺に任せろ」
「本当ですか? 助かります。
 彼女つくることができますか?」
「一時だけの遊びの相手を作ればいい。
 でも、絶対結婚すんなよ。
 お前は年越しできないから、
 相手を一人にして残すことになるからな。
 そんなことしたら、もう助けてやらんぞ」
「宮魔さんて意外に真面目な人なんですね(笑)
 悪党とは思えない」
「俺にもわからん。自分が悪党なのか善人なのか?」
「悪党だけど、いい人なんだと思います。
 だから、海外旅行して過ごせるように減刑されたのだと思います」
「なるほど、呪術で散々人を陥れてきたが、
 人助けの為にやったので情状酌量ってやつか?」
「そうですよ。宮魔さんはたくさんの人を助けてきたじゃないですか?
 ・・・ところで、どうして僕と宮魔さんだけが
 こんなループ地獄の罰を食らっているんでしょうかね?
 他にも悪い人はたくさんいるのに」
「それはわからん。
 何となくで確証がないんだが・・
 たぶんこんなことじゃないか?と思っていることがある」
「何です。教えてください」
「お前は病気なんだ、珍しい病気かもしれん」
「病気? 僕は健康診断でひっかかったことないですよ」
「ヒロシ、お前は年をループしても記憶がリセットされないで
 持ち越してしまう病気なんだ。
 つまり繰り返してることを意識できる珍しい病気なんだ。
 ディープなプログラマーだから病気になったのかもしれん。
 そしてその病気が俺にもうつってしまったわけだ」
「もし、それが病気ということは・・
 他の人は記憶がリセットされてるってわけ?」
「そうさ、他にも1年を繰り返しループしている悪党は一杯いるが、
 記憶もリセットされるからそのことに気付かない。
 俺とお前だけが病気のお陰でループしてることに気付けたわけだ」
「ええ、そんな、一体だれがこんなループを設計したの?」
「誰が考えたのかは知らん。
 ヒロシ、お前は本当ならもっと苦しむ運命だったが、
 多少はいいことをしたのかな? 俺と縁ができて
 海外で過ごすことができることになったわけさ。
 俺の徳のお陰でもある。感謝しろよ」
「・はい・・よく分からないですが・・
 たぶん、その通りだと思います。
 宮魔さんのお陰だと思います。ありがとうございます。
 地獄の責め苦じゃなくてよかったです」
「これが昔から言われてきた最後の審判なのかもしれん。
 となると・・俺たちは死ぬこともなく
 永遠に同じことを繰り返すことになるわけだ
 悪党は永遠に地獄の1年を繰り返す。善人は幸せな一年を繰り返すわけだ」
「一体なんのために?」
「俺達が考えても何も分からないし、どうにもならんよ。
 ここが一体どんな世界なのか?あの世か?異世界か?
 俺にも全くわからん。
 もしかしたら、お前が言ってるように
 この世界は誰かが作った暇つぶしゲームなのかもしれん。
 こうなったら、もう笑うしかないな」
「そうですよ。笑って過ごしましょう」

  二人はずっと笑い続けた。

宮魔大師シリーズ 完




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